デア・セドルが一瞬ぽかんとした後、盛大に笑った。
「吹っ飛ばす? 余をか? 余の前に手も足も出なかった事を、もう忘れたのか?」
そして奴は、玉座から立ち上がりもしないまま手をかざした。魔法の光弾が襲ってくる。
確かに前回は、ボロクソに負けたよ。
でも今のアタシは、あの時のアタシじゃない。
腹の底から、怒ってるんだ!
アタシは、左手を突き出した。
途端、銀色の盾が現れ、光弾を次々はじく。
そうだよ。
今までやってこなかったけど、右手と左手で、それぞれ別のモノを呼び出せるんじゃないか?
アタシの読みは当たった。
左手に盾を構えながら右手に意識をやると、銀色の光が集まる。
そしてそれは、今のアタシの気分にピッタリフィットする形を取った。
銀色の、
ハリセン。
放った光弾を全弾防がれて、デア・セドルが驚きの表情を浮かべる。
その隙を逃さず、アタシは、だん、と床を蹴って、一気に敵との距離を詰めた。
そして、目を見開く奴が玉座から動く暇も与えずに、
すぱあぁん!
フォレストの顔だけど変形して構わないやぐらいの勢いで、景気よくはたいた!
予告通りブッ飛ぶデア・セドル。
すると、その身体からもう一人誰かが飛び出し、ゴロゴロゴロ~っと床を転がった。
フォレストよりはるかに小柄な男。
直感的にわかった。
これが、デア・セドルの正体!
アタシの攻撃で、フォレストから分離したのだ。
「うぐぐぐぐ……」
デア・セドルが、情けないうめき声をあげながら身を起こす。
その顔が見えた時、アタシの中で、何かがプチーンと切れた。
こいつの顔。
アタシをフッた、アイツにそっくりだ!
それに気づいた瞬間、手加減無用、という単語がアタシの頭をよぎった。
もう防御はいらない。
盾を光に還し、ハリセンを両手で握り締め。
これはフェルナンドの分!
すぱあぁん!
「ギャッ」
フォレストの分!
ぱーん!
「ヒィッ!」
苦しめられた、殺された人たちの分!
しぱーん! ぱーん!
「やや、やめ……っ」
そして、アタシ自身の怒り。
「くらええ!」
ずぱーん!!
デア・セドルは部屋の端までブッ飛び、ピクピクと痙攣した。
「蓮子様、デア・セドルの封印を! 今なら可能なはずです」
リーティアの声が背後から届いた。
アタシはハリセンを手放して光に戻すと、ツカツカとデア・セドルのもとへ歩み寄り、仁王立ちになる。
「わ、悪かった。余が悪かった……許してくれ」
デア・セドルは、ボコボコになった顔で、情けない声出して懇願する。
「どうか封印だけは勘弁してくれ……この通りだ!」
魔王の威厳どこへやら、土下座までしてきたよ。
やめてよね。
アイツに謝られてるみたいで、気持ち悪いじゃない。
ふと、目をそらした時。
「……なんてな」
視界の端で、デア・セドルがにたりと笑うのが見えた。
奴が手を突き出す。魔法が放たれようとしてるのがわかる。
こんな至近距離、盾を出す猶予もない!
だけど。
「ぐっ……」
うめき声をもらしたのは、アタシじゃなかった。
デア・セドルが口から血を吐いていた。
その胸に、深々と刺さる剣。
それを握っているのは……。
「ボーッと突っ立っているな、レンコン女!」
フェルナンド!?
動いてる。喋ってる。
生きてるよ……!?
何で!?と聞きたかったが。
「話は後だ、奴にとどめを刺せ!」
フェルナンドに促されて、アタシは馴染んだ銀の斧をその手に呼び出した。
「クッ……余を倒しても」
デア・セドルは、心臓を貫かれてなお不敵に笑う。
「魔は滅びはしない……。いずれ、第二、第三の魔王が、この世界を脅かす……。いや、人間自身から悪が現れ、自ら滅びゆくやもしれんぞ」
「お約束のセリフね」
なら、お約束を返すよ。
アタシは斧を振り上げる。
「その時にはまた、その時代の戦巫女がソイツを倒す。負けないよ」
銀色の刃を振り下ろす。
デア・セドルは黒い粒子になって、完全に、消滅した。