『負け犬はワルツを上手く踊れない』
2―8 「大丈夫ですか、蓮子様!?」 リーティアの慌てふためいた声に、平気、と返そうとしたが、 「あー…痛たたたぁ…」 腰を打って、それしか出てこなかった。 昔一回ギックリ腰やらかしたから、腰は弱いのよ……。 よつんばいになってさすっていると、ふと、腰のあたりがポワポワ温かくなった。痛みが、ひいていく。 見ると、リーティアが隣に膝をついて、アタシの腰に手をかざしていた。その手から、温かい光がもれている。 これはもしや。 「回復魔法?」 「はい。 あまり熟練したものではありませんが、私が蓮子様のお役に立てるのは、これくらいしかありませんので」 いや、十分だよ……。 気持ち良さに、他の事を忘れそうになったところで、はたと思い出す。 「そうだ! アタシはいいから、フェルナンドと長谷川さんを!」 「もう終わった」 当のフェルナンドの声がした。見れば、随分とケロリとしている。傷はふさがったのだろう。流れて服にべっとりついた血は生々しいが。 「美里様の事も、ご心配なさらないでください」 リーティアの視線を追えば、長谷川さんは、マルチナに支えられて立ち上がるとこだった。 「自国の戦巫女様を癒すのは、その国の王女の役目です」 ふぅん。 ただのイヤミな女かと思ったけど、ちゃんと他人を思いやる気持ちも持ち合わせてたのね、マルチナも。 「そういえば、助けてもらっちゃったね」 アタシはフェルナンドに頭を下げた。 「ごめんね」 途端に、フェルナンドが眉間にシワを寄せる。 「……何よ」 「いや、お前から、そんなしおらしい言葉を聞けるとは、思っていなかったからな」 こ、こいつ。たまに人が下手に出てやれば、言いたい放題。 ブン殴ってやろうかと思って、拳を握りしめたところで。 「矢田さん」 背後から、長谷川さんに声をかけられた。 「見事でした。わたしはあなたを少し、見くびっていたようです」 「は、はあ」 握手を求められる。おっかなびっくり差し出した手は、今度は、ぎゅむっと握りしめられることはなかった。 「でも、来年のペナントレースは、タイガースが優勝をいただきます」 長谷川さんは、笑顔で付け足した。 「……はあ」 それにしても。 「デア・セドル……か」 アタシは、空を睨んで、ハピ夫が遺したその名をつぶやく。 恐らく、アタシ達の、最大の敵になるだろう相手は。 「……ヘンな名前ぇ……」 |