『負け犬はワルツを上手く踊れない』
4―7 「デア・セドル!!」 叫びながら跳ね起きたら、目の前には、リーティアの驚いた表情があった。 ……そうだ、アタシは気を失ってたんだっけ、デア・セドルのせいで……。 ゆっくりと周囲を見渡すと、そこは、フェーブル城内に用意してもらったアタシの部屋の、ベッドの上。 リーティア以外にも、フォル王様、フィー王妃様。 セルマ王女に、翔平君、マルチナと美里さんまで揃っていた。 「フォレストと、フェルナンドは?」 いるはずの無い二人の名を口にしてしまう。リーティアが顔を伏せ、フィー王妃様が、申し訳なさそうに進み出た。 「あのね、蓮子ちゃん。 あの二人のことは、気にしないで。本当に、いつの間にか自力で帰って来そうな子達だから……」 そんな風に言いつつも、王妃様も、王様も、心底息子達を心配しているのが、ありありとわかる。 それを見て、アタシの中で、ひとつの決意が固まっていた。 「助けに行きます」 自分でもビックリするくらい、冷静に、アタシは言った。 「アタシは、転移の能力も使えます。北の地へ行きます」 向こうさんから先に乗り込んできたんだ。こっちも、直接本拠地に殴りこみかけ返さなきゃ、失礼ってもんよ。 不安そうな王様達に、できるだけ安心させるように笑って、告げる。 「任せてください、必ず、二人の首根っこひっつかんで、引きずってでも帰って来ますから」 「わたくしも参ります!」 リーティアが、いつになく強い調子で名乗りをあげた。 「フォルティアの戦巫女様にお仕えするのは、フォルティア王女の役目。蓮子様が行かれる場所に、わたくしもついていきます!」 すると。 「まああ、リーティアったら。自分の戦巫女殿の足を、率先して引っ張るおつもりですの?」 マルチナが、相変わらずイヤミったらしく声をかける。 アタシとリーティアが揃って睨みつけると、彼女はビラビラの扇子で口元を隠し、ホホ、と笑った。 「あなたがただけでは頼りありませんから、協力してさしあげようと、言うのですよ。ねえ、美里殿?」 マルチナの言葉に、美里さんがコクリとうなずく。 「ならば、ステアだけ傍観に徹する訳にもまいりませんね」 「この世界を脅かす者の親玉のもとへ行くんです、戦巫女全員の力を、合わせましょう」 セルマ王女と翔平君も、力強く。 「うん、そうだね」 あたしはベッドから降りて、一人一人の手を握った。 「行こう、みんなで」 昔お風呂で読んだ小説の中に、悪党にさらわれた異国の王子を助けに行く女の子の話、ってのがあった。 主人公の名前は、ベアトリーチェ、と言っただろうか。 彼女はスポーツカーを華麗に乗り回し、二挺拳銃ブッ放し、体術を駆使して、果敢に悪党どもと戦った。 あの頃は、こんな話、現実にあるワケないって、笑い飛ばしたけど。 今が、その時だと思う。 アタシは、ベアトリーチェに、なる。 |