ブルスカでお題連載していた #語彙トレ2026 『灰になるまで君を呼ぶ』03/11~03/20分にて、本編完結いたしました! FIND THE WAYが流れ出しそうなくらい半端な締め方ですが、この終わりはもう、先月、中盤を書いているあたりから想定していました。 長編に直す時が来たら、じっくり考えます。 前回→624 続きを読む 03/11-残響 『わたくしは、アグレイシア第一皇女レイティス・ナディア・アグレイシアです。LINKSの皆様のお力を借りて、今、皆さんに語りかけています』 三国救難チャンネルを使ったレイティスの言葉は、煙を立てる都市に、煤まみれの顔の人々の耳に、残響を伴って広がる。 『この戦争は、三国の野心を抱く者達が皆さんを煽動し、泥沼化させました。ですが』 一瞬息継ぎをして、皇女は続ける。 『終わらせるのも人の力だと、わたくしは信じております。現に今、わたくしの大切な仲間が、「終焉の獣」に立ち向かっています』 マイクに向かう凛とした横顔に、マオは思わず見入っていた。 03/12-耽溺 『皆さん、どうか、目の前の事実に目を向けてください。野望に耽溺する者の、甘い言葉に踊らされず、目にしたものを信じてください。その為にも、まずは隣人を救い、手を取り合ってください』 皇女の言葉に、ただ迫り来る恐怖にとらわれていた人々が、顔を見合わせ、手を伸ばす。 「誰か、手を貸してくれ! 助けるぞ!」 足が瓦礫の下敷きになって動けない女性を、人が集まって救い出す。 彼らの見上げる先には、『鋼鉄の鳥』が翼を広げている。そこから『終焉の獣』アヌナークに乗り移るふたつの人影があるのを見届けた者は、ほとんどいなかった。 03/13-慈雨 干天の慈雨だ。ジークハルトは唇の端を持ち上げた。 「み、皆さん! 騙されないで! わたくしが!」 慌てて取り繕うが、所詮ブリームの愛人だった下級貴族の女に、本物の皇女を超える言葉は出せまい。 「黙れ、馬鹿者が!」 ぱん、と乾いた殴打の音が響く。 「役に立つかと目をかけてやれば、肝心なところでしくじりおって! 皇家を乗っ取る計画が台無しだ!」 ブリームは女を罵る。愚かの極みだ。 「まだ放送が入っていることをお忘れか?」 ジークハルトの揶揄に、宰相ははっと放送機器を振り返る。 「咎人の断末魔を、アグレイシアの民に」 鋼の刃が、振り上げられて。 03/14-変貌 迷宮のようなアヌナークの体内を、ディックスとティナは駆け抜ける。普通の廊下に見えた通路が、侵入者を関知して防衛機構が作動し、生き物のように胎動して、迎撃システムがずらりと並んだ、獣の腹の中のごとくに変貌する。 放たれた光線を転がってかわし、起き上がり様に銃弾を撃ち込む。一撃は鋭く防衛機構を穿つ。ティナが一睨みしただけで砲口は凍りついて沈黙する。 身体の奥で血が騒ぐ。この奥に、いる。 血を分け合ったきょうだいが。アヌナークの核が。 「ディックス!」 思考を逸らした瞬間、ティナが珍しく感情的に叫ぶ。目の前に飛び出した彼女の脇腹を、光線が貫いた。 03/15-興趣 「ティナ!」 血を吐いて倒れ込む幼馴染の身体を支える。長年の反射で、傷口を凍りつかせて血を止めたようだが、傷の深さは誤魔化せまい。 『興趣があるだろう?』 奥の扉から女の声が聞こえる。 『愛する女の命が尽きる前に、「私」を撃たねば、世界が終わるぞ』 ティナを横抱きにしたまま、扉へ向かう。扉はディックスを待っていたかのように自動で両開きになる。 そこにあったのは、脈打つ巨大な心臓、アヌナークの核。そしてそれに下半身が埋まり込むように同化している、赤い髪の女性。 「……ミランダ姉さん」 名を呼べば、核は、あかい唇をつり上げてにたりと笑った。 03/16-凛冽 炎が鞭のようにしなって襲いかかってくる。ティナを抱いたままではまともに戦うことができない。 「……ディックス」 逡巡していると、幼馴染が必死に声を絞り出した。 「このまま、核のそばへ。私が、一撃叩き込んで、あなたが撃つ、隙を作る」 彼女にこれ以上の無茶はさせたくない。命にも関わるだろう。だが、それ以上の最善の策も無い。ひとつうなずくと、床を蹴った。 ミランダは最早自我が無いのか、高く笑いながら炎を振り回す。かわせるものはかわし、かわしきれないものは甘んじて食らって、アヌナークの核に肉薄する。 ティナが手を伸ばす。凛冽な一撃が、核を凍らせた。 03/17-穿つ 「ありがとう、ティナ」 幼馴染に静かに礼を述べ、彼女を片腕に抱いたまま、銃を取り出し、アヌナークの核に向ける。 「……ディッ……クス」 ぽろぽろと氷の破片を零しながら、アヌナークの核が、いや、ミランダが、弟の名を呼んだ。 「マルディアスの未来を、あなたの手で」 ミランダが微笑む。幼い頃自分に向けてくれた、あの無邪気な笑顔で。 手が震える。銃口がぶれる。 だが、やり遂げなくてはならない。レイティスが望み、LINKSが守ろうとし、自分が開く、未来のために。 「……姉さん」 小さく呟く。 「さよなら」 銃声が響き、そして、核の額を穿った。 03/18-堆積 アヌナークの攻撃で溶け落ちた建物の残骸が、土砂のように堆積している。そんな中でも、人々は手を取り合い、助け合い、必死に生き延びようとしている。 完全に動きを停止して彫像になった『終焉の獣』から、ディックスは足を踏み出した。 『よくやった、ディックス』 ギルガメッシュの通信が入る。 『私の心残りもようやく片付いた。エンリルの中で永い眠りにつくよ。「鋼鉄の鳥」が再び必要となる日まで』 「……ああ」 ぼんやりと返事をして、付け加える。 「おやすみ、父さん」 それきり通信が切れる。 腕の中の、完全に生命活動を凍らせた幼馴染に視線を移した。 03/19-虚飾 「ティナ、終わったよ」 固く瞳が閉じられた幼馴染に呼びかける。そうすれば目を開いて、自分をその目に映し出してくれるのではないかと期待して。 だが、現実は残酷だ。 三国上層部の虚飾に満ちた野望の果てに、大陸は大きく破壊され、国家は機能をなさず、愛する人は。 「ティナ」 名前を呼ぶ。何度も。ぽたぽたと涙が零れ落ちる。たとえ自分が燃え尽きて灰になってもかまわない。ヴァーンの炎が、彼女に命の灯火を与えてくれるなら。 『大丈夫、ディックス』 姉の声が聞こえた気がした。かと思うと、冷たかった頬に赤みがさす。 長い睫毛が震えて、黒い瞳がその下から現れた。 03/20-陽炎 奇跡は起きた。 アグレイシア皇女が終戦を宣言する放送は、三国救難チャンネルで流れ続ける。 今はまだ、陽炎のように儚い希望でも、いつか必ず大地は息を吹き返し、花を咲かせるだろう。人々は生きることを諦めず、国を越えて手を握り合うだろう。 東の空が白んでくる。マルディアスの大地に新しい朝がやってくる。 灰になるまで呼び続けた声は、愛しい人を呼び戻した。この先彼女がどれだけ生きるかなどわからない。それでも、彼女が、生きていて良かったと最期に笑えるように、寄り添っていよう。 『皆さん、おはようございます』 レイティスの声が、明るく響き渡った。畳む #アルファズル戦記 #灰になるまで君を呼ぶ 2026.3.20(Fri) 13:16:53 創作,小説 edit
FIND THE WAYが流れ出しそうなくらい半端な締め方ですが、この終わりはもう、先月、中盤を書いているあたりから想定していました。
長編に直す時が来たら、じっくり考えます。
前回→624
03/11-残響
『わたくしは、アグレイシア第一皇女レイティス・ナディア・アグレイシアです。LINKSの皆様のお力を借りて、今、皆さんに語りかけています』
三国救難チャンネルを使ったレイティスの言葉は、煙を立てる都市に、煤まみれの顔の人々の耳に、残響を伴って広がる。
『この戦争は、三国の野心を抱く者達が皆さんを煽動し、泥沼化させました。ですが』
一瞬息継ぎをして、皇女は続ける。
『終わらせるのも人の力だと、わたくしは信じております。現に今、わたくしの大切な仲間が、「終焉の獣」に立ち向かっています』
マイクに向かう凛とした横顔に、マオは思わず見入っていた。
03/12-耽溺
『皆さん、どうか、目の前の事実に目を向けてください。野望に耽溺する者の、甘い言葉に踊らされず、目にしたものを信じてください。その為にも、まずは隣人を救い、手を取り合ってください』
皇女の言葉に、ただ迫り来る恐怖にとらわれていた人々が、顔を見合わせ、手を伸ばす。
「誰か、手を貸してくれ! 助けるぞ!」
足が瓦礫の下敷きになって動けない女性を、人が集まって救い出す。
彼らの見上げる先には、『鋼鉄の鳥』が翼を広げている。そこから『終焉の獣』アヌナークに乗り移るふたつの人影があるのを見届けた者は、ほとんどいなかった。
03/13-慈雨
干天の慈雨だ。ジークハルトは唇の端を持ち上げた。
「み、皆さん! 騙されないで! わたくしが!」
慌てて取り繕うが、所詮ブリームの愛人だった下級貴族の女に、本物の皇女を超える言葉は出せまい。
「黙れ、馬鹿者が!」
ぱん、と乾いた殴打の音が響く。
「役に立つかと目をかけてやれば、肝心なところでしくじりおって! 皇家を乗っ取る計画が台無しだ!」
ブリームは女を罵る。愚かの極みだ。
「まだ放送が入っていることをお忘れか?」
ジークハルトの揶揄に、宰相ははっと放送機器を振り返る。
「咎人の断末魔を、アグレイシアの民に」
鋼の刃が、振り上げられて。
03/14-変貌
迷宮のようなアヌナークの体内を、ディックスとティナは駆け抜ける。普通の廊下に見えた通路が、侵入者を関知して防衛機構が作動し、生き物のように胎動して、迎撃システムがずらりと並んだ、獣の腹の中のごとくに変貌する。
放たれた光線を転がってかわし、起き上がり様に銃弾を撃ち込む。一撃は鋭く防衛機構を穿つ。ティナが一睨みしただけで砲口は凍りついて沈黙する。
身体の奥で血が騒ぐ。この奥に、いる。
血を分け合ったきょうだいが。アヌナークの核が。
「ディックス!」
思考を逸らした瞬間、ティナが珍しく感情的に叫ぶ。目の前に飛び出した彼女の脇腹を、光線が貫いた。
03/15-興趣
「ティナ!」
血を吐いて倒れ込む幼馴染の身体を支える。長年の反射で、傷口を凍りつかせて血を止めたようだが、傷の深さは誤魔化せまい。
『興趣があるだろう?』
奥の扉から女の声が聞こえる。
『愛する女の命が尽きる前に、「私」を撃たねば、世界が終わるぞ』
ティナを横抱きにしたまま、扉へ向かう。扉はディックスを待っていたかのように自動で両開きになる。
そこにあったのは、脈打つ巨大な心臓、アヌナークの核。そしてそれに下半身が埋まり込むように同化している、赤い髪の女性。
「……ミランダ姉さん」
名を呼べば、核は、あかい唇をつり上げてにたりと笑った。
03/16-凛冽
炎が鞭のようにしなって襲いかかってくる。ティナを抱いたままではまともに戦うことができない。
「……ディックス」
逡巡していると、幼馴染が必死に声を絞り出した。
「このまま、核のそばへ。私が、一撃叩き込んで、あなたが撃つ、隙を作る」
彼女にこれ以上の無茶はさせたくない。命にも関わるだろう。だが、それ以上の最善の策も無い。ひとつうなずくと、床を蹴った。
ミランダは最早自我が無いのか、高く笑いながら炎を振り回す。かわせるものはかわし、かわしきれないものは甘んじて食らって、アヌナークの核に肉薄する。
ティナが手を伸ばす。凛冽な一撃が、核を凍らせた。
03/17-穿つ
「ありがとう、ティナ」
幼馴染に静かに礼を述べ、彼女を片腕に抱いたまま、銃を取り出し、アヌナークの核に向ける。
「……ディッ……クス」
ぽろぽろと氷の破片を零しながら、アヌナークの核が、いや、ミランダが、弟の名を呼んだ。
「マルディアスの未来を、あなたの手で」
ミランダが微笑む。幼い頃自分に向けてくれた、あの無邪気な笑顔で。
手が震える。銃口がぶれる。
だが、やり遂げなくてはならない。レイティスが望み、LINKSが守ろうとし、自分が開く、未来のために。
「……姉さん」
小さく呟く。
「さよなら」
銃声が響き、そして、核の額を穿った。
03/18-堆積
アヌナークの攻撃で溶け落ちた建物の残骸が、土砂のように堆積している。そんな中でも、人々は手を取り合い、助け合い、必死に生き延びようとしている。
完全に動きを停止して彫像になった『終焉の獣』から、ディックスは足を踏み出した。
『よくやった、ディックス』
ギルガメッシュの通信が入る。
『私の心残りもようやく片付いた。エンリルの中で永い眠りにつくよ。「鋼鉄の鳥」が再び必要となる日まで』
「……ああ」
ぼんやりと返事をして、付け加える。
「おやすみ、父さん」
それきり通信が切れる。
腕の中の、完全に生命活動を凍らせた幼馴染に視線を移した。
03/19-虚飾
「ティナ、終わったよ」
固く瞳が閉じられた幼馴染に呼びかける。そうすれば目を開いて、自分をその目に映し出してくれるのではないかと期待して。
だが、現実は残酷だ。
三国上層部の虚飾に満ちた野望の果てに、大陸は大きく破壊され、国家は機能をなさず、愛する人は。
「ティナ」
名前を呼ぶ。何度も。ぽたぽたと涙が零れ落ちる。たとえ自分が燃え尽きて灰になってもかまわない。ヴァーンの炎が、彼女に命の灯火を与えてくれるなら。
『大丈夫、ディックス』
姉の声が聞こえた気がした。かと思うと、冷たかった頬に赤みがさす。
長い睫毛が震えて、黒い瞳がその下から現れた。
03/20-陽炎
奇跡は起きた。
アグレイシア皇女が終戦を宣言する放送は、三国救難チャンネルで流れ続ける。
今はまだ、陽炎のように儚い希望でも、いつか必ず大地は息を吹き返し、花を咲かせるだろう。人々は生きることを諦めず、国を越えて手を握り合うだろう。
東の空が白んでくる。マルディアスの大地に新しい朝がやってくる。
灰になるまで呼び続けた声は、愛しい人を呼び戻した。この先彼女がどれだけ生きるかなどわからない。それでも、彼女が、生きていて良かったと最期に笑えるように、寄り添っていよう。
『皆さん、おはようございます』
レイティスの声が、明るく響き渡った。畳む
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