『負け犬はワルツを上手く踊れない』
3―5 魔物が出た現場にアタシたちが駆けつけた時、あたりは騒然としていた。 敵は赤ん坊くらいの大きさしか無い、赤いドラゴン。 しかしそれが5、6匹の団体さんでブンブン飛び回り、しかも見た目にたがわず炎なんか吹くもんだから、近くの家に火がついて、街の人たちは、火を消すべきか、逃げ出して身を守るべきか、混乱していたのだ。 「子供や老人、怪我人を先に避難させろ! 余力の有る者は、火を消せ!」 フェルナンドが怒鳴りながら剣を抜き、近くにいた1匹を一撃で斬り捨てる。 突然の王子様の登場に、周りの人は、なんで!?という顔をしてたけど(そりゃそうだ)、すぐにフェルナンドの指示に従って動き出す。 王子様のご威光、大したもんだわ。 感心しながら、アタシは、右手に意識を集中させる。 光が集って、使い慣れた、銀色の斧になる。 それを握りしめる両手は、正直、まだ少し震えてるんだ。 でも。 大丈夫。 自分に言い聞かせて、すうっと一回、深呼吸して。 飛んだ。 眼下で、観衆がどよっとざわめくのを聞きながら、 1匹、2匹、3匹と。 赤い粒子に還してゆく。 フェルナンドがまた1匹倒して、あと1匹。 最後の抵抗とばかりに、赤ドラゴンが、火を吹いてくる。 アタシはそれを、空中でくるりと回転してかわし、その勢いで、斧を打ち下ろした。 よっし、全滅! しかし、魔物が消えても、奴らが放った火は消えなかった。 「子供が! 子供がまだ中にいるんです!」 地上に戻ったアタシの耳に届いたのは、母親の金切り声。 二人がかりでおさえられた彼女が必死に手を伸ばす先には、炎に包まれた家。 「もう無理だ、この火の勢いじゃ…!」 誰かが言い聞かせるけど、母親は、子供の名前だろう名を、叫び続ける。 アタシは、手の中の斧に目をやった。 変幻自在のアタシの武器。 それなら。 守るものにも、変えられるんじゃない? 「おい?」 感づいたらしい、フェルナンドが怪訝そうに声をかける。 「……ッ、待て!」 奴が叫んだ時には、アタシは燃え盛る家の中へと走り出していた。 銀色に光る、炎をはじく盾を掲げて。 |