第6章:おとずれる変化、揺れる心(4)


「『リベルタ機関』って、政府の極秘組織だっていうから、どれだけのエリートが集まってるのかと思ったけど」
 その様子を見ながら、ソル・スプリングは、くすくす笑いながら、傍らに立つ幼なじみに告げる。
「室淵先生といい、面白いひとばかりだね」
「それがいいのか悪いのかは、わからないけどな」
 克己も苦笑しながら、こちらを見下ろしてくる。
 一度は突き放されると思った。だが、彼は変わらずに千春の親友で、こうして気の置けない相手として言葉を交わすことができる。それがなにより嬉しくて、頼もしい。
「おーい、東城」ルナ・オータムを追いかけ回している東城女史に、室淵がぶらぶらと手を振る。「ふざけるのはそれくらいにして、こいつらを回収していってくれや」
 すると、東城はぴたりと動きを止めたかと思うと、研究者らしい真顔を取り戻し。
「わかったわ」
 と、後から来た、防弾チョッキを着た白い制服の男性四人にてきぱきと指示を送る。
 彼らがフリーマン回収作業に移るのをぼんやり眺めていると、「おーう」と室淵がこちらを向いた。
「お前らは、今日はもう帰っていいぞ。お疲れさん」
「はい」「帰る! 言われなくても帰るわよ!」「お疲れさまでした」「お先に失礼します!」
 四人がめいめいに返事をし、歩き出す。が。
「うわっ!」
 ソル・スプリングは、足元にあった大きな石に気づかず、けつまづいて、つんのめった。大きく上体が動いて両腕を泳がせるが、手は虚空こくうをつかむばかりで、支えるものはなにも無い。
 危うく地面と熱いごあいさつをしそうになったところ。
「千春!」
 力強い腕が体を支え、ぐんと後ろに引き寄せる。
 気がつけば、ソル・スプリングは、克己の厚い胸板に背をあずけて、しっかりと抱きしめられる形になっていた。とくん、と胸がひとつ高鳴る。
「っと、悪い!」
 途端、克己が焦ったようにわびて、両腕をほどいた。ソル・スプリングは二、三歩よろめいて、なんとか自力で立つ状態になる。
「う、ううん。こっちこそ、ごめん」
 とっさに首を横に振ったが、ほおが熱を持つのがわかる。
 女の子の体である自分を、克己が抱きしめた。その事実に、心臓が、どきどきと速く脈打つ。幼い頃から今まで、じゃれあったり、取っ組み合ったことなど、数え切れないほどあるのに。
 なんだか恥ずかしくて、克己の顔を見られない。ソル・スプリングは体の後ろで手を組んで、うつむき、もじもじしてしまう。
 だから、見損ねてしまったのだった。
 幼なじみも心なしか赤い顔をしていたのを。