home book_2
chat
七月のなまけもの
七月のなまけもの

タグ「アルファズル戦記」を含む投稿22件]

2025年3月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

2025年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

ついったで、リアクションの数に設定した文字数で文章を書く、というハッシュタグがあったので、便乗しました。
昨夜から今朝8時までの集計の結果、2580文字になりました。
「まあ数百文字やろ~」と思っていた私は思わず笑いました、ありがとうございます!

というわけで書きました。たつみ村名物こじらせ片思い野郎たちの「おまえがいうな」です。ネタバレ満載です。
タイトルが思い付かなかったので、「おまえがいうな」をタイトルにしようと思います。
ちょっとはみ出て2845文字、推敲しておりません! ご笑覧くださいませ!

#アルファズル戦記 #フォルティス・オディウム

「何を読んでいるんだ」
 息子を寝つかせてきたミサクは、ユージンが珍しくロッキングチェアに座り本と向かい合っているのを不思議に思って、声をかけた。普段は仕事に必要な医学書も読まない彼女だ。自分より長く生きており、『師匠から習ったことは全部ここ』と頭を指差して笑う彼女が文字を読むのは、本当に本当に珍しい。
「異国の英雄譚だよ」
 ユージンが顔を上げ、こちらを向いてチェアを揺らしながら本を掲げてみせる。革張りの表紙が暖炉の炎を受けて、赤茶に照らし出された。
「故郷を追われた大国の王女が、出自を知り、帝国支配に立ち向かうところから始まる物語だ」
「……ああ」
 意を得てミサクは顎に拳をやり頷く。
『アルファズル戦記』
 架空の大陸シャングリアを舞台にした戦記ものだ。親子二世代の物語は、壮大な戦いを経て完結している。ユージンが読んでいるのは、全五巻のうち第三巻、親世代の第一部が終わるところだ。
 ミサクが息子を寝つかせる為のおとぎ話のネタになるかと手をつけたのだが、あまりにも深刻な展開で死者も多く、新聞に載っていたレビューでは、『主人公の災難が可哀想すぎて読む手が止まってしまった。作者は鬼』とまで書かれていた。ただならぬ人生を歩んできたミサクには気にならなかったのだが、平凡な一般人には少々刺激が強いだろう。よって、息子に聞かせるのに脚色することもできなかった。
「今はどこまで読んだんだ?」
「んー」
 ミサクが問いかけると、ユージンはゆらゆらチェアを揺らし続けたまま答える。
「主人公が伝説の剣を手にしてドラゴンゾンビを倒すところまでだね」
 それで進度がわかる。だいぶ後半だ。主人公は天上に近い場所で顔も覚えていなかった母と対峙し、認められて、透明な刃の剣を手に入れる。そして仲間のもとへ戻るのだ。
「なあ」
 そこまで読んでいるならば、この話は通じるだろう。ミサクは煙草を一本くわえて火を点けると、ゆっくり吸い込んだ煙を吐き出して、ユージンに問いかけた。
「男女の友情は成立すると思うか?」
 姪であり主君である主人公を守り、二巻で命を落とした聖剣士と、主人公は再会するのだ。そこで彼は主人公に、旧友の女性への伝言を託す。
『見ていて危なっかしい。こちらへはまだ来るな』
 友人同士の激励ともとれる。だが、作者は別の意図を聖剣士の台詞に込めただろう。
 彼は、主人公の母親である女王に、忠誠心以上の感情を抱いていた。それゆえに、その女性とは、親友以上恋人未満の微妙な関係を保っていたのだ。
 流し読みしていたら、二人は友人同士だったとしか思わないだろう。しかしミサクは知っている。終盤で、女性が、心地好い関係に甘んじないで想いを伝えていれば良かったと後悔することを。
 三巻の後書きで、作者は、
「はじめは親友以上にするつもりは無かった。だが、彼らの間にたしかに友情以上の想いはあるだろうと思い、加筆した」
 と述懐している。
 男と女が二人いれば、やはり恋愛になってしまうのだろうか。
 自分と、目の前の女のように。
「さて、ね」
 だが、ユージンはころころ笑うと、本を持っていない方の手で指を振る。何を求める符丁かよくわかっているミサクは、煙草をもう一本取り出し、彼女に渡す。煙草をくわえた顔が近づき、ミサクの煙草から火をもらった一本が、ちりりと小さな音を立てながら煙をくゆらせた。
「アタシは物語の登場人物じゃないから、この二人の想いが友情か愛情かなんて、わかりゃしない」
 膝に置いた『アルファズル戦記』の表紙を指で弾いて、小さく笑う。
「でも、想い人がいながら他の女に近づくあたり、この男って、あんたそっくりじゃあないかい?」
 放たれた言葉に絶句した。たしかにミサクは、生死の知れない双子の姉を想い続けたまま、目の前のこの女を友情以上の対象として見ている。すがっているのだと、自分も彼女もわかっていながら続けている関係だ。
「だけどアタシは、あんたが甘えているだけだとは思わない」
 琥珀色の瞳が、真摯にミサクを射抜く。
「アタシも、アタシを頼ってくれるあんたに絆されてる。それにあの子もいる。アタシたちは、相方で、家族。それでいいじゃない」
 物語の中の人物に引きずられる必要は無いよ。
 そう付け加えて、ユージンは煙を深々と吸い込み、長い時間をかけて吐き出した。
 そこまで言われてしまっては仕方無い。ミサクは苦笑すると、煙草を灰皿に押し付けて火を消し、女の水色の髪に片方だけの手で触れる。
「これからもよろしく頼む、相棒」
 琥珀の瞳が丸くなり、それから細められる。
「こちらこそ」
 ユージンが煙草を口から離して、顔を近づける。
 煙の香りが混じり合った。

「何を読んでいるんだ?」
 行軍の狭間、砦で休息を取っている時、テュアンが珍しく本と向かい合っているのを見て、アルフレッドは声をかけた。暇さえあれば剣を振るう彼女らしくないので、本当に本当に珍しい。
「町で見かけてね。新しい趣味でも作ろうかと」
 古本市で掘り出したのだろう。古ぼけた表紙から、『フォルティス・オディウム』というタイトルが読み取れる。
 概要だけはアルフレッドも知っている。婚姻の日に魔王と勇者に分かたれた恋人たちが、困難に見舞われながらそれでも幸せを掴もうと足掻く、架空世界で繰り広げられる親子二世代の英雄譚だ。
 親世代の展開がかなり容赦無いらしく、
『クソ行政が腹立つ』
『しんどすぎて読むのが途中で止まりました』
 そんな感想を新聞で読んだ。
『子世代は仲良しで希望に向かうから諦めないで!』
 という前向きなのかよくわからない声もあった。
 そこに出てくる騎士の評価も真っ二つだ。双子の姉を愛し続けながらも、他の女にすがっている。
 同じように愛する人を失ったアルフレッドには、彼を批難する権利は無い。目の前の女性がいなければ、自分は十六年前のあの雪の日に、女王を救いに城へ戻って、犬死にしていただろうから。
 彼女が自分を繋ぎ止めてくれたおかげで、自分は今、姪が大陸解放の盟主として立つ姿を見ることができた。感謝してもしきれない。
『やっぱり、男女の友情は成り立たないんですね』
 そんな辛辣な感想が『フォルティス・オディウム』には寄せられていた。だが、アルフレッドはそれには眉根を寄せるのだ。
 目の前の女性には、たしかに友情以上の想いはある。だが、彼女に対する感情は、恋だなんだで片付けられる容易いものではない。
 彼女がいなくなったら、自分は、大切な人々を失った無念を晴らす原動力まで失くすだろう。それほどまでに、彼女を大切に想っている。
 それを言葉にするならば、『愛』だろうか。
「何だよ、じろじろ見て」
 テュアンが胡乱げな視線を向けている。
「いや」
 アルフレッドはひとつ咳払いをし、笑顔を作った。
「楽しい趣味になるといいな」
「嫌味か?」
「本音だよ」
 本当か? と呟きながら、彼女は物語の続きを読みにかかる。
 友情以上の想いは、全てが終わって、姪が女王の座を取り戻した後で伝えれば良い。今は戦いに全力を傾けよう。
 この先のことも露知らぬ彼は、そう自分に言い聞かせるのであった。畳む

創作

ついった鍵アカでエゴサをしていたら、9年前にもう、ずっと考えてたことを言っていたんですよね。

「アルファズル戦記リメイクのタイムリミットはサイト24周年だ」
と……。
何故そんな中途半端な年かと言うと、もう隠してないのでぶっちゃけてしまうと、今年がサイト24周年にして、私の人生のちょうど半分、なんとかかんとかサイトを維持してきた、節目の年なのです。

当時の私は、「リメイクを始めるタイムリミットが24周年」だったのでしょうが、このままいくと無事24周年に、リメイク本編最終巻を出せそうなんですよね。
キツキさんにも頼もしいお言葉をいただいたので、今から表紙が楽しみです。ちょっとした、採算度外視の仕込みもお願いしているので。

ここまで来ると、番外編も出したいな~ってなっております。今年は収録できそうな作品を少しずつ書いて、積み上げてゆけたらいいな~と思います。畳む

#アルファズル戦記

日記,ひとりごと2025年,創作

2024年12月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

昨日の #アルファズル戦記 番外編、青波さんに「クリスマスの寓話の感じがあり……」とお褒めの言葉をいただきました、ありがとうございます!

ブルスカあたりに書いたのですが、この物語の主人公ナジャのことを覚えていると、本編終盤にニヤッとする仕様になっております。というか、しました。

たぶん私は、長編の番外編については、本編あるいは設定に関係無いことは書いていない……と思います。
とか言いつつ、番外編や異聞録出身のキャラを本編準レギュラーに昇格させたり、原典で一行で終わらせた出番のキャラに物語を与えたりしています。逆にリメイクにあたって、消えたり死期が変わったキャラもいますが……。

大長編は大変だけどわりと楽しくやっております。
本編が終わった後に、番外編集を出したいと思っているのですが、やるならもう今から書きためておかないと、再来年の11月に間に合わないんですよね! あくまで裏設定を埋めるための追加要素なので、無理せずいきます。

日記,ひとりごと2024年,創作

今日は #アルファズル戦記 第一部主人公エステルの誕生日です。
エステルの誕生日と言うことはアルフォンスの誕生日でもあるのですが、「何か書こう!」って思いついたのが昨日だったので、エステル関係で番外編を書くのが精一杯でした!
というわけで、久々に突貫で書いた番外編です。第一部終了後の時間軸なので、ネタバレにお気をつけください。


『アルファズル戦記』番外編『あなたが生まれた聖なる日に』

 グランディア王国が王都アガートラムの城下街は活気に満ちていた。
 帝国を打ち倒し、魔王教団の野望を打ち破って、正当な王族として華々しく帰還した王女が王位に就いて初の、彼女の誕生日が来たのだ。
『優女王』と呼ばれた母親にあやかり『勇女王』の二つ名を戴いた彼女の施政は、穏やかかつ堅実であり、民が彼女を真なる君主として認めるのにそう時間は要らなかった。
(でも、オレ達には届かない)
 華やぐ表通りの喧騒から裏通りに入った、古い家屋の庇の下で、ナジャは唇を噛み締めて拳を握り込む。その中には、東の大陸ノルンでしか採れないという翡翠を抱いた銀製のペンダントがあった。
 祝祭に浮かれた貴族から金品を頂戴するのは簡単だ。これも先程、金髪の騎士に護衛された、フード付きマントを羽織った貴族の女の首から滑り落ちたのを、二人に気づかれないようにさっと拾い上げたのだ。
 手癖の悪さには自信がある。ナジャはそうして生きてきたのだから。
 ナジャは孤児だ。十五年前の『勇女王』の誕生日と同じ日の夜、雪が降る中、孤児院の前に置き去りにされた篭の中で泣いていた。
 恐怖政治の帝国支配下でも、城下の福祉はかろうじて息をしていた。孤児院のマザーは、篭の中の赤子を暖めてミルクを飲ませ、ナジャと名付けて、聖王神ヨシュアに赤子の健やかなる成長を祈った。
 だが、善意は悪意に簡単に踏みにじられる。
 孤児院のシスターに目を付けた悪徳貴族が、執拗なアプローチの末、シスターが靡かないとわかるや、マザーにあらぬ反逆罪を被せた。
 マザーは帝国兵の剣で血の海に沈み、シスターは絹を裂くような悲鳴をあげながら連れ去られた。孤児院の子供達は散り散りに逃げて、逃げて。気づけばナジャは裏通りの貧民街で一人きりになっていた。
 生きる為に、ごみを漁って残飯を食べた。太陽を仰げないような真似も沢山した。その間、帝国は民を虐げるだけで、弱者は排除されろとばかりに、顧みてくれる事は無かった。
『勇女王』の治世になっても、貧民街は変わらなかった。暗い目をした行き場の無い連中が、日々を過ごす為に後ろ暗い事を何でもした。
(オレは、奇跡なんて信じない)
 このペンダント程度の盗みなど、軽いものだ。表通りの質屋に持ち込めば簡単に足がつく。裏通りの闇鑑定士に鑑てもらえば、年を越せるくらいの金にはなるだろう。顔を上げた時。
「あの、すみません」
 声をかけてくる女性の存在に、ナジャは不覚にもびくうっと身をすくませてしまった。振り向けば、ペンダントの主である女性だろう。フードからこぼれる水色がかった銀髪が、いつかマザーが話してくれた氷の精霊を思い起こさせる。瞳はペンダントが抱くのと同じ翡翠色だ。
「そのペンダントを拾ってくださったのですね、ありがとうございます」
 女性はふんわりと微笑んで歩み寄ってくる。馬鹿だ。ナジャは相手に見えない程度に、嘲りに顔を歪めた。やはり貴族のお姫様は常識知らずだ。上手いこと言いくるめて連れていこう。闇鑑定士は、『物』だけでなく、『人』も買い取ってくれるのだから。この美しさは良い値がつくに違いない。
 ペンダントを返す振りをして、女性に近づこうとしたナジャだったが、不意に首筋に触れた冷たい殺意に、凍ったように足を止めた。
「動くな」
 迂闊だった。この女性はお一人様ではなかったではないか。
 視線だけ向ける。いつの間にナジャの背後を取ったのか、金髪の騎士が、蒼い瞳を冷たく細めて白銀の刃をナジャの首に当てていた。少しでも不審な動きをすれば、ナジャの頭と胴体は永遠に泣き別れるだろう。
「俺はこいつほど呑気でも親切でもない。こいつに楯突く奴を許しはしない」
 ぶわっ、と。背中に冷や汗が吹き出て伝ってゆく。騎士の言葉に込められた怒りに、ナジャはこの男女の関係と、自分が手を出してはいけないものに触れてしまった落ち度を察した。
 しかし。
「待って、クレテス。剣は仕舞ってください」
 女性は先程までのぽやぽやした印象とは打って変わって、凛とした声で騎士に呼び掛けた。
 ナジャは愕然としてしまう。自分でも知っている。王婿の名はクレテス・シュタイナーという事を。その彼が、持ち物に手出しをされて怒りを露にする程の女性についているとしたら。それに、銀髪は竜の血を引く証。
 それらが弾き出す答えは。
「『勇女王』……!?」
 その呟きに、女性は少し困ったように眉を垂れて、人差し指を唇に当てる。それが答えだ。まさか女王が自分の為の祝祭に、お忍びで来ていたとは。
「クレテス」
 女王エステル・レフィア・フォン・グランディアが騎士に再度呼び掛ける。女王騎士はまだ納得がいかない様子ながらも、剣を鞘に戻した。
 それを見届けた女王が、再度ゆっくりとナジャに歩み寄ってきて、手を差し出す。
「申し訳ないのですが、返していただけますか? 貴方にはただの生活の糧でしょうが、私にとっては思い出の品なのです」
 女王ならもっと豪華な首飾りを身に付けられるだろうに、高価な石とはいえ、随分と質素なペンダントを身に付けるものだ。ナジャは不思議に思いながら、女王の手にしゃらりとペンダントを託した。
「ありがとうございます」
 女王は嬉しそうに微笑み、ペンダントをつけ直す。そんなに喜ばしい価値があるものか、と疑問を抱き、ナジャは思い出した。孤児院にいた頃、マザーに折り紙の首飾りを贈ったら、それはそれは嬉しそうに首にかけてくれた事を。
『ナジャの優しさに、聖王神の祝福がありますように』
 祝福など無かった。小さな幸せはより大きな欲望に呑み込まれた。
 だが、今。
 この女王の幸福そうな笑みを見て、苛立ちより羨望がナジャの心の中で先立つ。どうしたら、そんな顔を出来る場所へ行けるだろうか、と。
「私は」
 ナジャを思考の輪から引き出すように、女王が真正面から向き合って口を開いた。
「女王として、まだまだ未熟です。こうして手の届かない、救えていない人々が目の前にいても、全てを掬い上げる事が出来ません」
 だから、と、細い手が差し伸べられる。
「まずはあなたが、手助けしてくれませんか? あなたには、この裏通りの人々と繋がりがあると見ました。そして、私の落とし物に気付く鋭さ、身の隠し方。それらを磨けば、私の大きな支えとなってくれるのではないかと期待します」
 ナジャは最早ぽかんと口を開けて立ち尽くすしか無かった。初対面のこそ泥を、捕まえるでも咎めるでもなく、自分の懐刀として引き込もうというのだ。流石勇気の『勇女王』だ。
「観念したほうが良いぞ」
 背後で騎士が呆れ気味の溜め息をつきながら、がりがりと頭をかく。
「こいつはこうと決めたら絶対に曲げないからな。首輪を着けてでもお前を連れ帰る気が満々だ」
 伴侶がそう言うのだから、最早逃げ場は潰されただろう。ナジャはがっくりと肩を落としたが、逡巡は数秒だった。
「じゃあ、約束してくれ」
 顔を上げて、女王を見つめ返す。
「オレ達みたいな子供をもう生み出さない国にしてくれると。弱者が強者に踏みにじられない国にしてくれると」
「力の限り、善処します」
 必ず、とは女王は言わなかった。だが、安請け合いをされるよりは余程真摯な言葉だ。ナジャは差し出されていた手を、強く握り返した。
「そろそろ城に戻るぞ」騎士が声をかけてくる。「クラリス達が気付かないはずが無い。今頃城は大騒ぎだ」
「そうですね」
 女王がくすりと笑い、身を翻す。騎士が自然にその隣に寄り添い、ナジャは二人の後ろを着いてゆく。
 すると不意に、頬に冷たい感触が当たったので、顔を上げた。宵の口、女王生誕を祝うイルミネーションに、雪が降ってくる。
 雪は嫌いだった。自分が捨てられたという夜の証だから。だが今、これから仕える事になる人物と同じ誕生日かもしれないと思うと、雪空を見上げる胸に温かな火が灯る。
 これからは、今日を誇りに思えるだろうか。
 期待と不安の入り交じった感情を抱えたまま、ナジャは大通りをゆくのであった。

 エステル女王治世のグランディア王国に、ナジャという名の騎士や兵士、文官は存在しない。
 ただ、吟遊詩人が謳う異聞の中に、グランディア王しか素顔を知らない、密偵の中の密偵の物語がある。
 代々『メディスタ』の名を受け継ぐ、グランディア王の懐刀のいつかの代に、真名をナジャという、男か女かすらわからない者が就いていた事があるのだと。
 しかしながら、真偽の程は歴史の闇に埋もれて、決して知られる事は無いのであった。畳む

#番外編小説

創作

今日は『アルファズル戦記』第一部後半から登場した、重要キャラクターのひとり、クラリス・フェイミンについて語りたいと思います。
一応ネタバレなので、畳みます。

もとをただせば広義の『アルファズル戦記』第四部(イリス異世界召喚編)を作っていた時に、
「イリスの守役の騎士」とだけ設定して放っておいたキャラでした。
古いファイアーエムブレムをプレイしていた方には通じると思いますが、所謂ジェイガンポジションです。(成長率の低い序盤お助けキャラ)

それがクレテス編を作る時に、クレテスにも、エステル編のアルフレッドのような助言役がついていた方がいい、ただアルフレッドとは明確な差別化をした方がいい、なら戦う力を持たない軍師に徹しよう、という考えが浮かびました。
その時、イリス編のクラリスの事を思い出し、彼女が若い頃クレテスにそばづいていたなら、「恩人の娘を守る」という強い動機が生まれるな、と、クレテスのはとこ(当時は従兄妹ではなかった)として、軍師クラリス16歳が爆誕しました。

当時はシミュレーションRPGツクールでアルファズル戦記を作っており、エステル編とクレテス編はだいぶここで話を詰めました。
クラリスとピュラが将来夫婦になることも勢いで決めましたが、当時はまだ本編中が初対面でした。(ピュラが聖王教会の聖剣士であることを隠してクレテスに近づいた)
その中で、クラリスが騎士になることを決めるシーンがあったのですが、なんかけっこういいこと言ってたし、ピュラともいいかんじになっていたのですが、今すぐに本文が出せないのが惜しいです。

そしてリメイク第一部。
後半はクレテス編を混ぜる、と決めた時点で、クラリスとピュラはセットで登場する、イリス編での年齢を合わせるために、という設定のもとに、軍師クラリス13歳が降臨しました。
クレテスとケヒトに朗らかに接して、エステルとラケが内心穏やかでなかったのは、原典でクラリスの初恋がクレテスだった名残です。
ピュラとも最初から両片想いになり、原典では一段落くらいで撃破されていたゼイルとセルデの兄妹にも、物語を与えました。特にセルデのことは、イリス編になってもクラリスの心に残っている描写が今後にあります。

大切な人達の娘を守る。
その為に己の知力と武力を使い、時に冷徹になり、時に迷う。
原典でだいぶ年頃のお嬢さんと頭の回る軍師を反復横跳びしていた少女は、リメイクでも大人になりました。
イリスを「姫様」と呼ぶ辺りは、王位継承者としてはまだまた未熟だと思っているのでしょうが、その認識が変わってゆく姿も見守ってやってくださいませ。

あ、ちなみに数値的な話をすると、「クラリスの成長率は上がっています」。
聖魔の光石のゼトとか、ユニコーンオーバーロードのジョセフみたいに、最後まで戦えるようになっています。畳む

#アルファズル戦記

日記,ひとりごと2024年,創作

始まったはいいけどあまり話をしていない、『アルファズル戦記』第二部について、とりとめのない話をしようと思います。
例によってネタバレを含みますので、畳みますね。

イリス編は元々(広義のアルファズル戦記)では第四部と第四部外伝の位置付けでした。
異世界に召喚されるクロスオーバー的な物語が第四部で、現在第二部になっている部分が外伝でした。

肝心なとこ外伝にしないの平成の珍獣!!

で、第四部の設定を書き出している頃は、アッシュはいませんでしたし、他のヒーロー候補がやはりユリシスとイリスのお相手の座を奪い合っていました。(しかも彼もユリシスも、しぼうルートがあるという、中2を引きずった私が好きそうな設定)

第四部を考え始めた頃は、シャングリア大陸が舞台ではなかったので、親世代の事はほとんど考えていませんでしたし、クレテスの生死もマジで気にしていませんでした。

それがー……いつからかな……エステル編を第一部にするって決めた時かな、今のイリス編の下地が敷かれ、アッシュの登場と、クレテスが亡くなっていることが確定しました。

いや、私も自分の好きな作品で、続編で前作キャラが不幸になったりしんだり、カップルが破局したりするのほんと嫌ですよ! がんだむ種とかいう作品に対する私のバチギレ度合いは皆様ご存知の通りかと!
劇場版で20年越しに浄化されましたが、やっぱり今もDestinyは観られませんもん……物凄い勢いで感情が曇る……。

そんな珍獣が前作メインカプの片割れがしんでいる、という状態を作ったの、中2引きずっていたんですねえ……。

しかもこれはWebでは来年の春頃公開のエピソードになると思いますが、第一部で喜んでくださった方をドン底に叩き落とす展開が待っています。もう充分ドン底やろ、って言われそうですが、物理本の裏表紙折り返しを見ると、私がkitさんに依頼した仕込みが見られます。該当箇所に来た時に覚えてたら、ここでこっそり公開しますかね……。(99%忘れるフラグ)

「しんどくて途中で読むの止まりました」って、フォルティス・オディウム上巻の時に言われたのは、もう笑い話なんですが、イリス編もしばらくしんどいのが続きます。それをなんじゃウラー!という勢いではね飛ばすイリス達の物語にお付き合いくださると幸いです。

……クラリスの話もしようと思ったのですが、だいぶ長くなっちゃったので、後日個別に記事を立てます。彼女もそれなりに複雑な作られ方をした、お気に入りキャラなので。畳む

#アルファズル戦記

日記,ひとりごと2024年,創作