そこに立っていたのは、いつものむっつり顔。いつものフェルナンドだ。
だが、そこにぴったり寄り添っている、
アタシ。
少し色を抜いてウェーブのかかった髪も、純日本人な黒い目も、その顔立ちも、着ている服も、今ここにいるアタシと、一ミリたりとも変わらない。
ただひとつ違うのは、そいつがフェルナンドの腕に自分の腕を絡ませて嬉しそうにしているという、アタシなら絶対にやらない行動をかましているという事だろうか。
そして、もしかして、という結論に至る。
城中の人を誘惑して歩いてたの、こいつか!
「ちょっ……、ちょっとちょっとちょっと!」
アタシは慌てて席を立ち、フェルナンドに張り付いているアタシそっくりの女にずんずんと近づいて行った。
「何なのよあんた。人の顔してやりたい放題!」
すると、もう一人のアタシは、アタシが絶対にしないような妖艶極まりない笑みを顔に浮かべてみせるのだ。
「あらやだ」
こ、こいつ。声までアタシと完全一致か。
「偽物が何を言ってるの? 本当の『蓮子』は、アタシ。偽物の戦巫女様なんかいらないんだから」
そうしてアタシじゃないアタシ(ああややこしい!)は、すうっと手を伸ばしてフェルナンドの頬に指を滑らせ、奴にしなだれかかってみせるのだ。
かちん、と。
アタシの中で何か硬い物がぶつかり合う。偽物と言われた事も悔しいけれど、なんでだろう。こいつがフェルナンドになれなれしくひっついている事が、なんか、気に食わない。
でも、今それを口に出す事ははばかられるので、とにかく、この偽物の正体を暴く事に専念する。
「フェルナンド、あんたもあんたでしょ。フォルティアの王子のくせに、戦巫女が偽物か本物かの区別もつかない訳!?」
食ってかかるように胸倉をつかみあげると、フェルナンドは目をつむって呆れたように溜息ついて。
「だからそれを証明する為に、こいつを連れて来たんだろうが」
「は?」
思わず目をぱちくりさせると、
「わかれレンコン女」
フェルナンドはもう一度重たい息を吐いた。
「俺の知っている本物のレンコン女は、こうじゃない」
もう一人のアタシの顔が、目に見えてひきつるのがわかった。それにうけあわず、フェルナンドは続ける。
「俺の知っている戦巫女は、もっとガサツでいい加減で、愛想を振り撒く事より魔物を倒す数を気にするようなお転婆で」
おい。なんか酷い事言ってないか。ぴきりとこめかみがひきつる。
「いくら腹が減っているからとはいえ、チョコバナナを立て続けに二本どころか五本食べるような底無し胃袋で」
あ、こないだの火事の時の事、根に持ってるワケ? 更に血管が浮き上がる感じがする。
「口は悪いし、色気は無いし、女だという事を忘れているようなかけ声を出すし」
ぴきぴきぴきぴきぴきっ。
「後先考えずに行動する、まさに頭レンコン女だ」
ぷっちーん。
「言わせておけば言いたい放題言いやがって、こンの陰険王子ーっ!!」
ぼかあああん! と。
戦巫女の馬鹿力を遺憾なく込めた、アタシの綺麗な右ストレートが、奴の左頬に炸裂する。
「ほらな」
のけぞりながら、それでもフェルナンドは満足げに笑っていた。
「お前が本物の『蓮子』だ」