『負け犬はワルツを上手く踊れない』
2―5 「彼女はこちらの世界に来てまだ日が浅い。知らぬ事が多いのも、当然の道理だ」 ……え。 エエエエエ!? あ、アタシ、フェルナンドに抱き寄せられる体勢になってるんですけど!? 「それに、誰が何と言おうと、我が国の唯一の戦巫女は彼女だ。貶めるような発言は、控えていただきたい」 心臓バクバクしてる。 アタシはまるで、男と付き合ったことが無い乙女みたいに真っ赤になって、貶めるような発言しまくってるのはあんたじゃないかい!なーんてツッコミも、口に乗せられなかった。 マルチナが、「そ、それは申し訳ありませんでしたわ」とたじろぐ。リーティアが、愉快そうににんまりしている。 「わ、わたくし、そろそろ失礼いたします。い、行きますわよ、美里殿!」 マルチナはしどろもどろになりながら、自分の戦巫女に呼び掛ける。 でも、美里と呼ばれた女の子は、「ちょっと待ってください」と言って、アタシの前に立った。 「ご挨拶が遅れました。 わたし、ネーデブルグの戦巫女に選ばれた、長谷川美里、高校1年生です。よろしくお願いします」 「あ、ご丁寧にどうも。矢田蓮子です」 差し出された手を、握る。 「ところで矢田さんは、プロ野球は、どちらのチームを応援してますか?」 ……は? 何をいきなり、と思いながら、素直に、 「ジャイアンツですが」 と答えると、 「……そうですか……」 急に長谷川さんの顔つきが険しくなって、握る手に、ぎゅぎゅぎゅぎゅーっと力がこめられた。 「わたしは、タイガースです。それでは」 タイガース、を強調して手をほどき、彼女はマルチナと一緒に立ち去った。 ……おいおい。 応援チームが宿敵同士ってだけで、ライバル視されるワケ? 勘弁してよ。 痛くなった右手をさすりながら、はあ、とタメイキひとつつくと。 「いつまで俺によりかかっているつもりだ」 フェルナンドの呆れたような声で、アタシは奴に抱き寄せられたままでいることに気がついた。 慌ててバッと離れる。 「あ、あんたが勝手にひっつかせたんでしょうがっ!」 「ああでもしないと、マルチナに言われっぱなしだったろうが。 大体、お前もお前だ。俺にはギャンギャン言うくせに、黙りこくって。いつものように、言い返してやれば良かったんだ」 「あ、アタシにだって、言える時と言えない時ってモンがねぇ!」 「もう、おやめくださいな、お二人とも」 また、アタシとフェルナンドの間に、リーティアが止めに入る。 でも何故か、楽しそうな笑顔で。 ん? もしかして、楽しそう、じゃなくて、ホントにアタシとフェルナンドの喧嘩を、楽しんでる? 「ケケケッ、楽しそうに余裕こいてるねェ」 そうそう、楽しそうに余裕こいて……。 と、思考がつられかけたとこで、アタシは、もちろんフェルナンドとリーティアも。 いやらしい声の降って来た方向を、ばっと仰ぎ見た。 |