第5章:お前もアミクスにならないか?(5)


「紅葉ちゃん、わたしのことを心配してくれたよね」
 奈津里の頬を伝う水分が、雨なのか、涙なのかわからない。
「うちに来てくれた時、フリーマンがわたしの魔力を見つけないために、わざわざ飛び出して、守ってくれたんだよね」
「違う、あれは」
「違わない」
 否定しようとしても、奈津里はぶんぶんと首を横に振り、紅葉の反論を許さない。
「紅葉ちゃんは誰よりも優しいって、知ってる。紅葉ちゃんは、わたしを守ってくれた、わたしのあこがれの人なの」
 一拍置いて、「だから」と奈津里は続ける。
「今度はわたしが紅葉ちゃんを助けたい。紅葉ちゃんのそばにいて、一緒に戦って、背中をあずけられる相手だって頼りにされたいの」
 紅葉の胸に、ひとしずくのきれいな水が落ちたようだった。それはじんわりと広がって、心のよどみを退けていってくれる。
 ずっと一人だと思っていた。『機関』から、フリーマンと人間のあいだに生まれた少年の援護をしろ、と佐名和町に送り込まれた時、彼とならわかりあえるかもしれないと思っていた。
 だが、少年――千春は、ずっと幼なじみのほうを向いていて、紅葉を友人、あるいは仲間以上の存在とは思ってくれていないのが、ありありとわかる。自分はやっぱりひとりだと思っていた。
 だのに、ただ一回、気にかけただけの少女が、こんなにも自分を想ってくれている。
 突き放したのに、必死にこちらに向けて手をのばしてくれる。
 ずっと暗がりにいた紅葉の心に、太陽の光が差しこむ。それはまるで、真夏の青空のように明るい。
「あたしのこと、買いかぶりすぎよ、ばか」
 口をついて出た悪態は、しかし、ふるえていた。右腕で顔を覆うけれど、目の奥が熱いのはごまかしようがない。
 いつの間にか、雨はやんでいた。
「がんばろうよ、紅葉」
 千春が二人の横にひざをついて、ほほえみかける。
「これからは、三人で」
 ほかの男しか見ていないくせに、この少年もたいがい人たらしだ。『ソル・スプリング』の名の通り、やわらかい春の日差しのような笑顔で、誰もかれもをとりこにする。
 きっと今日のこの二人の言葉も、表情も、決して忘れられない。
(信じてみて、いいのかな)
 二人に礼を言おうと、身を起こそうとした時。
「へえー、魔法少女たちの美しき友情、ってとこかね」
 聞き覚えのない、軽薄な声が、その場に飛び込んできた。