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七月のなまけもの
七月のなまけもの

タグ「この大地の上で」を含む投稿[17件]

2026年9月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#語彙トレ2026 『この大地の上で』09/11~09/20まとめです。
新キャラが生えたり、エクセルと光まわりを描きたくて仕方無かったり、忙しい期間です。
作品は異なりますが、エクセルと光は、原作を書いていた頃の作者イチオシカプだったので、この話でもなんとかしたい欲が出て、「時雨とソフィアの視点」から外れる、ズルをしてしまいました。

前→737

09/11-媒介
 どうしよ。顔が、火照ってる。自分で言っといて、なんだけど。細さんを媒介に、一生見てる、みたいな、告白、しちゃったようなもの。
 そんなの、今の時雨には、重荷でしかない。背負うものが多くて、彼を、苦しめる。
 時雨は優しいから、甘えすぎてた。
 そっと、手を離そうとしたら。
「いいもの売ってるな」
 元の調子に戻った時雨が、ひとつのお店、見てる。アクセサリ屋だ。
 ノルンは自治都市の金属、草原諸国の原石が、とれるから、東方で、彫金技術が発達してる。ホクナの民は、盟主不在の中でも、それで生き延びた、って。
 きらきら、輝くアクセサリを、覗き込んだ。

09/12-触媒
「おっ、兄さん、お目が高い!」
 お店のおじさんが、いい客つかまえた、ってばかりに、営業スマイル、全開にする。
「ここにあるのは、草原諸国の特別な触媒を使って、銀を霊銀(ミスリル)に昇華させたものばかり。ご利益はばっちりだぜ」
 うわー……、怪しげな口上。霊銀って、西のシャングリアでしか、採れないんじゃなかったっけ。
 でも、時雨はすごい真面目な顔してアクセサリに見入って。
 しゃらり、と。鈴のついた腕輪を、ひとつ、手に取ると。わたしの手首に、当ててみる。
「うん」
 満足げに、うなずいてる、けど。
 見えてる見えてる、値札! うん、じゃないよ!

09/13-代償
「毎度あり!」
 あ、あああ。時雨、値札通りのお金、払っちゃった。もしかして、時雨って意外と、金銭感覚ガバガバ? 『星の忍』なんて高位の忍で、太守跡継ぎの養子、だったから?
 育ちの代償、大きかった、よ。恭司様、ちゃんとこういうとこ、教育しといて欲しかった……。
 まあ、人のこと言えないけど、わたしは、あのひとの目、盗んで、ちょこちょこ街に、降りてたから。踊りもその時に、旅のジプシーに、教えてもらった。
 師匠、元気かな。
『免許皆伝だ』
 って言われて別れたきり。どこかで、戦火に巻き込まれてないと、いいけど。
 考え込んでると、鈴の音が鳴った。

09/14-印影
 しゃらん、と。
 わたしの左手首で、鈴が鳴る。
「これで」
 時雨が、満足そうに、微笑んだ。
「どこにいても、あんたを見つけられるな」
「わたし、猫かなにか?」
「そういう訳じゃあないが」
 ぷう、と膨れてみせると、時雨、慌てて首を横に振る。
 でも、いいけど。
 時雨の印影が、わたしに刻まれたかの、ように。時雨の優しさが、わたしの心に、沁みる。
「じゃあ、わたしが迷子になったら、時雨、見つけてね」
「ああ」
 時雨が、真面目な顔つきで、頷く。
「どこにいても、必ず」
「じゃあ」
 わたしも、にっこりと。
「どこにいても、時雨のこと、見つけるよ」

09/15-疼く
 弟と、妹みたいな少女は、今頃『聖域』で、初々しいやりとりをしているだろう。ひとり、ふっと笑ったところで、無いはずの右目がじくじくと疼いて、前髪の上からおさえてうずくまった。
「ちょっとあんた!? 大丈夫!?」
『星の忍』の少女が、焦りきった声で肩にしがみついてくる。左手を掲げて、大丈夫だという意思表示をした。
「ラグナール兵として、潜り込んだ時に、ちょっとヘマしてな」
 あのクソッタレ王に目を取られ、刃を握れば数秒で死に至る呪いをかけられた。
『小物はせいぜい転がって苦しめ』
 奴はそう嗤った。
「なんで、そんな」
 彼女が憤慨する理由が、わからない。

09/16-饐える
 吐き気が込み上げて思わずえずく。
『時雨様がいらっしゃらない今、ホクナを率いることができるのは、秋霖様だけですわ!』
 子供の頃から持ち上げられて、民が戦いに出るのを見送った。彼らが物言わぬ身体になって帰ってくるのを迎えた。蝿が飛び交う饐えたにおいに、泣きながら吐いた。
 時雨に意趣返しをしたかったわけではない。できることなら、ソフィアと一緒に、戦と関係無い、日の当たる場所で、穏やかに暮らしていて欲しかった。だが、ホクナの民が、ジャオウの民が、それを許さないだろう。
「……あんた」
 忍の少女が呆れきった顔をした。
「思った以上にわかりやすいわよね」

09/17-馨る
 連合軍の噂は馨る。マアサルの翠黛のこちら側、草原諸国、東方、自治都市連合の隅々まで、若き盟主たちの話は、波のように広がった。
 ヴァイシャと高砂は妥当にしても、俺の名前まで混じっているのは、落ち着かないが。
 だが、ラグナール軍に攻め入られた土地から、希望を求めて、ルーマンの砦にひとびとが押し寄せる。最早誰がどこの出身かなんて、どうでもいいくらいに。
「盛り上がっている時こそ、気をつけるべきです」
 そう言って眼鏡をくい、と指で押し上げるのは、先代フェルガナ族長の頭脳、フォルカだ。
「木馬に潜んだ敵が、入り込んでいるやもしれませんゆえ」

09/18-薄明
 砦の屋上から、草原を見渡す。マアサルの翠黛が、薄明でほの明るく縁取られる。
 連合軍では立場など関係無い。盟主でも参謀でも、平等に見張り番が回ってくる。フォルカの存在は、今までの会議にヴァイシャと同席していたことで知っていたが、二人きりで話すのは初めてだ。
「あんたは、もうこの軍に間諜が入り込んでいると、思っているのか?」
「立場だけ見れば、ラグナールの姫君と、ラグナール兵として潜り込んで彼女を手助けしたことのある、あなたの兄上が」
 じとりと睨むと、織り込み済みだったのだろう。彼は肩をすくめる。
「立場だけ見れば、の話ですよ。落ち着いてください」

09/19-楼閣
「間諜を探す時、まず疑うべきは、敵側に足を踏み入れた者。私はそれを失念して、族長を亡くしました」
 昇りゆく太陽を見つめながら、フォルカが訥々と語る。
「ラグナールとの緒戦で捕らわれ、解放されたクラナハを、お嬢は喜んで出迎えた。それが過ちでした」
 ああ、クラナハって、ニネヴェの裏切り者で、ヴァイシャの許婚だったか。おおかた、ラグナールに捕らわれた際に、ゼノスに何か吹き込まれて、変心したんだろう。
 草原諸国も、ジャオウの楼閣と一緒だ。同族の皮をかぶった連中が、いつ相手を高みから引きずり下ろすか、虎視眈々と機会を狙っている。
『どいつもこいつも、じゃな』

09/20-迷宮
「戦とは、迷宮のようなものです」
 フォルカが眼鏡をくいっと押し上げて、目をすがめる。
「誰が正しいか間違っているかが無い。豊穣な地は焼け、命は失われ、終わりが見えない。彷徨った果てにあるのは、荒れ果てた大地と疲弊した人々。太陽の光も、虚しく降り注ぐばかりです」
「あんた、詩人になった方が向いてるんじゃあないか?」
「先代にもよく言われました」
 声では笑ったが、口元が歪んでいる。自嘲だろう。
「先程の話ですが、疑わしきはまだいます」
 まだ木馬の中の兵を出すのか。半眼で睨むと。
「大陸を自由に行き来する商人。これが一番怪しいです」
 まさか、アナベラを?畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

創作,小説

#語彙トレ2026 『この大地の上で』09/01~09/10まとめをやっとしました!
時雨とソフィアの視点切り替えを完全にミスったな、ってところがあります。
これは正式に本にする日が来たら調整します。

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09/01-朔風
 ジャオウ、ホクナ、草原諸国の連合軍が成った。
 ヴァイシャと高砂だけで充分だと思ったんだが、二人だけでなく、エクセルや光、アナベラに劾、あらゆる連中に、『お前が立ち上がらなくてどうする』と思いっきり背中を押された。
 規模の建前上、盟主はヴァイシャだが、俺も後ろから支える羽目になったのだ。
 太守は恭司様がなると決めつけて、『星の忍』に徹していたから、人の上に立つことを何も教わらなかった過去を、今更悔いる。
「……恭司様」
 砦の屋上で、ひとりごちる。
『俺はどうすりゃいいんすかね?』
 マアサルの翠黛を越えてくる冷たい朔風は、秋の訪れを告げていた。

09/02-懊悩
「涼しくなってきましたね」
 薄手の上着を羽織った高砂が、細い腕を擦りながら隣に並ぶ。
「仮にも太守代理が、伴もつけないのは、不用心だぞ」
「あなたもじゃあないですか」
「俺は自分の身は自分で守れる」
 正論だ。同じ『星の忍』を継ぐ者でも、国の上に立つ身でも、高砂はまだ子供だ。ろくに鍛えてもいないだろう。
「……強いですね、時雨は」
 高砂が、寂しそうに微笑む。
「ぼくは、皇本の身代わりなのに、ひとりじゃなんにもできない」
 懊悩に苛まれる顔をして、彼女は目を伏せる。
「その為に、俺たちがいるんだろうが」
 ぽん、と頭に手を乗せる。
「頼れる大人を頼れ」

09/03-臨界
「時雨だって、大人なんて、言えないですう~」
 拗ねたような声に振り向けば、碧眼がじとりと細められて、俺を睨んでる。
 やばい。最近、他の女子に関わりすぎて、ソフィアにフォローを入れるのを、忘れていたんだ。
「細さんの前で、ダダこねてたの、誰だっけ?」
「すまん。俺がガキだったから。そこ蒸し返さないでくれ」
 顔を手で覆って、ペコペコ頭を下げる。
「……頼れる大人?」
 高砂が、唖然としているのがわかる。
「高砂ちゃん。時雨はね~、けっこう騙されやすいから」
 あああ。もう、ソフィアの嫉妬と俺のやるせなさが臨界だ。
「悪かった。だからもうやめてくれ……」

09/04-聖域
「なにやってんだ、お前ら」
 呆れた様子で、エクセルと光がやってきた。珍しい組み合わせだな。
『お姫様のご機嫌を治すいい方法、教えてあげよっか』
 光が、ジャオウの忍だけが使える読唇法で、俺に伝えてくる。
『アナベラを追って、聖域が来たよ』
『聖域』
 ノルンの旅商人たちが、大々的に開く市はそう呼ばれる。いかなる国も、いかなる紛争も、介入を許さない、自由市。だから『聖域』。
 ずっとソフィアも俺も、思い詰めてきたからな。気分転換には丁度いいだろう。
「夕方には帰る」
 それだけ言い残して、ソフィアと手を繋ぐ。
「えっ」
 戸惑う彼女に構わず、屋上を去った。

09/05-救済
『聖域』は、露店を広げる旅商人、草原諸国の氏族、ジャオウやホクナの民だけでなく、ラグナール支配下の自治都市を逃げ出してきた市民たちで賑わっていた。
 商人が物品を提供して、逃げてきた民を救済し、民は持ち腐れの貨幣を放って、売る場所に困った商人を救済する。互助の仕組みが出来上がっているのだ。
「わ、すごい」
 あまりの人出に、ソフィアが驚いている。いや、顔に出さないだけで、正直俺も吃驚してる。
 ラグナールの侵略は、これだけのひとを追い詰めている。だが、これだけのひとびとが、まだ生きることを諦めていないのだと、賑やかな声が飛び交って、教えてくれるんだ。

09/06-極夜
『聖域』を、しばらく行くと、吟遊詩人が、弦楽器を奏でてた。

 ノルンよりはるか北
『終極の冬』の名を持つ地あり
 空から来た星読みの民は
『霧』によって世界と分かたれた
 星読みの民は詠う
 更なる北果ての光景を
 薄明の続く極夜の景色
 今は『霧』にて遮られ

 ああ、なんか、すごい昔、エリオンの里で聞いた気がする。
 世界には、四つの大陸があって、北の大陸は、『霧』に覆われて、出ることも、入ることも、できなくなったって。
 そこに、エリオンと同じように、始祖種ダイナソアがいて、星空を解読することが、できるんだって。

09/07-暁
 吟遊詩人は、更に唄う。

 宵を越えて 暁よ訪れよ
 堕ちし神の もたらした
 呪詛を払い 光呼び寄せ

 思わず、うずうずしてきた。手を繋ぐ時雨も、気づいた、みたい。
「騒ぎになったら、即切り上げるぞ」
 薄く、そう笑って。送り出してくれるように、手を離した。
 しずしずと、踏み出して。ひらりと布を、翻し、一礼。

 たん、と。

 ステップを踏み出す。吟遊詩人が途端に曲調を変えた。神話の時代から、今、ここにいるひとたちを楽しませる、明るい曲調へ。
 ああ、わたし。
 本当に、踊るの、好きだな。
 これも、エリオンの血がもたらすもの、なのかな。

09/08-永遠
 しゃらり、しゃらり。わたしは、踊る。
 吟遊詩人の弦楽器が、心地いい。
 炎のように激しく、水のように穏やかに。大地が震えるがごとく、風が強く吹くように。

『始祖種は、よっつの力を分け合って生きているんだよ』

 遠い昔、誰かが教えてくれた。
 誰だっけ?
 わからないまま、わたしは踊る。
 世界を言祝ぐ、舞を。
 道行くひとが、足を止めて。わたしの舞に、見惚れてる。
 しゃんしゃら、しゃらり。わたしは、笑顔で舞う。
 観衆の最前列で。時雨が微笑んで、わたしを、見ている。
 ああ、この時間が、永遠に続けば、いいのに、な。

09/09-祝祭
 吟遊詩人が、静かに演奏を、終える。わたしも、すうっと、踊りを終えて、優雅に礼をする。
 祝祭、みたいな。拍手と歓声の嵐。
 もう一度、ぺこりと頭、下げて。ひとびとの視界から、外れる。その先には、時雨がいて、手を引いて、その場の熱気から、かき消えるように、立ち去る。さすが忍。気配の消しかた、わかってる。
「楽しそうだったな」
「……わかる?」
「めちゃくちゃ笑顔だった」
 ばれてる。わたし、隠し事、下手なのかなあ。
「あんたの踊り、綺麗だよな」
「アリガトウ、ゴザイマス」
 直球の褒め言葉に、片言になったら。
『だからこそ、あんたはこっちに来ちゃなんねえ』

09/10-逆光
 時雨が、どんな表情、してるか。わからなかった。丁度逆光で、顔が見えない。
 でも、わかるよ。
 お養父さんを、亡くして。姉と慕ったひとを、殺しかけて。失って。
 仕える国は、陥ちて。故郷の期待、背負って。
 どれだけ重荷か、わたしには、本当には、わからない。
 でも、だからこそ。
「逃げない、よ」
 ぎゅっと、時雨の手を、握り込む。
「細さんに、託されたもの。ずっと、時雨のこと、見てる」
 指先が、ぴくり、と震えるのを感じた。
『……野暮なこと、覚えてんなあ』
 観念したように、時雨が、天をあおぐ。
 夕暮れ時の太陽で、あかい輪郭が、彼を彩った。畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

創作,小説

『この大地の上で』08/21~08/30分まとめました。
最初はできるだけ期間ごとに、時雨とソフィアの視点を入れ換えようと思っていたんですが、んなことできなかったよ!!!!!
時雨でないと説明できないこと、ソフィアでないと説明できないことがあって、片方が長くなったりします。

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08/21-要衝
 ソフィアには、後でフォローを入れとかないとな……と思いながら、ヴァイシャが作戦卓上に広げた、草原諸国の地図を皆で囲む。
「草原諸国はフェルガナ族を長にしているが、ラグナールへの最前線は、ニネヴェ族が担っていた。その要衝を奪われたことで、他の氏族もあっという間に崩れていった」
「じゃあ、逆を返せば、ニネヴェの領域を取り戻せば、草原諸国はラグナールを押し返せるか?」
「ああ」
 俺の推測に、ヴァイシャは力強く頷く。
「『元老院』を排除した今、高砂が檄を飛ばせば、ジャオウは従うだろ」
「武具の調達は任せな。伝手はある」
 エクセルとアナベラが、にっと笑った。

08/22-黄昏
「ぼ、ぼくは……」
 名指しされた高砂が、おろおろと狼狽える。
「安心しろよ。何もお前一人が全部やれってんじゃあない」
 エクセルは歯を見せて、俺のほうを向いた。
「ジャオウの『星の忍』にして、ホクナの嫡男。太守代理として後ろ楯になるには充分だ」
 ……やっぱり、そう来たか。ああ、来るよなあ。
「時雨」高砂がおずおず見上げてくる。「助けてくれますか?」
 そう問われて、否を唱えられる立場じゃないんだよなあ。
 覚悟を決めて、高砂の前にひざまずき、拳を胸に。
「『星の忍』の生き方に則り、ホクナの民を導く者として、ラグナールに黄昏をもたらしてみせましょう」

08/23-憑依
「では、詳しい作戦会議は明日に」
 ヴァイシャの一声で、その場は解散した。
 残った一人に、声をかける。
「すまない」
「ううん、だいじょぶ」
 いくら実の故郷を焼いたとはいえ、少しはゼノスに情もあるだろう。それでも、ソフィアは薄く笑って、ふるふる首を横に振る。
「それよりも、さっきの時雨、かっこよかった。なんか、憑依してる、みたいで」
「恭司様と細が後押ししてくれたのかもな」
 冗談めかして言うと、碧眼がじっと見上げてくる。凝視されると、なんだか落ち着かない。
「……あのね」
 一、二回躊躇って、ソフィアは言った。
「お願い、聞いてくれる?」

08/24-形骸
「故郷、行きたいな」
 ソフィアの言う『故郷』は、ラグナールじゃあない。生まれ故郷、エリオンの里だろう。
「だけど」
 思わず言い淀む。里はゼノスに焼かれたんだ。形骸も残っていないかもしれない。
 ソフィアもそれはわかりきっているのだろう。こくり、と頷いて続ける。
「でも、わたしの、はじまりを、知りたい。時雨が、ホクナへ、行ったように」
 そう言われたら、止める権利は俺には無い。自分のルーツを知ることは、前へ進む力になる。
「わかった。草原諸国を解放したらな」
 くしゃりと水色の髪を撫でると、ソフィアの表情がぱっと明るくなり、首に飛びつかれた。

08/25-露見
『元老院』が全員いなくなった。
 ホクナの戦士たちが「少しどついた」結果、恭司様の暗殺についてすべてを吐き出したのだ。
 企みが露見した結果、太守の跡取りを謀殺したこと、ジャオウ陥落時に太守を守らず我先に逃げ出したこと、その他諸々の罪で、自分たちが擁立した新太守の高砂に、処刑を言い渡されたのだ。
 まあ、びくつく彼女に「言ってやれ」と背中を押したのは、俺だが。
「反逆国のハイエナが!」
「呪われろ!」
 処刑場に引っ立てられてきた連中は、俺に恨み言を吐く。
『同じこと、返したるわ』
 ジャオウ語で、笑ってやった。
『せいぜい、奈落で苦しめ』

08/26-堕落
 エリオンの光が、儚く、消える。
「……ごめんなさい」
「貴女が謝ることではない」
 肩を落とす、わたしに、ヴァイシャは首を横に振った。
 彼女の許婚にして、裏切り者、クラナハの、妹。エコー。草原諸国が侵略された時、目を焼かれて、視力、失くした。
 彼女の難はそれだけじゃ、なくて。生まれつき、耳が、聴こえない。そこに見えないから、彼女は今、音も色も無い、暗闇の中。
 肩を落とすわたしの手を、エコーが取って、てのひらに、なにか書く。
 草原諸国の、言葉で。
『ありがとう、ごめんね』
 自堕落でも、なんでもない、こんなに頑張ってる子に、神様は、不平等だ。

#語彙トレ2026 08/27-鳶色
 エリオンの力、使っても。エコーの目を、治せなかった。
 あー……。細さんのこと、思い出しちゃうな。始祖種の癒しの力でも、助けられない人、いる。
 砦の屋上で、ひとり、落ち込んでると。
「草原諸国の夕方は、風邪引くぞ」
 ぱさり、と。ショールが頭から、かけられた。振り向けば、時雨と、もうひとり、鳶色の髪の男の子。
「姉上の言う通り、あなたのせいではありません。むしろ、エコーのために力を尽くしてくださり、ありがとうございます」
 姉上、ってことは、ヴァイシャの弟、か。
「ネルウァと申します。お見知りおきを」
 んー……なんか、違和感。
 彼女と似てない。

08/28-畏怖
「……ああ」
 わたしたちの疑念に、気づいた、のかな。ネルウァが、困った顔して、苦笑する。
「僕はフェルガナの血を引いていないのです。マアサルの翠黛の畏怖を越えてきた傭兵が、父に託した子です」
 マアサルの向こう、ってことは、ラグナールから来た傭兵? でも、あのひとは、傭兵がどこの出身でも、気にしてなかったから、どこの出身かは、わからないな。
「ですが、心は草原にあり、ヨレイアの草の風を愛している。出自に関係無く、姉上を支えたいと思っています」
 すごく、できた子だな。
「お前は強いな」
 同じような感想を、時雨もこぼす。
「俺も、そうでいないと」

08/29-擽る
「わっ」
 ネルウァが突然、変な声、出した。
「エ、エコー、やめ」
 いつの間にか、エコーがむすっとした顔して、こちょこちょ、ネルウァを擽ってる。
 やきもち? でも、エコーは見ることも聴くこともできない、はずで?
「す、すみません」
 ネルウァが困り果てた顔で、エコーの手を取ってやめさせる。
「エコーは、身近な人間や至近距離なら、気配と、何を言っているかを、感じ取る力があるんです」
「ああ、ギフテッド」
 後から来た、エクセルが、納得した様子で頷く。
「草原諸国にはけっこういるっていうからな」
 魔法とは、違う力、なのかな?

08/30-因果
「義兄上……いや、クラナハは、エコーを溺愛していました。姉上のことも、大切に想っていた。誰が見ても、相思相愛でした」
 エコーの肩に手を置いて、ネルウァは語る。エコーも不安げな気配を顔に宿して、ネルウァを見上げている。
「それが、フェルガナが陥ちたあの日に、彼が指揮する部隊の放った炎で、エコーは目を焼かれて。因果な巡り合わせです」
 つまり、兄の裏切りで、妹はぼろぼろになった。
「勝手なもんだな」
 時雨が、怒りを宿した声で、拳、握り締める。
「『元老院』と一緒だ」
「それを止めるために、お前が動くんだろ」
 エクセルが、時雨の肩を叩いた。
「気張れ、弟」

08/31-呪詛
 その頃、ラグナール首都エインゾア。

「陛下」
 クラナハは階の下に跪き、玉座に収まる男に頭を垂れていた。
「必ず、草原諸国を完全に焼き払い、陛下の憂いを断ってみせましょう」
 頬杖をついた男は、喉の奥で嗤ったようだった。
「裏切り者が、また裏切らないようにな」
 その言葉に、クラナハは唇を噛んで、己の左手を見下ろす。甲に血の色で刻まれた、おどろおどろしい刺青を。
「『ユミールの呪詛』に逆らえると思うなよ?」
「……は」
 隷属の証に、これを刻まれた。逆らえば、ヴァイシャやエコーたちにどんな危害が及ぶか。
 黙って離れるしか、無かったのだ。畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

ひとりごと2026年,創作,小説

2026年8月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#語彙トレ2026 『この大地の上で』08/11~08/20まとめを、遅ればせながらしました。
語彙トレで連載する前のゴタゴタを、やっと回収するターンでした。

前→716
次→727

08/11-摩擦
「『元老院』は、時雨が言ってた通り、タヌキジジイどもの巣窟だよ。ヴァイシャを完全になめくさってる。草原諸国とジャオウの摩擦で火が起きるのは、時間の問題だね」
 アナベラさんが、ため息ついて、お手上げ、ってばかりに、両手、掲げる。
 それから、光さん、エクセルと一緒に、時雨とわたしのこと、見た。
「治められるとしたら、あんたたちだよ。各国の重要人物が出てきたら、あのジジイどもも、黙らざるを得ない」
 やっぱり。そうなる、よね。
 ラグナール兵は、わたしの言うこと、聞かない、あのひとが、怖いから。
 でも、時雨と一緒に、草原諸国と交渉は、できるはず。

08/12-上古
「ジャオウとラグナール、草原諸国は、かつて約を交わしていた」
 半月寝っぱなしで、自分の身体、って感覚が、戻らないのかな。ふらふらしてる時雨に、エクセルが肩、貸して、立たせる。
「互いに不可侵であること。だが、いずれかが約を破った時は、残る勢力が手を組み立ち向かうこと。恭司様が言っていた」
「んな上古に、納得するかね? 特に『元老院』は、あんたを表舞台に出したくなさそうだけど」
 アナベラさんが、眉根、寄せるけど。
「納得させる」
 時雨は、きっぱりと言い切った。
『じさまどもにはもう、ご隠居いただく時じゃ』
 ジャオウ語で、にやりと、付け足して。

08/13-忘恩
 ソフィアに支えられ、砦の作戦室へ向かう。
「草原諸国は、ジャオウの鎖国に口を出さずにきた」
 ヴァイシャといったか。草原諸国の盟主は『元老院』に怯まず言い返しているようだ。
「それを無視して『ジャオウに従え』は、忘恩ではないか?」
『元老院』が言い返せずに言葉に詰まってるのがわかる。いい気味だ。
 お前らはこれから、全員、奈落送りにしてやる。恭司様と細、そして死んでいったジャオウとホクナの民全員の仇を、俺が取る。
『じさまども』
 作戦室に踏み込んだ俺は多分、鬼のような形相で笑っていただろう。
『お久しゅうございます』
 爺どもが、一斉に凍りついた。

08/14-萎む
『元「星の忍」もおるかたがたが、太守のおられんとこでジャオウの代表面して虚勢張るとは、皇本家への反逆と取れるが?』
「黙れ! 跡取りでありながらジャオウの体制に逆らおうとした馬鹿息子の飼い犬が!」
 ほら、少し煽れば本性を出す。じさまどもはそういう連中だった。見切れないで、細が恭司様を弑したと疑った自分を恥じる。
「時雨は、ジャオウの『星の忍』としても、ホクナの嫡男としても、太守様を守ろうと最後まで戦いました」
 ソフィアが『ティアナ皇女』の顔をして、凛と言い切る。
「その間、あなたがたは、何をしていましたか? ただ恐怖に萎んで、逃げていませんでしたか?」

08/15-豊穣
「だ、黙れ!」
 爺どものひとりが声を張り上げる。
「ジャオウの豊穣な聖地を狙ってきた、ホクナの腐れどもと、ラグナールの侵略者が、揃いも揃って!」
 そして奴は、自分達の背後で縮こまってた少女を振り返る。
「高砂様! ジャオウ新太守として、こやつらの斬首を命じてくだされ!」
「ぼ、ぼくは……」
 案の定、皇野高砂は縮こまって、しどもどしている。お飾りの太守だ。
「あなたは我々の意図を口にしていれば良いのです!」
 怒声に、高砂がびくりとすくみあがった時。
「高砂」
 落ち着き払った声が、作戦室に凛と響く。
 ああ。エクセルとアナベラが、やってくれたな?

08/16-静寂
「高砂、もう良いのです」
 高砂の母親は、穏やかに我が子に語りかける。
「『元老院』の首魁たる水原長音は、草原諸国の裏切り者、クラナハ・ニネヴェに殺られたんでしょ? 高砂より指揮権のある奴はいないはずだけど?」
 アナベラの挑発に、作戦室が静寂に包まれた。
 ソフィアが俺を見上げる。そうだな、今、やるしかない。
「誰のせいだとか、責任を押し付け合っている場合じゃあない。ゼノスに立ち向かう気概のある同志が、手を組む時だ」
 俺の言葉に、ヴァイシャが興味深そうに眉を跳ね上げる。
「お前は、この爺どもよりは、話が通じそうだな」
『元老院』はすっかり萎縮した。

08/17-錯覚
『元老院』の爺どもは、錯覚でも見ているかのように、揃ってぽかんと口を開けていた。そりゃそうだ。場の主導権をあっという間に持っていかれたんだから。
「ついでに、皇野の奥方が、証言してくれたぜ」
 エクセルが腕組みしてにやりと笑う。
「皇本恭司殿暗殺の真犯人について、旦那から聞いたとな」
 まじか!? 叫びそうになったところに。
「ハッタリ」
 光が小声で囁いた。
「でも、高砂の父君が、水原の尻尾を掴んで、幽閉されたのは事実。『元老院』を崩せる」
 思わず、にやりと笑ってしまうのを自覚する。
 ああ、恭司様、細。
 やっと、あなたたちを陥れた奴らを排除できる。

08/18-翠黛
『じさまどもには、もう大人しゅうしといてもらいましょうか』
 わざとジャオウ語で、とどめを刺す。意気消沈した『元老院』は、劾たちホクナの戦士たちに引っ立てられて、作戦室を出ていった。
「助かった」
 ヴァイシャが、薄い笑みを見せる。
「私では、あのくそ爺どもにやりこめられるところだった」
 そして、俺とソフィア、高砂、エクセル、アナベラと順に見渡して、笑みを消し、神妙な表情になる。
「ラグナールは、マアサルの翠黛を越えて、草原諸国を侵略してきた。その軍を率いていたのは、ラグナールに捕らわれ、行方不明になっていた、私の許婚、クラナハ・ニネヴェだ」

08/19-琥珀
 ヴァイシャは、琥珀色の瞳を憂鬱に曇らせ、語り続ける。
「何故、クラナハがラグナールについたかはわからない。だが、草原諸国の多くの氏族が滅びかけ、奴の妹のエコーも視力を失った。盟主氏族の嫡子といえど、私は各氏族すべての信頼を得ている訳ではない」
 俺と同じか年下だろうに、背負っているものが重すぎる。クラナハという男は、自分の許婚に苦労を押しつけてまで、ラグナールを大陸の覇者にしたいのか?
「わたしを、氏族を説得する、材料にできませんか」
 ソフィアが不意に言い出したので、ぎょっとして見下ろす。
「ラグナールへの盾として、わたしを、使ってください」

08/20-叙情
「わたしは、ティアナ・ラグナール。ゼノスの妹です」
 ソフィアが覚悟を決めて、草原諸国に償おうとしているのがわかる。
「やめ……」「無理をするものではない」
 俺が制止するより早く、ヴァイシャが首を横に振った。
「人質を取って反撃するなど、フェルガナの叙情詩にも乗せられぬ。むしろ、私から皆に助力を願いたいくらいだ」
「……あんた、めちゃくちゃ人間できてるな」
 思わず素直な感想がこぼれると、ヴァイシャが照れくさそうにはにかんだ。こういうところは年相応だな。
「あんまり持ち上げると、嫉妬する奴がいるぞ」
 エクセルに耳打ちされた。まずい。確かに視線を感じる。畳む


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#この大地の上で

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#語彙トレ2026 『この大地の上で』08/01~08/10をまとめました。
第二部開始です。

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08/01-変容
 ジャオウ陥落から、半月が過ぎた。
 その、たった半月の間に、東の大陸は、大きな変容を、見せた。
 鎖国とはいえ、壁になっていたジャオウを失って、都市同盟にも、ラグナール軍が攻め込んだ。
 どこまで侵略されたか。今のわたしたちには、わからない。

 ここは、草原諸国南果ての砦、ルーマン。
 ラグナール軍に、最初に侵略された、草原諸国のひとびとが、反撃の機会をうかがって、生き残りを、集めてる。
 そこに、ジャオウとホクナの生き残りを連れた、アナベラさんの隊商、つまり、わたしたちが、なだれこんだ。
 砦は混乱してるけど。
 草原を渡る風は、他人事の、ようで。

08/02-予言
「事後予言の成就ではないか!」
 砦の廊下を、通った時に、いきりたった老人の怒鳴り声、聞こえた。
「我らが草原の民の予言士は、ジャオウの崩壊を見通していた。差し伸べようとした手を取らなかったのは、そちらの落ち度では?」
 少し、部屋の中が、見える。わたしとそう歳が変わらなそうな、茶髪の女の子。彼女が、草原諸国の盟主、ヴァイシャ・フェルガナ。
 そして、彼女に食いついてるのは、ジャオウの『元老院』の生き残り。
 時雨の、仇たちが、のうのうと、生きている。
 運び込まれた、瀕死の時雨を見るなり、
『厄介者が生きていたのか』
 って、舌打ち、した。

08/03-隠遁
 ジャオウの『元老院』は、隠遁しなかった元忍で、構成されているらしい。勿論、『星の忍』も何人か、入ってる。何人か、なのは、『星の忍』の死亡率が、かなり、高いから。
 細さんが言ってた、『元老院』でも、偉いひと、水原長音、いるか、訊いてみたら。みんな、苦いもの飲んだような顔して、黙り込んだ。
 あ、死んだな。暗殺。わたしにも、わかった。
 というか、シラナミの民も、辺境のひとたちも、たくさんたくさん、犠牲になったのに。なんで、『元老院』は、こんなに生きてるんだろう。
 時雨が知ったら、めちゃくちゃ、怒るだろうな。
 考えながら、砦の一室に、入った。

08/04-掠れる
「……よ」
 エクセルが、普段の飄々さが嘘みたいな、暗い顔して、こっち向いて、手を挙げる。視線を戻す先には、彼の、たったひとりの、弟。
 時雨が、寝台の上で、眠ってる。
 ジャオウが陥ちた、あの日。アナベラさんに、食いついて、シラナミに戻ってもらった。
 城への道の真ん中で、ひどい傷と火傷で、動かなくなってる時雨を見つけた時は、心臓、止まるかと思った。
 その場で応急に、エリオンの力、使って。その後も、何度も、癒しの力、使った。
 おかげで傷は癒えたけど、時雨は、目を覚まさないまま。
「時雨」
 掠れる声で、寝台に取りすがる。
「お寝坊さん。起きてよ」

08/05-白日
「まあ、こいつが目を覚ますまで、俺達は大人しくするしかねえ」
 時雨にすがりつくわたしに、エクセルが、声、かけてくる。
「ジャオウの『元老院』のやらかしを、白日の下に晒すには、こいつの口から全部言わせないと、駄目だ」
 ジャオウ太守跡継ぎの養子で、ホクナの嫡男。たしかに、その立場は、ひとを、動かす。

「そんな呑気なこと言って、その人が起きるのを待つの? その間に『元老院』は、自分たちの失態を消すために先手を打つわよ」

 突然聞こえてきた、女性の声に、わたしと、エクセルは、驚いて振り向く。
「実際、私が舞岡細の『流星』を受け継がされたわ」

08/06-糠雨
 東方には、珍しい。赤みがかった黒髪を、ふたつに結わいてる、女の子。ジャオウ式の服、着てるから、ジャオウ人、なんだろう。
「あたしは嵯峨光(さが ひかる)。父親が『星の忍』だったから、因縁を継がされた形ね」
「『星の忍』は公式処刑かなんかか?」
 エクセルが、ちょっと、皮肉っぽく言う。途端に光さんが、むっとした顔、した。
「ホクナの側室の子は、お口がよろしくないようで」
 あ、これ。似た者同士の同族嫌悪、起きるやつだ。
 窓の外では糠雨がしとしと降ってる。エクセルと光さんは、お互い、睨み合ってる。
「……どういう状況だよ、これ」
 その時、時雨の、声が。

08/07-輪廻
 時雨が。うっすらと。目、開けてる。
 わたしの力を使って、傷が癒えても、『目覚めるかどうか』って、医者も匙投げた、時雨が、起きた。
 思わず、わっ、て泣き出して。時雨に、すがりついた。
 輪廻って、いうんだっけ。天上から地獄まで彷徨うの。ずっと、地獄でもいい。時雨が生きていてくれるなら、わたしは、エリオンの力、時雨のためだけに、使ってもいい。
「……とりあえずさ」
 時雨の手が、ぽんぽんと、わたしの背中を叩く。
「現状を説明してもらっていいか? なんで嵯峨良人(りょうじん)とこの跳ねっ返りまでいるんだよ」
「あんた、恭司様がいないと相変わらずの言い方!」

08/08-浅見
 頬を膨らせる、光さんをよそに、エクセルが、時雨に説明した。
 シラナミは陥ちたこと。アナベラさんの機転で、生き残りは、草原諸国へ、逃げてきたこと。
「劾も無事だ。ソフィアの力と、あいつ自身の異様なしぶとさで、もう戦える」
 それを聞いた時雨は、「そうか、良かった」って薄く笑った。
「良くない」
 光さんが、怒った様子で、拳、握り締める。
「『元老院』はほとんど生きてんのよ。あいつらの浅見で、皇本家の傍流が、『宿星』の『星の忍』になって、お飾りの太守候補にされてる」
 時雨が、表情、険しくして、飛び起きようとして、失敗する。
「皇野高砂……か!?」

08/09-誘惑
「高砂(たかさご)はまだ十二とかだろう」
「おおかた、『元老院』が、『お母様に会えますよ』とか誘惑したんでしょ」
 時雨と光さんの話に、わたしと、エクセルは、顔、見合わせる。
 あ、大体読めた。
 傍流が、本家に反逆しないよう、高砂って子のお母さん、人質に取ってた。それを盾にして、彼? 彼女? どっちかわからないけど、高砂を誘導した。
「で」
 エクセルが、眉間に皺、寄せる。
「こっち側に引き込めそうなのか?」
「父さんが生きてたら、『元老院』を出し抜けたんたけどねえ」
「俺も高砂にはほとんど会ったことが無い」
 光さんと時雨が、同時にため息、ついた。

08/10-均衡
「とにかく、『元老院』に高砂を握らせとくのはまずい。草原諸国との協力の均衡すら壊す」
 時雨が、険しい顔して、唸るように洩らす。
「草原諸国には、ジャオウ・ホクナ連合と対等で接しないとやばい。奴らは氏族の繋がりを重んじる、絆の民だからな。反撃されたらひとたまりもねえぞ」
 エクセルが、腕組みして、目を閉じるけど。
「それが、草原諸国も揺れてるっぽいんだよねえ」
 新たに場に現れたのは、アナベラさんだ。
「どうも、盟主のフェルガナ族の嫡子ヴァイシャの許婚が、草原諸国をラグナールに売ったらしい。それで両氏族の長が死んで、ヴァイシャが今、長に立ってるんだって」畳む


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#この大地の上で

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8月になりました。
橘紀里さんご主催のブルスカ企画 #語彙トレ2026 も、今のところ、今日までの全お題を書いております。

1ヶ月ずれてますが、7月に『この大地の上で』第一部が一旦終わりましたので、その前に書いていた『灰になるまで君を呼ぶ』、『雪が解けて春になる』番外編も込みで、人物紹介と、一気読み用まとめを作りました。
それぞれ別の話ですが、『アルファズル戦記』というひとつのシリーズの別大陸の話なので、語彙トレのレギュレーションは満たしているだろうと、ぽつぽつ書きためて、ここまで来ました。
お盆の頃に~ってお話があったので、作ろう作ろう思ってたら、もう来週お盆やんけ! ということで、慌てて作っています。

雪春はほとんど登場人物の名前を出していないので、誰やねんお前状態ですが、無いよりはいい! の精神でやりました。

以下、人物紹介と、全文(この上は長いので、10日ごとのまとめ記事への目次)への目次を作りましたので、夏休みの時間潰しに目を通していただけると幸いです。

708 『灰になるまで君を呼ぶ』人物紹介
711 『灰になるまで君を呼ぶ』本文
709 『雪が解けて春になる』人物紹介
712 『雪が解けて春になる』番外編
710 『この大地の上で』人物紹介
713 『この大地の上で』目次

#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
#雪が解けて春になる
#この大地の上で
#語彙トレまとめ

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#語彙トレ2026 前半まとめ③
『この大地の上で』人物紹介

目次→714
第一部本文始まり→666

源時雨《みなもと しぐれ》 二十歳
 ノルン大陸にあるジャオウ国の忍。幼い頃、謀反鎮圧で故郷ホクナを失い、ジャオウ太守の息子である皇本恭司《こうもと きょうじ》に命を救われ、養子となる。それに報いるために、ジャオウの忍の中でも高位の『星の忍』となり、青竜刀『星辰』を授かる。
 しかし、閉鎖的なジャオウの跡継ぎでありながら、開国を推し進めようとする恭司を廃そうと画策した『元老院』の陰謀により、恭司は毒殺される。それを、姉弟子の舞岡細《まいおか ささめ》の犯行と『元老院』に吹き込まれ、逃亡した彼女を討つためにジャオウを旅立ち、ソフィアと出会う。

 大切にしている人物の危機に関わるスイッチが入ると、ジャオウ訛りの粗野な口調で『星辰』を振り回して敵を排除する。だが、あくまで普段は親しみやすい、正義感にあふれた好青年。

ソフィア・ジェリング 十八歳
 時雨がとある自治都市で出会った舞姫。ごろつきから絡まれていたのを時雨が助けた時点で彼を気に入っており、恩返しに昼飯をおごったところから、関わりが始まる。
 読点の多い独特な話し方をするが、頭の回転は速く、状況分析も鋭い。
 その正体は、ノルン大陸全土に侵攻しているラグナール皇国の皇王ゼノスの妹ティアナ皇女、の身代わり。本物のティアナは幼い頃に落馬事故で死んでおり、それを受け入れられずに狂ったゼノスが、始祖種エリオンの里を攻めた時に、ティアナに似た容貌のソフィアを『ティアナ』として連れ帰った。
 ゼノスの野望を止める為に、国を飛び出して各地の協力をあおぐべく放浪している。

エクセル・ウォレン 二十三歳。
 自治都市サーリアで出会った傭兵。ソフィアの知人であり、彼女がラグナールを脱出する手助けをした。お互い本当にそれだけの仲だと思っているが、時雨の胸中は穏やかではない。
 ソフィアに「顔が時雨と似てる」と評されていた通り、その正体は、ホクナ国主の遺児で時雨の腹違いの兄。本名を源秋霖《みなもと しゅうりん》という。側室の子のため、国主継承権は正室の子である時雨より低い。
 ホクナの生き残りをとりまとめ、故郷復興の旗頭に立ちつつ、ノルン各地を巡って、ラグナールに対抗する術を探していたが、ソフィアと共にいる時雨に出会い、彼にホクナの民を率いる立場を明け渡す。
 とある失態から「刃物を持てない」という呪いを受けているため、針を武器として戦う。

皇本恭司《こうもと きょうじ》 享年三十六歳
 ジャオウ国太守の長男。次期太守として、ジャオウを開けた国にしようと大望を抱いていたが、その奔放さを疎んじた『元老院』に毒殺された。
 時雨をホクナ滅亡の時に連れ帰り、自分の養子とした。それが、本心からの同情による保護だったのか、ホクナ次期国主と知っていて利用できると思ったからなのかは、本人が亡くなった今、知る術は無い。

舞岡細《まいおか ささめ》 享年二十七歳
 ジャオウ国『星の忍』の一人。苦無『流星』を持つ。
 恭司とは主従以上の関係で、時雨も彼女を姉と慕っていたが、ある日突然、恭司を弑して姿を消す。
 だが、『元老院』の陰謀により、警戒心の強い恭司を油断させるため、彼が信頼する細に毒入りの酒をそれと知らせずに持たせ殺害した、というのが真実であった。
 最期は時雨をラグナール兵からかばって毒を受け、ソフィアに弟を託して息を引き取った。

アナベラ・ハルバーティア 「乙女に年齢を聞くなんて野暮だよ」
 旅の隊商を率いるやり手の女商人。
 サーリアの町で、ジャオウに向かう足を探していた時雨達と偶然出会う。本来は確実に儲かる仕事しかしない現実主義者だが、ジャオウがラグナールに勝つ可能性があると言うエクセルの弁に乗って、旅路を共にする。

紫香楽劾《しがらき がい》 六十七歳
 ホクナの生き残りの長老的存在。国主一家の生き残りであるエクセル=秋霖を主君とあおいでいたが、彼が弟の時雨に主導権を渡すと、真っ先に従った。
 見かけは小柄な老人だが、いまだ体力は衰えておらず、前線に立って戦う力を有している。畳む


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#語彙トレまとめ

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#語彙トレ2026 『この大地の上で』07/21~07/31分をまとめました。第一部完結です。

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07/21-咆哮
 今は寒くない。崩壊した洞穴の近く、雨露をしのげる崖の下で、みんなで掛けものかぶって、寝ていた。
 明日になれば、ジャオウ目指して、進軍が始まる。それでも、お酒に寄ってるおかげか、みんな、すやすや眠ってる。掛けものをかぶり直した時。
 獣の咆哮が、聞こえて。
 時雨とエクセルが、真っ先に飛び起きた。
 ホクナの人たちが、驚いて見上げる上空を、破獣、飛んでる。
 また攻撃しにきたのかって、みんな緊張する。
 だけど、破獣は、二度、三度、上空を旋回して。
 北へ、ジャオウへ向けて飛び去った。
『挑発しおって! こんの下衆野郎が!』
 時雨がジャオウ語で叫んだ。

07/22-衰微
 がたがたと、道無き道を車輪が回って、非戦闘員を乗せた隊商の馬車が駆けてゆく。ホクナの小柄だが筋肉量が半端ない馬を駆った連中が並走する。馬の無い連中も、恐るべき脚力でついてくる。
『ラグナール軍が、ジャオウ首都近くに陣を展開している』
 その情報が、『黒面』という、ホクナの密偵からもたらされた。
 もう、一刻の猶予も無い。俺はアナベラに頭を下げ、ホクナの民に檄を飛ばした。

 道中のジャオウの村々は、ひどい有様だった。人も土地も、衰微しきっている。
 これが、『星の忍』だった頃には見えなかった光景か。恭司様には、見えていたのだろうか。だから、改革を?

07/23-墜落
「時雨様!」
 物見にやっていた劾が、馬にも乗らず、すごい脚力で戻ってきた。
「首都シラナミが、破獣の群れに襲われてまさ! その後からラグナール軍が!」
 ざっと血の気が引くのがわかった。間に合わなかったのか、俺達は。
「櫓の大弓隊が破獣を墜落させてるが、圧されてる。ありゃ時間の問題ですわ!」
 それを聞いて、俺は馬車の御者台にいるアナベラを呼ぶ。さすがに心配そうな彼女に言った。
「非戦闘員を連れて、シラナミからできるだけ離れてくれ」
「アタシはあんたらに賭けたんだよ!? 今更!」
「……頼む。あんたにしか頼めない」
 彼女が、痛恨で泣きそうな顔をした。

07/24-漂泊
 シラナミが、炎の赤と煙の灰に包まれているのが、丘の上から見えた。上空を、破獣が飛び交っている。
『元老院』の陰謀で、恭司様は死んだ。この国に守る価値はあるのかと、心が漂泊したこともあった。
 なのに、今、頭の中で、恭司様が笑うんだ。
『ええ国じゃろ、時雨』
 この丘で、子供の俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、あの方は笑ったんだ。
『おれはこの国の民を、もっと笑顔にしてえ。だから、一緒にジャオウを守ってくれ』
 そのジャオウが、恭司様が守ろうとした笑顔が、燃え落ちようとしている。
「おい、待て、時雨!」
 エクセルの制止も聞かず、『星辰』を手に、駆け出した。

07/25-神威
 シラナミは大混乱の中にあった。逃げ惑う人々に襲いかかる破獣。炎にまかれる人。それらを逃れても、ラグナール兵に斬り捨てられる人。数珠を鳴らして神威にすがっている僧侶がいる。
『あほか! 逃げろ!!』
 敵を叩き斬り、ジャオウ語で怒鳴る。相手は『星辰』を見て、俺が誰か悟ったようだ。
「ど、どうかジャオウを! 太守様を!」
 言いながら僧侶は小走りに去る。
 太守にお会いしたことはほとんど無い。恭司様が意図的に会わせなかったんだろう。父子仲はあまり良くないと小耳に挟んでいたから、俺を染めたくなかったんだろう。
 でも、今。
 太守を守らねば、ジャオウは終わる。

07/26-怨念
 まるで怨念がシラナミを覆っているかのようだ。破獣は絶え間なく飛び交い、ラグナール兵が逃げ遅れた民を刈る。
 助けても、助けても。命は失われ、怨念と化してゆく。
 ソフィア。ごめんな。
 あんたはこんな光景を見たくなくて、ラグナールを命懸けで飛び出したのに。俺はあんたの願いを守りきれなかった。
 何度も俺を癒してくれたのに。俺の心を支えてくれたのに。あんたの舞いは、綺麗だったのに。
 俺は、なにひとつ守れない。
「時雨様!」
 劾の声が耳を貫いて、はっと現実に戻る。
 その時には、破獣が迫っていて。
 劾が俺の前に飛び出し、鋭い爪が皮鎧を容易く砕いた。

07/27-破砕
「劾!」
『星辰』で破獣を叩き斬って、倒れ込んだ小柄な体を抱き起こす。
「へへ……、ヘマやっちまいましたわ」
 血を吐きながら劾は笑う。
「おらには構わねえで、天守へ。なあに、骨の一本二本折れても、心が折れねえのが、ホクナの民ですわ」
「劾の言うことを聞け」
 いつの間にか、傍らに来ていたエクセルが諭してくる。
「お前はジャオウとホクナの希望になるんだ。破獣が城を破砕する前に、太守を助けろ。俺も劾を誰かに任せてから、後を追う」
 そうだ。もう俺一人の命じゃあない。
「……死ぬな」
 ゆらりと立ち上がり、劾に言い置くと、燃え盛る道を再び走り出した。

07/28-晩夏
『どけ、邪魔や!』
 ジャオウ語で怒鳴り、『星辰』を振って、ラグナール兵を、破獣を屠りながら、天守を目指す。晩夏には精霊を送る祭で賑やかに盛り上がるシラナミが、見る影も無いほど破壊されていた。
 恭司様はたぶん、頑固に鎖国する父親を嫌っていただろう。それでも。太守様さえ生きていれば、ジャオウは生き返る、何度でも。
 俺は『星の忍』だ。ジャオウの為に生きなければならない。
 返り血なのか、自分の流した血なのかもわからないまま、『星辰』を振り回して駆ける。
 破獣をまた一体斬り倒した時、目の近くに血がついて顔をしかめた隙に、背中に灼熱の激痛が走った。

07/29-宿縁
 体から力が抜ける。熱を感じながら膝を折る。手放した『星辰』が、乾いた音を立てて地面に落ちる。
『時雨!』
 エクセルの声が遠く聞こえる。
 これが俺の終わりか? 『元老院』への復讐も果たせず、ホクナの民の期待にも応えられないで。恭司様も細の仇も討てないまま。まるで前世の宿縁から逃れられずに、決まっていたみたいじゃあないか。

 ソフィア。
 もうあんたの傍にいられない。あんたの舞いは綺麗なのに、もう、見られない。

「天守に火がついたぞ!」
 ホクナの戦士か、ジャオウの民か。誰かの絶望的な声が耳に届く。
 ああ。
 もう、終わらせてくれ。

07/30-断末魔
 シナラミ城にラグナール軍が押し寄せる中。

「ええい! 護衛は何をしておる!? 『元老院』は!?」
 粋な息子と似ても似つかぬ厳つい顔をした太守は、自分を守るべき者の不在に、焦り散らしていた。
 傍系から幼い者を養子に取って、自分達の傀儡にするからと、生意気な己が子を廃するのを認めたのだ。
 それなのに、城には衛兵がほとんどいない。その大半も、ラグナール兵の前に斬り捨てられている。
「あなたの味方はもういませんよ」
 目の前に現れたのは、ラグナール軍服を着ているが、草原諸国出身とわかる顔立ちの青年。
 彼が抜剣した直後、太守の断末魔が響き渡った。

07/31-双璧
 かつてジャオウ国とホクナ国は、東の大陸東部において、双璧をなす力を持っていた。
 だが、各国と友好を進めるホクナの発展を危ぶんだ、時のジャオウ太守は、辺境の小競り合いを理由にホクナに侵攻、滅亡に至らしめた。
 しかし、因果は巡るのだろうか。
 ホクナ併呑後に鎖国したジャオウの時勢を読む力は衰え、『元老院』の増長を招き、国を守る筆頭『星の忍』も失って、とうとうラグナール軍に攻め滅ぼされた。
 燃え落ちる首都シラナミから、都市連合の隊商の馬車が沢山、北へ向かったというが、本当の行き先を人々が知るのは、しばらく後になる。

(『この大地の上で』第一部 完)畳む


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#語彙トレ2026 『この大地の上で』07/11~07/20分をまとめました。
この進度で12/31に終わるのか!? 私もわかりません!!

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07/11-百雷
 恐らく、劾は主君からこれを託されただけで、中を読んでいなかったんだろう。この経緯を知っていたら、恭司様を恨んだりしていない。エクセルは……わかんねえな。実の兄だってのに、お互いを知らない期間が長すぎたせいで、あいつの頭の中がわからん。
『男女が二人いたら、何でも惚れた腫れたになると思うなよ』
 サーリアでそう耳打ちされたから、本当にソフィアのことは何とも思ってないんだろうが。
「時雨!」
 耳に慣れた声が、俺を現実に引き戻す。
 女衆や護衛に付き添われたソフィアが、目に涙をためて駆けてきたかと思うと、思い切り飛びつかれる。百雷みたいな喝采が起きた。

07/12-昏睡
 やばい。照れている場合じゃない。
「被害は?」
 先頭に立つ劾に問いかけると、ソフィアが不服そうに頬を膨らませたが、今は勘弁してくれ。ホクナの上に立つ人間としてやることがある。
「破獣にやられたのが二名、重傷が五名ほど、昏睡が一人。崩落で、洞穴に残ってた戦闘員は、皆逝っちまいましたわ」
 俺に託した、槍術士の顔が忘れられない。あの男は、俺を主君とあおいで、ホクナの未来を心から望んだんだ。
「彼らを弔おう。俺はホクナ式を知らないから、あんたらのやり方を教えてくれ」
「合点でさ!」
 劾が得意気に拳で胸を叩く。
「それが終わったら、次は、ジャオウだ」

07/13-夜色
「ホクナの夜色は、それはそれは綺麗でしたわあ」
 夜を迎えた空の下、破獣にやられたひと、瓦礫の下から何とか引き出せたひとを、火にくべた。立ち上る煙を見上げながら、劾さんが、ぽつり、呟く。
「わたしも、見たかった、な。時雨の故郷」
「姫さんにも見て欲しかったですわあ。ジャオウの都にも負けん、豪華絢爛な夜でな」
 時雨の隣で、膝を抱えると、劾さんが髭面を、くしゃくしゃにして、笑った。
 救えなかった。癒しの力、持ってるのに。この炎に消えたひと、沢山、いる。わたしを守ってくれた、槍術士さんは、見つからなかった、って。
 悔しい、すごく、悔しいよ。顔を伏せた。

07/14-帰還
「お姫さん、そんなに落ち込むんじゃあないよ」
 いつの間にか、隣にいた、アナベラさんが、ぽんぽんと、わたしの背中を叩く。
「あんたとアタシ達のおかげで、ホクナの希望が帰還したんだと思いな。どうやら連中、湿っぽいのは嫌いらしいよ」
 言われて、アナベラさんの視線を、追う。時雨とエクセルが、ホクナの人達に囲まれて、お酒、飲まされてる。
 あの。だいじょぶ、かな。
 エクセルって、
『飲み過ぎると翌朝五分くらい記憶が飛んで、自我を戻すのに手間なんだよな』
 って、ぼやいてたこと、ある。
 弟だから、時雨も、そんなこと、あるのかな?
 考えたら、なんか笑えてきた。

07/15-追放
「そういえば」
 にこにこ、時雨たちを見守っていたら、アナベラさんが、急に声を低めて、囁いてきた。
「ホクナを追放されて、ゼノスのもとに逃げ込んだ奴がいるって、劾から聞いたんだよ」
 どきり、と。心臓が脈打つ。
 そういえば、ラグナールにいた頃。あのひとの怖さを、見抜いて、早々に降ったひとたち、けっこう、いた。ラグナール人じゃないひとも、いた。
 あのひとたちは、ラグナールにつけば、自分の野望、叶うって、勘違いしてた。
 あのひとは、普通じゃなくなってた、けど、コウモリを許すほど、狂ってはいなかった。
 裏切り者は、みんな、みんな。破獣になったんだ。

07/16-亡霊
『ラグナール王城には巨人の亡霊が出る』
 まことしやかに、飛び交った、噂。
 噂、なんかじゃ、ない。
 破獣にされたひとたちが、城から飛び立つのを、夜に見た誰かの、言葉。
 わたしは、なにも、できなかった。
『ティアナ。もうすぐノルンは、いや、アルファズルは、私たち二人のものになるよ』
 両手を広げて、空をあおいで、恍惚とした表情で、あのひとは、語ってた。
 わたしに、じゃない。
 いつまでも、そのうつろな瞳の先にいる、ティアナの亡霊に、向けて。
 知ってる、よ。
 ティアナが、悲しそうな顔、してたの。
 あれは、本物の、ティアナの亡霊なんだ。

07/17-供養
 気づいた時には、見えてた。あのひとを哀しげに見つめる、わたしにそっくりな、わたしと色の違う、あの子。ティアナ。
 始祖種エリオンなのに、わたしは、亡霊と話せない。あの子の本音、知ることができない。
 でも、その顔が、語ってた。
 自分のせいで、おかしくなっちゃった、大好きなお兄さんを、止めて欲しいんだ、って。
 だからわたしは、ラグナールから、あのひとから、逃げ出した。あのひとを、止めるために。
 もう、言葉を尽くしても、あのひとは、止まらない。なら、言葉の代わりに、刃を振り下ろすしか、ない。
 それが、唯一、ティアナを供養する方法、なんだって。

07/18-結界
「姫さん、そんなん暗い顔ぉしとると、死んだ奴らが安心して極楽に行けねえわ」
 劾さんが、ぽつりと喋り出す。
「結界、言うてな。ホクナではあの世とこの世を分ける境目があるんやわ」
 ホクナの死生観は、ラグナールとは、かなり違う。それは、ジャオウで育った、時雨を見てても、わかる。この辺り、文化が、ノルンでも、かなり独特。
「明るく送ることでな、連中も安心して結界を越えていけるんやわ」
 言われて、ふわふわ、胸に浮かんでくる気持ちが、ある。
「じゃあ」
 久しぶりに、舞の布を翻して、立ち上がる。
「舞姫が、送りますか」
 にっこり笑うと、みんな、拍手してくれた。

07/19-叛逆
 ホクナの人たちの前に、しずしずと、踏み出して。
 ひらり、はらり。ばさり。
 弔いの炎に負けない勢いで、布を翻し、わたしは、踊る。
 ジャオウに叛逆して負けた人たちも。ラグナールに叛逆を望んで逝った人たちも。
 どんな人たちも、ホクナの未来を、夢見ていた。
 だから、願うよ。
 あなたたちの魂が、迷わず天上に……ホクナの死生観では、極楽、かな。そこに、たどり着けるように。
 ゆらり、ざばり。
 緩急をつけて、踊る、踊る。
 さっきまで、お酒を飲んで盛り上がってた人たちも。すっかり静まり返ってる。
 視線の端で、時雨が微笑んで見てくれているのを、みとめた。

07/20-虚像
 舞い終わって。拍手喝采が、わたしに向けられる。
 国と国の関係を思えば、刃、向けられても、おかしくないのに。ホクナの人たちは、残酷なほどに、優しい。誰に、剣を突きつけるか、わかってる。
 戦に関係ある、実像と虚像、区別、ついてる。
「……ありがとうな」
 息を整えてると、背後から、時雨に声、かけられた。
「あんたのおかげで、胆が据わったよ」
「わたし、そんなに、役立った?」
「大いに」
 歯を見せて笑う、その姿に、心臓、どきどき言う。止まれ。違った、静まれ!
「おれはホクナの先頭に立って、ジャオウも守る。虚像の英雄にはならない」
 真顔で、時雨は言った。畳む


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