『精神安定剤』

" What is your tranquilizer? "
「貴方の『クスリ』は何ですか?」

 変哲の無い昼下がり、何とは無しに点けたテレビの、某かの番組で、レポータァが道往く人々に訊いて居た。
 何かと心労の多い今の社会、それを解消する術を各自が持つのは、最早義務に等しい。時代に即した質問だろう。 『クスリ』とは良く云ったものだ。

 しかし、その回答群の、何と退屈な事か。

 或る会社員は酒と云い、髪を金色に染めた若者は煙草と答えた。 若き主婦が衝動買いに魅力を感じ、ヒョロッとしたメガネは『ぱそこん』などと。
 スカァトの丈短い娘達に至っては、「そんなのわかんない、今が楽しければいいじゃない」と、声を揃えてけらけら嗤うばかり。
 全く今時の若者には、夢が無い。

「私はネ」
 年寄りの悪い癖で、画面に向かって一人憤慨して居たら、向いに座って居た細君が、ぽそりと一言。
「貴方とこうして、お茶を飲んで居る時間が、一番落ち着きますけどネ」
 その途端、心の中のもやもやは、アッと云う間に霧散してゆく。

 長年連れ添った妻の、子供のような笑顔と、煎れたてのお茶。
 これぞ、我が最高の『クスリ』也。