第7章:王子様を助けにいくのはお姫様の役目(6)


 すずめの鳴き声が聞こえる。カーテンの合間から見える外は、もう明るい。
(何時……?)
 手元のスマホで時刻を見ようとして、真っ暗なままの画面に、そういえば電源を落としたのだといまさら思い出す。
 ほんのりと差しこむ光で見えた手は、なんだかいつもよりほっそりして、指が長い。
 そこで、千春は我に返った。
 体が変化する痛みを我慢しているうちに、多少眠ってしまっていた。変な夢を見ていた気もするが、「変な」という記憶だけが残って、肝心の内容をおぼえていない。いや、おぼえていないほうが良いのだろう。
 部屋の電気をつけて、鏡の前に立つ。明るい茶色の瞳が、鏡に映る自分の姿を、驚きをこめて見つめていた。
 昨日より縮んだ身長。長く伸びた髪。ほおは少しふっくらして、体つきは男のものではない。
 持つ色こそは違うけれど、完全に、ソル・スプリングに変身した時と同じ、少女の姿に変わっていた。
 鏡に手を触れる。鏡の中の自分も、手を合わせてくる。
 元々少女っぽい顔つきをしているとは言われていたが、自覚していた以上に女らしい。
「女の子に、なっちゃったんだあ……」
 しみじみつぶやく声は、今までよりずっと高かった。
 とにかく、まずは父とタマに、心配と迷惑をかけたことを謝らねば。そう思い、ダイニングに降りていった千春は、ぎょっとして入口で立ち止まってしまった。
 ふたりがいた。父は椅子に座ったままふねをこぎ、タマはテーブルの上でぺたんこになって、すぴすぴと寝息を立てている。
 どうも、早起きをして朝食の席についた途端寝落ちた、というわけではないらしい。
(僕を心配して、一晩中ここにいたんだ)
 その可能性に気づき、胸が熱くなる。それと同時に、なんだかおなかが空いてきてしまった。
 パンくらいはあるだろう。できるだけ音を立てないように冷蔵庫に近づこうとしたところで、洋輔が身じろぎした。
「ん、ああ……千春、か?」
 しょぼしょぼした目でこちらを見る父は、へらっとした笑いを浮かべる。
「なんだよ、カレンそっくりになったじゃねえか」
 そうして、どこか懐かしそうにつぶやくので、千春はなんだか泣きそうになった。
「待ってろ。女子になっても美味い、とっときの朝飯を作ってやるからよ。相当汗かいてるだろ、風呂にでも入ってこい」
「ん? んおお……?」
 洋輔が席を立つのにつられて、タマも次第に覚醒する。
「おお、千春……無事じゃったか……」
 いつもの気勢はどこへやら、心底ほっとしたため息をつく。
「お前にもしものことがあったら、我はカレン様に顔向けができないからのう」
 千春が男でも女でも、関係ない。ふたりは、千春を家族として扱い、笑いかけ、そして、本当に心配してくれる。
 ならば、という考えが千春の脳裏に浮かんだ。
 克己だって、きっと、千春の変化になんらかの反応を返してくれるだろう。昨日はその言葉を聞きたくなくて逃げ去ってしまった。だが、彼ときちんと向き合い、彼の本当の気持ちを知らなくてはいけない。
 彼のことを、本当に好きならば。