番外編7:2010年6月18日


 今日、子供が生まれた。
 アタシと、フェルナンドの、娘だ。
 ハンパ無い陣痛に見舞われて、そばに立っておろおろするばかりのフェルナンドの腕に思い切り爪食い込ませて、
「こっちは死ぬほど痛いんだ! ボーっとしてないでお前も一緒に痛い思いしろおおおおお!!」
 とか、それ以上はもう自分でも何言ったか覚えてないくらいトンデモナイ罵声をまき散らしたのだが、まあよく付き合ってくれたもんだ、フェルナンドも。
 でも、喉元過ぎればなんとやら。
 産まれてきた赤ちゃんが隣に寝かされた途端、痛いとか苦しいとか辛いとか死にそうとか、産みの苦労がぜーんぶ吹き飛んで、ただひたすらに嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。
 親って、なろうと思ってなるもんじゃないんだな。自然にそうなるんだな。
 すやすや寝息をたてる娘の顔を見ていると、そんな思いが脳裏に浮かんだ。
「よく頑張ったな」
 フェルナンドがベッドの脇に腰かけて、いつに無く優しい手つきでアタシの頬を撫でてくれる。
 あー。こいつがこんな殊勝な言葉をかけて優しくしてくれるなんて、多分空前絶後だろうから、今は素直に受け取っておこう。
「ありがと」
 にっこり笑って手に頬をすり寄せた。
「名前は」
 撫でるのから軽くぺちぺち叩くのに変わって、フェルナンドが口元をゆるめる。
「前に言った通りでいいな?」
 男の子なら『利久(りく)』、女の子なら『未来(みく)』。
 フェルナンドが命名の本を真剣に読んで考えた名前。
 どっちをつける事になるかは生まれた時の楽しみに取っておこう、って二人で取り決めて、先生に絶対に性別を聞かずに通して、
「今時珍しいですね」
 とやたらしみじみ言われた。
 で、結果、娘だから。
「これからよろしく、未来」
 傍らの赤ちゃんに手を伸ばす。ふにゃん、とした柔らかい感覚が指先に触れる。
 と、未来がもぞもぞ動いて、目を開いた。
 その瞳を見た瞬間。
「「……あ?」」
 アタシとフェルナンドの口から、同時に抜けた声が洩れる。
 ぱっちり開かれた娘の瞳は、忘れかけてたまさかのキョーレツ遺伝。
 金色だった。

 将来、フォルティアの色を持ったこの娘と、後から生まれてきた息子が、あの世界に深く関わる事になるんだけど、それはまた別の話で、アタシ達もこの時はまだ、そんな事になるなんて夢にも思ってなかったのである。