『負け犬はワルツを上手く踊れない』
4―2 「やっほう! たっだいま〜、マイスゥイートファミリー!」 ……あ、なんかデジャ・ヴ。 ていうか、スゥイートファミリーなんて、アタシの戦巫女の翻訳機能がついに壊れたかと思ったよ。 扉を盛大に開けて、ズカズカ入って来たのは、ぼっさぼさの髪に無精ヒゲ生やして、ズタ袋みたいな外套羽織った、オッサン。 アタシや翔平君は、誰じゃ!?と固まったが、 「……兄上……」 フェルナンドがおもっきし眉間にシワ寄せてうなったのと、 「おう、フォレストお帰り〜。今回は早かったなあ」 フォル王様がノンキに手を挙げたので、わかった。 放蕩息子な第1王子って、コイツか! そういや青い髪に、目は金色。 フォルティア王家、キョーレツ遺伝だ。 フォレスト王子は、食卓に揃ったメンツを見渡すと、うきうきとセルマ王女のもとへ近付いて、手を取った。 「おやおや、セルマ王女までおいでとは。相変わらず、花のようにお美しい」 「ありがとうございます、フォレスト王子。貴方も相変わらずで」 王女様は、さらりとかわした。 すごい。慣れてる。 かわされる方も慣れっこなんだろう、フォレスト王子は笑顔のまま、家族におみやげを配り始めた。 「はい父上、ステア国産の地酒。母上とリーティアには、ネーデブルグの遺跡で発掘した装飾品〜」 「それは発掘ではなく盗掘と言うのではないですか」 リーティアのツッコミ効かず。 「フェルナンドには、いかにもいわくありそうな、古代の金貨〜」 「要りません……」 フェルナンドの眉間のシワが、いっそう深くなるのを見た。 アタシはリーティアにそっと耳打ちする。 「あのさ、フォレスト王子とフェルナンドって、仲悪いの?」 「いいえ、決してそういう訳では無いのです。 ただ、フォーレ兄様はあのように奔放な方ですし、フェル兄様は兄様で、真面目な方ですから、フォーレ兄様のノリに、ついていけない時が、あるみたいですね」 ……なるほど納得。 「フォレスト殿、今回は、どこまで行っていたのですか」 「ん〜? ちょっと三国を周って、北の地の遺跡までね」 「北の地とは、魔族の領域でしょう。危険にも程が過ぎます、兄上!」 「まあまあ、こうして無事に帰って来たんだから、気にしない気にしな〜い」 フォレスト王子は、のらりくらりと弟のお説教をかわすと、珍しそうに、食卓に並んだ料理を眺める。 「しかしいやあ、僕がいない間に、おいしそうな物を食べてるなあ。誰が作ったの?」 「聞いて驚いてくださいフォーレ兄様。戦巫女様の、蓮子様ですよ」 リーティアの言葉に、フォレスト王子が、ぐりん、と凄い勢いで首をこちらに向けた。 しばし、何か言いたげに口をパクパクさせてたので、この人もまた、レンコンだとか、年増な戦巫女だとか、言い放つんじゃないかと思ったが。 フォレスト王子の台詞は、アタシの予想の、右後方斜め上を行った。 |