番外編04:彼女にまつわるエトセトラ
File01:騎士ミサクの場合

 シズナについて、か。
 彼女は、本当に強い女性だな。アナスタシア王都に来る前にも、来てからも、徹底的に打ちのめされるような事は沢山あったのに、それでも彼女は立ち上がる。悪意に対抗する精神を持っているのは、間違い無く勇者である証だ。
 そんな彼女を利用しようと企む者、排除しようとする者は後を絶たない。だから僕は決めている。
 彼女に害となる輩は、片っ端からこの銃で眉間を撃ち抜く。たとえ相手が国王であろうと、魔王であろうと、容赦はしない。咎人となってでも、世界の全てを敵に回してでも、僕は彼女を守り抜く。相手が神であったとしても、神殺しの名を負ってでも駆逐する。
 ……何だかえらく引いているが、そんなに物騒な話か? 僕は僕の考えを述べただけなのだが。そもそも話を振ってきたのは、そちらなのに。
 だって、彼女は本当に、精神だけでなく外見も美しいだろう? 可愛らしい女の子が成長してゆく姿を、その隣に常に別の男がいる光景を、『透過律』で毎年見せられ続けたこちらの身にもなってくれ。早く話をしたい、触れたいと思って、『記録律』に収まっている映像を、毎晩毎晩何度と無く見返して、十年以上を過ごしてきたんだ。やっと余計な馬の骨抜きで言葉を交わせるようになったのだから、もっと話をしたいと思うのは、男として当然の事だろう? なのに立場上、そう簡単にそれを出来ないこっちの身にもなってくれ。もどかしくて夜も眠れない。いや、僕の眠りが浅いのは、彼女には関係無いのだが。そう、彼女には何の罪も無い。世界が悪いんだ。
 ……何だかまた更に引いているようだが、何だ、その顔は。
 気持ち悪い?
 ……放っといてくれ。


File02:侍女アティアの場合

 シズナ様ですか。同性のわたしから見ても、魅力的な方ですよね。
 勇者だからと驕らず、わたしのような下々の者にも、親しい笑顔を向けてくださいます。
 初めてお会いした時、メイドの仕事がわからなくて戸惑っていらした姿は、高貴な方のお世話をするのが当然だと、身に叩き込まれていたわたしには、とても衝撃的でしたし、事情がわかってすぐに対応を変えてくださる機転は、やはり勇者エルストリオ様のご息女。ただの山奥で育った娘さんではないと感心いたしました。
 ただ、ふとした瞬間に、ひどく思い詰めた表情をなさる時があります。それもそうですよね。突然身近な人々と故郷を失って、全く違う環境へ連れてこられて、世界の為に戦えと言われて。それですぐに全てをはいそうですかと納得して受け入れる人なんて、そう簡単にいないでしょう。
 わたしも早くに両親を亡くしたので、王宮にあがって国王陛下にお仕えするしか、唯一残された家族である妹を養いながら生き残る道は、ありませんでしたから。共感する部分はあります。
 その妹も……いえ、これは関係無い話ですね、気にしないでください。
 とにかく今は、シズナ様の為に、わたしが出来る事を精一杯するだけです。
 この先に、何があるとしても。
 あの方の愛らしい顔が、憂いに曇る日が来るとしても。


File03:騎士イリオスの場合

 あ? あのお転婆勇者の事を聞かせろ?
 俺に聞いてくるなんて、あんたも物好きだな。まあいい。聞きたいなら聞かせてやるぜ。
 いい女だよな。山奥で育った田舎者とは思えないくらいの器量良しだ。母親のイーリエが、勇者エルストリオに同行して戦った若い頃は、そりゃあ王国きっての美人剣士だってもてはやされてたっつうから、当然っちゃあ当然か。でも、イーリエも歳取ってやたらふくよかになったんだろ、年月の流れってのは無情だよなあ。あの嬢ちゃんも、あと二十年もしたらぶくぶくになるのかね。
 そうなる前に、一度くらいは味見してみたい気はするが、何しろあの鼻っ柱の強さだろ。押し倒した瞬間に思いっ切りタマ蹴り返されそうで、下手に手は出せないよなあ。
 下品? おお、俺にとってそれは褒め言葉だね。いい女は抱く、ってのが俺の信条だからな。城下の娼館の、百戦錬磨な商売女達には絶対無い、初々しさってーの? それが欲しい時もある訳よ。
 でもあの性格だもんなあ。剣の訓練をする時みたいに、めちゃくちゃすげえ眼力で睨んできそうだよな。まあ、それを鳴かせるのはそれで、そそるもんがありそうだが……って、あ? おい、もういいのかよ?
 は? これ以上はあーるじゅうはち?
 何言ってんだお前。


File04:魔法士コキトの場合

 シズナねえ。
 とても強い、いい子だよ、ってのは、ミサクあたりがやたら早口で熱く語ってそうだから、そうさね、私らしく、魔法の弟子としてのあの子の事を語ろうか。
 そりゃあ最初は不安だったよ。外界と隔たれて暮らしてきたっていう子が、アナスタシア最先端の魔法にどこまでついてこられるかって。
 だけどそれは杞憂だったね。魔律晶まりつしょうを持たせた瞬間に、生まれた時から知っていたみたいにぽこぽこ魔法を発動させたのには、流石に私も吃驚びっくりした。天才、っていうのは本当にいるもんだね。
 旅立つまでの一年間、あの子のおかげで魔律晶の新規開発も大分はかどった。あと数年もすれば、大規模な改良が行われて、魔法はもっと人間の生活に身近になるだろう。
 それがこの世界にとって、良い影響を及ぼすのか、はたまた悪い結果をもたらすのか。私に見届ける事が出来るかは、わからないけどね。
 でも、あんたになら、できるんじゃないかい? 勇者シズナの歩いた道が、この大陸にどう残されるか。それを眺める時間は、あんたには、たっぷりあるだろう?
 ……大丈夫。他の奴らは気づいていないさ。まあそれでも、出来るだけ早くこの町を出た方が良いだろうね。
 あの子の事を知りたい奴がいるんだろ。そいつによろしくな。


FileXX:『彼』の場合

 人間世界への潜入任務、ご苦労だった。
 その顔だと、正体を見破られたようだな。あの魔法士あたりか?
 やはり。あの人物からは、ただ者ではない気配を感じるな。いずれ向かい合った時に、苦労させられるかもしれない。
 それはさておき、結果を見せてくれるか? お前が集めた、シズナの仲間達による、彼女の評価を。
 ……。
 …………。
 ………………。
 ……………………。
 この騎士二人の頭は大丈夫か? アナスタシアの騎士団は大丈夫なのか? というか、このイリオスとかいう奴殴ってきていい?
 ……ああ、いや、すまない。少々動揺してしまった。魔王にあるまじき無様さだな。
 何か訊きたそうな顔をしているな。いや、訊きたい事はわかっているよ。
 まだ、シズナが気になるのか、という事だろう?
 はばからずに言えば、「そうだ」とうなずくしか無いな。気になるどころじゃあない。
 愛しているよ。
 だが、それを俺が彼女に言う事は、もう許されないんだ。俺は、彼女を裏切ったから。彼女にとって、敵になったから。抱き締めるどころか、手を触れる事さえ許されない。
 次に顔を合わせた時は、殺し合いになるかも知れない相手に、愛を囁くなんて、許されるはずが無いだろう?
 ……。
 そうか、お前はそう言ってくれるのか。ありがとう。お前は、きっと良い伴侶を見つけられるだろうな。その為にも、お前は生きて、この世界の行く末を見届けてくれ。
 俺が、出来ない分まで。
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