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七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.618

『灰になるまで君を呼ぶ』02/21~02/28まとめ。
#語彙トレ2026 2月下旬分です。
恋も破壊もたつみ節が勢いづいてきました。
ていうか……2月が……終わるだと……!?

前回→613

02/21-憧憬
 熱と冷気が、決して混じり合うこと無く、しかししっかりと手を繋いでいる。
「私は、ミランダ姉さんが羨ましかったのだと思う」
 他人事のように淡々と、幼馴染は憧憬を語る。
「姉弟というだけで、あなたと深い繋がりを持っていたから。私は、父にも愛されていなかったから」
 否定できない。シュミット博士は、己が娘のことも、異能の実験台としか見ていなかったから。
 だが、だからこそ、伝えなくてはいけない。
「俺がいる」
 強く手を握り込む。
「お前の感情まで凍っても、いくらでも呼んでやる」
 無感情だった瞳に光が宿る。
 熱と冷気を交換するかのように、くちづけた。

02/22-虚無
 夜が更けて、ディックスたちは宿に戻った。部屋では、しゃんとしたレイティスと、何だか不機嫌そうなマオが待っていた。
「ギルに連絡を取る。迎えがくるはずだから、しばらく待っててくれ」
 イヤホン式のLINKS通信端末でギルガメッシュを呼び出す。しかし、いつまで経っても応答が無い。いぶかしんだ時。
「LINKS本部は大統領府の管轄下に入ったぜ」
 軽い調子で、しかし驚くべき事実を告げながら、入ってくる男がいた。
「エンリケ……?」
 同僚は笑っている。しかし、虚無の底のような感情の死んだ瞳で、銃口をこちらに向けながら。
「レイティス皇女にご同行願おうか」

02/23-煽動
「ヴォルフ大統領、いや、父上のご命令だよ。LINKSは応じなかったから、隊員は拘束させてもらった。隊長は逃げおおせたがね」
 衝撃が走る。僚友だと思っていた男は、あの狸の子飼いだったのか。
「アグレイシアとジュメールとは、徹底抗戦に入る。民衆も父上の演説に沸き立ったよ」
 愚かな煽動に愚かな民が誘導されたのか。ひとつ息をついて、銃を抜く。
 ふたつの銃声が、夜更けの裏通りを突き抜ける。
 ディックスの弾はわざとエンリケを外した。だが、友と信じていた男は、こちらを撃つ気満々だったろう。しかし、痛みは感じない。なのに、床に血の池が広がった。

02/24-収束
 目の前の光景を否定しかけた。ティナが床に横たわっている。その下から、赤いものが流れ落ちている。
「急所は外したか」
 エンリケが、さしたることは無さそうに吐き捨てて、改めてレイティスに銃口を向ける。
「皇女様。貴女が来て、敗北宣言ひとつしてくれれば、アグレイシアとは共同戦線を張れるんですよ。アヌナークの光線が収束して焼くのは、そっちの国の兵士だけどね」
「ギルがそんな事を許すはず」「LINKSはもう存在しないんだよ」
 銃声がして、頬をかすめる。エンリケはこちらを撃つ事に躊躇いが無い。
 やるしかないのか。逡巡した時、ティナがふらりと立ち上がった。

02/25-渺茫
「ディックスは殺させない」
 血に染まった脇腹をおさえながら、ティナは変わらぬ淡々とした声を張る。見れば彼女の傷口は凍って、既に血は止まっていた。
「だけど、レイティス様も見捨てられない。皇女様の身の安全のために、わたしもついてゆく」
「自分から人質を増やしてくれるとは、よくできた部下だな、皇女様?」
 エンリケの嘲弄に、レイティスは唇を噛む。
「ディックスとガキは動くな。女二人だけ来い」
 銃を向けたままエンリケが手招きするのに従い、レイティスとティナは部屋を出てゆく。皇女が去り際に何か口を動かした。
 取り残された二人は、前途渺茫のまま、立ち尽くして。

02/26-慟哭
 ふらりとよろめいて、尻餅をつくようにベッドに座り込む。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
 マオが涙目で食いついてきた。
「悔しくないのかよ!? 二人を助けに行かないのかよ!?」
 言われて色んな考えが巡る。
 姉をジュメールに奪われたこと。ティナがいなくなったこと。ギルガメッシュの顔を思い出せないこと。エンリケに裏切られたこと。
「……悔しいに決まってるだろ」
 拳を握り締めれば、ぽたり、と涙が落ちる。自分のものだと気づけば、感情の渦は逆巻いて止まらなかった。
 慟哭が迸る。
 本当はずっと泣きたかった。奪われたくなかった。
 子供のように、泣き叫んだ。

02/27-逡巡
「兄ちゃん!」
 マオが握り拳を作って訴えかけてくる。
「レティ達を助けにいこう! 兄ちゃんならできるだろ!?」
 少年の言葉に迷う。ティナは自分よりレイティスを選んだ。ここから先は、あの狸とアグレイシアの戦いではないだろうか。自分の出番は、もう無いのではないか。
 遅疑逡巡するディックスに、マオが苛立って殴りかかろうとした時。
『ディックス、待たせたな』
 行方不明のはずのギルガメッシュの機械的な声が、通信機に届く。
 かと思うと、駆動音と共に窓の外がにわかに暗くなり、鳥の姿を持つ『鋼鉄の獣』が現れたことに驚き戸惑う人々のどよめきが聞こえた。

02/28-胎動
『心配をかけたな』
 宿に姿を現したのは、精巧なアンドロイドだった。抜け落ちていた記憶のピースがかちりとはまる。
 そうだ。ギルガメッシュは深傷を負い、シュミット博士の腕前で、体をまるごと機械に入れ替えた。そして脳を、LINKSが唯一保有する『鋼鉄の鳥』エンリルを制御するために、機体の中枢に埋め込んだのだ。
 だから、エンリルを今動かしているのは。
『立て、ディックス。アサル=アリムへ戻るぞ。アヌナークが、マルディアスを焼き尽くす前に』
 決戦に向けた胎動が始まったのを感じる。
 一度だけ顔をうつむける。たが。
「了解」
 不敵な笑顔で養父を見上げた。畳む

創作,小説