『負け犬はワルツを上手く踊れない』
4―3 「いやあ、そうなのか! 我々の代の戦巫女が、こんなに麗しいお嬢さんだとは! あまりの可愛らしさに、僕の目は、くらんでしまったよ」 ……えーと? 今、この人何語喋った? いや、翻訳機能で日本語に変換されてるんだけどね? アタシがあっけにとられて立ち尽くしている間に、フォレスト王子は、アタシの手の中にあった皿から、肉ジャガをひょいと素手でつまんで、口に運ぶ。 そして誰かが、お行儀悪い!とたしなめる間も無く、パアアッと笑顔になって、アタシの手を握りしめた。 「いやあ、うまい! 本当にうまい! 君なら、本当に素敵な、いい奥さんになれるよ! 何なら、僕のお嫁さんになってくれないかな!?」 その瞬間。 アタシの全身が、ぞわっと総毛立つような感覚に襲われた。 フォレスト王子のいきなりの告白にトリハダ立ったんじゃなくて。 洗ってない手が気持ち悪かったんじゃなくて。 それは、恐怖にも近い感覚だった。 「もう、お兄様。誰彼かまわず口説かれるのは、おやめください。しかも蓮子様は、尊い戦巫女様なのですよ」 「ええ〜?」 リーティアの言葉に、フォレスト王子が手を離して、子供のように口をとがらせる。 途端、妙な気配は、あっという間に霧散した。 「なんだい、リーティアは、昔は、『お兄様にも早くいい人が見つかると良いですね』って、応援してくれたのに…もうお兄ちゃんの味方はしてくれないのかい?」 「わたくしは、蓮子様の味方です」 リーティアがバッサリと斬り捨てる。 フォレスト王子はしばらくいじけて、テーブルにのの字を書いていたけれど。 「あれっ、じゃあもしかして…」 アタシとフェルナンドを交互に見て、思い至った、とばかりに手を打つ。 「蓮子ちゃんは、フェルと良い仲なのかな? それじゃあ僕は、お邪魔虫だよね〜」 「ありえない!!」 ほとんど脊髄反射で、アタシとフェルナンドはお互いを指差して、同時に叫んでいた。 そう、ありえないよ。 こんな性悪男を好きになるなんて。 そんなこと。 |