「あーあ、もう泣くなよ」
ぐしゃぐしゃに泣きじゃくって涙と鼻水まみれの少女の顔を、少年は青い瞳を細め、呆れ半分の苦笑で見つめていた。が、やがて、懐を探って手布を取り出し、ごしごしと少女の顔を拭いてやる。
「これきりでお別れじゃあないから」
「ほんと?」
まだ鼻声のままで少女が問いかけると、少年は黄金色の髪を揺らして、大きく首肯する。
「本当だよ。また会えたら、おれはお前を素敵なお后様にしてやるさ」
「……うん!」
その言葉に、少女はそれまで泣いていたのが嘘のように、笑顔の花を咲かせる。
「坊ちゃま、そろそろお時間です」
少年の傍に影のごとく寄り添っていた付き人が、早くしろ、という色を声と表情に混ぜて、少年に耳打ちする。少年は「ああ」とうなずき、
「じゃあ、な」
と少女の林檎のような頬に軽く口づけて、身を離す。
少年と付き人が乗り込んだ二頭立ての馬車は、がらがらと車輪の音を立てながら、街道を遠ざかってゆく。少女は馬車が見えなくなるまで、赤い瞳で、ずうっとそれを見送っていた。