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ブルスカで走っている、『雪が解けて春になる』番外編ですが、灰君より人物が多すぎて、誰の話してるんだこれ? 状態になったので、本編下巻から、人物紹介を引っ張ってきました。多少簡略化しているところもあります。
これでも、どの話が誰なんだよ!? 状態ですが!
ゼファー 十八歳
主人公。フィムブルヴェートを滅びの『霧』から守る竜族の竜兵(ドラグーン)。始祖種ダイナソアの血を引いており、性別が確定していない。(無性) 考え事をする時に耳を触る癖がある。
様々な功績の結果、フィムブルヴェート同盟軍の盟主となった。
ヒオウ・ダガート・トス・ヴィフレスト 二十七歳
ヴィフレスト王国先王の第二王子。兄とは正反対の人格者。
別名イスミ・コウ。幼い頃に出会ったゼファーを女性と見て好意を抱いている。
ウィルソン・ガルフォード 二十五歳
かつて『虹王国稀代の軍師』と呼ばれた名軍師。自分の策で妻を失い隠遁していたが、ゼファーに叱咤されて戦場に復帰し、同盟軍の筆頭軍師となる。
キルシス 十九歳
竜兵の青年。ゼファーのすぐ上の兄。大柄で豪快、難しいことを考えるのが苦手だが、情には篤い。
マギー 十六歳
本名マグノリア。ダイナソアの言葉を解読できるため、ヴィフレストに利用されていたが、今は同盟軍の一員となっている。キルシスとは顔を合わせれば憎まれ口の叩き合いをしながらも、憎からず思っているようだ。
アバロン 二十三歳
竜兵の長兄。元々は有翼人・防人(さきもり)の孤児。魔法の力も、笑顔で放つ毒舌も強烈。
モリエール・ガルフォード 十九歳
ウィルソンの義妹。自らも軍師の才を持つ。義兄に想いを寄せていることは、当人達を含めて周知の事実。
クリミア 二十歳
竜兵の紅一点。気の強さと毒舌は長兄にも負けていない。
エリア・レラノイア 十九歳
美貌を持つ先代防人盟主の娘。裏切り者の反乱により追われる身だったが、ゼファーの活躍により、新たな盟主となる。
ルーカス・ロイド 二十四歳
エリアの護衛筆頭。防人でありながら魔法が使えないが、代わりに鍛えた剣術でエリアを守り、彼女からは信頼以上の想いを寄せられている。
メディリア 年齢不詳
現竜王(ドレイク)の女性。ヴィフレストを興した英雄リヴァティの双子の妹。
ヴァーリ・ヴァン・ウル・レクス・ヴィフレスト 二十九歳
ヴィフレストの現国王。父親を殺して王位を簒奪し、大陸制覇を目論む。その戦闘力は人間離れしており、性格も残虐で、『鬼王(きおう)』の異名を持つ。
パイソン 二十二歳
竜兵の次兄。卑屈で卑怯なところがあり、メディリアも動向を懸念している。
カイト・ロヴァージュ 享年十六歳
従兄のヒオウを救うため、竜族の聖域に助力を願いに来た少年。ゼファーが旅立つきっかけを作るが、ヴァーリの手からゼファーを守って落命した。
シグナ・エレイル・ウナ・ヴィフレスト 十七歳
ゼファーに似た容姿を持つ、ヴィフレスト王女。ほとんど民の前に姿を現さない。畳む
まって、本編バレになる範囲はだいぶ削ったけど、番外編には出てるけど名前出してないから「誰だお前」ってのがいるwww
致し方なし! この後もこっそり書き換わってたりするかもしれませんが、ご容赦を。
これでも、どの話が誰なんだよ!? 状態ですが!
ゼファー 十八歳
主人公。フィムブルヴェートを滅びの『霧』から守る竜族の竜兵(ドラグーン)。始祖種ダイナソアの血を引いており、性別が確定していない。(無性) 考え事をする時に耳を触る癖がある。
様々な功績の結果、フィムブルヴェート同盟軍の盟主となった。
ヒオウ・ダガート・トス・ヴィフレスト 二十七歳
ヴィフレスト王国先王の第二王子。兄とは正反対の人格者。
別名イスミ・コウ。幼い頃に出会ったゼファーを女性と見て好意を抱いている。
ウィルソン・ガルフォード 二十五歳
かつて『虹王国稀代の軍師』と呼ばれた名軍師。自分の策で妻を失い隠遁していたが、ゼファーに叱咤されて戦場に復帰し、同盟軍の筆頭軍師となる。
キルシス 十九歳
竜兵の青年。ゼファーのすぐ上の兄。大柄で豪快、難しいことを考えるのが苦手だが、情には篤い。
マギー 十六歳
本名マグノリア。ダイナソアの言葉を解読できるため、ヴィフレストに利用されていたが、今は同盟軍の一員となっている。キルシスとは顔を合わせれば憎まれ口の叩き合いをしながらも、憎からず思っているようだ。
アバロン 二十三歳
竜兵の長兄。元々は有翼人・防人(さきもり)の孤児。魔法の力も、笑顔で放つ毒舌も強烈。
モリエール・ガルフォード 十九歳
ウィルソンの義妹。自らも軍師の才を持つ。義兄に想いを寄せていることは、当人達を含めて周知の事実。
クリミア 二十歳
竜兵の紅一点。気の強さと毒舌は長兄にも負けていない。
エリア・レラノイア 十九歳
美貌を持つ先代防人盟主の娘。裏切り者の反乱により追われる身だったが、ゼファーの活躍により、新たな盟主となる。
ルーカス・ロイド 二十四歳
エリアの護衛筆頭。防人でありながら魔法が使えないが、代わりに鍛えた剣術でエリアを守り、彼女からは信頼以上の想いを寄せられている。
メディリア 年齢不詳
現竜王(ドレイク)の女性。ヴィフレストを興した英雄リヴァティの双子の妹。
ヴァーリ・ヴァン・ウル・レクス・ヴィフレスト 二十九歳
ヴィフレストの現国王。父親を殺して王位を簒奪し、大陸制覇を目論む。その戦闘力は人間離れしており、性格も残虐で、『鬼王(きおう)』の異名を持つ。
パイソン 二十二歳
竜兵の次兄。卑屈で卑怯なところがあり、メディリアも動向を懸念している。
カイト・ロヴァージュ 享年十六歳
従兄のヒオウを救うため、竜族の聖域に助力を願いに来た少年。ゼファーが旅立つきっかけを作るが、ヴァーリの手からゼファーを守って落命した。
シグナ・エレイル・ウナ・ヴィフレスト 十七歳
ゼファーに似た容姿を持つ、ヴィフレスト王女。ほとんど民の前に姿を現さない。畳む
まって、本編バレになる範囲はだいぶ削ったけど、番外編には出てるけど名前出してないから「誰だお前」ってのがいるwww
致し方なし! この後もこっそり書き換わってたりするかもしれませんが、ご容赦を。
『雪が解けて春になる』番外編 04/11~04/20
今回は本編上巻範囲やその前のことも書いています。
特に『審判』は好きですね。メディリア様が竜族として、ひととは違う価値観を持っていることを描けたので。彼女の竜兵時代の竜王ファング様も、けっこう破天荒なひとです。
前→647
次→661
04/11-忘我
歌声が聞こえる。この集落一番の歌い手と言っても過言ではない少女が歌っているのだ。
この大陸が『霧』に包まれる前から歌い継がれてきた、英雄歌。誰を謳ったのか、何の英雄なのか、どんな偉業を為し遂げたのか。言葉が違ってわからないのだ。ただ、歌詞だけが意味をなさないまま、世代を渡ってきた。
忘我に耽って聞き入ってしまう。ほかにも手を止め聞き惚れてしまう者達がいる。
そんな中、ぽつ、と頭に水滴が落ちた。かと思うと、あっという間にざあっと空が泣き出す。
この砂漠地帯恒例のスコールだ。たちまち誰もが我に返り、歌声がかき消される帰り道を走った。
04/12-収奪
ヴィフレスト王国は、破壊の権化『ユミール』を倒して『黒き太陽戦役』を終わらせた英雄リヴァティの興した国である。
『霧』に囲まれたこの大陸で、人間を守る盟主国として、また、戦役以降険悪になった有翼人・防人との折衝を務める先陣として、長く守護者の座にあった。
だが、肥料を入れない畑で作物を育て続ければ、いつか土壌は枯れる。
英雄の遺志を忘れた歴代の王は、他国へ侵略し、隷属国として併呑し、富を搾取し、誇りと命を収奪した。
そして今、『鬼王』と名乗る、史上最悪の王が、大陸制覇に乗り出した。
ひとびとは祈るしかない。奴を止める救い主の出現を。
04/13-暗転
母は側室で、正妃に影に日向に嫌がらせを受けていた。手を差しのべる者は少なく、大半が正妃の顔色を窺って、母と自分を蔑んだ。父は凡庸で、あからさまな助け舟は出さなかった。
そんな中で母が心身を病まないはずは無く、一時期母方の祖母の故郷へ療養に退いた。
そこでの出会いは新鮮で、その後の自分の人生に大きな影響を及ぼすほどだった。
やがて母は寛解して、国に戻った。正妃を正面から見据えられる強さを身につけた母は、まるで別人になったかのように頼もしく思えた。
だが、暗転は突然で。
「無理が祟ったのでしょう」
医師は言ったが、母の腕には紫の斑点が浮かんでいた。
04/14-爛れる
村が燃えていた。
ずけずけと食糧を漁りに踏み込んできたヴィフレスト兵士に、駆け回っていた子供がぶつかった。それだけで、子供は斬り捨てられ、火が放たれた。
「ダイナソアの言葉を読めるガキは、重宝できましてよ」
けばけばしい軍師の女が、隊長の男にしなだれかかって笑っている。
深傷を負い、焼け爛れてかっと目を見開いたまま息絶えた弟を抱き締めて、花の名を持つ少女は誓う。
この傍若無人な連中に、必ず報いをと。今は利用されても、必ずマグノリアのように咲き誇って、鋭い一撃を、こいつらの首魁の心臓に突き立ててやるのだと。
04/15-浸透
竜族は得体の知れない種族。そういう考えはまだひとびとの間に浸透している。
だからクリミアも、竜兵として母たる竜王メディリアの代わりに大陸を巡りながらも、積極的にひとの世界に介入することはあまり無かった。
だが、元は熊だったろう大きな『鬼』に追われる人間の一家を見つけ、思わず飛び出し、弓を引いた。『鬼』は白い粒子と化し、消えてゆく。
「まだ仲間がいるかもしれない。早くこの場を離れて」
声をかけると、おとな達は青い顔で頷き走り出す。
「おねえちゃん、ありがとう!」
小さいこどもが手を振る。
何故か、胸のあたりがふわりと温かくなった。
04/16-朦朧
燃え尽きて、煙が立ちのぼる集落を、ふらふらと歩く。焼け焦げた、元は人だったものの左薬指に、見慣れた揃いの銀の指輪を見つけた時、自分でも訳のわからない叫びが口から迸るのを、他人事のように感じていた。
軍師の座を捨て、国を離れて裏通りに引きこもり、くすんだ指輪をもてあそびながら、朦朧とした意識の中で、彼女が責めてくる幻聴に苛まれた。
それを鋭い呼びかけで断ち切り、現実に引き戻した、銀髪に金の瞳の竜兵。己の弱さも未熟さも無知も認めた上で、導き手として自分を求めた。
もう一度、立てるだろうか。『虹王国稀代の軍師』は。
もう、身近な誰かを失わせずに。
04/17-渇望
もっと力が欲しかった。
主君の従兄を守れるくらいに。彼自身も、周りの護衛騎士達も強いのに、自分は茶を注いで彼の馬のくつわをとることくらいしかできない。
主君の師匠に槍を教わったが、
『あんたは素質が無いよ』
とばっさり切り捨てられた。代わりに飛び道具の扱い方を教えてもらった。
あの方の剣であり盾でありたいのに、
『お前はそのままで良い。人をあやめる術を覚えなくて良い』
そう諭されて、逆に強さへの渇望は増した。
だからかもしれない。竜族の聖域へ助力を借りに行く者を募る時に、ひとりで行くと言い張った。
あの方を守る力があるのだと、証明したくて。
04/18-審判
当代の竜王メディリアが、まだ先代竜王の竜兵だった頃。竜族の聖域に、人間の盗賊達が入り込んだことがある。
竜は大陸中のお宝を集めていると思い込んだ連中の、身勝手な侵入だった。
メディリアはきょうだいの竜兵達と共に、盗賊達を迎え打った。結果は火を見るより明らかで、愚か者共は全員あえなく縛り上げられた。
「どうしてやろうか」
竜王は盗賊達の前で腕組みし、にやりと牙を見せて、「メディリア」と己が子の名を呼んだ。
「湖に投げ込め」
聖域の湖は、『竜王に害意のある者を決して通さない』。
「御意」
メディリアも、下される審判を思い、牙を剥き出して笑った。
04/19-浄化
掲げた手から、踊るように水魔法が放たれる。水流はひとびとのあいだをうねりながら通り過ぎて、砂にまみれた彼らの身体を浄化してゆく。
「エリア様は、さすが盟主様のご息女だ」
「次代の防人を導くお方として、申し分無い魔力を持っていらっしゃる」
翼持つ民、防人が、南方砂漠に追いやられて四百年。かつてひとりの男の野望により、フィムブルヴェートの支配者の座を追われた彼らは、自分達が人間より優れているというプライドを捨てられず、力を持つ者を持ち上げ、持たざる者を貶める。
美しい少女を遠くから見つめる、魔法の使えない少年は、それでも彼女の隣を、諦めたくはなかった。
04/20-冒涜
「竜族の盟主サマなんて、信用置けないよなあ」
「ヒオウ様にもエリア様にもいい顔してさ」
人間達が聞こえよがしに言い合っているのを、鋭い聴覚は拾い上げる。胸に棘が刺さって、唇を噛み締めた時。
「では、ゼファーを信頼している私やエリア殿、軍師であるウィルも信用ならぬということだな」
安心させるように、肩に大きな手が置かれる。見上げると、紫の瞳は冒涜した連中を睨み付けている。
「そ、そういう訳では」
「申し訳ございません、ヒオウ王子!」
連中が慌てて去る。
「……ありがとう、コウ」
おずおずと礼を述べると、険の消えた瞳が、優しく笑み返してくれた。畳む
今回は本編上巻範囲やその前のことも書いています。
特に『審判』は好きですね。メディリア様が竜族として、ひととは違う価値観を持っていることを描けたので。彼女の竜兵時代の竜王ファング様も、けっこう破天荒なひとです。
前→647
次→661
04/11-忘我
歌声が聞こえる。この集落一番の歌い手と言っても過言ではない少女が歌っているのだ。
この大陸が『霧』に包まれる前から歌い継がれてきた、英雄歌。誰を謳ったのか、何の英雄なのか、どんな偉業を為し遂げたのか。言葉が違ってわからないのだ。ただ、歌詞だけが意味をなさないまま、世代を渡ってきた。
忘我に耽って聞き入ってしまう。ほかにも手を止め聞き惚れてしまう者達がいる。
そんな中、ぽつ、と頭に水滴が落ちた。かと思うと、あっという間にざあっと空が泣き出す。
この砂漠地帯恒例のスコールだ。たちまち誰もが我に返り、歌声がかき消される帰り道を走った。
04/12-収奪
ヴィフレスト王国は、破壊の権化『ユミール』を倒して『黒き太陽戦役』を終わらせた英雄リヴァティの興した国である。
『霧』に囲まれたこの大陸で、人間を守る盟主国として、また、戦役以降険悪になった有翼人・防人との折衝を務める先陣として、長く守護者の座にあった。
だが、肥料を入れない畑で作物を育て続ければ、いつか土壌は枯れる。
英雄の遺志を忘れた歴代の王は、他国へ侵略し、隷属国として併呑し、富を搾取し、誇りと命を収奪した。
そして今、『鬼王』と名乗る、史上最悪の王が、大陸制覇に乗り出した。
ひとびとは祈るしかない。奴を止める救い主の出現を。
04/13-暗転
母は側室で、正妃に影に日向に嫌がらせを受けていた。手を差しのべる者は少なく、大半が正妃の顔色を窺って、母と自分を蔑んだ。父は凡庸で、あからさまな助け舟は出さなかった。
そんな中で母が心身を病まないはずは無く、一時期母方の祖母の故郷へ療養に退いた。
そこでの出会いは新鮮で、その後の自分の人生に大きな影響を及ぼすほどだった。
やがて母は寛解して、国に戻った。正妃を正面から見据えられる強さを身につけた母は、まるで別人になったかのように頼もしく思えた。
だが、暗転は突然で。
「無理が祟ったのでしょう」
医師は言ったが、母の腕には紫の斑点が浮かんでいた。
04/14-爛れる
村が燃えていた。
ずけずけと食糧を漁りに踏み込んできたヴィフレスト兵士に、駆け回っていた子供がぶつかった。それだけで、子供は斬り捨てられ、火が放たれた。
「ダイナソアの言葉を読めるガキは、重宝できましてよ」
けばけばしい軍師の女が、隊長の男にしなだれかかって笑っている。
深傷を負い、焼け爛れてかっと目を見開いたまま息絶えた弟を抱き締めて、花の名を持つ少女は誓う。
この傍若無人な連中に、必ず報いをと。今は利用されても、必ずマグノリアのように咲き誇って、鋭い一撃を、こいつらの首魁の心臓に突き立ててやるのだと。
04/15-浸透
竜族は得体の知れない種族。そういう考えはまだひとびとの間に浸透している。
だからクリミアも、竜兵として母たる竜王メディリアの代わりに大陸を巡りながらも、積極的にひとの世界に介入することはあまり無かった。
だが、元は熊だったろう大きな『鬼』に追われる人間の一家を見つけ、思わず飛び出し、弓を引いた。『鬼』は白い粒子と化し、消えてゆく。
「まだ仲間がいるかもしれない。早くこの場を離れて」
声をかけると、おとな達は青い顔で頷き走り出す。
「おねえちゃん、ありがとう!」
小さいこどもが手を振る。
何故か、胸のあたりがふわりと温かくなった。
04/16-朦朧
燃え尽きて、煙が立ちのぼる集落を、ふらふらと歩く。焼け焦げた、元は人だったものの左薬指に、見慣れた揃いの銀の指輪を見つけた時、自分でも訳のわからない叫びが口から迸るのを、他人事のように感じていた。
軍師の座を捨て、国を離れて裏通りに引きこもり、くすんだ指輪をもてあそびながら、朦朧とした意識の中で、彼女が責めてくる幻聴に苛まれた。
それを鋭い呼びかけで断ち切り、現実に引き戻した、銀髪に金の瞳の竜兵。己の弱さも未熟さも無知も認めた上で、導き手として自分を求めた。
もう一度、立てるだろうか。『虹王国稀代の軍師』は。
もう、身近な誰かを失わせずに。
04/17-渇望
もっと力が欲しかった。
主君の従兄を守れるくらいに。彼自身も、周りの護衛騎士達も強いのに、自分は茶を注いで彼の馬のくつわをとることくらいしかできない。
主君の師匠に槍を教わったが、
『あんたは素質が無いよ』
とばっさり切り捨てられた。代わりに飛び道具の扱い方を教えてもらった。
あの方の剣であり盾でありたいのに、
『お前はそのままで良い。人をあやめる術を覚えなくて良い』
そう諭されて、逆に強さへの渇望は増した。
だからかもしれない。竜族の聖域へ助力を借りに行く者を募る時に、ひとりで行くと言い張った。
あの方を守る力があるのだと、証明したくて。
04/18-審判
当代の竜王メディリアが、まだ先代竜王の竜兵だった頃。竜族の聖域に、人間の盗賊達が入り込んだことがある。
竜は大陸中のお宝を集めていると思い込んだ連中の、身勝手な侵入だった。
メディリアはきょうだいの竜兵達と共に、盗賊達を迎え打った。結果は火を見るより明らかで、愚か者共は全員あえなく縛り上げられた。
「どうしてやろうか」
竜王は盗賊達の前で腕組みし、にやりと牙を見せて、「メディリア」と己が子の名を呼んだ。
「湖に投げ込め」
聖域の湖は、『竜王に害意のある者を決して通さない』。
「御意」
メディリアも、下される審判を思い、牙を剥き出して笑った。
04/19-浄化
掲げた手から、踊るように水魔法が放たれる。水流はひとびとのあいだをうねりながら通り過ぎて、砂にまみれた彼らの身体を浄化してゆく。
「エリア様は、さすが盟主様のご息女だ」
「次代の防人を導くお方として、申し分無い魔力を持っていらっしゃる」
翼持つ民、防人が、南方砂漠に追いやられて四百年。かつてひとりの男の野望により、フィムブルヴェートの支配者の座を追われた彼らは、自分達が人間より優れているというプライドを捨てられず、力を持つ者を持ち上げ、持たざる者を貶める。
美しい少女を遠くから見つめる、魔法の使えない少年は、それでも彼女の隣を、諦めたくはなかった。
04/20-冒涜
「竜族の盟主サマなんて、信用置けないよなあ」
「ヒオウ様にもエリア様にもいい顔してさ」
人間達が聞こえよがしに言い合っているのを、鋭い聴覚は拾い上げる。胸に棘が刺さって、唇を噛み締めた時。
「では、ゼファーを信頼している私やエリア殿、軍師であるウィルも信用ならぬということだな」
安心させるように、肩に大きな手が置かれる。見上げると、紫の瞳は冒涜した連中を睨み付けている。
「そ、そういう訳では」
「申し訳ございません、ヒオウ王子!」
連中が慌てて去る。
「……ありがとう、コウ」
おずおずと礼を述べると、険の消えた瞳が、優しく笑み返してくれた。畳む
#語彙トレ2026 『雪が解けて春になる』番外編 04/01~04/10分です。
灰君が一旦終息したので、北の大陸の番外編を始めました。
GWの文フリで刊行する下巻の範囲に足を突っ込んだ話が多いのは、上巻範囲縛りにすると、掘り下げる事が少ないからです!
次→650
04/01-鮮烈
『私はこの世界「アルファズル」で起きた、大きな戦乱と、その先にある始祖種と神の戦いを、生涯を懸けて、物語として記すことにした。
その為に、東西南北四つの大陸を旅し、現地のひとびとから伝説を語り聞いて、懸命に書き留めた。
北の大陸フィムブルヴェートで聞いた伝承も、始祖種ダイナソアの竜兵と人間の王子の愛の物語は、私の心に鮮烈な印象を焼きつけた。
しかし、それは本伝「雪が解けて春になる」に書くとして、この番外編では、本伝で語られることの無い小さな出来事を記してゆこう。』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記 異聞録』)
04/02-呪文
呪文のように繰り返された。
「そなたは英雄リヴァティの正統なる子孫。生まれながらにしての王の器なのですよ」
だから傲然とあった。なのに格下の連中は自分を恐れて離れていった。
「下々の顔色など疑わなくて良いのです。失礼な者は切り捨てなさい」
言われた通りにした。誰も自分をまっすぐに見なくなった。正面から見てくるのは、弟だけになった。
「あのような下賎な血を引く者と、そなたが、対等などとあり得ないのです」
心地の良い呪いの言葉にすがった。
結果、母は毒の入った茶を飲んでひっくり返った。
命じたのは自分だ。
ああ、やっと解き放たれる。
04/03-追憶
母の祖国へ、一度だけ行ったことがある。叔母を埋葬するためだ。彼女が悪意を受け続けた国に弔うのは嫌だと、母が言ったのだ。
薄ピンクの桜が舞う中、母方の祖父が立ち会った。叔母は庶子で皇女とは認められなかったが、祖父はきちんとこのひととその母親を愛していたのだと思い知った。
墓石の前で、はなをすすり上げながら泣く、幼い従弟の手を握り、この子は自分が守らないといけないと誓った。自分に優しかった叔母の分まで。
なのに。
兄の凶刃の前に、従弟は桜のように儚く散った。
追憶の中で、あの子は今も朗らかに笑っているのに、もう握る手はここに無い。
04/04-摩耗
「お前は本当に馬に乗るのが下手だな」
親友兼相方のマイケルに馬上から見下ろされて、ニーザは軽く舌打ちした。
「なんでお前はそんなしれっと乗りこなしているんだ」
主君のヒオウ王子さえ、やんちゃな馬に振り回され、手こずっている。ニーザに至っては、何回振り落とされたかわからない。心が摩耗して折れても仕方無いくらいだ。
なのに、このなんでもそつなくこなす幼馴染は、主君の先すら超えて、馬をどうどうとなだめている。
『マイケルは本当にすごいな』
お世辞でもなんでもなく、あるじは言うのだ。
『ニーザも。よく諦めない』
本当に、悪気が無いから、困ったひとだ。
04/05-逆説
「おはよう、コウ」
やたら野太い声が聞こえる。自分をその名で呼ぶ者は、ひとりしかいない。
振り返ると、筋骨隆々として、自分より背の高くなった、銀の髪に金の瞳の竜兵が、軽々と自分を抱き上げた。
「ゼファー!?」
驚いた自分の声が高い。
「はは、コウは可愛いね」
言われて自分の身をあらためる。髪が伸びて、男には無い凹凸がある。
悲鳴をあげたところで、寝台の上にがばりと起き上がって目が覚めた。
「願望が逆説的に叶った夢じゃないですか」
あまりにもあんまりだったので、軍師にこぼしたら、彼は腕組みして『そんな話を俺にするな』とばかりにうんざりしていた。
04/06-桎梏
『隷属国の娘の子が、王子面をして』
血筋を尊ぶ連中は、そう言って嗤った。
『あなた様こそが、この国の希望なのです』
民は兄のいない隙に、すがりついてきた。
どう足掻いても自由にならない、桎梏で雁字搦めにされた人生で終わるのだと思っていた。
それなのに。
「コウ!」
君が私のもうひとつの名前を呼ぶ度に、どれだけ嬉しくなったことか。その笑顔に、磨り減った精神をどれだけ救われたことか。
だから、君の力になろう。若くして大陸の命運を背負った君の槍に、盾になって、守り抜こう。
幼い頃、誰かを守ることの大切さを教えてくれた、君のために、この命を懸ける。
04/07-沈殿
母の言葉は呪いだった。
『神にもなれる血筋なのに、兄の役にすら立てないとは、そなたは失敗作であることよ』
『ああ、ああ、あの女の息子のようにうざったい。その顔をわたくしに見せるでない』
『おまえなぞ、産むのではなかった』
自分勝手な言葉は、わたしの心の泉に、毒を沈殿させていった。
王宮の奥に押し込められて、使用人にも無視されて、泣いてばかりの日々。
『ぴいぴい泣くな。うっとうしい』
そうぶっきらぼうに言いながら、白い薔薇を手折って差し出した兄の顔は、逆光でどういう表情をしているかわからなかった。
だけど、たしかに彼はわたしの太陽になった。
04/08-昏迷
この大陸は、ひとを『鬼』にする『霧』に覆われている。いつからそうなのかわからない。ただ、かつて外の大陸との交流はあり、『霧』によってそれが全て遮断されたのはたしかだ。
僕の叔母も、水を汲みに行って、うっかり『霧』に触れてしまった。叔父がどんなに呼びかけても、昏迷に陥ったように応じず、虚ろな顔は次第次第に白く変わっていった。
『娘にこんな母親を見せるくらいなら』
叔父は剣を持ち出し、反応しない叔母を斬った。白い血を噴き上げながら仰向けに倒れてゆく叔母は、ひとならざる顔で、ゆるりと優しく微笑んで。
『……ゴメンネ』
と涙一筋をこぼした。
04/09-逸脱
竜族は、過ぎたる力を持ってこの大陸を脅かす、摂理から逸脱した存在だと、ひとびとが騒いだ時代があった。
「まだ、竜族が始祖種の代わりに大陸の守護者として生まれたのだと、認識されてない頃だったからね」
湖畔で語る竜王の言葉に、幼い竜兵達は表情を曇らせる。
「だが」
美しい竜王がぱちんと指を鳴らすと、湖面が波立ち、獣の姿を取った。
「『竜王に害意がある者を決して通さない』この湖が、こうして不届き者を追い返し、当時の竜王を守ったのだよ」
「やはり竜王様はすごいんですね!」
興奮気味になる竜兵の長兄に、竜王はゆるりと笑み返してみせた。
04/10-郷愁
ノスタルジア、という地域がある。郷愁の名を冠したその地には、古くから吸血鬼が棲んでいた。
『鬼』とは異なる生態系を持ち、『鬼』とは違ってひとの姿に近く、理性も保っている。だが、ひとの血を好んですすり、不死者の眷属を増やすあたりは、フィムブルヴェートのどの種族とも違う。
彼らがどこから来たのか。『霧』に閉ざされた世界では最早わからない。たしかなのは、彼らがひとに害をなす脅威であることだけだ。
「……害獣と同じだな」
心臓を貫かれて朝日に溶けてゆく吸血鬼を、蒼い瞳で見下ろしながら、吸血鬼狩りの青年は、仕込み杖の刃についた血を振り払って、納刀した。畳む
#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる
灰君が一旦終息したので、北の大陸の番外編を始めました。
GWの文フリで刊行する下巻の範囲に足を突っ込んだ話が多いのは、上巻範囲縛りにすると、掘り下げる事が少ないからです!
次→650
04/01-鮮烈
『私はこの世界「アルファズル」で起きた、大きな戦乱と、その先にある始祖種と神の戦いを、生涯を懸けて、物語として記すことにした。
その為に、東西南北四つの大陸を旅し、現地のひとびとから伝説を語り聞いて、懸命に書き留めた。
北の大陸フィムブルヴェートで聞いた伝承も、始祖種ダイナソアの竜兵と人間の王子の愛の物語は、私の心に鮮烈な印象を焼きつけた。
しかし、それは本伝「雪が解けて春になる」に書くとして、この番外編では、本伝で語られることの無い小さな出来事を記してゆこう。』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記 異聞録』)
04/02-呪文
呪文のように繰り返された。
「そなたは英雄リヴァティの正統なる子孫。生まれながらにしての王の器なのですよ」
だから傲然とあった。なのに格下の連中は自分を恐れて離れていった。
「下々の顔色など疑わなくて良いのです。失礼な者は切り捨てなさい」
言われた通りにした。誰も自分をまっすぐに見なくなった。正面から見てくるのは、弟だけになった。
「あのような下賎な血を引く者と、そなたが、対等などとあり得ないのです」
心地の良い呪いの言葉にすがった。
結果、母は毒の入った茶を飲んでひっくり返った。
命じたのは自分だ。
ああ、やっと解き放たれる。
04/03-追憶
母の祖国へ、一度だけ行ったことがある。叔母を埋葬するためだ。彼女が悪意を受け続けた国に弔うのは嫌だと、母が言ったのだ。
薄ピンクの桜が舞う中、母方の祖父が立ち会った。叔母は庶子で皇女とは認められなかったが、祖父はきちんとこのひととその母親を愛していたのだと思い知った。
墓石の前で、はなをすすり上げながら泣く、幼い従弟の手を握り、この子は自分が守らないといけないと誓った。自分に優しかった叔母の分まで。
なのに。
兄の凶刃の前に、従弟は桜のように儚く散った。
追憶の中で、あの子は今も朗らかに笑っているのに、もう握る手はここに無い。
04/04-摩耗
「お前は本当に馬に乗るのが下手だな」
親友兼相方のマイケルに馬上から見下ろされて、ニーザは軽く舌打ちした。
「なんでお前はそんなしれっと乗りこなしているんだ」
主君のヒオウ王子さえ、やんちゃな馬に振り回され、手こずっている。ニーザに至っては、何回振り落とされたかわからない。心が摩耗して折れても仕方無いくらいだ。
なのに、このなんでもそつなくこなす幼馴染は、主君の先すら超えて、馬をどうどうとなだめている。
『マイケルは本当にすごいな』
お世辞でもなんでもなく、あるじは言うのだ。
『ニーザも。よく諦めない』
本当に、悪気が無いから、困ったひとだ。
04/05-逆説
「おはよう、コウ」
やたら野太い声が聞こえる。自分をその名で呼ぶ者は、ひとりしかいない。
振り返ると、筋骨隆々として、自分より背の高くなった、銀の髪に金の瞳の竜兵が、軽々と自分を抱き上げた。
「ゼファー!?」
驚いた自分の声が高い。
「はは、コウは可愛いね」
言われて自分の身をあらためる。髪が伸びて、男には無い凹凸がある。
悲鳴をあげたところで、寝台の上にがばりと起き上がって目が覚めた。
「願望が逆説的に叶った夢じゃないですか」
あまりにもあんまりだったので、軍師にこぼしたら、彼は腕組みして『そんな話を俺にするな』とばかりにうんざりしていた。
04/06-桎梏
『隷属国の娘の子が、王子面をして』
血筋を尊ぶ連中は、そう言って嗤った。
『あなた様こそが、この国の希望なのです』
民は兄のいない隙に、すがりついてきた。
どう足掻いても自由にならない、桎梏で雁字搦めにされた人生で終わるのだと思っていた。
それなのに。
「コウ!」
君が私のもうひとつの名前を呼ぶ度に、どれだけ嬉しくなったことか。その笑顔に、磨り減った精神をどれだけ救われたことか。
だから、君の力になろう。若くして大陸の命運を背負った君の槍に、盾になって、守り抜こう。
幼い頃、誰かを守ることの大切さを教えてくれた、君のために、この命を懸ける。
04/07-沈殿
母の言葉は呪いだった。
『神にもなれる血筋なのに、兄の役にすら立てないとは、そなたは失敗作であることよ』
『ああ、ああ、あの女の息子のようにうざったい。その顔をわたくしに見せるでない』
『おまえなぞ、産むのではなかった』
自分勝手な言葉は、わたしの心の泉に、毒を沈殿させていった。
王宮の奥に押し込められて、使用人にも無視されて、泣いてばかりの日々。
『ぴいぴい泣くな。うっとうしい』
そうぶっきらぼうに言いながら、白い薔薇を手折って差し出した兄の顔は、逆光でどういう表情をしているかわからなかった。
だけど、たしかに彼はわたしの太陽になった。
04/08-昏迷
この大陸は、ひとを『鬼』にする『霧』に覆われている。いつからそうなのかわからない。ただ、かつて外の大陸との交流はあり、『霧』によってそれが全て遮断されたのはたしかだ。
僕の叔母も、水を汲みに行って、うっかり『霧』に触れてしまった。叔父がどんなに呼びかけても、昏迷に陥ったように応じず、虚ろな顔は次第次第に白く変わっていった。
『娘にこんな母親を見せるくらいなら』
叔父は剣を持ち出し、反応しない叔母を斬った。白い血を噴き上げながら仰向けに倒れてゆく叔母は、ひとならざる顔で、ゆるりと優しく微笑んで。
『……ゴメンネ』
と涙一筋をこぼした。
04/09-逸脱
竜族は、過ぎたる力を持ってこの大陸を脅かす、摂理から逸脱した存在だと、ひとびとが騒いだ時代があった。
「まだ、竜族が始祖種の代わりに大陸の守護者として生まれたのだと、認識されてない頃だったからね」
湖畔で語る竜王の言葉に、幼い竜兵達は表情を曇らせる。
「だが」
美しい竜王がぱちんと指を鳴らすと、湖面が波立ち、獣の姿を取った。
「『竜王に害意がある者を決して通さない』この湖が、こうして不届き者を追い返し、当時の竜王を守ったのだよ」
「やはり竜王様はすごいんですね!」
興奮気味になる竜兵の長兄に、竜王はゆるりと笑み返してみせた。
04/10-郷愁
ノスタルジア、という地域がある。郷愁の名を冠したその地には、古くから吸血鬼が棲んでいた。
『鬼』とは異なる生態系を持ち、『鬼』とは違ってひとの姿に近く、理性も保っている。だが、ひとの血を好んですすり、不死者の眷属を増やすあたりは、フィムブルヴェートのどの種族とも違う。
彼らがどこから来たのか。『霧』に閉ざされた世界では最早わからない。たしかなのは、彼らがひとに害をなす脅威であることだけだ。
「……害獣と同じだな」
心臓を貫かれて朝日に溶けてゆく吸血鬼を、蒼い瞳で見下ろしながら、吸血鬼狩りの青年は、仕込み杖の刃についた血を振り払って、納刀した。畳む
#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる
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ブルスカでお題連載していた #語彙トレ2026 『灰になるまで君を呼ぶ』03/11~03/20分にて、本編完結いたしました!
FIND THE WAYが流れ出しそうなくらい半端な締め方ですが、この終わりはもう、先月、中盤を書いているあたりから想定していました。
長編に直す時が来たら、じっくり考えます。
前回→624
続き→640
03/11-残響
『わたくしは、アグレイシア第一皇女レイティス・ナディア・アグレイシアです。LINKSの皆様のお力を借りて、今、皆さんに語りかけています』
三国救難チャンネルを使ったレイティスの言葉は、煙を立てる都市に、煤まみれの顔の人々の耳に、残響を伴って広がる。
『この戦争は、三国の野心を抱く者達が皆さんを煽動し、泥沼化させました。ですが』
一瞬息継ぎをして、皇女は続ける。
『終わらせるのも人の力だと、わたくしは信じております。現に今、わたくしの大切な仲間が、「終焉の獣」に立ち向かっています』
マイクに向かう凛とした横顔に、マオは思わず見入っていた。
03/12-耽溺
『皆さん、どうか、目の前の事実に目を向けてください。野望に耽溺する者の、甘い言葉に踊らされず、目にしたものを信じてください。その為にも、まずは隣人を救い、手を取り合ってください』
皇女の言葉に、ただ迫り来る恐怖にとらわれていた人々が、顔を見合わせ、手を伸ばす。
「誰か、手を貸してくれ! 助けるぞ!」
足が瓦礫の下敷きになって動けない女性を、人が集まって救い出す。
彼らの見上げる先には、『鋼鉄の鳥』が翼を広げている。そこから『終焉の獣』アヌナークに乗り移るふたつの人影があるのを見届けた者は、ほとんどいなかった。
03/13-慈雨
干天の慈雨だ。ジークハルトは唇の端を持ち上げた。
「み、皆さん! 騙されないで! わたくしが!」
慌てて取り繕うが、所詮ブリームの愛人だった下級貴族の女に、本物の皇女を超える言葉は出せまい。
「黙れ、馬鹿者が!」
ぱん、と乾いた殴打の音が響く。
「役に立つかと目をかけてやれば、肝心なところでしくじりおって! 皇家を乗っ取る計画が台無しだ!」
ブリームは女を罵る。愚かの極みだ。
「まだ放送が入っていることをお忘れか?」
ジークハルトの揶揄に、宰相ははっと放送機器を振り返る。
「咎人の断末魔を、アグレイシアの民に」
鋼の刃が、振り上げられて。
03/14-変貌
迷宮のようなアヌナークの体内を、ディックスとティナは駆け抜ける。普通の廊下に見えた通路が、侵入者を関知して防衛機構が作動し、生き物のように胎動して、迎撃システムがずらりと並んだ、獣の腹の中のごとくに変貌する。
放たれた光線を転がってかわし、起き上がり様に銃弾を撃ち込む。一撃は鋭く防衛機構を穿つ。ティナが一睨みしただけで砲口は凍りついて沈黙する。
身体の奥で血が騒ぐ。この奥に、いる。
血を分け合ったきょうだいが。アヌナークの核が。
「ディックス!」
思考を逸らした瞬間、ティナが珍しく感情的に叫ぶ。目の前に飛び出した彼女の脇腹を、光線が貫いた。
03/15-興趣
「ティナ!」
血を吐いて倒れ込む幼馴染の身体を支える。長年の反射で、傷口を凍りつかせて血を止めたようだが、傷の深さは誤魔化せまい。
『興趣があるだろう?』
奥の扉から女の声が聞こえる。
『愛する女の命が尽きる前に、「私」を撃たねば、世界が終わるぞ』
ティナを横抱きにしたまま、扉へ向かう。扉はディックスを待っていたかのように自動で両開きになる。
そこにあったのは、脈打つ巨大な心臓、アヌナークの核。そしてそれに下半身が埋まり込むように同化している、赤い髪の女性。
「……ミランダ姉さん」
名を呼べば、核は、あかい唇をつり上げてにたりと笑った。
03/16-凛冽
炎が鞭のようにしなって襲いかかってくる。ティナを抱いたままではまともに戦うことができない。
「……ディックス」
逡巡していると、幼馴染が必死に声を絞り出した。
「このまま、核のそばへ。私が、一撃叩き込んで、あなたが撃つ、隙を作る」
彼女にこれ以上の無茶はさせたくない。命にも関わるだろう。だが、それ以上の最善の策も無い。ひとつうなずくと、床を蹴った。
ミランダは最早自我が無いのか、高く笑いながら炎を振り回す。かわせるものはかわし、かわしきれないものは甘んじて食らって、アヌナークの核に肉薄する。
ティナが手を伸ばす。凛冽な一撃が、核を凍らせた。
03/17-穿つ
「ありがとう、ティナ」
幼馴染に静かに礼を述べ、彼女を片腕に抱いたまま、銃を取り出し、アヌナークの核に向ける。
「……ディッ……クス」
ぽろぽろと氷の破片を零しながら、アヌナークの核が、いや、ミランダが、弟の名を呼んだ。
「マルディアスの未来を、あなたの手で」
ミランダが微笑む。幼い頃自分に向けてくれた、あの無邪気な笑顔で。
手が震える。銃口がぶれる。
だが、やり遂げなくてはならない。レイティスが望み、LINKSが守ろうとし、自分が開く、未来のために。
「……姉さん」
小さく呟く。
「さよなら」
銃声が響き、そして、核の額を穿った。
03/18-堆積
アヌナークの攻撃で溶け落ちた建物の残骸が、土砂のように堆積している。そんな中でも、人々は手を取り合い、助け合い、必死に生き延びようとしている。
完全に動きを停止して彫像になった『終焉の獣』から、ディックスは足を踏み出した。
『よくやった、ディックス』
ギルガメッシュの通信が入る。
『私の心残りもようやく片付いた。エンリルの中で永い眠りにつくよ。「鋼鉄の鳥」が再び必要となる日まで』
「……ああ」
ぼんやりと返事をして、付け加える。
「おやすみ、父さん」
それきり通信が切れる。
腕の中の、完全に生命活動を凍らせた幼馴染に視線を移した。
03/19-虚飾
「ティナ、終わったよ」
固く瞳が閉じられた幼馴染に呼びかける。そうすれば目を開いて、自分をその目に映し出してくれるのではないかと期待して。
だが、現実は残酷だ。
三国上層部の虚飾に満ちた野望の果てに、大陸は大きく破壊され、国家は機能をなさず、愛する人は。
「ティナ」
名前を呼ぶ。何度も。ぽたぽたと涙が零れ落ちる。たとえ自分が燃え尽きて灰になってもかまわない。ヴァーンの炎が、彼女に命の灯火を与えてくれるなら。
『大丈夫、ディックス』
姉の声が聞こえた気がした。かと思うと、冷たかった頬に赤みがさす。
長い睫毛が震えて、黒い瞳がその下から現れた。
03/20-陽炎
奇跡は起きた。
アグレイシア皇女が終戦を宣言する放送は、三国救難チャンネルで流れ続ける。
今はまだ、陽炎のように儚い希望でも、いつか必ず大地は息を吹き返し、花を咲かせるだろう。人々は生きることを諦めず、国を越えて手を握り合うだろう。
東の空が白んでくる。マルディアスの大地に新しい朝がやってくる。
灰になるまで呼び続けた声は、愛しい人を呼び戻した。この先彼女がどれだけ生きるかなどわからない。それでも、彼女が、生きていて良かったと最期に笑えるように、寄り添っていよう。
『皆さん、おはようございます』
レイティスの声が、明るく響き渡った。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
FIND THE WAYが流れ出しそうなくらい半端な締め方ですが、この終わりはもう、先月、中盤を書いているあたりから想定していました。
長編に直す時が来たら、じっくり考えます。
前回→624
続き→640
03/11-残響
『わたくしは、アグレイシア第一皇女レイティス・ナディア・アグレイシアです。LINKSの皆様のお力を借りて、今、皆さんに語りかけています』
三国救難チャンネルを使ったレイティスの言葉は、煙を立てる都市に、煤まみれの顔の人々の耳に、残響を伴って広がる。
『この戦争は、三国の野心を抱く者達が皆さんを煽動し、泥沼化させました。ですが』
一瞬息継ぎをして、皇女は続ける。
『終わらせるのも人の力だと、わたくしは信じております。現に今、わたくしの大切な仲間が、「終焉の獣」に立ち向かっています』
マイクに向かう凛とした横顔に、マオは思わず見入っていた。
03/12-耽溺
『皆さん、どうか、目の前の事実に目を向けてください。野望に耽溺する者の、甘い言葉に踊らされず、目にしたものを信じてください。その為にも、まずは隣人を救い、手を取り合ってください』
皇女の言葉に、ただ迫り来る恐怖にとらわれていた人々が、顔を見合わせ、手を伸ばす。
「誰か、手を貸してくれ! 助けるぞ!」
足が瓦礫の下敷きになって動けない女性を、人が集まって救い出す。
彼らの見上げる先には、『鋼鉄の鳥』が翼を広げている。そこから『終焉の獣』アヌナークに乗り移るふたつの人影があるのを見届けた者は、ほとんどいなかった。
03/13-慈雨
干天の慈雨だ。ジークハルトは唇の端を持ち上げた。
「み、皆さん! 騙されないで! わたくしが!」
慌てて取り繕うが、所詮ブリームの愛人だった下級貴族の女に、本物の皇女を超える言葉は出せまい。
「黙れ、馬鹿者が!」
ぱん、と乾いた殴打の音が響く。
「役に立つかと目をかけてやれば、肝心なところでしくじりおって! 皇家を乗っ取る計画が台無しだ!」
ブリームは女を罵る。愚かの極みだ。
「まだ放送が入っていることをお忘れか?」
ジークハルトの揶揄に、宰相ははっと放送機器を振り返る。
「咎人の断末魔を、アグレイシアの民に」
鋼の刃が、振り上げられて。
03/14-変貌
迷宮のようなアヌナークの体内を、ディックスとティナは駆け抜ける。普通の廊下に見えた通路が、侵入者を関知して防衛機構が作動し、生き物のように胎動して、迎撃システムがずらりと並んだ、獣の腹の中のごとくに変貌する。
放たれた光線を転がってかわし、起き上がり様に銃弾を撃ち込む。一撃は鋭く防衛機構を穿つ。ティナが一睨みしただけで砲口は凍りついて沈黙する。
身体の奥で血が騒ぐ。この奥に、いる。
血を分け合ったきょうだいが。アヌナークの核が。
「ディックス!」
思考を逸らした瞬間、ティナが珍しく感情的に叫ぶ。目の前に飛び出した彼女の脇腹を、光線が貫いた。
03/15-興趣
「ティナ!」
血を吐いて倒れ込む幼馴染の身体を支える。長年の反射で、傷口を凍りつかせて血を止めたようだが、傷の深さは誤魔化せまい。
『興趣があるだろう?』
奥の扉から女の声が聞こえる。
『愛する女の命が尽きる前に、「私」を撃たねば、世界が終わるぞ』
ティナを横抱きにしたまま、扉へ向かう。扉はディックスを待っていたかのように自動で両開きになる。
そこにあったのは、脈打つ巨大な心臓、アヌナークの核。そしてそれに下半身が埋まり込むように同化している、赤い髪の女性。
「……ミランダ姉さん」
名を呼べば、核は、あかい唇をつり上げてにたりと笑った。
03/16-凛冽
炎が鞭のようにしなって襲いかかってくる。ティナを抱いたままではまともに戦うことができない。
「……ディックス」
逡巡していると、幼馴染が必死に声を絞り出した。
「このまま、核のそばへ。私が、一撃叩き込んで、あなたが撃つ、隙を作る」
彼女にこれ以上の無茶はさせたくない。命にも関わるだろう。だが、それ以上の最善の策も無い。ひとつうなずくと、床を蹴った。
ミランダは最早自我が無いのか、高く笑いながら炎を振り回す。かわせるものはかわし、かわしきれないものは甘んじて食らって、アヌナークの核に肉薄する。
ティナが手を伸ばす。凛冽な一撃が、核を凍らせた。
03/17-穿つ
「ありがとう、ティナ」
幼馴染に静かに礼を述べ、彼女を片腕に抱いたまま、銃を取り出し、アヌナークの核に向ける。
「……ディッ……クス」
ぽろぽろと氷の破片を零しながら、アヌナークの核が、いや、ミランダが、弟の名を呼んだ。
「マルディアスの未来を、あなたの手で」
ミランダが微笑む。幼い頃自分に向けてくれた、あの無邪気な笑顔で。
手が震える。銃口がぶれる。
だが、やり遂げなくてはならない。レイティスが望み、LINKSが守ろうとし、自分が開く、未来のために。
「……姉さん」
小さく呟く。
「さよなら」
銃声が響き、そして、核の額を穿った。
03/18-堆積
アヌナークの攻撃で溶け落ちた建物の残骸が、土砂のように堆積している。そんな中でも、人々は手を取り合い、助け合い、必死に生き延びようとしている。
完全に動きを停止して彫像になった『終焉の獣』から、ディックスは足を踏み出した。
『よくやった、ディックス』
ギルガメッシュの通信が入る。
『私の心残りもようやく片付いた。エンリルの中で永い眠りにつくよ。「鋼鉄の鳥」が再び必要となる日まで』
「……ああ」
ぼんやりと返事をして、付け加える。
「おやすみ、父さん」
それきり通信が切れる。
腕の中の、完全に生命活動を凍らせた幼馴染に視線を移した。
03/19-虚飾
「ティナ、終わったよ」
固く瞳が閉じられた幼馴染に呼びかける。そうすれば目を開いて、自分をその目に映し出してくれるのではないかと期待して。
だが、現実は残酷だ。
三国上層部の虚飾に満ちた野望の果てに、大陸は大きく破壊され、国家は機能をなさず、愛する人は。
「ティナ」
名前を呼ぶ。何度も。ぽたぽたと涙が零れ落ちる。たとえ自分が燃え尽きて灰になってもかまわない。ヴァーンの炎が、彼女に命の灯火を与えてくれるなら。
『大丈夫、ディックス』
姉の声が聞こえた気がした。かと思うと、冷たかった頬に赤みがさす。
長い睫毛が震えて、黒い瞳がその下から現れた。
03/20-陽炎
奇跡は起きた。
アグレイシア皇女が終戦を宣言する放送は、三国救難チャンネルで流れ続ける。
今はまだ、陽炎のように儚い希望でも、いつか必ず大地は息を吹き返し、花を咲かせるだろう。人々は生きることを諦めず、国を越えて手を握り合うだろう。
東の空が白んでくる。マルディアスの大地に新しい朝がやってくる。
灰になるまで呼び続けた声は、愛しい人を呼び戻した。この先彼女がどれだけ生きるかなどわからない。それでも、彼女が、生きていて良かったと最期に笑えるように、寄り添っていよう。
『皆さん、おはようございます』
レイティスの声が、明るく響き渡った。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
『灰になるまで君を呼ぶ』03/01~03/10
#語彙トレ2026 3月上旬です。
まだ3月ですが、灰君はクライマックスに向かっています。
前回→618
続き→632
03/01-撹拌
「ディックス!」
「無事だったか!」
「ったく、悪運はいいよなお前も」
マオと共にエンリルに乗り込むと、LINKSの同志達が出迎え、ばしばし叩いてきた。狸に拘束されたはずではなかったかと思うが、ギルガメッシュの機械化を思えば、留置所の鍵を無効化するのも朝飯前だろう。
「俺達も行くぜ、あの狸とエンリケの野郎をぶっ飛ばしによ」
頼もしい同僚達に笑い返した時。
ごう、と炎が窓の外をなめ、さっきまでいた町を一瞬にして火の海にした。
人も建物も溶け、まるでクリームのように撹拌されてどろどろの大地になる。その上を、『終焉の獣』アヌナークが飛び去っていった。
03/02-萌芽
行く先の大地を焼き尽くしながら、アヌナークはアサル=アリムへ向かって飛んでゆく。幸い、武器を搭載せずに御せる分、エンリルの方が速く飛べるので、破壊の萌芽がヴァルファレスを覆う前に、首都に帰りついて、大統領の手からレイティス達を取り戻さなくてはならない。
彼女はアグレイシアとの和平の為に必要な存在だ。決して失われてはならない。
それと同じくらい、ティナは自分の中で深く根を張っている。家族に恵まれなかった彼女には、もう自分しかいない。次に手を握ったら、もう二度と手を離さない。
決意するディックスの視界に、アヌナークの接近で混乱する首都が見えてきた。
03/03-爛漫
摩天楼が並び立ち、その輝きから『爛漫の夜景』と呼ばれた、アサル=アリム首都ヴァルファレスは、混乱の極みにあった。誰もが破壊兵器の接近に混乱に陥り、首都を脱出しようと押し合い圧し合い、老人が踏み潰され、親とはぐれた子供が人波に流されるのが、エンリルの窓からでも見える。
混沌の極みを眼下に見ながら、エンリルはただひとつの建物を目指して飛ぶ。
ヴォルフ大統領が君臨する、エヴァータワーを。
『最上階に着けるぞ』
脳を組み込まれたギルガメッシュが、エンリル内に響き渡る機械音声で告げれば、LINKSの誰もが、手を叩いて喝采の嵐を巻き起こした。
03/04-朧
強化ガラス越しに朧気に見える満月を、革張りチェアに座りながら見上げて、ヴォルフ大統領はぷかぷかと葉巻をふかしていた。やがて振り向く先には、エンリケに銃を突きつけられたレイティスと、その後ろに、顔色の悪いティナがいる。
「簡単なことですよ、皇女殿下」
でっぷりとした体を持ち上げ、レイティスの鼻先に葉巻を突き付ける。
「皇国と連絡を取る手段はお持ちでしょう? 貴女の騎士に、宰相を通して敗北宣言一言お願いします、と言えば、この戦いは終わる」
「終わりません」
皇女は強い目力で見返す。
「あなた方権力者の起こした戦は、ただの破壊行動です」
03/05-予兆
大統領の顔が醜く歪んだ。葉巻の火をレイティスに押し付けようとした瞬間、ティナが咄嗟に腕を割り込ませて、そこで火を受けた。兵服が焦げて肌にも確実に火傷を負ったはずなのに、苦痛ひとつ見せない。それには、大統領もエンリケも唖然とする。
さらには、駆動音が強化ガラス越しに聞こえてくる。
それを予兆に、ガラスを破る大轟音が響いて、『鋼鉄の鳥』エンリルがエヴァータワーの最上階に突っ込んできた。
「レイティス!」
仰天して腰を抜かす大統領にも、呆気に取られるエンリケにも構わず、搭乗口から身を乗り出してディックスは叫んだ。
「ティナも! 一緒に来い!!」
03/06-孤独
ずっと独りだと思っていた。
父に愛されず、周囲からは敬遠され、兵士達と出撃しても距離を取られた。
孤独の中で、独り心まで凍りついて、人生を終えるのだと思っていた。
それなのに。
「ティナ!」
その身に始祖種の血を宿した幼馴染は、炎のように情熱的に自分の名を呼び、手を伸ばすのだ。
まるで、灰になって燃え尽きても構わないと。その灰の中から、伝説の不死鳥のごとく蘇ってみせようとばかりに。
手を伸ばそうとしたところに、エンリケが銃を向ける。一睨みでその手ごと氷結させる。
レイティスが『鋼鉄の鳥』に乗り込む。それに続けば、しっかりと抱き締められた。
03/07-幻視
皇女とその護衛を連れて、『鋼鉄の鳥』がエヴァータワーから飛び去る。びょうびょうと高層の風が吹き込む中、エンリケは、へたり込んで変な笑いを漏らし続ける大統領に目を向けた。
「は……はは……。儂が三国を……マルディアスを……」
葉巻が手からぽろりとこぼれ落ちる。最早彼は、自分が覇者になる、ありえない未来を幻視して、エンリケのことどころか、現実も見えていないだろう。
砕けたガラスのカンバスに、『終焉の獣』アヌナークが大写しになる。大統領は、迫る死を認めず笑っている。
これが裏切り者の末路か。
エンリケの凍った手が砕け落ち、アヌナークが火を吹いた。
03/08-散逸
アヌナークは『終焉の獣』さながら、ヴァルファレスに破壊をもたらした。地面が燃え、建物が溶けて、人々が逃げ惑う。国軍の将は散逸した兵を引き留めようと必死だが、人の力の及ばぬ獣の前には無力だった。
「ギル」
ディックスは銃に弾込めをしながら、養父に呼びかける。
「皇女の言葉を三国救難チャンネルで。その間に俺がアヌナークに乗り込んで、姉さんを」
言いさして一瞬目を閉じ、無邪気に笑っていた赤髪の少女の幻を振り払う。
「アヌナークの核を撃つ」
『……わかった』
こちらの覚悟を受け取ってくれたのだろう。アンドロイドの養父はこくりと頷いた。
03/09-瓦解
「ディックス」
冷たい手が、銃を握る手の甲に触れた。
「私も行く。炎のヴァーンの加護を受けるアヌナークには、私の力が効くかもしれない」
ティナはあくまで淡々と語る。正直なところ、彼女を死地に同行させたくはない。ティナには、日の当たる場所で穏やかに笑っていて欲しい。
彼女が一人でそれをすることを望まないと知っているから、ディックスは溜息ひとつ落とし、幼馴染の黒い瞳を見つめる。
「俺から離れるなよ」
ティナが軽く頷く。
『お前達が失敗すれば、全てが瓦解し、マルディアスは滅びる。心しろ』
ギルガメッシュが告げる中、エンリルはアヌナークに接近した。
03/10-煽情
『アグレイシアの皆さん、今こそ反撃の時です』
艶を帯びた煽情的な声がラジオから聞こえる。違う。彼女はこんな、女を武器にした媚びるような喋り方をしない。
『ジュメールはアサル=アリムと共謀して破壊兵器を持ち出し、天罰を食らいました。正義は我々にあるのです。アグレイシアこそが、マルディアスの頂点に立つべく、皆さんのお力を貸してください』
彼女と全く違う容姿の女性が放送機器に向かって語るのを、ブリームがにやにやと満足げに見守っている。
いっそここで斬り捨てられたら。歯痒さを噛み締めていると。
『皆さん、騙されないでください』
凛とした声が割り込んだ。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
#語彙トレ2026 3月上旬です。
まだ3月ですが、灰君はクライマックスに向かっています。
前回→618
続き→632
03/01-撹拌
「ディックス!」
「無事だったか!」
「ったく、悪運はいいよなお前も」
マオと共にエンリルに乗り込むと、LINKSの同志達が出迎え、ばしばし叩いてきた。狸に拘束されたはずではなかったかと思うが、ギルガメッシュの機械化を思えば、留置所の鍵を無効化するのも朝飯前だろう。
「俺達も行くぜ、あの狸とエンリケの野郎をぶっ飛ばしによ」
頼もしい同僚達に笑い返した時。
ごう、と炎が窓の外をなめ、さっきまでいた町を一瞬にして火の海にした。
人も建物も溶け、まるでクリームのように撹拌されてどろどろの大地になる。その上を、『終焉の獣』アヌナークが飛び去っていった。
03/02-萌芽
行く先の大地を焼き尽くしながら、アヌナークはアサル=アリムへ向かって飛んでゆく。幸い、武器を搭載せずに御せる分、エンリルの方が速く飛べるので、破壊の萌芽がヴァルファレスを覆う前に、首都に帰りついて、大統領の手からレイティス達を取り戻さなくてはならない。
彼女はアグレイシアとの和平の為に必要な存在だ。決して失われてはならない。
それと同じくらい、ティナは自分の中で深く根を張っている。家族に恵まれなかった彼女には、もう自分しかいない。次に手を握ったら、もう二度と手を離さない。
決意するディックスの視界に、アヌナークの接近で混乱する首都が見えてきた。
03/03-爛漫
摩天楼が並び立ち、その輝きから『爛漫の夜景』と呼ばれた、アサル=アリム首都ヴァルファレスは、混乱の極みにあった。誰もが破壊兵器の接近に混乱に陥り、首都を脱出しようと押し合い圧し合い、老人が踏み潰され、親とはぐれた子供が人波に流されるのが、エンリルの窓からでも見える。
混沌の極みを眼下に見ながら、エンリルはただひとつの建物を目指して飛ぶ。
ヴォルフ大統領が君臨する、エヴァータワーを。
『最上階に着けるぞ』
脳を組み込まれたギルガメッシュが、エンリル内に響き渡る機械音声で告げれば、LINKSの誰もが、手を叩いて喝采の嵐を巻き起こした。
03/04-朧
強化ガラス越しに朧気に見える満月を、革張りチェアに座りながら見上げて、ヴォルフ大統領はぷかぷかと葉巻をふかしていた。やがて振り向く先には、エンリケに銃を突きつけられたレイティスと、その後ろに、顔色の悪いティナがいる。
「簡単なことですよ、皇女殿下」
でっぷりとした体を持ち上げ、レイティスの鼻先に葉巻を突き付ける。
「皇国と連絡を取る手段はお持ちでしょう? 貴女の騎士に、宰相を通して敗北宣言一言お願いします、と言えば、この戦いは終わる」
「終わりません」
皇女は強い目力で見返す。
「あなた方権力者の起こした戦は、ただの破壊行動です」
03/05-予兆
大統領の顔が醜く歪んだ。葉巻の火をレイティスに押し付けようとした瞬間、ティナが咄嗟に腕を割り込ませて、そこで火を受けた。兵服が焦げて肌にも確実に火傷を負ったはずなのに、苦痛ひとつ見せない。それには、大統領もエンリケも唖然とする。
さらには、駆動音が強化ガラス越しに聞こえてくる。
それを予兆に、ガラスを破る大轟音が響いて、『鋼鉄の鳥』エンリルがエヴァータワーの最上階に突っ込んできた。
「レイティス!」
仰天して腰を抜かす大統領にも、呆気に取られるエンリケにも構わず、搭乗口から身を乗り出してディックスは叫んだ。
「ティナも! 一緒に来い!!」
03/06-孤独
ずっと独りだと思っていた。
父に愛されず、周囲からは敬遠され、兵士達と出撃しても距離を取られた。
孤独の中で、独り心まで凍りついて、人生を終えるのだと思っていた。
それなのに。
「ティナ!」
その身に始祖種の血を宿した幼馴染は、炎のように情熱的に自分の名を呼び、手を伸ばすのだ。
まるで、灰になって燃え尽きても構わないと。その灰の中から、伝説の不死鳥のごとく蘇ってみせようとばかりに。
手を伸ばそうとしたところに、エンリケが銃を向ける。一睨みでその手ごと氷結させる。
レイティスが『鋼鉄の鳥』に乗り込む。それに続けば、しっかりと抱き締められた。
03/07-幻視
皇女とその護衛を連れて、『鋼鉄の鳥』がエヴァータワーから飛び去る。びょうびょうと高層の風が吹き込む中、エンリケは、へたり込んで変な笑いを漏らし続ける大統領に目を向けた。
「は……はは……。儂が三国を……マルディアスを……」
葉巻が手からぽろりとこぼれ落ちる。最早彼は、自分が覇者になる、ありえない未来を幻視して、エンリケのことどころか、現実も見えていないだろう。
砕けたガラスのカンバスに、『終焉の獣』アヌナークが大写しになる。大統領は、迫る死を認めず笑っている。
これが裏切り者の末路か。
エンリケの凍った手が砕け落ち、アヌナークが火を吹いた。
03/08-散逸
アヌナークは『終焉の獣』さながら、ヴァルファレスに破壊をもたらした。地面が燃え、建物が溶けて、人々が逃げ惑う。国軍の将は散逸した兵を引き留めようと必死だが、人の力の及ばぬ獣の前には無力だった。
「ギル」
ディックスは銃に弾込めをしながら、養父に呼びかける。
「皇女の言葉を三国救難チャンネルで。その間に俺がアヌナークに乗り込んで、姉さんを」
言いさして一瞬目を閉じ、無邪気に笑っていた赤髪の少女の幻を振り払う。
「アヌナークの核を撃つ」
『……わかった』
こちらの覚悟を受け取ってくれたのだろう。アンドロイドの養父はこくりと頷いた。
03/09-瓦解
「ディックス」
冷たい手が、銃を握る手の甲に触れた。
「私も行く。炎のヴァーンの加護を受けるアヌナークには、私の力が効くかもしれない」
ティナはあくまで淡々と語る。正直なところ、彼女を死地に同行させたくはない。ティナには、日の当たる場所で穏やかに笑っていて欲しい。
彼女が一人でそれをすることを望まないと知っているから、ディックスは溜息ひとつ落とし、幼馴染の黒い瞳を見つめる。
「俺から離れるなよ」
ティナが軽く頷く。
『お前達が失敗すれば、全てが瓦解し、マルディアスは滅びる。心しろ』
ギルガメッシュが告げる中、エンリルはアヌナークに接近した。
03/10-煽情
『アグレイシアの皆さん、今こそ反撃の時です』
艶を帯びた煽情的な声がラジオから聞こえる。違う。彼女はこんな、女を武器にした媚びるような喋り方をしない。
『ジュメールはアサル=アリムと共謀して破壊兵器を持ち出し、天罰を食らいました。正義は我々にあるのです。アグレイシアこそが、マルディアスの頂点に立つべく、皆さんのお力を貸してください』
彼女と全く違う容姿の女性が放送機器に向かって語るのを、ブリームがにやにやと満足げに見守っている。
いっそここで斬り捨てられたら。歯痒さを噛み締めていると。
『皆さん、騙されないでください』
凛とした声が割り込んだ。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
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『灰になるまで君を呼ぶ』02/21~02/28まとめ。
#語彙トレ2026 2月下旬分です。
恋も破壊もたつみ節が勢いづいてきました。
ていうか……2月が……終わるだと……!?
前回→613
続き→624
02/21-憧憬
熱と冷気が、決して混じり合うこと無く、しかししっかりと手を繋いでいる。
「私は、ミランダ姉さんが羨ましかったのだと思う」
他人事のように淡々と、幼馴染は憧憬を語る。
「姉弟というだけで、あなたと深い繋がりを持っていたから。私は、父にも愛されていなかったから」
否定できない。シュミット博士は、己が娘のことも、異能の実験台としか見ていなかったから。
だが、だからこそ、伝えなくてはいけない。
「俺がいる」
強く手を握り込む。
「お前の感情まで凍っても、いくらでも呼んでやる」
無感情だった瞳に光が宿る。
熱と冷気を交換するかのように、くちづけた。
02/22-虚無
夜が更けて、ディックスたちは宿に戻った。部屋では、しゃんとしたレイティスと、何だか不機嫌そうなマオが待っていた。
「ギルに連絡を取る。迎えがくるはずだから、しばらく待っててくれ」
イヤホン式のLINKS通信端末でギルガメッシュを呼び出す。しかし、いつまで経っても応答が無い。いぶかしんだ時。
「LINKS本部は大統領府の管轄下に入ったぜ」
軽い調子で、しかし驚くべき事実を告げながら、入ってくる男がいた。
「エンリケ……?」
同僚は笑っている。しかし、虚無の底のような感情の死んだ瞳で、銃口をこちらに向けながら。
「レイティス皇女にご同行願おうか」
02/23-煽動
「ヴォルフ大統領、いや、父上のご命令だよ。LINKSは応じなかったから、隊員は拘束させてもらった。隊長は逃げおおせたがね」
衝撃が走る。僚友だと思っていた男は、あの狸の子飼いだったのか。
「アグレイシアとジュメールとは、徹底抗戦に入る。民衆も父上の演説に沸き立ったよ」
愚かな煽動に愚かな民が誘導されたのか。ひとつ息をついて、銃を抜く。
ふたつの銃声が、夜更けの裏通りを突き抜ける。
ディックスの弾はわざとエンリケを外した。だが、友と信じていた男は、こちらを撃つ気満々だったろう。しかし、痛みは感じない。なのに、床に血の池が広がった。
02/24-収束
目の前の光景を否定しかけた。ティナが床に横たわっている。その下から、赤いものが流れ落ちている。
「急所は外したか」
エンリケが、さしたることは無さそうに吐き捨てて、改めてレイティスに銃口を向ける。
「皇女様。貴女が来て、敗北宣言ひとつしてくれれば、アグレイシアとは共同戦線を張れるんですよ。アヌナークの光線が収束して焼くのは、そっちの国の兵士だけどね」
「ギルがそんな事を許すはず」「LINKSはもう存在しないんだよ」
銃声がして、頬をかすめる。エンリケはこちらを撃つ事に躊躇いが無い。
やるしかないのか。逡巡した時、ティナがふらりと立ち上がった。
02/25-渺茫
「ディックスは殺させない」
血に染まった脇腹をおさえながら、ティナは変わらぬ淡々とした声を張る。見れば彼女の傷口は凍って、既に血は止まっていた。
「だけど、レイティス様も見捨てられない。皇女様の身の安全のために、わたしもついてゆく」
「自分から人質を増やしてくれるとは、よくできた部下だな、皇女様?」
エンリケの嘲弄に、レイティスは唇を噛む。
「ディックスとガキは動くな。女二人だけ来い」
銃を向けたままエンリケが手招きするのに従い、レイティスとティナは部屋を出てゆく。皇女が去り際に何か口を動かした。
取り残された二人は、前途渺茫のまま、立ち尽くして。
02/26-慟哭
ふらりとよろめいて、尻餅をつくようにベッドに座り込む。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
マオが涙目で食いついてきた。
「悔しくないのかよ!? 二人を助けに行かないのかよ!?」
言われて色んな考えが巡る。
姉をジュメールに奪われたこと。ティナがいなくなったこと。ギルガメッシュの顔を思い出せないこと。エンリケに裏切られたこと。
「……悔しいに決まってるだろ」
拳を握り締めれば、ぽたり、と涙が落ちる。自分のものだと気づけば、感情の渦は逆巻いて止まらなかった。
慟哭が迸る。
本当はずっと泣きたかった。奪われたくなかった。
子供のように、泣き叫んだ。
02/27-逡巡
「兄ちゃん!」
マオが握り拳を作って訴えかけてくる。
「レティ達を助けにいこう! 兄ちゃんならできるだろ!?」
少年の言葉に迷う。ティナは自分よりレイティスを選んだ。ここから先は、あの狸とアグレイシアの戦いではないだろうか。自分の出番は、もう無いのではないか。
遅疑逡巡するディックスに、マオが苛立って殴りかかろうとした時。
『ディックス、待たせたな』
行方不明のはずのギルガメッシュの機械的な声が、通信機に届く。
かと思うと、駆動音と共に窓の外がにわかに暗くなり、鳥の姿を持つ『鋼鉄の獣』が現れたことに驚き戸惑う人々のどよめきが聞こえた。
02/28-胎動
『心配をかけたな』
宿に姿を現したのは、精巧なアンドロイドだった。抜け落ちていた記憶のピースがかちりとはまる。
そうだ。ギルガメッシュは深傷を負い、シュミット博士の腕前で、体をまるごと機械に入れ替えた。そして脳を、LINKSが唯一保有する『鋼鉄の鳥』エンリルを制御するために、機体の中枢に埋め込んだのだ。
だから、エンリルを今動かしているのは。
『立て、ディックス。アサル=アリムへ戻るぞ。アヌナークが、マルディアスを焼き尽くす前に』
決戦に向けた胎動が始まったのを感じる。
一度だけ顔をうつむける。たが。
「了解」
不敵な笑顔で養父を見上げた。畳む
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恋も破壊もたつみ節が勢いづいてきました。
ていうか……2月が……終わるだと……!?
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02/21-憧憬
熱と冷気が、決して混じり合うこと無く、しかししっかりと手を繋いでいる。
「私は、ミランダ姉さんが羨ましかったのだと思う」
他人事のように淡々と、幼馴染は憧憬を語る。
「姉弟というだけで、あなたと深い繋がりを持っていたから。私は、父にも愛されていなかったから」
否定できない。シュミット博士は、己が娘のことも、異能の実験台としか見ていなかったから。
だが、だからこそ、伝えなくてはいけない。
「俺がいる」
強く手を握り込む。
「お前の感情まで凍っても、いくらでも呼んでやる」
無感情だった瞳に光が宿る。
熱と冷気を交換するかのように、くちづけた。
02/22-虚無
夜が更けて、ディックスたちは宿に戻った。部屋では、しゃんとしたレイティスと、何だか不機嫌そうなマオが待っていた。
「ギルに連絡を取る。迎えがくるはずだから、しばらく待っててくれ」
イヤホン式のLINKS通信端末でギルガメッシュを呼び出す。しかし、いつまで経っても応答が無い。いぶかしんだ時。
「LINKS本部は大統領府の管轄下に入ったぜ」
軽い調子で、しかし驚くべき事実を告げながら、入ってくる男がいた。
「エンリケ……?」
同僚は笑っている。しかし、虚無の底のような感情の死んだ瞳で、銃口をこちらに向けながら。
「レイティス皇女にご同行願おうか」
02/23-煽動
「ヴォルフ大統領、いや、父上のご命令だよ。LINKSは応じなかったから、隊員は拘束させてもらった。隊長は逃げおおせたがね」
衝撃が走る。僚友だと思っていた男は、あの狸の子飼いだったのか。
「アグレイシアとジュメールとは、徹底抗戦に入る。民衆も父上の演説に沸き立ったよ」
愚かな煽動に愚かな民が誘導されたのか。ひとつ息をついて、銃を抜く。
ふたつの銃声が、夜更けの裏通りを突き抜ける。
ディックスの弾はわざとエンリケを外した。だが、友と信じていた男は、こちらを撃つ気満々だったろう。しかし、痛みは感じない。なのに、床に血の池が広がった。
02/24-収束
目の前の光景を否定しかけた。ティナが床に横たわっている。その下から、赤いものが流れ落ちている。
「急所は外したか」
エンリケが、さしたることは無さそうに吐き捨てて、改めてレイティスに銃口を向ける。
「皇女様。貴女が来て、敗北宣言ひとつしてくれれば、アグレイシアとは共同戦線を張れるんですよ。アヌナークの光線が収束して焼くのは、そっちの国の兵士だけどね」
「ギルがそんな事を許すはず」「LINKSはもう存在しないんだよ」
銃声がして、頬をかすめる。エンリケはこちらを撃つ事に躊躇いが無い。
やるしかないのか。逡巡した時、ティナがふらりと立ち上がった。
02/25-渺茫
「ディックスは殺させない」
血に染まった脇腹をおさえながら、ティナは変わらぬ淡々とした声を張る。見れば彼女の傷口は凍って、既に血は止まっていた。
「だけど、レイティス様も見捨てられない。皇女様の身の安全のために、わたしもついてゆく」
「自分から人質を増やしてくれるとは、よくできた部下だな、皇女様?」
エンリケの嘲弄に、レイティスは唇を噛む。
「ディックスとガキは動くな。女二人だけ来い」
銃を向けたままエンリケが手招きするのに従い、レイティスとティナは部屋を出てゆく。皇女が去り際に何か口を動かした。
取り残された二人は、前途渺茫のまま、立ち尽くして。
02/26-慟哭
ふらりとよろめいて、尻餅をつくようにベッドに座り込む。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
マオが涙目で食いついてきた。
「悔しくないのかよ!? 二人を助けに行かないのかよ!?」
言われて色んな考えが巡る。
姉をジュメールに奪われたこと。ティナがいなくなったこと。ギルガメッシュの顔を思い出せないこと。エンリケに裏切られたこと。
「……悔しいに決まってるだろ」
拳を握り締めれば、ぽたり、と涙が落ちる。自分のものだと気づけば、感情の渦は逆巻いて止まらなかった。
慟哭が迸る。
本当はずっと泣きたかった。奪われたくなかった。
子供のように、泣き叫んだ。
02/27-逡巡
「兄ちゃん!」
マオが握り拳を作って訴えかけてくる。
「レティ達を助けにいこう! 兄ちゃんならできるだろ!?」
少年の言葉に迷う。ティナは自分よりレイティスを選んだ。ここから先は、あの狸とアグレイシアの戦いではないだろうか。自分の出番は、もう無いのではないか。
遅疑逡巡するディックスに、マオが苛立って殴りかかろうとした時。
『ディックス、待たせたな』
行方不明のはずのギルガメッシュの機械的な声が、通信機に届く。
かと思うと、駆動音と共に窓の外がにわかに暗くなり、鳥の姿を持つ『鋼鉄の獣』が現れたことに驚き戸惑う人々のどよめきが聞こえた。
02/28-胎動
『心配をかけたな』
宿に姿を現したのは、精巧なアンドロイドだった。抜け落ちていた記憶のピースがかちりとはまる。
そうだ。ギルガメッシュは深傷を負い、シュミット博士の腕前で、体をまるごと機械に入れ替えた。そして脳を、LINKSが唯一保有する『鋼鉄の鳥』エンリルを制御するために、機体の中枢に埋め込んだのだ。
だから、エンリルを今動かしているのは。
『立て、ディックス。アサル=アリムへ戻るぞ。アヌナークが、マルディアスを焼き尽くす前に』
決戦に向けた胎動が始まったのを感じる。
一度だけ顔をうつむける。たが。
「了解」
不敵な笑顔で養父を見上げた。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
『灰になるまで君を呼ぶ』02/11~02/20
#語彙トレ2026 2月中旬分です。嵐の前の静けさにするつもりが、勢い良く滅びが始まりました。
前回→606
続き→618
02/11-昏倒
「ありがとう、おねえちゃん!」
母の形見を胸に、精一杯手を振り笑顔で去ってゆく少女を見送りながら、マオは思考に沈む。
ジュメールの全てが悪ではない。同じように、三国のどこかで、誰かがひとを救って、誰かが罪を犯している。
(おれにできることって、何だろう)
非力な少年は思い悩む。
その傍らで無感情に少女を見送っていたティナが、不意に膝を折って倒れ込んだ。
「おい!?」
昏倒した彼女にとりすがると、体が酷く冷たい。まるでディックスの逆のように。
どうすれば良いのか。泣き出しそうになった時、背後からそっと伸ばされる、熱を帯びた手があった。
02/12-呪縛
「心配しないで」
知らないけれど、誰かを想起させる声が耳を撫でる。
「シュミット博士がこの子に課した呪縛よ。ひとを傷つける以外に力を使うことを許さないの」
何故そんなことを知っているのか。振りあおげば、赤銀髪を高い位置でとめた、赤い瞳の女性が、ティナに手をかざしている。その手は熱を持ち、冷えた体を温めていた。
「私も同じ。ビザーリムの研究者たちに、ひとをあやめる力を強化されている」
求めていた場所の名が出てきたことに目を真ん丸くするマオに、女性は哀しげに目を細めた。
「私はアヌナークに支配されている。ほんの少しの時間しか、意思が自由にならない」
02/13-歪曲
「ビザーリム研究所は、いえ、ジュメールは、この世界の理を歪曲させた」
ティナの体を温めながら、女性はとつとつと語る。ティナも無感情だが、このひとも喜怒哀楽が感じられない。
「『鋼鉄の獣』に武器を搭載してはならない。必ず暴走して、マルディアスを破壊する。その摂理に逆らった」
なんだかとんでもない話を聞かされている気がする。マオが戦慄すると、女性は、ティナにかざしているのと逆の手で薬瓶を取り出し、こちらに託した。
「私以外のヴァーンを殲滅させるウィルスの特効薬よ。私の血から作っているから、弟には必ず効くはず」
驚愕の事実を添えて。
02/14-果断
「ミランダねえさん……?」
ティナのか細い声が、マオの驚きを更に上書きした。この二人は知り合いなのか。
「久しぶりね、ティナ」
まだ気だるそうなティナに、ミランダと呼ばれた女性は笑みかける。しかし、不意にその眉間に皺が寄り、苦悶の声がもれる。
「そろそろ時間切れね」
ミランダは身を起こして立ち上がり、マオとティナそれぞれに視線を送る。
「弟に、ディックスに伝えて。アヌナークを滅ぼすのは、LINKSとして育った貴方の果断次第だと」
直後、炎がミランダを取り巻く。哀しそうに微笑んで、彼女の姿は炎と共に、その場からかき消えた。
02/15-払暁
払暁が迫る。国境の街まで戻ってきたマオとティナは、裏通りの宿屋の一室へ駆け込んだ。すると。
「お帰りなさい」
ディックスに傍付いていたレイティスが、すっくと立ち上がった。今までのように怯えた態度ではなく、背筋を凛と伸ばして、意思の感じられる瞳をしている。
「レティ」少年の脳裏を予感が過る。
「今はそれより、ディークの治療を」
皇女に促されて、ディックスのもとに駆け寄り、ミランダに渡された液薬を傾ける。しかし、もう自力で嚥下する力も無く、流れ落ちる。
「飲めよ、馬鹿!」
涙目になるマオの隣で、ティナがやおら薬を含み、ディックスに口移しした。
02/16-忘却
血のような何かが流れ込んでくる。それと同時に、忘却の彼方にあった光景が、はっきりとした形を取り戻す。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! アヌナークの潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
そうだ。現ジュメール議長マルセナの父親が、姉を連れ去った。禁忌の『終焉の獣』アヌナークを御する鍵として、ヴァーンの子孫である姉弟の片割れを。
(ミランダ姉さんだ)
その時に彼は、ギルを撃った。血を流す腹部をおさえながらも、彼はアサル=アリムに帰りつき、そして。
そこまで思い出した時、意識が現実に回帰する。ティナの顔が間近にあった。
02/17-陶酔
自分が昏睡状態にある間に、状況が変わっていることはわかった。
レイティスは自我を取り戻し、ティナがマオと共に自分を救うべく奔走して、そして、生き別れの姉が、自分を助ける薬をくれたこと。
そしてその姉ミランダこそが、十五年前、アヌナークの核としてジュメールに連れ去られたことを。
「マルセナ議長は、自分が大陸の支配者だと自己陶酔しています」
まだ火照りの残る体をベッドの上に起こして、しゃんとしたレイティスの話を聞く。
「わたくしは、アサル=アリムに戻り、ギルガメッシュ殿に改めて和議と同盟を求めるべきだと思っております」
02/18-執着
「たちが悪いなら、アサル=アリムも同じだな」
ディックスは苦々しく顔をしかめ、大統領のでっぷりした姿を思い出す。あの狸は、世界の覇権を握ることに執着し、いかにしてギルガメッシュとLINKSを追い落とすかに策謀を巡らせている。裏でアグレイシアともジュメールとも繋がっている可能性がある。
どいつもこいつも、相手を出し抜くことばかりを考えて。
「一刻も早く、ギルの元へ戻って、馬鹿共を迎え撃つ準備をととえないと」
そう言ってベッドから降りようとしたが、解熱したばかりの消耗した体は言うことを聞かない。ふらりとよろめいたところに、ティナの冷たい手が触れた。
02/19-剽悍
「ええい、まだですか! アヌナークの再起動は!?」
マルセナはつりがちな目をさらに狐のように吊り上げて、科学者たちを叱責する。
「ヴォルフ大統領も、ブリーム宰相も、ジュメールをなめきっているのですよ! 早々に焼き尽くすべきです!」
「し、しかし」
「うるさい!」
議長はたじろぐ科学者からタブレットを奪い、アヌナーク起動フェーズを進める。『鋼鉄の獣』に火が入り、強化ガラスの目が光る。
直後、アヌナークは獣のごとく吼え、ケーブルを引きちぎり、炎を吐いた。
「な……ぜ?」
剽悍な獣の暴走の前に、マルセナは笑顔で凍りついたまま、炎に包まれた。
02/20-欺瞞
「なあ」
マオはフォークで豆をつつきながら、隣でスープをすするレイティスに呼びかける。
「いいのかよ?」
ディックスのことだ。彼はティナと共にどこかへ行ってしまった。青年を慕っていた子供返りの頃を知っているだけに、納得がいかない。
「いいんです」
しかし、皇女は平然と返してくるのだ。それが、彼女が遠くに行ってしまったようで、少し寂しい。
「この欺瞞に満ちた世界で生き抜くには、彼らは優しすぎる。わたくしのような為政者が、責任を負うべきです」
「なら!」
マオは思わず声を高める。
「おれがレティを支える!」
蒼の瞳が驚きに瞠られ、それから細められた。畳む
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#灰になるまで君を呼ぶ
#語彙トレ2026 2月中旬分です。嵐の前の静けさにするつもりが、勢い良く滅びが始まりました。
前回→606
続き→618
02/11-昏倒
「ありがとう、おねえちゃん!」
母の形見を胸に、精一杯手を振り笑顔で去ってゆく少女を見送りながら、マオは思考に沈む。
ジュメールの全てが悪ではない。同じように、三国のどこかで、誰かがひとを救って、誰かが罪を犯している。
(おれにできることって、何だろう)
非力な少年は思い悩む。
その傍らで無感情に少女を見送っていたティナが、不意に膝を折って倒れ込んだ。
「おい!?」
昏倒した彼女にとりすがると、体が酷く冷たい。まるでディックスの逆のように。
どうすれば良いのか。泣き出しそうになった時、背後からそっと伸ばされる、熱を帯びた手があった。
02/12-呪縛
「心配しないで」
知らないけれど、誰かを想起させる声が耳を撫でる。
「シュミット博士がこの子に課した呪縛よ。ひとを傷つける以外に力を使うことを許さないの」
何故そんなことを知っているのか。振りあおげば、赤銀髪を高い位置でとめた、赤い瞳の女性が、ティナに手をかざしている。その手は熱を持ち、冷えた体を温めていた。
「私も同じ。ビザーリムの研究者たちに、ひとをあやめる力を強化されている」
求めていた場所の名が出てきたことに目を真ん丸くするマオに、女性は哀しげに目を細めた。
「私はアヌナークに支配されている。ほんの少しの時間しか、意思が自由にならない」
02/13-歪曲
「ビザーリム研究所は、いえ、ジュメールは、この世界の理を歪曲させた」
ティナの体を温めながら、女性はとつとつと語る。ティナも無感情だが、このひとも喜怒哀楽が感じられない。
「『鋼鉄の獣』に武器を搭載してはならない。必ず暴走して、マルディアスを破壊する。その摂理に逆らった」
なんだかとんでもない話を聞かされている気がする。マオが戦慄すると、女性は、ティナにかざしているのと逆の手で薬瓶を取り出し、こちらに託した。
「私以外のヴァーンを殲滅させるウィルスの特効薬よ。私の血から作っているから、弟には必ず効くはず」
驚愕の事実を添えて。
02/14-果断
「ミランダねえさん……?」
ティナのか細い声が、マオの驚きを更に上書きした。この二人は知り合いなのか。
「久しぶりね、ティナ」
まだ気だるそうなティナに、ミランダと呼ばれた女性は笑みかける。しかし、不意にその眉間に皺が寄り、苦悶の声がもれる。
「そろそろ時間切れね」
ミランダは身を起こして立ち上がり、マオとティナそれぞれに視線を送る。
「弟に、ディックスに伝えて。アヌナークを滅ぼすのは、LINKSとして育った貴方の果断次第だと」
直後、炎がミランダを取り巻く。哀しそうに微笑んで、彼女の姿は炎と共に、その場からかき消えた。
02/15-払暁
払暁が迫る。国境の街まで戻ってきたマオとティナは、裏通りの宿屋の一室へ駆け込んだ。すると。
「お帰りなさい」
ディックスに傍付いていたレイティスが、すっくと立ち上がった。今までのように怯えた態度ではなく、背筋を凛と伸ばして、意思の感じられる瞳をしている。
「レティ」少年の脳裏を予感が過る。
「今はそれより、ディークの治療を」
皇女に促されて、ディックスのもとに駆け寄り、ミランダに渡された液薬を傾ける。しかし、もう自力で嚥下する力も無く、流れ落ちる。
「飲めよ、馬鹿!」
涙目になるマオの隣で、ティナがやおら薬を含み、ディックスに口移しした。
02/16-忘却
血のような何かが流れ込んでくる。それと同時に、忘却の彼方にあった光景が、はっきりとした形を取り戻す。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! アヌナークの潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
そうだ。現ジュメール議長マルセナの父親が、姉を連れ去った。禁忌の『終焉の獣』アヌナークを御する鍵として、ヴァーンの子孫である姉弟の片割れを。
(ミランダ姉さんだ)
その時に彼は、ギルを撃った。血を流す腹部をおさえながらも、彼はアサル=アリムに帰りつき、そして。
そこまで思い出した時、意識が現実に回帰する。ティナの顔が間近にあった。
02/17-陶酔
自分が昏睡状態にある間に、状況が変わっていることはわかった。
レイティスは自我を取り戻し、ティナがマオと共に自分を救うべく奔走して、そして、生き別れの姉が、自分を助ける薬をくれたこと。
そしてその姉ミランダこそが、十五年前、アヌナークの核としてジュメールに連れ去られたことを。
「マルセナ議長は、自分が大陸の支配者だと自己陶酔しています」
まだ火照りの残る体をベッドの上に起こして、しゃんとしたレイティスの話を聞く。
「わたくしは、アサル=アリムに戻り、ギルガメッシュ殿に改めて和議と同盟を求めるべきだと思っております」
02/18-執着
「たちが悪いなら、アサル=アリムも同じだな」
ディックスは苦々しく顔をしかめ、大統領のでっぷりした姿を思い出す。あの狸は、世界の覇権を握ることに執着し、いかにしてギルガメッシュとLINKSを追い落とすかに策謀を巡らせている。裏でアグレイシアともジュメールとも繋がっている可能性がある。
どいつもこいつも、相手を出し抜くことばかりを考えて。
「一刻も早く、ギルの元へ戻って、馬鹿共を迎え撃つ準備をととえないと」
そう言ってベッドから降りようとしたが、解熱したばかりの消耗した体は言うことを聞かない。ふらりとよろめいたところに、ティナの冷たい手が触れた。
02/19-剽悍
「ええい、まだですか! アヌナークの再起動は!?」
マルセナはつりがちな目をさらに狐のように吊り上げて、科学者たちを叱責する。
「ヴォルフ大統領も、ブリーム宰相も、ジュメールをなめきっているのですよ! 早々に焼き尽くすべきです!」
「し、しかし」
「うるさい!」
議長はたじろぐ科学者からタブレットを奪い、アヌナーク起動フェーズを進める。『鋼鉄の獣』に火が入り、強化ガラスの目が光る。
直後、アヌナークは獣のごとく吼え、ケーブルを引きちぎり、炎を吐いた。
「な……ぜ?」
剽悍な獣の暴走の前に、マルセナは笑顔で凍りついたまま、炎に包まれた。
02/20-欺瞞
「なあ」
マオはフォークで豆をつつきながら、隣でスープをすするレイティスに呼びかける。
「いいのかよ?」
ディックスのことだ。彼はティナと共にどこかへ行ってしまった。青年を慕っていた子供返りの頃を知っているだけに、納得がいかない。
「いいんです」
しかし、皇女は平然と返してくるのだ。それが、彼女が遠くに行ってしまったようで、少し寂しい。
「この欺瞞に満ちた世界で生き抜くには、彼らは優しすぎる。わたくしのような為政者が、責任を負うべきです」
「なら!」
マオは思わず声を高める。
「おれがレティを支える!」
蒼の瞳が驚きに瞠られ、それから細められた。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
公募ひとつ送ったー!
さすがにいきなり長編はカロリーオーバーなので、リハビリに短編から。
長編書いてるやんけ、って言われそうだけど、趣味で書くのと公募に書くのには、やはり脳の使い方が違うので……。
まあ、通ることより、「書いて送った」という一歩を踏み出した自分をたたえます。
下読みしてくれたかたがたもありがとうございます。
一度はあったけど、また「たつみ暁」で本屋に本が並ぶ夢を見て、雪春異聞録の続きかお絵描き練習をしてきまーす!
さすがにいきなり長編はカロリーオーバーなので、リハビリに短編から。
長編書いてるやんけ、って言われそうだけど、趣味で書くのと公募に書くのには、やはり脳の使い方が違うので……。
まあ、通ることより、「書いて送った」という一歩を踏み出した自分をたたえます。
下読みしてくれたかたがたもありがとうございます。
一度はあったけど、また「たつみ暁」で本屋に本が並ぶ夢を見て、雪春異聞録の続きかお絵描き練習をしてきまーす!
本日、『婚約破棄は違法です!(副題略)』が、くるみ舎こはく文庫様より配信されました。
………………いやー………………本当にいろんな方々のご尽力で、ここまで至りました、本当にありがとうございます。
人間独りで生きているんじゃないんだなって、本当にもう、ええ………………。
昨今の悪役令嬢婚約破棄に真っ向から逆らうようなタイトルですが、内容は、悪役令嬢(冤罪)が、美形の司祭様と恋愛したり、婚約破棄をした王子に立ち向かったりします。
後味はスッキリだと思……思います! ので、いつものたつみ村をご存知の方は、安心してお読みください! たつみ村をご存知でない方も楽しめる一作になったと思っております!
よろしくお願いいたしまーす!
………………いやー………………本当にいろんな方々のご尽力で、ここまで至りました、本当にありがとうございます。
人間独りで生きているんじゃないんだなって、本当にもう、ええ………………。
昨今の悪役令嬢婚約破棄に真っ向から逆らうようなタイトルですが、内容は、悪役令嬢(冤罪)が、美形の司祭様と恋愛したり、婚約破棄をした王子に立ち向かったりします。
後味はスッキリだと思……思います! ので、いつものたつみ村をご存知の方は、安心してお読みください! たつみ村をご存知でない方も楽しめる一作になったと思っております!
よろしくお願いいたしまーす!
雪春で3ヶ月もたすのは難しいだろうとか思っていましたが、1ヶ月やってみたら、「1ヶ月じゃ足りないよ」になっていました。
ひとまず、雪春は4月だけにして、5月以降は、アルファズル東の大陸ノルンの『この大地の上で』を駆け抜けようと思います。
前→650
04/21-偏在
その昔、有翼人は高い魔力を持つゆえ、フィムブルヴェートの支配者として、大陸中に遍在していた。
しかし、ウリエルというひとりの男が、破壊の使者『ユミール』と化して大陸に危機を呼んだ時、彼らは大陸の守護者『防人』を名乗って、人間に、自分達に従属してウリエルを討つことを強要した。
結局二者の関係は泥沼になり、英雄リヴァティが調停するまで、『ユミール』すら無視した争いが続いた。
戦後、人間達の冷たい視線を浴びた防人は、南方砂漠に身を退くことになる。英雄リヴァティの交渉も虚しく、防人は辺境に偏在して、覇権を取り戻す日を狙っているという。
04/22-饗宴
「なんだ、それ?」
「始祖種が受け継いでた本だってよ」
胡乱げにこちらの手元を覗き込むキルシスに、マギーはあっけらかんと返す。どれだけの年代を経たのかわからないぼろぼろの表紙には、ダイナソアの言語で『饗宴』と書かれているらしい。
「プラトンなんて、誰なんだか」
「竜族でも知らねーぞ、そんな奴」
始祖種は古代、空からやってきたという。かれらがこのフィムブルヴェートにたどり着く前から存在していた本ならば、著者はとっくに天上に昇って久しいだろう。
「で、何が書いてあるんだ?」
「わかんね。なんか言い争ってた」
キルシスの問いに、マギーは肩をすくめた。
04/23-帰趨
『ユミール』は竜の牙から作られた槍『グラディウス』と、竜王の捨て身、そして数多の犠牲の末に、地に沈んだ。
『黒き太陽』は晴れ、朝が来る。『霧』の晴れることの無い、フィムブルヴェートの朝が。
戦いの帰趨を見届けたメディリアは、もはや竜兵ではなく、竜王を受け継いで、竜族の聖域に戻った。聖域はいつも通り、静謐をもって彼女を出迎える。
竜王を守る湖面を歩いて渡り、竜王の神殿に入る。今までは、父たる先代の王しか入れなかった部屋に踏み込むと、机の上に手紙があることに気づく。
文字に目を滑らせる。
「……お父様」
独りぼっちが沁みて、ひとしずくが手紙に滲んだ。
04/24-薫風
風薫る、という表現があったらしい。初夏の爽やかさを表す風のことだという。
「この大陸が『霧』に覆われる前の話ですかねェ」
竜兵は糸目を更に細めて、口角を持ち上げる。
「ま、そんな芸術もなにもかも、『ユミール』の前にはあえなく消えるのですがねェ?」
血のにおいが充満し、ひとの変じた『鬼』がうろつく中、彼はまるで安楽椅子のように、骸の山へ腰を下ろしている。
『鬼』にとって、そして竜族にとって、互いに天敵であるはずの両者が、食らい合うことも無く。
「ああ、楽しみだ、楽しみだァ!」
両手を広げ、じっとりした、薫風無き空をあおいで、竜兵は嗤った。
04/25-眩惑
「上玉だ、逃がすなよ!」
ヴィフレスト兵に追われる美しい姉妹に、アバロンが出くわしたのは、本当にたまたまだった。
『ユミール』が関わらない人間の欲望に、竜兵が介入する義理は全く無い。だが、下賎な連中の身勝手な欲望に、辟易したのは確かだ。
翼を広げて姉妹の前に降り立ち、「目を閉じてください」と声をかける。新手にびくつきながらも、姉妹が言うことを聞いてくれた気配を感じ取ると、追手に向けて光魔法を放つ。
「このまま走って」
相手が眩惑されている間に囁くと、
「あ、ありがとうございます!」
と姉妹は駆け去った。
「さて、あとは下衆の始末だけですか」
04/26-撹乱
『霧』は、フィムブルヴェートの在り様を根底から変えるほどの脅威だ。それに触れたものを『鬼』と化し、ひとびとを襲う。
生態系を撹乱するほどのこの現象が、いつ、どうして生まれたのか、現代には伝わっていない。
「せめて、始祖種の話を聞くことができれば、真相を知ることができるのでしょうか」
モリエールが史書を閉じながらつぶやくと、教師役の義兄が、虚を衝かれたように目をみはった。
「お前は、始祖種が真実を知っていると思うのか?」
「はい」
問いかけに毅然と答えれば、義兄は苦笑する。
「自分の勘を信じるところは、姉妹揃ってか」
果たして、褒められたのだろうか?
04/27-翠緑
カワセミが、翠緑の翼をひるがえして、窓の外を飛んでゆく。
「犯人は」
少年はきらりと眼鏡をきらめかせて、師匠を見上げた。
「Bだよね」
正答だとばかりに、同盟軍正軍師は両肩をすくめる。
「もうお前に出せる推論問題は、俺すら持ち合わせていないな」
高評価に、少年は得意気に鼻の下をこすった。
軍師として寝食を惜しんで働き回っているのに、彼はこうしておしかけ弟子の勉強に付き合ってくれる。
「冷たい」
「鬼軍師」
「何考えてるかわからなくて怖い」
師匠をよく知らない連中は彼をそう評する。だが実際は、彼はそういう連中までも生かす策を、常に練っているのだ。
04/28-童心
「ゼファーが子どもになりました」
アバロンが、五歳くらいの小ささになった銀髪の竜兵を連れてきたので、ヒオウは目を点にして立ち尽くしてしまった。
「何でだ? 外界(メタ)の作用か?」
ウィルソンがよくわからないことを言って、頭を抱えている。
金の瞳がこちらを向く。その目が嬉しさ一杯に見開かれ、長兄の手を振りほどくと。
「コウー! だいすきー!!」
全体重をかけて飛びつかれた。まあ、五歳の全体重などたかが知れているのだが、動揺が過ぎてよろめきながら受け止める羽目になる。
「童心に返ったほうが素直になるものですねえ」
アバロンがのほほんと笑っていた。
04/29-腐食
進軍の途中で、古い砦にたどり着いた。変色して緑に沈んだ金属の階段を、ゼファーは駆け登る。
「わあ、すごい!」
屋上から見渡す景色は、『霧』ではるか遠くまでは見えないとはいえ、なかなかのものだ。
竜族の聖域では見られなかった光景に見入って、屋上の柵に手をかける。途端、腐食していた取っ手がぽきりと折れた。
そのまま前のめりに何も無い空中に放り出されそうだったところを、背後から力強い腕が抱き留めてくれる。
「気をつけるんだ」耳元で囁く声がする。「いくら竜兵でも、この高さではひとたまりもあるまい」
「う、うん、ごめん」
緋色の髪が触れた頬が火照った。
04/30-歪み
いつからだろう。この世界の歪みに気づいたのは。
物心つく頃には、『霧』に覆われた空に、黒い星が垣間見えていた。
その正体を知りたくて、同胞に異端と嘲られても、始祖種と交友を結び、かれらの知る天の摂理について調べきった。
調べきった結果、この歪みはひとの手では正せないと思い知った。
だから、私は破壊者になろう。
『霧』を取り込み、破壊の化身『ユミール』となって、破壊に破壊をぶつけるのだ。
私を愛してくれた女性は泣きながら、やめてくれと懇願したが、私の意思は変わらない。
どうか、現れてくれ。
『私』を制し、フィムブルヴェートを救う英雄よ。畳む
#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる