『出会いはロマンチックに』



それは、13歳の夏休み。
図書館で。
読みたい純文学を探していたわたしは、それを見つけたんだけれど、当時、150センチも無かった身長では、本棚の上の方には届かなくて。
必死に背伸びして、手を伸ばしていたら。
横からすっと出てきた手が、目的の本を、あっさり取り出して。
「取りたいのは、これでいいのかな?」
わたしより、ずっと高い位置から、眼鏡の奥の、優しい目が、見下ろしてきた。
それが、最初の出会い。

再会は、すぐに来た。
また別の本を借りに来て。
本棚に手を伸ばしたら、横から、同じ本に、伸ばされる手。
「あ」
重なる、二人の声。
「今日は、手が届く位置にあったね」
彼は、やわらかく微笑んだ。

図書館横にある公園の、木陰のベンチで、彼が買って来てくれた缶ジュースを飲みながら、語り合った。
都築梨恵と、丹羽謙一と云う、お互いの名前。同じ中学の、1年と3年だと云う事。好きな本の事。
「あの話は、良いよね。全ての設定が、無駄無く使われて、ひとつの物語として成立している」
わたしが好きな本のタイトルを挙げたら、彼はうなずいて同意してくれた。
「もし自分が、80分しか記憶が保たないとしたら」
勢い良く吹き上げる噴水の水を眺めながら、わたしは言った。
「きっと、あの話の博士みたいに生きる事は出来ないと思うんです。毎日泣いて過ごしちゃうかも」
彼はしばらく、応えてくれなかった。子供っぽい感想しか言えないから、呆れられたか。しゅんとなってうつむいたら。
「そういう考え方は、僕には出来なかったな」
優しい視線が、わたしに向けられていた。
「梨恵ちゃんは、想像力豊かなんだね」
その言葉にか、込められた優しさにか、それとも、いきなり名前を呼ばれた事にか。
とにかく、わたしの心臓は、どきりと高鳴った。
「ま、また」
どきどきしながら言葉を発したものだから、思わずどもる。
「こうやって、お話ししてくれませんか」
彼は、少しだけきょとんとした後、穏やかに微笑んで。
「いいよ。僕も、梨恵ちゃんの話を聞きたいな。色んな本を、貸してあげるから、感想を聞かせてよ」
これからも、彼に会える。それが嬉しくて、わたしは、何度も何度も首を縦に振った。
それが、わたしたちの、はじまり。

余談。
二人が手を伸ばした本は、結局彼がわたしに譲ってくれた。
後日、わたしが興奮気味に感想を語るのを、彼はやっぱり笑顔でうなずいて、聞いてくれた。

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