第2章:生まれた時から決まっていた運命なんてない(7)


「……僕が」
 千春はのろのろと立ち直りながら、父とタマを交互に見やる。
「フリーマンと戦わないと、日本は大変なことになるんだよね」
「だあな!」
「じゃの」
 洋輔が腕組みをしてうなずき、タマは申し訳なさそうにしょぼくれる。
「我はリッターとしてカレン様より魔力のほとんどをたまわっていたので、カレン様亡き今は、洋輔に念力通信テレパシーを送ったり、軽い魔法を使うくらいの力しかない。この地を守るには、ソル・スプリングになれる千春、お前が頼りなのじゃ」
 正直なところ、父が母に惚れてしまったことで日本に危機がおとずれている状況を、息子の自分が尻ぬぐいするのはいかがなものかと思う。
 それでも。
「……やるよ」
 両手を拳の形ににぎり込み、表情を引きしめて、千春は宣誓した。
「ソル・スプリングとして、フリーマンと戦う」
 恐怖がないわけではない。だけど、自分が戦わなくては、今日のように克己に守られてばかりで、彼を危険な目に遭わせるかもしれない。
 気を失った克己の青白い顔を思い出す。今日は無事だったが、いつか、幼なじみがそのまま目覚めない時があったらと思うと、千春の心臓は、わしづかみにされたような痛みをおぼえるのだ。
 克己を失うおそれよりも、フリーマンと戦うほうが怖くない気がする。痛いのもつらいのもいやだが、『猛禽のラパス』には勝てたのだ。これから来るフリーマンとも、渡り合えるだろう。
「おっしゃー! 言質げんち取ったぜ!」
 途端に洋輔が破顔してまたもクラッカーをパーン! と鳴らし。
「おーよかったー! これで断られたら我はどうしようかと思ったぞ! カレン様! あなたの息子は世界一ィ!」
 タマがぷるぷる体をふるわせたかと思うと、すっかりポメラニアンに戻って、興奮にキャンキャン鳴きながらダイニング中を走り回る。
 なんだか情に訴えて乗せられたような気もしなくはない。
 だが、フリーマンの子として生まれたから、運命を定められたわけではない。
 自分は、自分の意志で、大切なひとを守るために戦うのだ。
(それでいいよね、母さん?)
 千春はひとつ息を吐いて、もう一度仏壇を見る。
 写真の中の母が、少し困ったように微笑みかけている。そんなふうに見えた。