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七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.574

『灰になるまで君を呼ぶ』01/01~01/10

#語彙トレ2026 というブルスカでのタグに乗っかって、文章練習に書き始めました、広義の『アルファズル戦記』南の大陸編を。
何の準備も無く、人名地名設定もほとんど忘れて久しいので、行き当たりばったりでいきます。エターナる可能性も、途中で心折れる可能性も、そもそも365日より早く終わる可能性もあります。

およそ10日毎に、このてがろぐにまとめてゆきます。本文は畳みます。


01/01-端緒
銃声ひとつ。
敵兵が額から血を噴いてあおむけに倒れるのを、壁の陰から確認して、走り出す。途端に銃撃の雨が降り注いだが、鍛えられたしなやかな筋肉で躍動するように全てをかわす。
アサル=アリム共和国とアグレイシア皇国の戦が始まった端緒は、皇国の皇女レイティスが、友好の使徒としてアサル=アリムを訪問中に行方不明になったことだった。
元々両国の関係は芳しくなく、理由さえあればいつでも開戦できたのだ。
「ったく、お偉方はよ」
愚痴りながら弾を込め直し、更に敵兵を撃ち倒した。

01/02-凍てつく
「ディックス!」
敵兵が全て倒れたところで、僚兵が手を振る。
「エース様はよくやるぜ」
「茶化すなよ」
彼らは『LINKS』の隊員である。かつてこのマルディアス大陸が、ファルメアというひとつの帝国だった頃、皇家の懐刀として、戦闘、諜報、暗殺などを請け負った特殊部隊の名だ。それが今も、アサル=アリム大統領の配下として機能している。
「さて、次の戦場は……っと」
彼がタブレットを持ち出して操作する。が。
「……え?」
怯えた声を聞いて、ディックスは赤い目を向け、驚きで瞠る。
仲間の手が凍っている。ぴきぴきと音を立てて、あっという間に彼は氷の彫像と化した。

01/03-熾火
ディックスはすぐさま銃を構え直して辺りを見渡す。自身の体内で常に燃えている、己の熾火を呼び起こし、油断無く敵の気配を探る。
ぴしり、と。指先に冷たさが走る。だが、彼の生来持つ『能力』が、あっという間に冷気を溶かした。
途端に殺気が迫る。氷結でディックスを仕留められないと悟った敵が、即座に白兵戦に切り替えたのだろう。肩までの茶髪を翻した、アグレイシア兵服の女が、ナイフ片手に迫ってくる。銃の迎撃も全てかわし、人並外れた跳躍をして襲いかかってくる。
ディックスもすぐさまナイフを取り出して、刃を受け止める。そして、僚兵が凍りついた時以上の驚きにとらわれた。

01/04-軋轢
『おとうさんが、ギルにはついていけないって言うの』
自分の育ての親であるLINKS隊長と、彼女の父親である研究所長の間に生じた軋轢は、もはや修復不可能になっているのは、子供の目から見てもわかった。養父にくってかかる所長の目は、血走っていて怖かった。
『「ぼうめい」するって言ってる』
『お前もついていくのか?』
訊ねれば、少女は黒い瞳を憂いに細めて、
『おとうさん、ひとりになっちゃうから』
と膝を抱え直した。
その面影がある。
「ティナ?」
少女の名前をつぶやく。女性兵は瞠目し、
「……ディックス?」
ぽろりと、こぼれ落ちるようにこちらの名を呼んだ。

01/05-淵源
「どうして、お前がアグレイシアに」
つばぜり合いをしながら、我ながら抜けた問いかけをしていると思う。所長は『亡命』したのだ。その先で研究を諦めるとは思わない。
『ひとの持つ可能性を最大限に引き出す』
という研究を。
そしてそのメスが、実の娘に向かない理由が無い。彼女は幼い頃から、炎を帯びる自分とは逆に、あらゆるものを凍てつかせる能力を発現していたのだから。
「……ディックス」
記憶より落ち着いた声で、少女は語りかける。
「この戦争の淵源を追って。レイティス様を、守って」
それだけを残して、彼女は飛び退り、あっという間に物陰に姿を消した。

01/06-雅趣
気づけば周囲は静まり返っていた。敵兵は全滅し、自分以外のLINKS隊員は、幼馴染の能力によって凍りついただろう。まだ冷気が漂っている。
研究所長の、現実を見ているのかわからないぎょろついた目が脳裏に蘇る。奴は実の娘まで兵器に仕立て上げたのか。
「……下衆い」
つぶやいて、足元の小石を蹴る。ころころ転がったそれは、半端な位置で跳ね返され、「あっ」と高い声が聞こえた。
咄嗟に銃を構え直す。石の返ったところでステルス布がずり落ちる。雅趣めいた服装に身を包んだ、紫髪に蒼い瞳の女性が、おののきに唇を震わせていた。

01/07-綻び
女性の纏う衣装は、アグレイシア織布を使った、皇族や貴族のものだ。しかしそれは薄汚れ、綻びが見える。
更にディックスが眉をひそめたのは、女性が手枷をかけられていたことだ。ステルス布まで使って、ここの敵兵は、彼女を護送する途中だったのか。
ひとつの可能性に至る。女性の前に膝をつき、問いかける。
「あんた、レイティス皇女か」
質問に、女性の肩がびくりと震える。それが答えだ。
「安心しろ、オレはあんたに危害を加えない」
「きがい……あぶないこと、しない?」
大人じみた顔立ちとは裏腹に、子供のような口調で問いかけてくる皇女に、力強く頷き返した。

01/08-仄見える
銃をひと撃ちして手枷を外し、「立てるか」と手を握る。皇女はおずおずと頷きながら、引かれるままに身を起こした。
「あんた、何でこんなところにいるんだ。こいつらは護衛兵じゃないのか?」
「ちがう、しらない。ごえい……は、ジーク」
「そのジークってのは?」
問いかけても、ふるふると首を横に振るばかりで、まともな事情は引き出せそうに無い。
「ジーク、いない。レティ、ひとりぼっち」
しくしくと。迷子のようにしゃくりあげる皇女は、まるで子供返りだ。恐らく、幼児退行するほどの「何か」があったのだろうことくらいは、仄見えた。

01/09-浸食
アサル=アリムの首都ヴァルファレスは、高山が長年の激しい風雨に浸食された台地の上に聳えている。かつて天から降りてきた始祖種ヴァーンの機械技術により、あたりの天候を常春に変えて、ひとの住める場所にしたのだ。
舗装された道路にバイクを走らせる。二人で乗ることを想定していなかったので、ヘルメットはひとつしか無い。当然、レイティスに被せた。ここで彼女が転がり落ちて頭を打ちでもしたら、それこそ大問題だ。
ディックスを庇護者と認識したのか、彼女はぎゅっとこちらの腰に腕を回してしがみついている。
バイクは坂を登って、都市の中枢ターミナル・ゼロへと向かった。

01/10-境界線
ターミナル・ゼロには境界線が引かれている。一般人は決して入ることができない。LINKSのメンバーと、研究員、そして隊長のギル――ギルガメッシュが許可した者だけだ。
固く閉ざされた金属の扉前でバイクを停め、コンソールを叩き、呼びかける。
「No.1349、ディックス・フリーダン。要救助者を一人保護した。同行の許可を」
数秒の機械思考が走った後、音声が流れる。
『隊長の許可を得ました。お進みください』
扉が両側に開く。肩越しに振り返ると、レイティスはぽかんと口を開けてその様子を見上げている。
(本当に子供さながらだな)
溜息をつき、再びエンジンをふかした。畳む


ひとまず導入まで。
世界観とか、人物まとめとかは、もう少し進んだ頃に改めて語りますが、お察しの通り、他の大陸より機械文明が進んでいます。まあ西の話で多少垣間見えたんですが……。
文章練習のためにがんばりまする。

#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ

ひとりごと2026年,創作,小説