今日は少し真面目な話をしようか。
魔物を倒す――殺すって事はさ、当然こっちも殺される可能性があるって事だった。その事を、戦巫女の能力に驕って調子づいてたアタシは気づかずにいた。
けれど、ある日突然思い知らされたのよ。目の前で、魔物に兵隊さんが殺された事で。手や服についてべっとりとした血のぬるさ、命を失って脱力した死体が腕にのしかかってくる重さ。今もたまに夢に見るくらい生々しくて、忘れられない。
恐かったよ。戦えなくなった。油断してればアタシもいつかこうやって魔物に引き裂かれて、痛くて苦しい思いしながら死んでゆくんだと思ったら、いつもの銀の斧も出せなくなって。城の自分の部屋にこもって、布団を頭からかぶってガタガタ震えてたら、あいつがやって来て、アタシを城下街に連れ出した。
初めて見る城下街は新鮮だった。戦時下なのに皆が笑顔で一生懸命生きている。それがこの国の国民性だって、あいつは言った。
へ? 国民性って何だって? うーんと、その国の人達の基本的な性格。あんたたち、今まで小難しい事言ってもウンウンうなずいてるだけだったのに、食いついてくるようになったわね。
とにかくそんな皆の様子を見せて、あいつは言ったの。
いつもはにこにこしてても、恐い時は恐いってぶるぶる震えるのは、人間として当然の反応だって。お前は弱虫なんかじゃない、れっきとした普通の人間だ。って。それで、「恐いなら元の世界に帰ってもいい」って、言い出したのよ。
戦巫女は必要とされる内はまた別の人間が召喚される。任務を途中で放棄して元の世界に帰った戦巫女は、過去に一人や二人じゃなくいたから、問題無いって。
それを聞いたアタシは、逆に燃えたね。そう言われて、ハイそうですかって、素直に言う事聞くような女じゃなかったのよ、若い頃の母さんは。……今もそう? あ、そう。
とにかくね、あいつに気を遣われて、やってやろうじゃんって、復活した訳よ。
そんな時に、城下街で魔物の襲撃があった。復活したアタシは銀の斧で敵を倒したけど、そいつらの吐いた炎で火事が起きて、燃え盛る家の中に、取り残されちゃった子供がいたのよ。アタシは後先考えずに飛び込んで、子供を助けたんだけど、燃え落ちる柱に退路を塞がれて、大ピンチに陥った。やってやろうじゃんって再燃したそばから死ぬの? って冷汗かいた時、あいつが助けに来てくれた。
まあそれはもう、王子様に見えたわよ。いや王子様なんだけど。頭から水をかぶって、それでもあちこちが炎で焦げて、ひどい状態だったけど、あの時のあいつは、すっごいキラキラ輝いて見えた。
無事に脱出して、一息つくあたしの向こう見ずを、あいつは頭ごなしに叱りつけはしなかった。ただ静かに諭した。
「命は二度授かるものではない。もっと自分を大事にしろ。戦巫女に代わりはいるが、お前という人間に代わりはいないのだぞ」
って。
さすがに胸を打たれたね。
あいつの髪が火で焦げてチリチリ頭じゃなければ、もっと格好ついてたんだけど。