携帯越しに


携帯の発信ボタンを押す。
今は昼休み。きっと出てくれる。
1、2、3コール。
『もしもし』
いつもの穏やかな声。
ほら。この声を聴くと、緊張が解けてゆく。安心する。
「謙ちゃん」
リクルートスーツ姿で駅への道を歩きながら、わたしは彼に告げる。
「これから最終面接」
彼の後を追いかけて、追いかけて。やっとここまでたどり着いた。
彼と同じ会社。勿論、部署は全然違うけど。
「謙ちゃん、追いつくから。もうすぐ追いつくから」
ずっと彼の二年後ろを追って来た隙間が、もうすぐ埋まる。
『頑張れ、梨恵。待ってる』
「うん、頑張る」
携帯越しの優しい声に、わたしは返す。
「謙ちゃん、大好き」
『僕もだよ』
お互いに囁いて、笑顔で電話を切る。

それが、わたしが人生で覚えている、最後の、彼への告白になった。

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