第1章:マンホールに落ちたら異世界でした(4)


 優雅な音楽が流れる中、着飾った紳士淑女が手を取り合い、踊る、踊る。
 リーティアは「ささやかですが」とか言ったけど、そんなもんじゃなかった。「戦巫女様のご降臨を祝した」ダンスパーティは、そりゃもう盛大に開かれた。
 フォルティアの首都、フェーブル城の大広間には、これでもかってくらいの人が集まっている。
 アタシはパーティなんて出たことないから、基準がわからないけれど、出席者の人数もダンスを演出する楽団の規模も、相当なもんじゃないだろうか?
 アタシはそんな大広間の隅っこで、ちょこんと突っ立って、ブッフェスタイルの食事をつまみつまみしていた。
 とは言っても、生まれて初めてのドレスを着るために締められたコルセットが苦しいわ、少しだけ結婚式を意識して伸ばしていた髪を結い上げられて顔が突っ張ってるわ、周りの好奇の視線が痛いわで、味も量も、ほとんどわからないんだけど。
 海鮮のパスタを喉につまらせて、ゴホゴホ咳き込む。すると。
「何をしているんだ、レンコン女」
 意地の悪い声と共に、ジュースの入ったグラスが目の前に突き出された。
 正装したフェルナンドから、無言でグラスを奪う。ごきゅごきゅ飲みながら横目で彼を見た。
 悔しいが、カッコイイ。
 昼間の軍服姿も似合っていたが、王子様らしい格好をして、マントを羽織った姿もイイ。
「……ありがと」
 そんな事思っているなんて、死んでも悟られたくないから、そっぽを向いたままグラスを返す。と、その手をぱしりと掴まれた。
「何よ」
「何じゃないだろう」
 フェルナンドはむっつりとした顔のまま言った。
「主賓がこんな隅で何をしている、一曲も踊りもせずに。お前の為の宴だぞ」
「そんな事言ったってねえ、アタシはついさっきまで一介の市民だったのよ。ダンスなんてした事もないわよ」
「いいから来い」
 そばを通った人にグラスを預け、フェルナンドはアタシの手をぐいと引っ張り、大広間の中心へ進んで行った。たちまち周りの人が場所を開ける。
 エエエエエ!?とひるんでいる間にも、楽団が新しい曲を演奏し始める。
 ダンスに縁のないアタシでもわかる、これは、ワルツだ。
「俺に合わせていればいい」
 そっけなくそれだけ言うと、アタシの手を取り、フェルナンドは踊り出した。
 慌てて足を動かしてついてゆく。
 最初は、コケないように、フェルナンドの足を高いヒールの靴で踏んづけないように、それで精一杯だったけど。
 だんだん、相手がどんな動きを求めているのか、わかってきた。

 多分、ぎこちないけど。

 決して上手くはないだろうけど。

 アタシはフェルナンドに合わせて、踊った。

 さっき男にフラれたばかりなのに、何やってるんだろう、アタシ。そう思って一人くすりと笑ったら、フェルナンドが怪訝そうな表情をしていた。

 そして、曲が終わった。

 盛大な拍手がフェルナンドとアタシを包む。
 今更こっ恥ずかしくなって、顔が熱くなる。フェルナンドは慣れているらしく、平然としていたけれど。
「素敵、素敵でしたわ、蓮子様!」
 リーティアがやってきて、アタシの両手をとる。
「全然! 全然ダメだよ、フェルナンドがいなかったら、アタシ踊れなかった」
 するとリーティアはイタズラっぽく笑って、アタシに耳打ちする。
「フェル兄様は、滅多に女性と踊ったりされないんです。よほど蓮子様を気に入られたのでしょうね」
「はあ!?」
 アイツが!? アタシを!?
「ある訳ない、ある訳ない。人のこと年増とかレンコンとか呼ぶ性悪王子だよ!」
 言いながら振り返ると、フェルナンドはもうアタシたちから離れて、他の招待客と話し込んでいた。
「そうでしょうか? わたくしには……」
 リーティアが何か言いかける。
 そんな時だった。

 ずどおおん!

 ものすごい衝撃が城を襲ったのは。