『負け犬はワルツを上手く踊れない』
2―4 アタシ達は3人揃って、声の方を向く。 そこには、シュミを疑うようなビラッビラの赤いドレスを着た、金髪縦ロールに灰色の目の、いかにも高慢ちきなお嬢様!って感じの女が立っていた。 「まあ、マルチナ様ではありませんか。お久しゅうございます」 ……リ、リーティアが、あのリーティアが、すんごいウワベだけの笑顔を浮かべてる。 ハッキリ言って……、 コワっ! うちの義姉さんが、兄貴の携帯に他の女からのラブメールが入ってるのを見つけて、極上の笑みでギリギリ関節技キメてた時くらい、怖いよ! 「こちらは、隣国ネーデブルグの王女、マルチナ姫だ」 女同士がバチバチ火花を飛ばし合っているのに、気づいているのかいないのか、フェルナンドが、その女をアタシに紹介する。 「フォルティアにも、戦巫女様が降臨されたと聞きましたので、ご挨拶に伺いましたのですが……」 マルチナ姫は、アタシをチラリと見ると、これまたビラビラした扇子を広げ、口元にあてて、 「まあ、まあまああ! 歴代の戦巫女様に比べて、なんて……」 ホホホ、と笑う。 こンのやろう。 こいつも、「なんて」の後に、年増だとか言いたいんだな。 しかし、アタシの怒りは、マルチナの次の言葉で、驚きに取って代わられた。 「我がネーデブルグの戦巫女様の方が、より、らしい、というものですわね」 は? 戦巫女様はここにいるだろ?と首を傾げながら、マルチナの視線を追い、アタシは自分の目を疑った。 マルチナの後ろに、影のように付き従っていた人物が、ついと進み出る。 背中に、黒い槍―つうか薙刀?―を背負った、15、6歳くらいのその子は、黒髪に黒い目。そして、まごうかたなきモンゴル系の顔立ち。 日本人じゃん! そういや今、「フォルティアに『も』」ってマルチナは言った。 アタシは唖然として、リーティアを振り返る。 「ど…どういうこと? アタシの他に、戦巫女がいるって?」 リーティアは、可愛らしい顔を困ったように伏せた後、 「まだ、蓮子様にはお話ししておりませんでした」 と説明し始めた。 「女神アリスタリアは、この世界に危機が訪れた時、戦巫女を選定されます。 しかし決して唯一人ではなく、このフォルティアと、ネーデブルグ、そしてステアという、この世界の主要三国にお一人ずつ、三人が、召喚されるのです」 「それって、今までずうっと、そうだったの?」 「これまでの歴史で、例外が起こった事は、ありません。まだわたくし達もお会いしておりませんが、ステアにも、戦巫女様が降臨されたという話は、聞き及んでおります」 ……戦巫女は、アタシ一人じゃ、ない。 その事実に、想像以上にショックを受けてるアタシがいることが、自分でも意外だった。 マルチナが扇子で口を隠し、またホホホ、と笑う。 「まああ、そんな事もご存じでないの? 戦巫女様には、より純粋な方が選ばれると言われますけれど、純粋、と言うよりは……」 チロリ、と侮るような視線。 「子供、から成長されてない、ということではなくて?」 ぐ、とアタシは返す言葉を失った。 反論できないんだよ。 見かけだけじゃなくて、精神的にもおっついてないって、周りに言われたのは、一回や二回じゃないから。 何も言い返さないでうつむくアタシを見て、マルチナは勝ち誇ったように、目を細める。 すると。 「そのくらいにしていただけないか、マルチナ姫」 そんな言葉と共に、アタシはぐい、と肩を引っ張られた。 |