ついったで、リアクションの数に設定した文字数で文章を書く、というハッシュタグがあったので、便乗しました。昨夜から今朝8時までの集計の結果、2580文字になりました。「まあ数百文字やろ~」と思っていた私は思わず笑いました、ありがとうございます!というわけで書きました。たつみ村名物こじらせ片思い野郎たちの「おまえがいうな」です。ネタバレ満載です。タイトルが思い付かなかったので、「おまえがいうな」をタイトルにしようと思います。ちょっとはみ出て2845文字、推敲しておりません! ご笑覧くださいませ!#アルファズル戦記 #フォルティス・オディウム続きを読む「何を読んでいるんだ」 息子を寝つかせてきたミサクは、ユージンが珍しくロッキングチェアに座り本と向かい合っているのを不思議に思って、声をかけた。普段は仕事に必要な医学書も読まない彼女だ。自分より長く生きており、『師匠から習ったことは全部ここ』と頭を指差して笑う彼女が文字を読むのは、本当に本当に珍しい。「異国の英雄譚だよ」 ユージンが顔を上げ、こちらを向いてチェアを揺らしながら本を掲げてみせる。革張りの表紙が暖炉の炎を受けて、赤茶に照らし出された。「故郷を追われた大国の王女が、出自を知り、帝国支配に立ち向かうところから始まる物語だ」「……ああ」 意を得てミサクは顎に拳をやり頷く。『アルファズル戦記』 架空の大陸シャングリアを舞台にした戦記ものだ。親子二世代の物語は、壮大な戦いを経て完結している。ユージンが読んでいるのは、全五巻のうち第三巻、親世代の第一部が終わるところだ。 ミサクが息子を寝つかせる為のおとぎ話のネタになるかと手をつけたのだが、あまりにも深刻な展開で死者も多く、新聞に載っていたレビューでは、『主人公の災難が可哀想すぎて読む手が止まってしまった。作者は鬼』とまで書かれていた。ただならぬ人生を歩んできたミサクには気にならなかったのだが、平凡な一般人には少々刺激が強いだろう。よって、息子に聞かせるのに脚色することもできなかった。「今はどこまで読んだんだ?」「んー」 ミサクが問いかけると、ユージンはゆらゆらチェアを揺らし続けたまま答える。「主人公が伝説の剣を手にしてドラゴンゾンビを倒すところまでだね」 それで進度がわかる。だいぶ後半だ。主人公は天上に近い場所で顔も覚えていなかった母と対峙し、認められて、透明な刃の剣を手に入れる。そして仲間のもとへ戻るのだ。「なあ」 そこまで読んでいるならば、この話は通じるだろう。ミサクは煙草を一本くわえて火を点けると、ゆっくり吸い込んだ煙を吐き出して、ユージンに問いかけた。「男女の友情は成立すると思うか?」 姪であり主君である主人公を守り、二巻で命を落とした聖剣士と、主人公は再会するのだ。そこで彼は主人公に、旧友の女性への伝言を託す。『見ていて危なっかしい。こちらへはまだ来るな』 友人同士の激励ともとれる。だが、作者は別の意図を聖剣士の台詞に込めただろう。 彼は、主人公の母親である女王に、忠誠心以上の感情を抱いていた。それゆえに、その女性とは、親友以上恋人未満の微妙な関係を保っていたのだ。 流し読みしていたら、二人は友人同士だったとしか思わないだろう。しかしミサクは知っている。終盤で、女性が、心地好い関係に甘んじないで想いを伝えていれば良かったと後悔することを。 三巻の後書きで、作者は、「はじめは親友以上にするつもりは無かった。だが、彼らの間にたしかに友情以上の想いはあるだろうと思い、加筆した」 と述懐している。 男と女が二人いれば、やはり恋愛になってしまうのだろうか。 自分と、目の前の女のように。「さて、ね」 だが、ユージンはころころ笑うと、本を持っていない方の手で指を振る。何を求める符丁かよくわかっているミサクは、煙草をもう一本取り出し、彼女に渡す。煙草をくわえた顔が近づき、ミサクの煙草から火をもらった一本が、ちりりと小さな音を立てながら煙をくゆらせた。「アタシは物語の登場人物じゃないから、この二人の想いが友情か愛情かなんて、わかりゃしない」 膝に置いた『アルファズル戦記』の表紙を指で弾いて、小さく笑う。「でも、想い人がいながら他の女に近づくあたり、この男って、あんたそっくりじゃあないかい?」 放たれた言葉に絶句した。たしかにミサクは、生死の知れない双子の姉を想い続けたまま、目の前のこの女を友情以上の対象として見ている。すがっているのだと、自分も彼女もわかっていながら続けている関係だ。「だけどアタシは、あんたが甘えているだけだとは思わない」 琥珀色の瞳が、真摯にミサクを射抜く。「アタシも、アタシを頼ってくれるあんたに絆されてる。それにあの子もいる。アタシたちは、相方で、家族。それでいいじゃない」 物語の中の人物に引きずられる必要は無いよ。 そう付け加えて、ユージンは煙を深々と吸い込み、長い時間をかけて吐き出した。 そこまで言われてしまっては仕方無い。ミサクは苦笑すると、煙草を灰皿に押し付けて火を消し、女の水色の髪に片方だけの手で触れる。「これからもよろしく頼む、相棒」 琥珀の瞳が丸くなり、それから細められる。「こちらこそ」 ユージンが煙草を口から離して、顔を近づける。 煙の香りが混じり合った。「何を読んでいるんだ?」 行軍の狭間、砦で休息を取っている時、テュアンが珍しく本と向かい合っているのを見て、アルフレッドは声をかけた。暇さえあれば剣を振るう彼女らしくないので、本当に本当に珍しい。「町で見かけてね。新しい趣味でも作ろうかと」 古本市で掘り出したのだろう。古ぼけた表紙から、『フォルティス・オディウム』というタイトルが読み取れる。 概要だけはアルフレッドも知っている。婚姻の日に魔王と勇者に分かたれた恋人たちが、困難に見舞われながらそれでも幸せを掴もうと足掻く、架空世界で繰り広げられる親子二世代の英雄譚だ。 親世代の展開がかなり容赦無いらしく、『クソ行政が腹立つ』『しんどすぎて読むのが途中で止まりました』 そんな感想を新聞で読んだ。『子世代は仲良しで希望に向かうから諦めないで!』 という前向きなのかよくわからない声もあった。 そこに出てくる騎士の評価も真っ二つだ。双子の姉を愛し続けながらも、他の女にすがっている。 同じように愛する人を失ったアルフレッドには、彼を批難する権利は無い。目の前の女性がいなければ、自分は十六年前のあの雪の日に、女王を救いに城へ戻って、犬死にしていただろうから。 彼女が自分を繋ぎ止めてくれたおかげで、自分は今、姪が大陸解放の盟主として立つ姿を見ることができた。感謝してもしきれない。『やっぱり、男女の友情は成り立たないんですね』 そんな辛辣な感想が『フォルティス・オディウム』には寄せられていた。だが、アルフレッドはそれには眉根を寄せるのだ。 目の前の女性には、たしかに友情以上の想いはある。だが、彼女に対する感情は、恋だなんだで片付けられる容易いものではない。 彼女がいなくなったら、自分は、大切な人々を失った無念を晴らす原動力まで失くすだろう。それほどまでに、彼女を大切に想っている。 それを言葉にするならば、『愛』だろうか。「何だよ、じろじろ見て」 テュアンが胡乱げな視線を向けている。「いや」 アルフレッドはひとつ咳払いをし、笑顔を作った。「楽しい趣味になるといいな」「嫌味か?」「本音だよ」 本当か? と呟きながら、彼女は物語の続きを読みにかかる。 友情以上の想いは、全てが終わって、姪が女王の座を取り戻した後で伝えれば良い。今は戦いに全力を傾けよう。 この先のことも露知らぬ彼は、そう自分に言い聞かせるのであった。畳む 2025.1.17(Fri) 21:45:13 創作 edit
昨夜から今朝8時までの集計の結果、2580文字になりました。
「まあ数百文字やろ~」と思っていた私は思わず笑いました、ありがとうございます!
というわけで書きました。たつみ村名物こじらせ片思い野郎たちの「おまえがいうな」です。ネタバレ満載です。
タイトルが思い付かなかったので、「おまえがいうな」をタイトルにしようと思います。
ちょっとはみ出て2845文字、推敲しておりません! ご笑覧くださいませ!
#アルファズル戦記 #フォルティス・オディウム
「何を読んでいるんだ」
息子を寝つかせてきたミサクは、ユージンが珍しくロッキングチェアに座り本と向かい合っているのを不思議に思って、声をかけた。普段は仕事に必要な医学書も読まない彼女だ。自分より長く生きており、『師匠から習ったことは全部ここ』と頭を指差して笑う彼女が文字を読むのは、本当に本当に珍しい。
「異国の英雄譚だよ」
ユージンが顔を上げ、こちらを向いてチェアを揺らしながら本を掲げてみせる。革張りの表紙が暖炉の炎を受けて、赤茶に照らし出された。
「故郷を追われた大国の王女が、出自を知り、帝国支配に立ち向かうところから始まる物語だ」
「……ああ」
意を得てミサクは顎に拳をやり頷く。
『アルファズル戦記』
架空の大陸シャングリアを舞台にした戦記ものだ。親子二世代の物語は、壮大な戦いを経て完結している。ユージンが読んでいるのは、全五巻のうち第三巻、親世代の第一部が終わるところだ。
ミサクが息子を寝つかせる為のおとぎ話のネタになるかと手をつけたのだが、あまりにも深刻な展開で死者も多く、新聞に載っていたレビューでは、『主人公の災難が可哀想すぎて読む手が止まってしまった。作者は鬼』とまで書かれていた。ただならぬ人生を歩んできたミサクには気にならなかったのだが、平凡な一般人には少々刺激が強いだろう。よって、息子に聞かせるのに脚色することもできなかった。
「今はどこまで読んだんだ?」
「んー」
ミサクが問いかけると、ユージンはゆらゆらチェアを揺らし続けたまま答える。
「主人公が伝説の剣を手にしてドラゴンゾンビを倒すところまでだね」
それで進度がわかる。だいぶ後半だ。主人公は天上に近い場所で顔も覚えていなかった母と対峙し、認められて、透明な刃の剣を手に入れる。そして仲間のもとへ戻るのだ。
「なあ」
そこまで読んでいるならば、この話は通じるだろう。ミサクは煙草を一本くわえて火を点けると、ゆっくり吸い込んだ煙を吐き出して、ユージンに問いかけた。
「男女の友情は成立すると思うか?」
姪であり主君である主人公を守り、二巻で命を落とした聖剣士と、主人公は再会するのだ。そこで彼は主人公に、旧友の女性への伝言を託す。
『見ていて危なっかしい。こちらへはまだ来るな』
友人同士の激励ともとれる。だが、作者は別の意図を聖剣士の台詞に込めただろう。
彼は、主人公の母親である女王に、忠誠心以上の感情を抱いていた。それゆえに、その女性とは、親友以上恋人未満の微妙な関係を保っていたのだ。
流し読みしていたら、二人は友人同士だったとしか思わないだろう。しかしミサクは知っている。終盤で、女性が、心地好い関係に甘んじないで想いを伝えていれば良かったと後悔することを。
三巻の後書きで、作者は、
「はじめは親友以上にするつもりは無かった。だが、彼らの間にたしかに友情以上の想いはあるだろうと思い、加筆した」
と述懐している。
男と女が二人いれば、やはり恋愛になってしまうのだろうか。
自分と、目の前の女のように。
「さて、ね」
だが、ユージンはころころ笑うと、本を持っていない方の手で指を振る。何を求める符丁かよくわかっているミサクは、煙草をもう一本取り出し、彼女に渡す。煙草をくわえた顔が近づき、ミサクの煙草から火をもらった一本が、ちりりと小さな音を立てながら煙をくゆらせた。
「アタシは物語の登場人物じゃないから、この二人の想いが友情か愛情かなんて、わかりゃしない」
膝に置いた『アルファズル戦記』の表紙を指で弾いて、小さく笑う。
「でも、想い人がいながら他の女に近づくあたり、この男って、あんたそっくりじゃあないかい?」
放たれた言葉に絶句した。たしかにミサクは、生死の知れない双子の姉を想い続けたまま、目の前のこの女を友情以上の対象として見ている。すがっているのだと、自分も彼女もわかっていながら続けている関係だ。
「だけどアタシは、あんたが甘えているだけだとは思わない」
琥珀色の瞳が、真摯にミサクを射抜く。
「アタシも、アタシを頼ってくれるあんたに絆されてる。それにあの子もいる。アタシたちは、相方で、家族。それでいいじゃない」
物語の中の人物に引きずられる必要は無いよ。
そう付け加えて、ユージンは煙を深々と吸い込み、長い時間をかけて吐き出した。
そこまで言われてしまっては仕方無い。ミサクは苦笑すると、煙草を灰皿に押し付けて火を消し、女の水色の髪に片方だけの手で触れる。
「これからもよろしく頼む、相棒」
琥珀の瞳が丸くなり、それから細められる。
「こちらこそ」
ユージンが煙草を口から離して、顔を近づける。
煙の香りが混じり合った。
「何を読んでいるんだ?」
行軍の狭間、砦で休息を取っている時、テュアンが珍しく本と向かい合っているのを見て、アルフレッドは声をかけた。暇さえあれば剣を振るう彼女らしくないので、本当に本当に珍しい。
「町で見かけてね。新しい趣味でも作ろうかと」
古本市で掘り出したのだろう。古ぼけた表紙から、『フォルティス・オディウム』というタイトルが読み取れる。
概要だけはアルフレッドも知っている。婚姻の日に魔王と勇者に分かたれた恋人たちが、困難に見舞われながらそれでも幸せを掴もうと足掻く、架空世界で繰り広げられる親子二世代の英雄譚だ。
親世代の展開がかなり容赦無いらしく、
『クソ行政が腹立つ』
『しんどすぎて読むのが途中で止まりました』
そんな感想を新聞で読んだ。
『子世代は仲良しで希望に向かうから諦めないで!』
という前向きなのかよくわからない声もあった。
そこに出てくる騎士の評価も真っ二つだ。双子の姉を愛し続けながらも、他の女にすがっている。
同じように愛する人を失ったアルフレッドには、彼を批難する権利は無い。目の前の女性がいなければ、自分は十六年前のあの雪の日に、女王を救いに城へ戻って、犬死にしていただろうから。
彼女が自分を繋ぎ止めてくれたおかげで、自分は今、姪が大陸解放の盟主として立つ姿を見ることができた。感謝してもしきれない。
『やっぱり、男女の友情は成り立たないんですね』
そんな辛辣な感想が『フォルティス・オディウム』には寄せられていた。だが、アルフレッドはそれには眉根を寄せるのだ。
目の前の女性には、たしかに友情以上の想いはある。だが、彼女に対する感情は、恋だなんだで片付けられる容易いものではない。
彼女がいなくなったら、自分は、大切な人々を失った無念を晴らす原動力まで失くすだろう。それほどまでに、彼女を大切に想っている。
それを言葉にするならば、『愛』だろうか。
「何だよ、じろじろ見て」
テュアンが胡乱げな視線を向けている。
「いや」
アルフレッドはひとつ咳払いをし、笑顔を作った。
「楽しい趣味になるといいな」
「嫌味か?」
「本音だよ」
本当か? と呟きながら、彼女は物語の続きを読みにかかる。
友情以上の想いは、全てが終わって、姪が女王の座を取り戻した後で伝えれば良い。今は戦いに全力を傾けよう。
この先のことも露知らぬ彼は、そう自分に言い聞かせるのであった。畳む