『嫉妬』



中学3年の時に出会った、2歳年下の彼女は、僕を追いかけて、同じ高校へ入り、3年後、僕を追いかけて、同じ大学の、同じ学部へ入った。
合格発表の日、2年間一緒だと、喜びを分かち合ったけれど。
1年生と3年生じゃ、授業が重なる訳も無くて。
結局一緒にいられるのは、行きと帰りの、1時間ずつの通学時間。
朝、最寄りの駅で待ち合わせて電車に乗って。
夕方、ある時は彼女が、ある時は僕が。相手の授業が終わるのを待って、日が暮れるまで、カフェでお茶をしながら、彼女の宿題を見たり、他愛の無い話をしたり。
今はそれで満足なんだと思っていたけれど、事件というものは、ある日唐突に起こるものであって。

「謙ちゃん」
いつも通り図書館で待っていた時、現れた彼女は、不機嫌を隠しもせずに、僕に問いかけた。
「今の人、誰?」
その直前、親しげに僕に話しかけていった、女子がいた。
その子は彼女を見て、
「あら、これが噂の彼女ちゃんね、可愛い子」
挑戦的な態度たっぷりに言い放ち、
「じゃあ、また授業でね、丹羽君」
にっこりと、僕に手を振って立ち去った振る舞いは、彼女を不愉快にさせるに、充分だったようだ。
「同じ授業を取っている同級生だよ。それ以上でも、何でもない」
だけど、彼女は納得いかない様子で、ぷうと頬を膨らませたまま。
「でも、仲良さそうだった」
そんな、出会った頃から変わらない子供っぽさが、かえって微笑ましい。
だけど、そんな事を口にすれば、
「子供扱いしないでよ」
と、彼女はますます不機嫌になるだろうとわかりきっているので、口元がほころびそうになるのを抑えて、僕は答える。
「あの子は、ただの友達。梨恵とは、違う」
少し色の薄い、彼女の瞳をのぞきこんで、微笑を送る。
「梨恵は、特別」
彼女は、少し戸惑って、恥ずかしそうにうつむいた後、
「うん……わかった。困らせてごめんなさい」
素直に詫びる、そんなところも、僕が彼女を好きな理由。
これで仲直り。そんな時。
「よ、都築。また明日な」
通りすがりに、なれなれしく彼女の肩を叩いて行った、男子が一人。
彼女が、戸惑うのがわかる。自分が嫉妬した直後に、同じ状況。気まずいのは、わかる。
これを言えば、彼女はしどもどと、僕と同じ弁解をしなければいけなくなるだろう。でも、そんな彼女を見てみたい、悪戯心が働いて、
「梨恵」
僕は腕を組んで、にっと笑いさえ浮かべながら、彼女に問うのだった。
「今の、誰?」
僕だって人の子だ。独占欲くらいは、ある。

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