『負け犬はワルツを上手く踊れない』
2―7 「痛……ッ」 ハピ夫の鋭い爪が、アタシをかばったフェルナンドの肩を切り裂いたのだ。 「何をボーッとしている、この、レンコン女……ッ!」 フェルナンドはうずくまりながら、それでも叩く、憎まれ口。 傷をおさえた指の間から、血がダラダラ流れまくって、あんたそれどころじゃないでしょう!と気が動転しかける。 だけど。 「ケケッ、運のいい奴め。 しかし、次で終わりだ、ケケーッ!」 そううそぶいたハピ夫が再び降下してきたのを見て、アタシは右手に意識を集中させる。 ―出て来い! 光が集い、今度は、きちんと形になった。 前回と同じ、銀色の斧。 両手で握って、ブゥン、と振り回す。 しかしハピ夫はやはり、紙一重で避ける。 「あ、危ない奴め! しかし、我ら魔族の主、デア・セドル様の障害になる者には、全て消えてもらうぞ、ケーッ!」 デア・セドル? そいつが、北の地で復活したっていう、魔族の名前? いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない! 目の前のハピ夫を倒す事を考えなくちゃ! 斧じゃ効率が悪すぎる……もっと、こう……そう、 鳥を正確に撃ち落とせるモノ! そう願った途端、銀色の斧は光になり、再構築される。 アタシの手の中に現れたのは、全長の長い筒状の武器。 銃だ。 それを敵に向けて構える。途端に、ハピ夫の顔が、さーっと青くなった。 「え、ちょっとちょっと、それは卑怯なんじゃナイデスカーッ!?」 「フラフラ飛び回る、どっちが卑怯だ!」 怒鳴りながら、銃口をハピ夫に向ける。 銃を持つなんて初めてだったけど、どう使えばいいか、どう照準を合わせればいいかは、戦巫女の能力だろう、感覚的にわかった。 キイキイ悲鳴をあげながら、飛び去ろうとするハピ夫めがけて、引き金を引く。 ズゴォォン!! 銃というより、バズーカじゃこりゃ!という轟音と、ものすごい反動で、アタシは庭の端までゴロゴロ転がる。 そんな中でも視界の端に、ハピ夫が無数の黒い羽根になって消滅してゆくのを、しかと見届けていた。 |