『負け犬はワルツを上手く踊れない』
3―7 一瞬の後。 「痛ーッ!!」 アタシは女の子を腕の中にかばいながら、地面をゴロゴロ転がった。 ようよう身を起こして、最初に視界に入ったのは、燃え尽きて、崩れ落ちていく、アタシが入っていったはずの民家。 それから耳に入ってくるのは、観衆の、驚きの声。 どういうこと? ぽかーんとしているうちに、女の子がアタシの腕をするりと抜けて、母親のもとへ駆けていく。 「ママーっ!」 「ああ、エミル、エミル! 本当にありがとうございました、王子様、戦巫女様!」 「は、はあ……」 母親が涙ながらにお礼を言うのを中途半端に聞きながら、もう一度考える。 どういうことだ? 「戦巫女の力だろう。瞬間転移を行った者がいる事は、記録にも残っている」 フェルナンドの言葉に、はっとした。 そういや、柱が倒れてくる直前、光がアタシたちを包んだっけ。 便利極まりない力だ、本当に。 急に気が抜けて、はあ〜っと大きなためいきひとつつき、顔を上げて、アタシはぎょっとした。 「ち、ちょっとあんた! 髪が、髪が!」 フェルナンドの、男にしてはキレイだった長い髪が、あちこちちりちり焦げて、悲惨なことになっていた。 しかし、ああ〜とうめくアタシとは対照的に、本人は平然。 「ああ、これか? 問題無い、切ればいい」 き、キル!? 「も、もも、もも……」 「桃?」 「もったいない、それはもったいなーい!」 乙女のアタシだって、モデルばり(もどき)のセミロングに揃えるのに、半年近くかかったんだ。男がここまで伸ばすには、相当な時間がかかっただろうに! もったいないお化けが出る! だが、心底恨めしそうに髪を眺めるアタシに対して、フェルナンドはあくまでケロっとしていて。 「伸ばそうと思って伸ばしていた訳ではない。理髪師を呼ぶのが面倒だと思っているうちに、ここまで長くなっていただけだ。未練は無い」 そして、マジメな顔して付け加える。 「第一、髪ならまたいくらでも生えてくる。だが、命は二度授かるものではないだろう。 お前も、人並外れた力を持っているからと言って、無謀な事をするな。戦巫女には代わりはいるが、矢田蓮子に代わりはいないのだぞ」 ……うん、正論なんだけどね。すごくいいこと言ってるんだけどね。 チリチリ頭で言われても、説得力無い。 その頃になって、火事は鎮火し、ようやく城から兵士さん達もやって来た。 「状況も落ち着いて来た。後は任せて、俺達は城に戻るか」 うん、と答えようとして。 アタシは、膝の力が抜けてその場に崩れ落ちた。 「どうしたッ!?」 フェルナンドがいつになく焦った様子で駆け寄ってくる。 うずくまったアタシは、ようやく、一言だけを絞り出すことができた。 「ち、チョコバナナもう一本、買ってえぇ〜……」 緊張がとけて、一気に腹が減ったらしい。 フェルナンドが、心底から、心配して損した、という表情をしてたが、恥より空腹が勝ったアタシは、気にしないことにした。 |