『負け犬はワルツを上手く踊れない』
5―3 フェルナンド? 何してんのよ。 笑い顔を作ろうとしたけど、頬の筋肉が固まっていた。 「大した男だったよ、フォルティアの王子は」 デア・セドルの声が、どこか遠く聞こえる。 「余に刃向かって来た。お前達を、危険な目に遭わせる訳にはいかない、自分がケリをつけるとな。 だから、わざと追い詰められたふりをして、言ってやったのだ、この顔で」 途端に、デア・セドルの表情が、怯えたフォレストのものにすり替わる。 「やめてくれ、フェルナンド! 血を分けた兄弟だろう!?」 そして再びデア・セドルに戻って、哄笑。 「……とな! 所詮人間だ、情に流され、怯んだ所を」 バン。 デア・セドルが魔法を撃つ真似をする。 「余は優しいのだよ。心臓を一撃だ。苦しまずに、死んだだろう」 ―死んだ? フェルナンドが? 殺しても死ななそうな、こいつが? 死んだフリでもしてるんじゃないかという考えが、脳裏を巡った。 フェルナンド、 起きなよ。 起きて、喋りかけてよ。 いつもみたいに、眉間にシワ寄せて、イジワル言ってよ。 ……笑って、よ。 「フェル兄様……」 リーティアがフラリと膝をついて、フェルナンドを仰向けにしようとする。 「―見ない!!」 思わず、アタシは叫んでいた。リーティアがビクっと、手を引っ込める。 顔を見てしまったら、こいつの死を、認めて、泣き出しそうだったから。 アタシは、顔の見えないフェルナンドのかたわらにかがみこんで、右手をかざした。 戦巫女には、回復魔法に長けた者もいたという。 なら、アタシにも、その力があるんじゃないかと、淡い期待を抱いて。 でも。 生き返るワケ、ないよね。 命は二度授かるものじゃないって、言ったの、こいつだものね。 銀色の光が、フェルナンドに吸い込まれ、頼りなく消えるのを見届けて、アタシはゆっくり、立ち上がる。 肩越しに振り向けば、デア・セドルは、頬杖をついて、ニヤニヤとこちらを見ていた。 頭のどこかには、やけに冷静な自分がいる。 だが、顔はきっと、ものすごい形相してるだろう。 これ以上できないってくらいガンたれて。 自分に出せる限りの低い声で。 アタシは、乙女にあるまじき台詞を、デア・セドルに叩きつけた。 「ブッ飛ばす」 |