『識町岬』

ここ、識町には岬がある。
四季折々の花を咲かせ、季節に即した表情を見せることから、特に町の老人達は、こうとも呼ぶ。
「四季待ち岬」と。

そんな識町岬で、不思議な事があった。

春も終わりに近づいたある日。
遅咲きチューリップ畑を抜けた岬の突端に、小さな人影ひとつ。
小学校低学年くらいに見える、茶味がかった髪をきちんと三つ編みにして、桃色の春物セーターを身につけた女の子だった。
晴れの日も、雨の日も、風の日も。
ずっとそこにいて、誰かを待っているようだった。
あまりに気になって、誰を待っているのかと聞くと、彼女は振り向き、何処か温かな笑みと共に答えた。
「なつを、待っているんです」と。
やがて梅雨が訪れると、彼女の姿は見えなくなった。

八月、残暑の厳しい頃、浜万年青ハマオモトが咲き誇る中、また別の子が立っていた。
青い涼しげなワンピースに身を包んだ、短髪のその子は、
「あきを、待っているんです」
と白い歯を見せて言った。
そして、花畑が秋桜コスモスに取って変わられると、彼女は姿を消した。

リンドウの季節も終わる頃、今度はおかっぱ頭の、カーキのパーカーをはおった子がいて、
「ふゆを、待っているんです」
と、少し大人びた声で答えた。
そして雪が降り始めると、彼女の姿は消えた。

きっとキンセンカが咲く頃、白いコートなんかを着た長い黒髪の女の子が現れて、こう言うのだろう。
「はるを、待っているんです」
と。

ここは四季待ち岬。
季節が、次の相手と待ち合わせる場所。