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七月のなまけもの
七月のなまけもの

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2026年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/21~05/31まとめです。

前→676

前日の内容すら覚えてないから、矛盾が生じているところが多々ありますね!!
長編に直す時に全部辻褄合わせます!!

05/21-夕凪
 雨が、小降りになって。あかい、太陽が、雲間から顔を見せる。
「やんだな」
 夕凪みたいに静まり返った空を、時雨が見上げる。
「アルマ……あのガキも迎えにいってやらないといけないか。あまり気は進まないけど、引き受けたもんは最後までやるのが、ジャオウの忍だ」
「そういうとこ、真面目、なんだよねえ、時雨」
「あんたがけしかけたんだぞ」
「まあ、まあ、ごめんって」
 笑い合いながら。空から、前に視線を向けて。
 手が、自然に、離れて。
 わたしたちは、歩き出す。
 雨が過ぎれば、手を離す。わたしたちは、そういう仲。
 時雨も、使命が終われば、さよなら、なんだ。

05/22-可憐
 武術大会受付で、エクセルは、律儀に待っててくれた。アルマも、いっしょ。独りにできなかった、んだろうなあ。そういうお人好しなとこ、時雨に、似てる。
 そう、思ったとこで、ふと、時雨と、エクセルを、見比べる。
 似て、ない?
 所作とか、性格だけじゃなくて、顔とか。
「おんや、こんな可憐な姉ちゃんが、こんなむさいところにご用事かい?」
 思考を、断ち切るように。明らかに酔った声と、くさい息が吹きかかる。
「金が欲しいなら、このホロウに賭けな! 分け前はたっぷりやるよ! 俺様の言うことを聞くならな!」
 うわ、このひとが『転生のホロウ』なんだ。
 さいあく。

05/23-不穏
「おい、おっさん」
 ホロウと、わたしの、間に。時雨が、割って入る。
「ひとの連れに言い寄るの、やめてくれないか」
「あーん? なんだ、ガキが」
 ホロウが、太い眉、跳ね上げて。時雨と、睨み合う。あ、なんか、不穏な雰囲気。
「まあまあ、落ち着けよ。ふたりとも」
 一触即発のところに、エクセルが、にこにこ笑いながら、声をかける。
「それこそ、武術大会で決着つけりゃ、いい話だろ」
 ホロウが、なんか、青い顔した。
「お前ら、その顔、覚えとくぞ」
 舌打ちしながら、立ち去る。
 時雨が、苦い顔して、エクセルを、もとい、その手に隠し持った、針を見た。

05/24-虚ろ
「あんた、抜け目が無いというか、物騒だな」
 時雨が、呆れて、エクセルに向けて、肩をすくめてみせる。
「『転生の』とか言いながら『虚ろ(ホロウ)』なんて、黒歴史みたいな名前のやつに、ろくなのはいないだろうからな」
 エクセルは、にっと、笑い返して、マントの下に針をしまう。あのマント、すんごい数の、針、入ってるんだよねえ。エクセルの武器、針だから。
『剣は持てない』って、言ってたっけ。
 そのエクセルが、不意に、時雨の肩を抱いて、なんか、耳打ちする。
『お節介かおめえは!?』
 時雨が、顔を真っ赤にして、ジャオウ語で叫ぶ。
 なに、してんの。あのふたり?

05/25-葛藤
「じゃあな、ソフィア。また試合の時に」
 時雨から離れたエクセルが、ひらひら、手を振って、立ち去る。
 時雨は、といえば、なんか、葛藤してるみたいに、あたま抱えてる。
 ……と思ったら。
『言われるまでもねえんだよ』
 開き直って、顔、上げた。
「とりあえず、しばらくサーリアに滞在するなら、宿を取らないとな。夜が更けて部屋が埋まる前に行こう」
「あ、じゃあ、うち来いよ!」
 それまで、おとなしくしてた、アルマが、挙手する。
「何もないけど」
「言葉のまんまだろ」
 その頭を、時雨が、こつんと小突いた。
「ガキが大人に気を遣うな」

05/26-夏木立
「本当に、こっちが家なのか?」
「そうだよ!」
 夏木立の中に消えてゆくようにしか見えない、家なんて無さそうな景色に、微かな不安を覚える。それでも、アルマは、怖いものなんて何も無いとばかりに、胸を張るのだ。
「じゃあな、時雨兄ちゃん、ソフィア姉ちゃん! 明日、会場で!」
 元気に手を振り、アルマは走り去る。そこに一瞬、黒い影が重なったような気がして、目をこする。
 アルマの背中は遠ざかってゆくばかりだった。
 おかしい。俺に魔法の才能なんて無いのに、何を見たんだ?
「アルマに、ごはん、持たせてあげれば、よかったかなあ」
 ソフィアには、見えなかったのか?

05/27-閉門
 サーリア閉門の時間が過ぎた。これから先は、人の出入りの無い、閉じた都市内での享楽の時間だ。
 だが、誰かの人生がかかっている試合の前に、酒なんか浴びてる場合じゃない。そもそも、酒は最悪の思い出を呼び起こす。
『元老院』に叩き起こされていった時には、もう棺桶の中だった、恭司様。姿を消した細が下手人だと吹き込まれて、冷静な判断ができなくなっていた俺は、真に受けた。
 細がそんなことをする理由なんて、ひとっつも無かったのに。俺は幼稚だった。
 寝台に腰かけたまま、両手で顔を覆うと、客室の扉を叩く音がした。
「ソフィア?」
 一応訊ねるが、足音が違うな、これ。

05/28-揺藍
「兄ちゃん、おれだよ」
 アルマの声がした。
「なあ、開けてよ。妹が泣き止まなくてさ。こっちで寝かせてよ」
 揺藍の中の赤子が泣き声を立てる様子が脳裏に浮かぶ。眉間を押さえて、ゆっくりと立ち上がり、扉の鍵を開けて。

 扉が開いた瞬間、青竜刀『星辰』を振り抜いた。

 暗がりで、誰のものかわからない首が飛びながら、「はっはは!」と、野太い男の声で笑った。
「『転生』に騙されなかったのは、おまえが初めてだぜ、小僧!」
「アルマをどうした」
 廊下の暗さに目が慣れてくる。細い少女はいなくて、巨体が、離れた頭を再びくっつける。
 ああ、嫌な予感が当たりそうだ。

05/29-耽美
『やっぱり、そういうことかよ』
 思わずジャオウ語で毒づく。
『転生のホロウ』の姿はひとつではない。そして、その姿を手に入れる方法とは。
「聡い子は寿命が縮むよお?」
 アルマの姿がぐにゃりと歪み、耽美的な女の姿を取って、しなを作る。
「坊やも『もらっちゃおう』かなあ? けっこう良い男だし。強そうだし」
「ここでやり合うんじゃねえよ」
 隣の部屋にはソフィアがいる。ホロウの射程範囲にいれば、巻き込む。
「あのお嬢さんの心配をしてるのかい?」
 ホロウが、くつくつ笑う。
 ああ、俺の嫌な予感はことごとく当たるんだ。
 顔をしかめた時、隣の部屋の扉が開いた。

05/30-遮断
 最悪の事態を想定して、身を固くする俺の耳に、ソフィアじゃない声が飛び込んできた。
「ったく。ひとを便利屋みたいに使うんじゃねえよ」
「でも、時雨を助けるのに、頼りになるの、ほかに思いつかなかったから」
「それでこいつの嫉妬買ってたら、いい迷惑なんだよ」
 隻眼の男が、ホロウに針を向けている。その背後に、見慣れた水色の髪が揺れている。
 は?
 あいつに、頼った?
 俺を助けるために?
 信頼が遮断された気分だ。
「俺、そんなに信用ならないか?」
「ちがう! そんなこと、ない! 本当に心配だっただけ!」
 ソフィアはすんごい勢いで、両手と首を横に振った。

05/31-鏡像
 俺でもソフィアの部屋には入らないのに。エクセル、あの男、どこから登場するんだよ!?
 とはいえ、今はふたりを責めてる場合じゃあない。これ以上被害者が出ないように、『「転生」のホロウ』をここで仕留めないといけない。
「いい兄さんが増えたねえ」
 妖艶な女の姿でしなを作り、ホロウが笑う。あの酒臭いオヤジの姿は、仮だったのか、それともこの姿がお気に入りなのか。
「おや。よく見りゃ兄さん達、顔がそっくりじゃあないか。鏡像みたいだねえ」
 ぎょっとして、エクセルの方を向く。相手はこっちを見ず、即座にホロウに向けて短剣並みの針を投げた。
「まんまと乗るな、馬鹿が!」畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

創作,小説

2026年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#雪が解けて春になる の漫画を描いたのを載せ忘れていました。
今回は終盤時間軸、シリアスです。

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語彙トレで増えた設定ですが、ヒオウの母親は、正妃の陰謀で毒殺されました。
その正妃もまた、いい加減鬱陶しくなった実の息子のヴァーリによって、毒殺されています。
英雄の国ヴィフレスト、闇が深すぎる。畳む


#アルファズル戦記

ひとりごと2026年,創作,マンガ

#雪が解けて春になる の漫画を描いて、こっちに載せるのを忘れていました。
ヒオゼファ……と思わせて、ヒオウの部下ニーザが苦労人だろうな、という1ページ漫画です。

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ニーザとマイケルのモデルは、ファイアーエムブレムの赤緑だったり、幻想水滸伝のアレンとグレンシール(よく覚えていた私!)だったりします。畳む


#アルファズル戦記

ひとりごと2026年,創作,マンガ

662であたま抱えていた話、一応最後まで貫通しました! 一応!!
キャッチーなものをポンッと生み出せないなら、刃を磨いで沈み込むように刺す(比喩です)しか無いわーっ!! の勢いで書きました。

これから推敲地獄です。
がんばります。

日記,ひとりごと2026年,創作,小説

#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/01~05/10分をまとめるのを忘れていました!
アルファズル4大陸で唯一、一度も最後まで書いていない状態になった、東の大陸ノルンの物語です。
基本的には、源時雨(みなもと しぐれ)という青年と、ソフィア・ジェリングという少女のふたりの視点で交互に進みます。

次→676

05/01-青嵐
『「風青し」という表現がある。初夏の薫風を表す、「青嵐」とも呼ばれるものだ。
 だが、東の大陸ノルンを駆けた英雄は、そんな優しい風ではないだろう。
 時雨の名を持ちながら、激しい雷雨のように戦った「星の忍」。
 茫洋としながらも、心に燃え上がる炎を飼っていた、碧色の舞姫。
 碧嵐とも称すべきふたりの歩んだ道の記録は散逸して、集めるのに非常に苦労した。初期の出会い以降の物語は、大陸各地を巡ってようやく集ったのだ。
 これから語ろう。この大地の上で駆け抜けた、雨と風の軌跡を』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記』東の大陸編)

05/02-沈黙
 沈黙は時に饒舌より雄弁にものを語る。
『星の忍』の武器の一『流星』の苦無と、最早何も語らない遺髪を握り締める。
 俺の養父であり、主君であった、ジャオウ国太守長男の恭司様を暗殺したと思った女を追って、国を出た。
 だがそれは、親恭司派の俺達が潰し合うことを望んだ、『元老院』の仕組んだ筋書きだった。
 細(ささめ)。
 『元老院』に乗せられた愚かな俺の姉を最期まで貫いて、俺をかばって逝った、ねえさん。
 どうか、恭司様と共に、天上から見守っていてくれ。
 俺が、あのくそじじいどもを、光も音も無い、沈黙の地獄の底へ叩き落とす様を。

05/03-閃光
 閃光のように、青竜刀『星辰』が、煌めいて。
 あっという間に、野盗たちは、地面に倒れ伏していた。
 厳しい表情をしてる、横顔が、こちらを向くにつれて、険を治めてく。
「大丈夫か」
「う、うん。ありがと、時雨」
 わたしたちは、ダナスタン自治都市連合、東の都市サーリアを、目指してる。でも、楽な道中じゃあ、ない。ラグナール皇国の、兵士くずれが、跋扈してる。
 一応その国のお姫様、って立場としては、情けないことこの上無い、んだけど。
 それだけ兵士たちも、あのひとを信じてない、ってこと。
 早く、ジャオウに、行かないと。
 あの国も、呑み込まれる、前に。

05/04-拘束
 それは、ふたりの旅路からは少し離れた場所で。

「はい、おつかれさん」
 黒衣の男は、短剣のような針を手元でくるくる回して、マントの下に納めた。年の頃は二十代半ばほどか。顔の右半分を長い前髪で隠して、残った隻眼は、拘束された野盗たちを見据えている。
「天下のラグナール兵が、堕ちたもんだな」
 焦茶色の瞳を鋭く細めて、ならず者たちを見下す言葉を吐く男に、町長がおずおずと革袋を差し出す。
「あ、ありがとうございました。これはわずかばかりながら」
「あー、じゃあ、これだけ」
 男は革袋の口元の金貨数枚を握り締める。
「金なんて、天上に持っていけないからな」

05/05-憐憫
 自治都市連合東のサーリアに着いた。ここを過ぎればナザル山を越えて、ジャオウ国が見えてくる。
「はぐれるなよ」「う、うん」
 街の人出がすごくて、ソフィアの手を引きながら人波の間を縫っていると、前から来た子供にぶつかられた。
 だが、相手が悪い。俺は『星の忍』だ。そこらの呑気な通行人じゃあない。空いていた手で子供の襟首を引っ掴む。
「は、離せよ!」
「じゃあ、お前の手にしてる物を返してもらおうか」
 敢えて財布を掴ませて、言い逃れができないようにしたのだ。
 だが。
「時雨」
 ソフィアが、憐憫を宿した瞳を向けてきた。
「離して、あげて」

05/06-閉塞
「話、聞いてあげよう、ね?」
 ソフィアが小首を傾げる。そのお願いのされ方をすると、俺が却下できないとわかっていてだ。逃げ道を閉塞されている。
「おい、小僧」
 襟首から手を離した瞬間に財布を取り戻して、子どもを睨み下ろす。
「こんなわかりやすいスリの仕方があるか。これが貴族だったら、吊るされてるぞ」
「それでも!」
 子どもは目一杯に涙をためて、声を張り上げる。
「父ちゃんも母ちゃんもいないから、おれがやるしかないんだ! 妹と弟たちのために!」
 そして、悔しそうに拳を握り締めた。
「おれに武術大会に出る力があれば、こんなことしなかったのに」

05/07-変異
「武術大会?」
 眉をひそめると、子どもは両手を振って、必死に説明を始めた。
「サーリアでは、半年に一回、腕に覚えのあるやつらが集まって、戦うんだ。優勝者にはすげえ賞金が出る」
 成程。納得がいった。
 子どもの目が、『お前が代わりに出てくれ』と訴えている。
「兄ちゃん、あの速さ、普通じゃねえよ。腕っぷしもとんでもないんだろ」
「人を変異体みたいに言うな」
 スリを働いた上に、ジャオウへの帰国の足を引っ張るような、無関係のガキに付き合ってる暇は無い。
 言いたい。そう言ってやりたいんだが。
「時雨」
 ソフィアが裾を掴む。そうだよな。ああ、そうだよなあ。

05/08-転生
「この子の、代わりに、ね。武術大会、出てあげて?」
 ソフィアが碧眼で訴えかけてくる。反対側では子どもが期待に満ちた目で俺を見上げている。
 ……ガキふたりにすがられているみたいだ。
 おれは深々と溜息を吐き出す。
「旅の邪魔になるって思ったら、途中でも投げ出すからな」
 それでもふたりには十分だったようだ。花が咲くように表情が明るくなる。なんでソフィアまでなるんだよ。
「あ、でも、気をつけて」
 子どもが眉根を寄せる。
「すげえ強い奴がいるんだ。『転生のホロウ』って、致命傷を負っても何度も復活するんだって」
 ……そういうのは先に言え。

05/09-饒舌
 スリの子どももとい、
「おれにはアルマってれっきとした名前があるんだい!」
 と言い張ったアルマを伴って、武術大会受付まで来た。その道中、アルマはやたら饒舌だった。それはもうめちゃくちゃ喋った。
 酒飲みの父親が酔っ払って橋から落ちて死んだこと。子どもたちを養おうとした母親も、過労で帰らぬ人になったこと。弟がふたり、妹がひとりいる、長女であること。普通には働かせてもらえないから、スリをしていたこと。訊いてもいないのに、自分から喋った。あと、小汚い格好をしてるから、小僧だと思ってたので、めちゃくちゃ驚いた。
「時雨。失礼」
 ソフィアにはじとりと睨まれた。

05/10-遡行
 出場者も観客もぎゅうぎゅうに行き交う中を、鮭の遡行のように受付へ向かう。
「兄さんが出るのか?」
 受付の、本人が歴戦の戦士のような傷痕だらけの禿頭の男が、ペンで机の上の名簿を叩く。名前を書けってことか。
 ジャオウ語で『源時雨』と書いたら、「読めねえよ」と嫌味を言われたので、むっとしながらノルン共用語で書き直した。よく耐えた、俺。
「わたしも、出ようかな」
「ソフィア姉ちゃんも戦えるの!?」
「やめろ。マジでやめてくれ。俺の胃がもたない」
 呑気なソフィアに、アルマが食いついている。すると。
「……ソフィア?」
 背後から男の声が、ソフィアを呼んだ。畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

ひとりごと2026年,創作,小説

『雪が解けて春になる』番外編 04/21~04/30まとめ
雪春で3ヶ月もたすのは難しいだろうとか思っていましたが、1ヶ月やってみたら、「1ヶ月じゃ足りないよ」になっていました。
ひとまず、雪春は4月だけにして、5月以降は、アルファズル東の大陸ノルンの『この大地の上で』を駆け抜けようと思います。

前→650


04/21-偏在
 その昔、有翼人は高い魔力を持つゆえ、フィムブルヴェートの支配者として、大陸中に遍在していた。
 しかし、ウリエルというひとりの男が、破壊の使者『ユミール』と化して大陸に危機を呼んだ時、彼らは大陸の守護者『防人』を名乗って、人間に、自分達に従属してウリエルを討つことを強要した。
 結局二者の関係は泥沼になり、英雄リヴァティが調停するまで、『ユミール』すら無視した争いが続いた。
 戦後、人間達の冷たい視線を浴びた防人は、南方砂漠に身を退くことになる。英雄リヴァティの交渉も虚しく、防人は辺境に偏在して、覇権を取り戻す日を狙っているという。

04/22-饗宴
「なんだ、それ?」
「始祖種が受け継いでた本だってよ」
 胡乱げにこちらの手元を覗き込むキルシスに、マギーはあっけらかんと返す。どれだけの年代を経たのかわからないぼろぼろの表紙には、ダイナソアの言語で『饗宴』と書かれているらしい。
「プラトンなんて、誰なんだか」
「竜族でも知らねーぞ、そんな奴」
 始祖種は古代、空からやってきたという。かれらがこのフィムブルヴェートにたどり着く前から存在していた本ならば、著者はとっくに天上に昇って久しいだろう。
「で、何が書いてあるんだ?」
「わかんね。なんか言い争ってた」
 キルシスの問いに、マギーは肩をすくめた。

04/23-帰趨
『ユミール』は竜の牙から作られた槍『グラディウス』と、竜王の捨て身、そして数多の犠牲の末に、地に沈んだ。
『黒き太陽』は晴れ、朝が来る。『霧』の晴れることの無い、フィムブルヴェートの朝が。
 戦いの帰趨を見届けたメディリアは、もはや竜兵ではなく、竜王を受け継いで、竜族の聖域に戻った。聖域はいつも通り、静謐をもって彼女を出迎える。
 竜王を守る湖面を歩いて渡り、竜王の神殿に入る。今までは、父たる先代の王しか入れなかった部屋に踏み込むと、机の上に手紙があることに気づく。
 文字に目を滑らせる。
「……お父様」
 独りぼっちが沁みて、ひとしずくが手紙に滲んだ。

04/24-薫風
 風薫る、という表現があったらしい。初夏の爽やかさを表す風のことだという。
「この大陸が『霧』に覆われる前の話ですかねェ」
 竜兵は糸目を更に細めて、口角を持ち上げる。
「ま、そんな芸術もなにもかも、『ユミール』の前にはあえなく消えるのですがねェ?」
 血のにおいが充満し、ひとの変じた『鬼』がうろつく中、彼はまるで安楽椅子のように、骸の山へ腰を下ろしている。
『鬼』にとって、そして竜族にとって、互いに天敵であるはずの両者が、食らい合うことも無く。
「ああ、楽しみだ、楽しみだァ!」
 両手を広げ、じっとりした、薫風無き空をあおいで、竜兵は嗤った。

04/25-眩惑
「上玉だ、逃がすなよ!」
 ヴィフレスト兵に追われる美しい姉妹に、アバロンが出くわしたのは、本当にたまたまだった。
『ユミール』が関わらない人間の欲望に、竜兵が介入する義理は全く無い。だが、下賎な連中の身勝手な欲望に、辟易したのは確かだ。
 翼を広げて姉妹の前に降り立ち、「目を閉じてください」と声をかける。新手にびくつきながらも、姉妹が言うことを聞いてくれた気配を感じ取ると、追手に向けて光魔法を放つ。
「このまま走って」
 相手が眩惑されている間に囁くと、
「あ、ありがとうございます!」
 と姉妹は駆け去った。
「さて、あとは下衆の始末だけですか」

04/26-撹乱
『霧』は、フィムブルヴェートの在り様を根底から変えるほどの脅威だ。それに触れたものを『鬼』と化し、ひとびとを襲う。
 生態系を撹乱するほどのこの現象が、いつ、どうして生まれたのか、現代には伝わっていない。
「せめて、始祖種の話を聞くことができれば、真相を知ることができるのでしょうか」
 モリエールが史書を閉じながらつぶやくと、教師役の義兄が、虚を衝かれたように目をみはった。
「お前は、始祖種が真実を知っていると思うのか?」
「はい」
 問いかけに毅然と答えれば、義兄は苦笑する。
「自分の勘を信じるところは、姉妹揃ってか」
 果たして、褒められたのだろうか?

04/27-翠緑
 カワセミが、翠緑の翼をひるがえして、窓の外を飛んでゆく。
「犯人は」
 少年はきらりと眼鏡をきらめかせて、師匠を見上げた。
「Bだよね」
 正答だとばかりに、同盟軍正軍師は両肩をすくめる。
「もうお前に出せる推論問題は、俺すら持ち合わせていないな」
 高評価に、少年は得意気に鼻の下をこすった。
 軍師として寝食を惜しんで働き回っているのに、彼はこうしておしかけ弟子の勉強に付き合ってくれる。
「冷たい」
「鬼軍師」
「何考えてるかわからなくて怖い」
 師匠をよく知らない連中は彼をそう評する。だが実際は、彼はそういう連中までも生かす策を、常に練っているのだ。

04/28-童心
「ゼファーが子どもになりました」
 アバロンが、五歳くらいの小ささになった銀髪の竜兵を連れてきたので、ヒオウは目を点にして立ち尽くしてしまった。
「何でだ? 外界(メタ)の作用か?」
 ウィルソンがよくわからないことを言って、頭を抱えている。
 金の瞳がこちらを向く。その目が嬉しさ一杯に見開かれ、長兄の手を振りほどくと。
「コウー! だいすきー!!」
 全体重をかけて飛びつかれた。まあ、五歳の全体重などたかが知れているのだが、動揺が過ぎてよろめきながら受け止める羽目になる。
「童心に返ったほうが素直になるものですねえ」
 アバロンがのほほんと笑っていた。

04/29-腐食
 進軍の途中で、古い砦にたどり着いた。変色して緑に沈んだ金属の階段を、ゼファーは駆け登る。
「わあ、すごい!」
 屋上から見渡す景色は、『霧』ではるか遠くまでは見えないとはいえ、なかなかのものだ。
 竜族の聖域では見られなかった光景に見入って、屋上の柵に手をかける。途端、腐食していた取っ手がぽきりと折れた。
 そのまま前のめりに何も無い空中に放り出されそうだったところを、背後から力強い腕が抱き留めてくれる。
「気をつけるんだ」耳元で囁く声がする。「いくら竜兵でも、この高さではひとたまりもあるまい」
「う、うん、ごめん」
 緋色の髪が触れた頬が火照った。

04/30-歪み
 いつからだろう。この世界の歪みに気づいたのは。
 物心つく頃には、『霧』に覆われた空に、黒い星が垣間見えていた。
 その正体を知りたくて、同胞に異端と嘲られても、始祖種と交友を結び、かれらの知る天の摂理について調べきった。
 調べきった結果、この歪みはひとの手では正せないと思い知った。
 だから、私は破壊者になろう。
『霧』を取り込み、破壊の化身『ユミール』となって、破壊に破壊をぶつけるのだ。
 私を愛してくれた女性は泣きながら、やめてくれと懇願したが、私の意思は変わらない。
 どうか、現れてくれ。
『私』を制し、フィムブルヴェートを救う英雄よ。畳む


#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,小説

#語彙トレ2026 で書いた、雪春与太話です。
何でも許せるかただけどうぞ!

……というわけで、ゼファー幼児化漫画です。
ちびゼファーをだいぶ可愛く描けたと自負しております。

20260506165252-admin.png 202605061652521-admin.png

これは語彙トレのほうで書いたSSです。
ここから取捨選択して、漫画の通りになりました。
楽しかったです!
202605061652522-admin.png畳む


#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,マンガ

文学フリマ東京42に行ってきました。

芋餅むし子さんにお手伝いいただき、ポスター設置から店番までしていただいて、途中私が酸欠気味になって席を外した時も、スペースを守ってくださいました。

そう! 酸欠になるくらい人がいたんですよ! 一旦会場から出ようとエスカレーターに乗ってふっと見下ろしたら、全盛期のコミケ会場ほどではないけど、これが文フリ!? ってほどの人出でした。

そのおかげで、うちの本も何冊かお迎えいただきました。ありがとうございます。
『雪が解けて春になる』上下巻を、私がいない間に迷いなく買ってゆかれたかたがいたと、むしさんからお聞きしたのですが、心当たりが無くてすみません!
そして、悪女全回に「サインをください!」とおっしゃったお母様がいらして、ササササインですか!? とあわてふためきました。
人生初のサインでした。手元にあったボールペンで、名前と「ありがとうございました!」と書きました。
この、デザインも何もないサインが、「たつみ暁の最初のサインなのよ!」とお母様が自慢できるような成果を出せるよう、がんばります。

お知り合いにも沢山お会いできました。
いろんな要因で、物理本があとどれだけ出せるかわからない状況ですが、まだまだ本にしたい話は沢山あるので、まだまだへちょれている訳にもいかないようです。

次は来月7日のコミティアに出ます。
その時は、アクセサリが増えている……予定! なので! それも見に来てくださると、珍獣が踊って喜びます。
よろしくお願いいたします!

日記,ひとりごと2026年,創作,イベント

2026年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

『雪が解けて春になる』、 #語彙トレ2026 で書いた、ゼファーとヒオウのSSの漫画化です。
文章と漫画で、表現の取捨選択をするの、楽しい!
本編の外側で絆を深める番外編をモリモリかくのも、楽しい!

20260426182758-admin.png 202604261827581-admin.png 202604261827582-admin.png 

闇ヒオウを描けたのが、個人的にめちゃくちゃ満足しております。この人はたぶん、怒ると静かにブチ切れるタイプ。
そしてヒオウの前では泣き虫なゼファーになっています。一番、弱みを見せられる相手として、信頼してる証拠です。畳む


#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,マンガ

トレス練習を始めて、約3ヶ月。
年度末年度始めのドタバタの間も、なんとか続けました。
どれくらい進歩があったかわからないが……と色々描いてました。
まずはイラストの方から。

『雪が解けて春になる』より、ヒオウの護衛兼目付役であるニーザとマイケル。ニーザは童顔設定があるのでこれでもいいのですが、マイケルが、パーツが顔の下半分に寄りすぎて幼くなりました。
この二人は、心の許せる友人のいないヒオウのために、父親が歳の近い従者をつけた、という裏設定が爆誕したので、25~28歳くらいのはずです。(ヒオウ27歳)
もうちょいがんばります。
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これはゼファーの竜兵のきょうだい、次兄のパイソン。
うさんくささ大爆発ですね! 脳内CVも、FF14のアサヒの柳田淳一さんをアテ書きしているので、色々お察しください。あと本文には「猫背」って書いたのに、めっちゃ健康的に反ってて笑いました。
彼は四半世紀前のエターナった版にはいなかったのですが、誕生して出てきた瞬間、めっちゃフリーダムに煽り散らかしてくれました。楽しかったです。
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この記事を編集している間に、漫画も描いたことを思い出したので、夕ごはんを食べたら載せます。

#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,イラスト