『負け犬はワルツを上手く踊れない』
1―1 「お前、つまんないんだよ」 29歳の誕生日直前。 その一言で、アタシの恋は終わった。 クリスマスを前に、街は、色とりどりのイルミネーションがきらめき、店先には、クリスマス用品が賑やかに並ぶ。 そんな情景とは裏腹に、アタシの心は、ドン底まで暗かった。 5つ年上の彼は、バイト先の店長。 一緒に仕事をするうちに、何度か呑みに行くようになって、ふと気がついたら、恋人同士のようなカンケイになっていた。 ところが、それから半年も経たないうち。 新しく入ってきた、大学1年の女の子に、彼のハートは、あっと言う間に傾いた。 キャピキャピの若い子の方がカワイク見えるのは、わかるわよ。 だからって、 「つまんない」 は無いじゃない! 年末の誕生日を盛大に祝ってもらいたくて、超大手テーマパークの2デーチケット、二人分、用意したのに。 年齢に焦りを感じていたなんて、認めたくないけど、少し、少しだけよ、結婚まで意識していたのに! 手にした携帯を見る。失恋報告をした友人からのメールは一言、そっけなく、 「ちゃんとつかまえておかなかったアンタが悪い」。 ……友情に疑問を覚えた。 もうバイトにも行けないな。新しい仕事を探さなきゃ。 とぼとぼ歩きながら、乙女に似合わぬデカい溜息ひとつ、ついた時だった。 『……こ……巫女よ……』 どこからともなく聞こえてきた声。 空耳かと思い、うつむいていた顔を上げる。 商店街を過ぎて住宅街に入ったところ。 夜9時を回った道には、人通りは無い。 もしかして……ストーカー? 一人青ざめたとき、さっきよりも明瞭に、声は聞こえた。 『どうか、この呼び声にお応えください、戦巫女よ…!』 何事!?と一歩後ずさった瞬間、足元に、地面は無かった。 何故か蓋が開いていたマンホールに、アタシは飲み込まれた。 「負け犬寸前、失恋して下水に投身自殺?」 かっこ悪い新聞3面記事のタイトルが、脳裏を駆け巡る。 暗闇の中を、落ちて、落ちて……。 だけど、いつまで経っても、頭を強く打ちつけるだろうコンクリートの床は、やって来なかった。 |