『青春色ルーズリーフ』 下

それから時折、アタシと奴のルーズリーフ会話は繰り広げられた。
勿論、授業をそっちのけにはできないので、

「君の字は薄過ぎて見えない。よくそんな字を読めるね。」
「そっちが濃すぎるの。そんな汚い字でよく勉強できるね。」

そんな一行ずつの、ちょっと皮肉っぽい、そっけないやり取り。

「どこ志望?」
「T大の法学部。」
「うわ、やっぱり。それっぽい顔してるもん。」
「そっちは?」
「A女子の経済。」
「やっぱり。その程度に見えるもの。」
「うるさい。」

B掛三十数行に、濃いと薄いの交互のやり取り。
授業が終わるまでに、ルーズリーフの表裏がびっちり埋まる日も、あった。


そんなアタシ達のルーズリーフ会話も、唐突に終わった。
夏期講習の締めくくり、秋以降のクラス分け試験で、奴はアタシよりずっと上のランクへ行った。
当然だ。奴の志望校はアタシのとは段違い。
最後の授業の日、やっぱりあの汚い字で残された、最後の一行は、

「じゃあ、試験後に。」

奴の名前や、高校。
あれだけルーズリーフで話してたのに、肝心な事を聞かずじまいだった。

そのまま秋が過ぎて、冬休みが終わり、受験本番の大混戦。
アタシは、A女子は外したけど、何とか、H大の政治学部へ食らいついた。


そして、春。
「やあ」
入学式後のオリエンテーションで席についた途端、隣の席から馴れ馴れしく声をかけられた。
知り合いなんていない学部、初対面でナンパな野郎めと睨んだら……。
「久しぶり」
あの、愛想の無い顔が、そこに座ってるじゃないか!
「あ、あんた、T大の法学って言ったじゃない!」
「あれはあくまで第一志望。ここは、滑り止め」
こっちは死ぬ気で入ったというのに、相変わらず厭味な奴!
「まあ、こうしてまた会えたのも、きっと何かの縁」
縁と言うより因縁だ、とアタシがあっけにとられている前で、奴が差し出したのは、青色の……今度は、大学ノート。
「これからは、これで会話しない?」
初めて笑ってみせた顔が、八重歯なんか見えちゃって、予想外に可愛かったものだから、不覚にも胸のあたりがキュンとか言ってしまったではないか。
「あんた、馬鹿じゃない?」
物凄く悔しいので、わざと怒ったような顔を作って、ノートを押し返す。

「今の時代は、交換日記より、こっちでしょ」

きょとんとする奴の鼻先に、アタシは、携帯番号とメールアドレスを書いた青いルーズリーフを、突き付けてやるのだった。