『灰になるまで君を呼ぶ』01/11~01/20 #語彙トレ2026 2回目のまとめです。 前回→574 SFファンタジー(?)、まだ導入部分です。まだ1月の中旬なので、焦る時ではない。 続きを読む01/11-噤む ターミナル・ゼロの車両通路を駆け抜けて、終点で降りる。 「ほら」 レイティスに手を貸してバイクから降ろし、ヘルメットを脱がす。皇女はぼんやりとしてされるがままに任せていた。 隊長室に向かう。白く曇ったパーティションの向こうから、壮年の男声が聞こえる。 『おかえり、ディックス。その子はどうした?』 「ギル、実は」 養父に、今回の戦闘報告をする。 『そうか、シグマ達は』 ギルガメッシュは悼むように呟くと、レイティスに声をかける。 『それで、皇女様は何故護衛以外と共に?』 途端に、レイティスは怯えた表情で口を噤み、ディックスの腕にすがりついた。 01/12-揺曳 曇り硝子のパーティションの向こうで、養父の影がゆらゆら揺れている。彼が考えごとをしている時は、こう揺曳するのだ。 『アグレイシアにとって、融和路線として通っていた彼女が生きていると不都合な派閥があるのは明白だ。だが、アサル=アリムが皇女を保護したと主張しても、皇国は、誘拐だなんだと難癖をつけて、戦闘は泥沼化するだろう』 伊達に二十年の付き合いではない。ギルガメッシュが次に放つ言葉もわかっている。 『ディックス。お前が皇女の保護者になれ。そして探すのだ。ティナが言った通り、この戦争の淵源を。真の黒幕が誰なのかを』 01/13-乖離 面倒な役目を押し付けられた。がりがりと頭をかく。 だが、大統領府とLINKSの方針は乖離して久しいのだ。敵国の皇女を確保したとあのタヌキと腰巾着どもが知れば、この哀れな皇女の辿る道など、想像に易い。 「わーかった。わかりましたよ、ギル」 降参とばかりに両手を挙げて、隊長の提案を受け入れる。 「そうと決まったら、あんたを匿う場所を確保しないとな。その、いかにもアグレイシアですって服も着替えないと」 「きがえる? ……ぬぐ?」 振り返ると、皇女はきょとんと目を瞠り、襟元に手をかけた。 「今すぐにじゃない!!」 01/14-隠微 「この、愚か者が!」 ぱん、と乾いた音が、金属の壁で反響する。 「皇女の死体を回収できなかっただと!? それが我々にとって、どれだけ不利になるか、わかっているのか、ティナ・シュミット!?」 張られて赤くなった頬に触れもせず、痛みの表情を隠微にすら見せず、ティナはただ目を伏せる。 「前所長の実子だからと買っていたが、やはり裏切り者の娘はその程度か!」 アグレイシア宰相ブリームは唾を飛ばしながら、壁際に寄りかかる青年にも怒りの矛先を向ける。 「ジークハルト・リオ・クライスラー、貴様も呑気にしているな!」 感情のうかがえない氷色の瞳が、宰相に向けられた。 01/15-残滓 「とにかく、仕切り直しだ! 皇王に盛る薬も、もっと強くせねばな……」 ブツブツと陰謀を呟きながら、宰相は『異能力者研究所』の研究室を出てゆく。 「すまない」 怒りの残滓が消える頃、青年がティナに声をかけた。 「俺の計画に君を巻き込んで、矢面に立たせてしまって」 「いいえ」 ふるふると首を横に振る。皇女は奇跡的にディックスに託せた。あの幼馴染ならば、彼女を守ってくれるだろう。 「大丈夫か?」 「え?」 ジークハルトが口元を指差すので、己のそこを拭う。手の甲に赤が移る。 「手当てを」 「いえ、大丈夫です」 再度首を振った。 「本当に、痛くないので」 01/16-氷解 ばしゃばしゃと。水で顔を洗う。常人ならば冷たいと怯む水温も、ティナにはなんら痛痒ではない。 鏡の中で、凍りついた水滴が顔についている自分が、こちらを見つめている。また一段と凍結の能力が強まったようだ。 炎を操る幼馴染ならば、この粒もたちどころに氷解してくれるだろう。それどころか、本気を出したらこの身を燃やし尽くすかもしれない。 (いっそ、灰にしてくれたら) 麻酔無しで身体にメスが入る度に、悲鳴をあげていた。だが、それも次第に慣れてゆき、気がつけば、父は氷像になっていた。 自分はアグレイシアでも異端だ。どこにも行き場は無いのだ。 01/17-蠱惑 『我々アグレイシアは今、困難の渦中におります』 顔をタオルで拭きながら洗面所から戻ってくると、ラジオから、艶を帯びた声が流れている。 『アサル=アリムは謂われなく我が国に攻撃を加え、戦端を開きました。非はかの国にあるのです』 「病床にある」皇王の代わりに演説を行う『皇女レイティス』は語る。 『皆さん、今こそ皇家の旗の元に団結する時です。力を合わせて、この国難を乗りきりましょう』 蠱惑的に仕組まれた偽皇女の演説放送は続く。ブリームの仕掛けは、今までは、奴の思惑通りに運んでいた。 (でも) 奴の企みを崩すのはもはや、自分とジークハルトだけではないのだ。 01/18-伏流 「着替えたか?」「うん」 レイティスの返事を待って、自室に入る。アサル=アリム標準の服に着替えた彼女を皇女と気づく者は、そうそういないだろう。上手く伏流できたと思う。 薄汚れたアグレイシアの衣装をどう処分したものかと手に取る。と、その懐からぱさりと一通の封筒が落ちた。 拾い上げて封を解く。出てきた手紙を読み進めるうちに、幼馴染が戦の淵源を探せと言った意味を理解した。 「ジークハルト・リオ・クライスラー、か」 「ジーク?」 途端にレイティスが期待に満ちた表情をする。 「来てくれる?」 そんな彼女に真実を告げるのは、あまりにも酷で。 01/19-脆弱 ディックスは皇女の護衛騎士からの手紙を、皇女の服と一緒にクローゼットの奥へ放り込んだ。上手い処分の方法は思いつかなかった。下手に誰かの目につけば、大統領に報告が行く。 あのタヌキは金の力で地位を買った商人だ。政治力など無きに等しい。他者を蹴落とす為に謀略を巡らせることだけは得意だが。 ファルメア帝国の頃の結束力を失い、もはや戦闘力としてしか動けないLINKSの権威は脆弱だ。足元をすくわれればすぐさま解体されるだろう。 「ギルに相談するしかねーか」 顎に手をやってぼやけば、皇女は小首を傾げてこちらを見つめていた。 01/20-焦躁 「よ」 養父の元に向かう途中、軽い調子で声をかけられてディックスは振り返った。金髪の人好きしそうな青年が右手を掲げて歩み寄ってくる。同僚のエンリケだ。 「そっちが噂のお姫様か」 ギルガメッシュから話は聞いたらしい。自分が話題になっていると気づいたレイティスは、警戒心一杯でこちらの背中に隠れた。 エンリケは眉を垂れて肩をすくめたが、声を低めて真剣な表情で耳打ちする。 「アグレイシア側は相当焦燥に駆られてるぜ。皇女が見つかったって吹聴して、毎日皇王に代わって徹底抗戦の演説放送さ」 皇女の騎士からの手紙を思い出す。仕組んでいるのは、宰相とやらだろう。畳む #アルファズル戦記 #灰になるまで君を呼ぶ 2026.1.20(Tue) 08:12:19 ひとりごと2026年,創作,小説 edit
#語彙トレ2026 2回目のまとめです。
前回→574
SFファンタジー(?)、まだ導入部分です。まだ1月の中旬なので、焦る時ではない。
01/11-噤む
ターミナル・ゼロの車両通路を駆け抜けて、終点で降りる。
「ほら」
レイティスに手を貸してバイクから降ろし、ヘルメットを脱がす。皇女はぼんやりとしてされるがままに任せていた。
隊長室に向かう。白く曇ったパーティションの向こうから、壮年の男声が聞こえる。
『おかえり、ディックス。その子はどうした?』
「ギル、実は」
養父に、今回の戦闘報告をする。
『そうか、シグマ達は』
ギルガメッシュは悼むように呟くと、レイティスに声をかける。
『それで、皇女様は何故護衛以外と共に?』
途端に、レイティスは怯えた表情で口を噤み、ディックスの腕にすがりついた。
01/12-揺曳
曇り硝子のパーティションの向こうで、養父の影がゆらゆら揺れている。彼が考えごとをしている時は、こう揺曳するのだ。
『アグレイシアにとって、融和路線として通っていた彼女が生きていると不都合な派閥があるのは明白だ。だが、アサル=アリムが皇女を保護したと主張しても、皇国は、誘拐だなんだと難癖をつけて、戦闘は泥沼化するだろう』
伊達に二十年の付き合いではない。ギルガメッシュが次に放つ言葉もわかっている。
『ディックス。お前が皇女の保護者になれ。そして探すのだ。ティナが言った通り、この戦争の淵源を。真の黒幕が誰なのかを』
01/13-乖離
面倒な役目を押し付けられた。がりがりと頭をかく。
だが、大統領府とLINKSの方針は乖離して久しいのだ。敵国の皇女を確保したとあのタヌキと腰巾着どもが知れば、この哀れな皇女の辿る道など、想像に易い。
「わーかった。わかりましたよ、ギル」
降参とばかりに両手を挙げて、隊長の提案を受け入れる。
「そうと決まったら、あんたを匿う場所を確保しないとな。その、いかにもアグレイシアですって服も着替えないと」
「きがえる? ……ぬぐ?」
振り返ると、皇女はきょとんと目を瞠り、襟元に手をかけた。
「今すぐにじゃない!!」
01/14-隠微
「この、愚か者が!」
ぱん、と乾いた音が、金属の壁で反響する。
「皇女の死体を回収できなかっただと!? それが我々にとって、どれだけ不利になるか、わかっているのか、ティナ・シュミット!?」
張られて赤くなった頬に触れもせず、痛みの表情を隠微にすら見せず、ティナはただ目を伏せる。
「前所長の実子だからと買っていたが、やはり裏切り者の娘はその程度か!」
アグレイシア宰相ブリームは唾を飛ばしながら、壁際に寄りかかる青年にも怒りの矛先を向ける。
「ジークハルト・リオ・クライスラー、貴様も呑気にしているな!」
感情のうかがえない氷色の瞳が、宰相に向けられた。
01/15-残滓
「とにかく、仕切り直しだ! 皇王に盛る薬も、もっと強くせねばな……」
ブツブツと陰謀を呟きながら、宰相は『異能力者研究所』の研究室を出てゆく。
「すまない」
怒りの残滓が消える頃、青年がティナに声をかけた。
「俺の計画に君を巻き込んで、矢面に立たせてしまって」
「いいえ」
ふるふると首を横に振る。皇女は奇跡的にディックスに託せた。あの幼馴染ならば、彼女を守ってくれるだろう。
「大丈夫か?」
「え?」
ジークハルトが口元を指差すので、己のそこを拭う。手の甲に赤が移る。
「手当てを」
「いえ、大丈夫です」
再度首を振った。
「本当に、痛くないので」
01/16-氷解
ばしゃばしゃと。水で顔を洗う。常人ならば冷たいと怯む水温も、ティナにはなんら痛痒ではない。
鏡の中で、凍りついた水滴が顔についている自分が、こちらを見つめている。また一段と凍結の能力が強まったようだ。
炎を操る幼馴染ならば、この粒もたちどころに氷解してくれるだろう。それどころか、本気を出したらこの身を燃やし尽くすかもしれない。
(いっそ、灰にしてくれたら)
麻酔無しで身体にメスが入る度に、悲鳴をあげていた。だが、それも次第に慣れてゆき、気がつけば、父は氷像になっていた。
自分はアグレイシアでも異端だ。どこにも行き場は無いのだ。
01/17-蠱惑
『我々アグレイシアは今、困難の渦中におります』
顔をタオルで拭きながら洗面所から戻ってくると、ラジオから、艶を帯びた声が流れている。
『アサル=アリムは謂われなく我が国に攻撃を加え、戦端を開きました。非はかの国にあるのです』
「病床にある」皇王の代わりに演説を行う『皇女レイティス』は語る。
『皆さん、今こそ皇家の旗の元に団結する時です。力を合わせて、この国難を乗りきりましょう』
蠱惑的に仕組まれた偽皇女の演説放送は続く。ブリームの仕掛けは、今までは、奴の思惑通りに運んでいた。
(でも)
奴の企みを崩すのはもはや、自分とジークハルトだけではないのだ。
01/18-伏流
「着替えたか?」「うん」
レイティスの返事を待って、自室に入る。アサル=アリム標準の服に着替えた彼女を皇女と気づく者は、そうそういないだろう。上手く伏流できたと思う。
薄汚れたアグレイシアの衣装をどう処分したものかと手に取る。と、その懐からぱさりと一通の封筒が落ちた。
拾い上げて封を解く。出てきた手紙を読み進めるうちに、幼馴染が戦の淵源を探せと言った意味を理解した。
「ジークハルト・リオ・クライスラー、か」
「ジーク?」
途端にレイティスが期待に満ちた表情をする。
「来てくれる?」
そんな彼女に真実を告げるのは、あまりにも酷で。
01/19-脆弱
ディックスは皇女の護衛騎士からの手紙を、皇女の服と一緒にクローゼットの奥へ放り込んだ。上手い処分の方法は思いつかなかった。下手に誰かの目につけば、大統領に報告が行く。
あのタヌキは金の力で地位を買った商人だ。政治力など無きに等しい。他者を蹴落とす為に謀略を巡らせることだけは得意だが。
ファルメア帝国の頃の結束力を失い、もはや戦闘力としてしか動けないLINKSの権威は脆弱だ。足元をすくわれればすぐさま解体されるだろう。
「ギルに相談するしかねーか」
顎に手をやってぼやけば、皇女は小首を傾げてこちらを見つめていた。
01/20-焦躁
「よ」
養父の元に向かう途中、軽い調子で声をかけられてディックスは振り返った。金髪の人好きしそうな青年が右手を掲げて歩み寄ってくる。同僚のエンリケだ。
「そっちが噂のお姫様か」
ギルガメッシュから話は聞いたらしい。自分が話題になっていると気づいたレイティスは、警戒心一杯でこちらの背中に隠れた。
エンリケは眉を垂れて肩をすくめたが、声を低めて真剣な表情で耳打ちする。
「アグレイシア側は相当焦燥に駆られてるぜ。皇女が見つかったって吹聴して、毎日皇王に代わって徹底抗戦の演説放送さ」
皇女の騎士からの手紙を思い出す。仕組んでいるのは、宰相とやらだろう。畳む
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#灰になるまで君を呼ぶ