『負け犬はワルツを上手く踊れない』
2―3 「何か聞きたそうだな」 謁見の間を出て、しばらく黙って並んで歩いてたら、フェルナンドが足を止めて、唐突に言った。 ……う、見抜かれてる。 ウソついても仕方ないから、疑問に思っていた事をズバリ聞いた。 「あのさ、何でお母さん、よそよそしいの? 『フェルナンド殿』なんて、すっごい他人行儀じゃない」 「フィーネ母上は俺の本当の母ではない」 ためらいもせずに、フェルナンドは即答。 「俺と兄上の母親は、俺を産んですぐに亡くなった。 10年近く経ってから父上はフィーネ母上を新たな妃に迎えられたが、あのように穏やかなお人柄だし、何より、俺達兄弟にも、優しく接してくださった。 俺はあの方を母だと思っている。呼び方など、問題ではない」 ……あら。 突っ込んじゃいけない家庭の事情だったかな。 でもこれで、何でフェルナンドとリーティアがあんまり似てないか、よくわかったわ。王妃様、26歳の息子がいるにしては若すぎ、と思ったしね。 「……で?」 フェルナンドが半目で見下ろしてくる。 「まだ聞き足りないという顔をしているぞ」 ううっ。 こいつ、何でこんなにスルドイの。 「い、いやね、ご先祖様から名前がファフィフフェフォなのに、何でリーティアだけ違うのかな〜っと思って」 「知りたいか?」 フェルナンドの、ビミョ〜な表情が気になりながらも、コクコクと首を縦に振る。 「…ネタ切れだ」 フェルナンドはそれだけ言って、スタスタと歩き出す。 それが答えなのだとアタシが理解するのに、軽く7秒は必要だった。 「あっ、お兄様、蓮子様!」 廊下の向こうから、ネタ切れ、もとい、リーティアがアタシ達を見つけて、タカタカーっと駆け寄って来た。 「蓮子様、いかがでした、お父様とお母様は?」 「あ、うん。いい人達で、良かったよ」 「本当ですか!?」 リーティアは胸の前で手を合わせ、そりゃあホッとした様子で。 「娘のわたくしから見ても、少し変わった方達ですから、戦巫女様に何か失礼な事が無いか、心配でしたの」 うわ。 娘に容赦ない言われよう。 は、は、は。と、乾いた笑いが口から垂れ流しになる。 と。 「あぁら。 フェルナンド様に、リーティアじゃ、ありませんこと?」 鼻にかけるような、イヤミったらしい声が聞こえてきた。 |