『フィフティ・フィフティ』



「好きな人より先に死ぬのと、後に死ぬのと、どっちがいい?」
いつものように、この1年強で習慣になった、帰り道、カフェでお茶をしていたら、彼女は突然言い出した。
「昨夜、テレビで観たの。フィフティ・フィフティの確率。謙ちゃんは、どっちがいいと思う?」
僕は困った。
そんな事を考えた事は無い。
将来の人生設計の中に、彼女が居ない訳ではない。
だけど、彼女を残して逝く事も、彼女に残される事も。それはどこか遠い、現実味の無い、夢物語のような話だった。
それよりも。
「僕は今は、来週の面接の方が気がかりだ」
就職活動最盛期。ようやく、最終面接まで辿り着いた。
自信のほどは、フィフティ・フィフティ。
「そんな事より、考えてよ」
だが、彼女にとっては、目の前の問題より、先の問題の方が、重要らしい。
「日本人は、女の人の方が長生きなんだから。それに謙ちゃんはわたしより年上。絶対、わたしの方が残される可能性が高いんだよ」
身を乗り出して、彼女は言うのだ。
「自分でも、ちゃんと貯金はしておくつもりだけどね。わたしが路頭に迷わないだけの準備はしておいてね。あと、孤独死は絶対嫌。だから、子供はいて欲しいの」
一体どこまで、考えているのか。思わず苦笑が洩れると、彼女はぷうと頬を膨らませた。
「笑い事じゃないよ。ちゃんと考えてよ」
「考えるよ」
その頬を両手でおさえこんで、僕は彼女に笑顔を向ける。彼女が、それが大好きだと、良く知っている、柔らかい微笑を。
「僕も長生きする。梨恵ばかりに、寂しい思いをさせないよ」

この時の会話を、僕は、随分経った後に、何度も思い出す事になる。
何度も。
何度も。何度も。

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