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#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/11~05/20まとめました。もう5月が終わろうとしているのに! 行動が遅い!
段々記憶力が悪くなって、手を繋いだり離したりまた繋いだりしてます。酷い時はお題を入れ忘れて書き直しました。
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05/11-賢哲
ソフィアが背後を振り返る。びっくりした様子で目をまん丸くして、相手の名を呼ぶ。
「エクセル……」
黒装束に身を包んだ男だった。顔の右半分を長い前髪で隠している。いかにも傭兵然としていて、賢哲からはほど遠そうだ。人のことは言えないが。
「なんで、ここに」
「そりゃこっちの台詞だ」
唖然としたままのソフィアに、エクセルは肩をすくめてみせる。
「自治都市連合を説得するっていうから、連れ出してやったのに。なんでこんなむさいところにいるんだよ」
隻眼が、こちらを向く。
「しかも、ジャオウの人間なんか連れて」
なんか。
なんか?
思わずカチンときた。
#語彙トレ2026 05/12-宿痾
ジャオウはノルンの中でも特に独特な文化を持ち、他国との交流を最低限に抑えて、孤立気味だ。それがジャオウの外からは、「変わり者の国」と侮蔑を受け、外に出たジャオウ人が差別を受ける宿痾になっている。
おおかた、この傭兵も、そういう偏見を持って俺を見ているんだろう。じとりと睨むと。
「そう警戒するなよ、小型犬じゃあるまいに」
男は両手を掲げて肩をすくめてみせた。小型犬とは、また馬鹿にしてくれたものだ。
「待って、時雨。エクセルは、敵じゃ、ない」
俺の腕に、ソフィアがすがりつく。
「エクセルは、わたしが、国を出るのを、手伝ってくれたの」
#語彙トレ2026 05/13-恍惚
「ほええ~」
アルマも感心して、エクセルと呼ばれた男を見上げている。
「兄ちゃんも、歴戦の戦士ってかんじだな~。時雨より強いんじゃない?」
恍惚とすらした様子で口にした言葉に、さっきから感じていた苛立ちが、限界突破した。
『なら、そいつに頼めばええじゃろ!』
ジャオウ語で叫ぶ。
「時雨?」
ソフィアが不思議そうな顔で俺を見てくる。何で俺がキレたのか、わかっていません、という態度が怒りを煽る。
『腕前あればええんじゃろ!? もう俺に頼るな!』
そして一人踵を返す。
「時雨!? 時雨ーっ!?」
振り返りたくなかった。多分、酷い顔をしてるから。
#語彙トレ2026 05/14-撞着
ずかずかと、通りを大股で歩いて、はっと正気に返る。
俺、めちゃくちゃ格好悪くないか?
ソフィアは俺のものじゃない。大事な使命を背負った、自律したひとりの人間だ。ましてや身代わりとはいえ、お姫様だ。俺の知らない過去や事情のひとつやふたつ、背負っていて不思議じゃあない。
細を失った俺に、消えてしまいそうだから、と一緒に来てくれた。そんな彼女を守ろうと思った。
それが、俺の知らないところで出会った男ひとりに嫉妬して、ああそうだ、立派な嫉妬だ、それで見捨てようとするなんて。
『おめえ、そりゃ自家撞着だぞ!』
恭司様がいたら、そう言って大笑いしただろう。
#語彙トレ2026 05/15-昇華
ああ、情けねえ。情けねえな、俺。
恭司様と細が見てたら、腹抱えて爆笑するだろう。
『嫉妬は力に昇華しな』
ひとしきり笑った後で、細ならそう言うだろう。
『……わかってら、ねえさん』
ジャオウ語でひとりごちる。
いきなり置いていって、ソフィアもびっくりしてるだろう。戻って、謝らないと。
踵を返す。人の波を縫って歩く。すると、向こうから、目に馴染んだ水色の髪が近づいてきた。
「……ひとりでうろちょろするな」
「……時雨が、置いてった、せいですう」
ぷくりと頬を膨らませる。その様子がおかしくて、もやもやしていた気持ちが、吹っ飛んでしまった。
#語彙トレ2026 05/16-釈義
少し前。
「ソフィア、お前さ」
時雨が、怒って立ち去った、後。
エクセルが、なんかすごく、すごく、苦いものを食べたような顔で、わたしとアルマを、見下ろした。
「お前を好いてる男の前で、他の男の肩持つな」
「は?」
誰が、わたしを?
……なんて、すっとぼけられるほど、わたしも馬鹿じゃ、ない。
ああ、わたし、時雨に、嫉妬、させたんだ。
「なに。姉ちゃん、あの兄ちゃんとできてんの?」
「まだ! 断じて!!」
アルマが、からかうように、見上げてきたから、思わず大きい声が出た。
エクセルって、ほんと、鋭いんだよねえ。釈義みたいに、わたしを諭してくる。
#語彙トレ2026 05/17-鬱積
わかる。わかるよ。
『姫様は世間のことをおわかりにならなくて、よろしいのです』
わたしの周り、みんなみんな、そう言って、恭しく、頭下げてた。けど。
下手なこと吹き込むと、あのひとに、首、飛ばされるから。見下して、無知の小鳥のまま、囲って。そうしていればいい、って。思ってたに、違いない。
わたしだって、そこまで、馬鹿じゃない。怒りが鬱積して。
だから、国を飛び出した。
そして、ほんとにわたし、無知で無力だなって、思い知った。
時雨がいなかったら、生きてない。
「時雨、追いかける」
言ったら、エクセルは、ぽんぽん、頭を撫でてきた。
#語彙トレ2026 05/18-驟雨
結局、人混みの中で、時雨に会えたけど。
なに、言おうか。
時雨も、ばつが悪そうに、頭かいて、黙ってる。
どっちか、から。なにか、言わなくちゃ。ふよふよ、思考をさまよわせていると。ぽつ、とつむじに、水滴が当たって。
ざあっ、て。
にわか雨が降りだした。
『驟雨かよ!』
時雨が、ジャオウ語で舌打ちして、急に、わたしの手を、握る。
「とりあえず、雨宿りするぞ!」
「う、うん!」
慌てて家路を急ぐ、ひとたちの合間を縫って。あっという間に、道にできる、水たまりを、蹴って。
わたしたちは、ふたりで、駆ける。
なんか、どきどき、した。
#語彙トレ2026 05/19-湿潤
適当な、家の軒先を、傘代わりに。
「しばらくやみそうにないな」
夏先の湿潤もあって、しっとり濡れた、髪をかきあげながら、時雨が言う。
わたしの心臓は、ばくばく言う。
いえ、あの。手。
繋いだまま、なんだな。
気づいて、ない?
「時雨、あの」
「なんだ?」
これは、ほんとに、無意識、なの? 見上げても、不思議そうに、見下ろしてくる。
先をどう続けよう、か。迷っていたら。時雨は、今気づいたみたいに、ゆっくり、視線を下ろして。
『わ、悪ィ!』
咄嗟に、ジャオウ語が飛び出しながら、手を離した。
「う、ううん」
あー、わたし、絶対、顔、赤い。
#語彙トレ2026 05/20-眩暈
「あ、あの、ね。時雨」
繋いだ手を、きゅっ、と握りしめて。どきどき心臓が騒ぐのを、自覚する。
「エクセルは、ほんとあの、お兄さんみたいな、もので。なんとも、思ってない、から」
なに、言い訳してるんだろ。あ、なんか、ふわふわ、眩暈してきた。ひっくり返りそう。
「いや、俺もいきなり怒って、済まなかった」
「でも、わたし」
「いや俺が」
堂々巡りに、なりそうになって、思わず、顔を見合わせる。
わたしたち、ふたりとも、ぽかん、としてる。
思わず、ふたり同時に、吹き出す。
「喧嘩両成敗ってことで」
「うん」
雨は、意外と早く、やみそうだった。畳む
#アルファズル戦記
#この大地の上で
段々記憶力が悪くなって、手を繋いだり離したりまた繋いだりしてます。酷い時はお題を入れ忘れて書き直しました。
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05/11-賢哲
ソフィアが背後を振り返る。びっくりした様子で目をまん丸くして、相手の名を呼ぶ。
「エクセル……」
黒装束に身を包んだ男だった。顔の右半分を長い前髪で隠している。いかにも傭兵然としていて、賢哲からはほど遠そうだ。人のことは言えないが。
「なんで、ここに」
「そりゃこっちの台詞だ」
唖然としたままのソフィアに、エクセルは肩をすくめてみせる。
「自治都市連合を説得するっていうから、連れ出してやったのに。なんでこんなむさいところにいるんだよ」
隻眼が、こちらを向く。
「しかも、ジャオウの人間なんか連れて」
なんか。
なんか?
思わずカチンときた。
#語彙トレ2026 05/12-宿痾
ジャオウはノルンの中でも特に独特な文化を持ち、他国との交流を最低限に抑えて、孤立気味だ。それがジャオウの外からは、「変わり者の国」と侮蔑を受け、外に出たジャオウ人が差別を受ける宿痾になっている。
おおかた、この傭兵も、そういう偏見を持って俺を見ているんだろう。じとりと睨むと。
「そう警戒するなよ、小型犬じゃあるまいに」
男は両手を掲げて肩をすくめてみせた。小型犬とは、また馬鹿にしてくれたものだ。
「待って、時雨。エクセルは、敵じゃ、ない」
俺の腕に、ソフィアがすがりつく。
「エクセルは、わたしが、国を出るのを、手伝ってくれたの」
#語彙トレ2026 05/13-恍惚
「ほええ~」
アルマも感心して、エクセルと呼ばれた男を見上げている。
「兄ちゃんも、歴戦の戦士ってかんじだな~。時雨より強いんじゃない?」
恍惚とすらした様子で口にした言葉に、さっきから感じていた苛立ちが、限界突破した。
『なら、そいつに頼めばええじゃろ!』
ジャオウ語で叫ぶ。
「時雨?」
ソフィアが不思議そうな顔で俺を見てくる。何で俺がキレたのか、わかっていません、という態度が怒りを煽る。
『腕前あればええんじゃろ!? もう俺に頼るな!』
そして一人踵を返す。
「時雨!? 時雨ーっ!?」
振り返りたくなかった。多分、酷い顔をしてるから。
#語彙トレ2026 05/14-撞着
ずかずかと、通りを大股で歩いて、はっと正気に返る。
俺、めちゃくちゃ格好悪くないか?
ソフィアは俺のものじゃない。大事な使命を背負った、自律したひとりの人間だ。ましてや身代わりとはいえ、お姫様だ。俺の知らない過去や事情のひとつやふたつ、背負っていて不思議じゃあない。
細を失った俺に、消えてしまいそうだから、と一緒に来てくれた。そんな彼女を守ろうと思った。
それが、俺の知らないところで出会った男ひとりに嫉妬して、ああそうだ、立派な嫉妬だ、それで見捨てようとするなんて。
『おめえ、そりゃ自家撞着だぞ!』
恭司様がいたら、そう言って大笑いしただろう。
#語彙トレ2026 05/15-昇華
ああ、情けねえ。情けねえな、俺。
恭司様と細が見てたら、腹抱えて爆笑するだろう。
『嫉妬は力に昇華しな』
ひとしきり笑った後で、細ならそう言うだろう。
『……わかってら、ねえさん』
ジャオウ語でひとりごちる。
いきなり置いていって、ソフィアもびっくりしてるだろう。戻って、謝らないと。
踵を返す。人の波を縫って歩く。すると、向こうから、目に馴染んだ水色の髪が近づいてきた。
「……ひとりでうろちょろするな」
「……時雨が、置いてった、せいですう」
ぷくりと頬を膨らませる。その様子がおかしくて、もやもやしていた気持ちが、吹っ飛んでしまった。
#語彙トレ2026 05/16-釈義
少し前。
「ソフィア、お前さ」
時雨が、怒って立ち去った、後。
エクセルが、なんかすごく、すごく、苦いものを食べたような顔で、わたしとアルマを、見下ろした。
「お前を好いてる男の前で、他の男の肩持つな」
「は?」
誰が、わたしを?
……なんて、すっとぼけられるほど、わたしも馬鹿じゃ、ない。
ああ、わたし、時雨に、嫉妬、させたんだ。
「なに。姉ちゃん、あの兄ちゃんとできてんの?」
「まだ! 断じて!!」
アルマが、からかうように、見上げてきたから、思わず大きい声が出た。
エクセルって、ほんと、鋭いんだよねえ。釈義みたいに、わたしを諭してくる。
#語彙トレ2026 05/17-鬱積
わかる。わかるよ。
『姫様は世間のことをおわかりにならなくて、よろしいのです』
わたしの周り、みんなみんな、そう言って、恭しく、頭下げてた。けど。
下手なこと吹き込むと、あのひとに、首、飛ばされるから。見下して、無知の小鳥のまま、囲って。そうしていればいい、って。思ってたに、違いない。
わたしだって、そこまで、馬鹿じゃない。怒りが鬱積して。
だから、国を飛び出した。
そして、ほんとにわたし、無知で無力だなって、思い知った。
時雨がいなかったら、生きてない。
「時雨、追いかける」
言ったら、エクセルは、ぽんぽん、頭を撫でてきた。
#語彙トレ2026 05/18-驟雨
結局、人混みの中で、時雨に会えたけど。
なに、言おうか。
時雨も、ばつが悪そうに、頭かいて、黙ってる。
どっちか、から。なにか、言わなくちゃ。ふよふよ、思考をさまよわせていると。ぽつ、とつむじに、水滴が当たって。
ざあっ、て。
にわか雨が降りだした。
『驟雨かよ!』
時雨が、ジャオウ語で舌打ちして、急に、わたしの手を、握る。
「とりあえず、雨宿りするぞ!」
「う、うん!」
慌てて家路を急ぐ、ひとたちの合間を縫って。あっという間に、道にできる、水たまりを、蹴って。
わたしたちは、ふたりで、駆ける。
なんか、どきどき、した。
#語彙トレ2026 05/19-湿潤
適当な、家の軒先を、傘代わりに。
「しばらくやみそうにないな」
夏先の湿潤もあって、しっとり濡れた、髪をかきあげながら、時雨が言う。
わたしの心臓は、ばくばく言う。
いえ、あの。手。
繋いだまま、なんだな。
気づいて、ない?
「時雨、あの」
「なんだ?」
これは、ほんとに、無意識、なの? 見上げても、不思議そうに、見下ろしてくる。
先をどう続けよう、か。迷っていたら。時雨は、今気づいたみたいに、ゆっくり、視線を下ろして。
『わ、悪ィ!』
咄嗟に、ジャオウ語が飛び出しながら、手を離した。
「う、ううん」
あー、わたし、絶対、顔、赤い。
#語彙トレ2026 05/20-眩暈
「あ、あの、ね。時雨」
繋いだ手を、きゅっ、と握りしめて。どきどき心臓が騒ぐのを、自覚する。
「エクセルは、ほんとあの、お兄さんみたいな、もので。なんとも、思ってない、から」
なに、言い訳してるんだろ。あ、なんか、ふわふわ、眩暈してきた。ひっくり返りそう。
「いや、俺もいきなり怒って、済まなかった」
「でも、わたし」
「いや俺が」
堂々巡りに、なりそうになって、思わず、顔を見合わせる。
わたしたち、ふたりとも、ぽかん、としてる。
思わず、ふたり同時に、吹き出す。
「喧嘩両成敗ってことで」
「うん」
雨は、意外と早く、やみそうだった。畳む
#アルファズル戦記
#この大地の上で
#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/01~05/10分をまとめるのを忘れていました!
アルファズル4大陸で唯一、一度も最後まで書いていない状態になった、東の大陸ノルンの物語です。
基本的には、源時雨(みなもと しぐれ)という青年と、ソフィア・ジェリングという少女のふたりの視点で交互に進みます。
次→676
05/01-青嵐
『「風青し」という表現がある。初夏の薫風を表す、「青嵐」とも呼ばれるものだ。
だが、東の大陸ノルンを駆けた英雄は、そんな優しい風ではないだろう。
時雨の名を持ちながら、激しい雷雨のように戦った「星の忍」。
茫洋としながらも、心に燃え上がる炎を飼っていた、碧色の舞姫。
碧嵐とも称すべきふたりの歩んだ道の記録は散逸して、集めるのに非常に苦労した。初期の出会い以降の物語は、大陸各地を巡ってようやく集ったのだ。
これから語ろう。この大地の上で駆け抜けた、雨と風の軌跡を』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記』東の大陸編)
05/02-沈黙
沈黙は時に饒舌より雄弁にものを語る。
『星の忍』の武器の一『流星』の苦無と、最早何も語らない遺髪を握り締める。
俺の養父であり、主君であった、ジャオウ国太守長男の恭司様を暗殺したと思った女を追って、国を出た。
だがそれは、親恭司派の俺達が潰し合うことを望んだ、『元老院』の仕組んだ筋書きだった。
細(ささめ)。
『元老院』に乗せられた愚かな俺の姉を最期まで貫いて、俺をかばって逝った、ねえさん。
どうか、恭司様と共に、天上から見守っていてくれ。
俺が、あのくそじじいどもを、光も音も無い、沈黙の地獄の底へ叩き落とす様を。
05/03-閃光
閃光のように、青竜刀『星辰』が、煌めいて。
あっという間に、野盗たちは、地面に倒れ伏していた。
厳しい表情をしてる、横顔が、こちらを向くにつれて、険を治めてく。
「大丈夫か」
「う、うん。ありがと、時雨」
わたしたちは、ダナスタン自治都市連合、東の都市サーリアを、目指してる。でも、楽な道中じゃあ、ない。ラグナール皇国の、兵士くずれが、跋扈してる。
一応その国のお姫様、って立場としては、情けないことこの上無い、んだけど。
それだけ兵士たちも、あのひとを信じてない、ってこと。
早く、ジャオウに、行かないと。
あの国も、呑み込まれる、前に。
05/04-拘束
それは、ふたりの旅路からは少し離れた場所で。
「はい、おつかれさん」
黒衣の男は、短剣のような針を手元でくるくる回して、マントの下に納めた。年の頃は二十代半ばほどか。顔の右半分を長い前髪で隠して、残った隻眼は、拘束された野盗たちを見据えている。
「天下のラグナール兵が、堕ちたもんだな」
焦茶色の瞳を鋭く細めて、ならず者たちを見下す言葉を吐く男に、町長がおずおずと革袋を差し出す。
「あ、ありがとうございました。これはわずかばかりながら」
「あー、じゃあ、これだけ」
男は革袋の口元の金貨数枚を握り締める。
「金なんて、天上に持っていけないからな」
05/05-憐憫
自治都市連合東のサーリアに着いた。ここを過ぎればナザル山を越えて、ジャオウ国が見えてくる。
「はぐれるなよ」「う、うん」
街の人出がすごくて、ソフィアの手を引きながら人波の間を縫っていると、前から来た子供にぶつかられた。
だが、相手が悪い。俺は『星の忍』だ。そこらの呑気な通行人じゃあない。空いていた手で子供の襟首を引っ掴む。
「は、離せよ!」
「じゃあ、お前の手にしてる物を返してもらおうか」
敢えて財布を掴ませて、言い逃れができないようにしたのだ。
だが。
「時雨」
ソフィアが、憐憫を宿した瞳を向けてきた。
「離して、あげて」
05/06-閉塞
「話、聞いてあげよう、ね?」
ソフィアが小首を傾げる。そのお願いのされ方をすると、俺が却下できないとわかっていてだ。逃げ道を閉塞されている。
「おい、小僧」
襟首から手を離した瞬間に財布を取り戻して、子どもを睨み下ろす。
「こんなわかりやすいスリの仕方があるか。これが貴族だったら、吊るされてるぞ」
「それでも!」
子どもは目一杯に涙をためて、声を張り上げる。
「父ちゃんも母ちゃんもいないから、おれがやるしかないんだ! 妹と弟たちのために!」
そして、悔しそうに拳を握り締めた。
「おれに武術大会に出る力があれば、こんなことしなかったのに」
05/07-変異
「武術大会?」
眉をひそめると、子どもは両手を振って、必死に説明を始めた。
「サーリアでは、半年に一回、腕に覚えのあるやつらが集まって、戦うんだ。優勝者にはすげえ賞金が出る」
成程。納得がいった。
子どもの目が、『お前が代わりに出てくれ』と訴えている。
「兄ちゃん、あの速さ、普通じゃねえよ。腕っぷしもとんでもないんだろ」
「人を変異体みたいに言うな」
スリを働いた上に、ジャオウへの帰国の足を引っ張るような、無関係のガキに付き合ってる暇は無い。
言いたい。そう言ってやりたいんだが。
「時雨」
ソフィアが裾を掴む。そうだよな。ああ、そうだよなあ。
05/08-転生
「この子の、代わりに、ね。武術大会、出てあげて?」
ソフィアが碧眼で訴えかけてくる。反対側では子どもが期待に満ちた目で俺を見上げている。
……ガキふたりにすがられているみたいだ。
おれは深々と溜息を吐き出す。
「旅の邪魔になるって思ったら、途中でも投げ出すからな」
それでもふたりには十分だったようだ。花が咲くように表情が明るくなる。なんでソフィアまでなるんだよ。
「あ、でも、気をつけて」
子どもが眉根を寄せる。
「すげえ強い奴がいるんだ。『転生のホロウ』って、致命傷を負っても何度も復活するんだって」
……そういうのは先に言え。
05/09-饒舌
スリの子どももとい、
「おれにはアルマってれっきとした名前があるんだい!」
と言い張ったアルマを伴って、武術大会受付まで来た。その道中、アルマはやたら饒舌だった。それはもうめちゃくちゃ喋った。
酒飲みの父親が酔っ払って橋から落ちて死んだこと。子どもたちを養おうとした母親も、過労で帰らぬ人になったこと。弟がふたり、妹がひとりいる、長女であること。普通には働かせてもらえないから、スリをしていたこと。訊いてもいないのに、自分から喋った。あと、小汚い格好をしてるから、小僧だと思ってたので、めちゃくちゃ驚いた。
「時雨。失礼」
ソフィアにはじとりと睨まれた。
05/10-遡行
出場者も観客もぎゅうぎゅうに行き交う中を、鮭の遡行のように受付へ向かう。
「兄さんが出るのか?」
受付の、本人が歴戦の戦士のような傷痕だらけの禿頭の男が、ペンで机の上の名簿を叩く。名前を書けってことか。
ジャオウ語で『源時雨』と書いたら、「読めねえよ」と嫌味を言われたので、むっとしながらノルン共用語で書き直した。よく耐えた、俺。
「わたしも、出ようかな」
「ソフィア姉ちゃんも戦えるの!?」
「やめろ。マジでやめてくれ。俺の胃がもたない」
呑気なソフィアに、アルマが食いついている。すると。
「……ソフィア?」
背後から男の声が、ソフィアを呼んだ。畳む
#アルファズル戦記
#この大地の上で
アルファズル4大陸で唯一、一度も最後まで書いていない状態になった、東の大陸ノルンの物語です。
基本的には、源時雨(みなもと しぐれ)という青年と、ソフィア・ジェリングという少女のふたりの視点で交互に進みます。
次→676
05/01-青嵐
『「風青し」という表現がある。初夏の薫風を表す、「青嵐」とも呼ばれるものだ。
だが、東の大陸ノルンを駆けた英雄は、そんな優しい風ではないだろう。
時雨の名を持ちながら、激しい雷雨のように戦った「星の忍」。
茫洋としながらも、心に燃え上がる炎を飼っていた、碧色の舞姫。
碧嵐とも称すべきふたりの歩んだ道の記録は散逸して、集めるのに非常に苦労した。初期の出会い以降の物語は、大陸各地を巡ってようやく集ったのだ。
これから語ろう。この大地の上で駆け抜けた、雨と風の軌跡を』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記』東の大陸編)
05/02-沈黙
沈黙は時に饒舌より雄弁にものを語る。
『星の忍』の武器の一『流星』の苦無と、最早何も語らない遺髪を握り締める。
俺の養父であり、主君であった、ジャオウ国太守長男の恭司様を暗殺したと思った女を追って、国を出た。
だがそれは、親恭司派の俺達が潰し合うことを望んだ、『元老院』の仕組んだ筋書きだった。
細(ささめ)。
『元老院』に乗せられた愚かな俺の姉を最期まで貫いて、俺をかばって逝った、ねえさん。
どうか、恭司様と共に、天上から見守っていてくれ。
俺が、あのくそじじいどもを、光も音も無い、沈黙の地獄の底へ叩き落とす様を。
05/03-閃光
閃光のように、青竜刀『星辰』が、煌めいて。
あっという間に、野盗たちは、地面に倒れ伏していた。
厳しい表情をしてる、横顔が、こちらを向くにつれて、険を治めてく。
「大丈夫か」
「う、うん。ありがと、時雨」
わたしたちは、ダナスタン自治都市連合、東の都市サーリアを、目指してる。でも、楽な道中じゃあ、ない。ラグナール皇国の、兵士くずれが、跋扈してる。
一応その国のお姫様、って立場としては、情けないことこの上無い、んだけど。
それだけ兵士たちも、あのひとを信じてない、ってこと。
早く、ジャオウに、行かないと。
あの国も、呑み込まれる、前に。
05/04-拘束
それは、ふたりの旅路からは少し離れた場所で。
「はい、おつかれさん」
黒衣の男は、短剣のような針を手元でくるくる回して、マントの下に納めた。年の頃は二十代半ばほどか。顔の右半分を長い前髪で隠して、残った隻眼は、拘束された野盗たちを見据えている。
「天下のラグナール兵が、堕ちたもんだな」
焦茶色の瞳を鋭く細めて、ならず者たちを見下す言葉を吐く男に、町長がおずおずと革袋を差し出す。
「あ、ありがとうございました。これはわずかばかりながら」
「あー、じゃあ、これだけ」
男は革袋の口元の金貨数枚を握り締める。
「金なんて、天上に持っていけないからな」
05/05-憐憫
自治都市連合東のサーリアに着いた。ここを過ぎればナザル山を越えて、ジャオウ国が見えてくる。
「はぐれるなよ」「う、うん」
街の人出がすごくて、ソフィアの手を引きながら人波の間を縫っていると、前から来た子供にぶつかられた。
だが、相手が悪い。俺は『星の忍』だ。そこらの呑気な通行人じゃあない。空いていた手で子供の襟首を引っ掴む。
「は、離せよ!」
「じゃあ、お前の手にしてる物を返してもらおうか」
敢えて財布を掴ませて、言い逃れができないようにしたのだ。
だが。
「時雨」
ソフィアが、憐憫を宿した瞳を向けてきた。
「離して、あげて」
05/06-閉塞
「話、聞いてあげよう、ね?」
ソフィアが小首を傾げる。そのお願いのされ方をすると、俺が却下できないとわかっていてだ。逃げ道を閉塞されている。
「おい、小僧」
襟首から手を離した瞬間に財布を取り戻して、子どもを睨み下ろす。
「こんなわかりやすいスリの仕方があるか。これが貴族だったら、吊るされてるぞ」
「それでも!」
子どもは目一杯に涙をためて、声を張り上げる。
「父ちゃんも母ちゃんもいないから、おれがやるしかないんだ! 妹と弟たちのために!」
そして、悔しそうに拳を握り締めた。
「おれに武術大会に出る力があれば、こんなことしなかったのに」
05/07-変異
「武術大会?」
眉をひそめると、子どもは両手を振って、必死に説明を始めた。
「サーリアでは、半年に一回、腕に覚えのあるやつらが集まって、戦うんだ。優勝者にはすげえ賞金が出る」
成程。納得がいった。
子どもの目が、『お前が代わりに出てくれ』と訴えている。
「兄ちゃん、あの速さ、普通じゃねえよ。腕っぷしもとんでもないんだろ」
「人を変異体みたいに言うな」
スリを働いた上に、ジャオウへの帰国の足を引っ張るような、無関係のガキに付き合ってる暇は無い。
言いたい。そう言ってやりたいんだが。
「時雨」
ソフィアが裾を掴む。そうだよな。ああ、そうだよなあ。
05/08-転生
「この子の、代わりに、ね。武術大会、出てあげて?」
ソフィアが碧眼で訴えかけてくる。反対側では子どもが期待に満ちた目で俺を見上げている。
……ガキふたりにすがられているみたいだ。
おれは深々と溜息を吐き出す。
「旅の邪魔になるって思ったら、途中でも投げ出すからな」
それでもふたりには十分だったようだ。花が咲くように表情が明るくなる。なんでソフィアまでなるんだよ。
「あ、でも、気をつけて」
子どもが眉根を寄せる。
「すげえ強い奴がいるんだ。『転生のホロウ』って、致命傷を負っても何度も復活するんだって」
……そういうのは先に言え。
05/09-饒舌
スリの子どももとい、
「おれにはアルマってれっきとした名前があるんだい!」
と言い張ったアルマを伴って、武術大会受付まで来た。その道中、アルマはやたら饒舌だった。それはもうめちゃくちゃ喋った。
酒飲みの父親が酔っ払って橋から落ちて死んだこと。子どもたちを養おうとした母親も、過労で帰らぬ人になったこと。弟がふたり、妹がひとりいる、長女であること。普通には働かせてもらえないから、スリをしていたこと。訊いてもいないのに、自分から喋った。あと、小汚い格好をしてるから、小僧だと思ってたので、めちゃくちゃ驚いた。
「時雨。失礼」
ソフィアにはじとりと睨まれた。
05/10-遡行
出場者も観客もぎゅうぎゅうに行き交う中を、鮭の遡行のように受付へ向かう。
「兄さんが出るのか?」
受付の、本人が歴戦の戦士のような傷痕だらけの禿頭の男が、ペンで机の上の名簿を叩く。名前を書けってことか。
ジャオウ語で『源時雨』と書いたら、「読めねえよ」と嫌味を言われたので、むっとしながらノルン共用語で書き直した。よく耐えた、俺。
「わたしも、出ようかな」
「ソフィア姉ちゃんも戦えるの!?」
「やめろ。マジでやめてくれ。俺の胃がもたない」
呑気なソフィアに、アルマが食いついている。すると。
「……ソフィア?」
背後から男の声が、ソフィアを呼んだ。畳む
#アルファズル戦記
#この大地の上で
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前日の内容すら覚えてないから、矛盾が生じているところが多々ありますね!!
長編に直す時に全部辻褄合わせます!!
05/21-夕凪
雨が、小降りになって。あかい、太陽が、雲間から顔を見せる。
「やんだな」
夕凪みたいに静まり返った空を、時雨が見上げる。
「アルマ……あのガキも迎えにいってやらないといけないか。あまり気は進まないけど、引き受けたもんは最後までやるのが、ジャオウの忍だ」
「そういうとこ、真面目、なんだよねえ、時雨」
「あんたがけしかけたんだぞ」
「まあ、まあ、ごめんって」
笑い合いながら。空から、前に視線を向けて。
手が、自然に、離れて。
わたしたちは、歩き出す。
雨が過ぎれば、手を離す。わたしたちは、そういう仲。
時雨も、使命が終われば、さよなら、なんだ。
05/22-可憐
武術大会受付で、エクセルは、律儀に待っててくれた。アルマも、いっしょ。独りにできなかった、んだろうなあ。そういうお人好しなとこ、時雨に、似てる。
そう、思ったとこで、ふと、時雨と、エクセルを、見比べる。
似て、ない?
所作とか、性格だけじゃなくて、顔とか。
「おんや、こんな可憐な姉ちゃんが、こんなむさいところにご用事かい?」
思考を、断ち切るように。明らかに酔った声と、くさい息が吹きかかる。
「金が欲しいなら、このホロウに賭けな! 分け前はたっぷりやるよ! 俺様の言うことを聞くならな!」
うわ、このひとが『転生のホロウ』なんだ。
さいあく。
05/23-不穏
「おい、おっさん」
ホロウと、わたしの、間に。時雨が、割って入る。
「ひとの連れに言い寄るの、やめてくれないか」
「あーん? なんだ、ガキが」
ホロウが、太い眉、跳ね上げて。時雨と、睨み合う。あ、なんか、不穏な雰囲気。
「まあまあ、落ち着けよ。ふたりとも」
一触即発のところに、エクセルが、にこにこ笑いながら、声をかける。
「それこそ、武術大会で決着つけりゃ、いい話だろ」
ホロウが、なんか、青い顔した。
「お前ら、その顔、覚えとくぞ」
舌打ちしながら、立ち去る。
時雨が、苦い顔して、エクセルを、もとい、その手に隠し持った、針を見た。
05/24-虚ろ
「あんた、抜け目が無いというか、物騒だな」
時雨が、呆れて、エクセルに向けて、肩をすくめてみせる。
「『転生の』とか言いながら『虚ろ(ホロウ)』なんて、黒歴史みたいな名前のやつに、ろくなのはいないだろうからな」
エクセルは、にっと、笑い返して、マントの下に針をしまう。あのマント、すんごい数の、針、入ってるんだよねえ。エクセルの武器、針だから。
『剣は持てない』って、言ってたっけ。
そのエクセルが、不意に、時雨の肩を抱いて、なんか、耳打ちする。
『お節介かおめえは!?』
時雨が、顔を真っ赤にして、ジャオウ語で叫ぶ。
なに、してんの。あのふたり?
05/25-葛藤
「じゃあな、ソフィア。また試合の時に」
時雨から離れたエクセルが、ひらひら、手を振って、立ち去る。
時雨は、といえば、なんか、葛藤してるみたいに、あたま抱えてる。
……と思ったら。
『言われるまでもねえんだよ』
開き直って、顔、上げた。
「とりあえず、しばらくサーリアに滞在するなら、宿を取らないとな。夜が更けて部屋が埋まる前に行こう」
「あ、じゃあ、うち来いよ!」
それまで、おとなしくしてた、アルマが、挙手する。
「何もないけど」
「言葉のまんまだろ」
その頭を、時雨が、こつんと小突いた。
「ガキが大人に気を遣うな」
05/26-夏木立
「本当に、こっちが家なのか?」
「そうだよ!」
夏木立の中に消えてゆくようにしか見えない、家なんて無さそうな景色に、微かな不安を覚える。それでも、アルマは、怖いものなんて何も無いとばかりに、胸を張るのだ。
「じゃあな、時雨兄ちゃん、ソフィア姉ちゃん! 明日、会場で!」
元気に手を振り、アルマは走り去る。そこに一瞬、黒い影が重なったような気がして、目をこする。
アルマの背中は遠ざかってゆくばかりだった。
おかしい。俺に魔法の才能なんて無いのに、何を見たんだ?
「アルマに、ごはん、持たせてあげれば、よかったかなあ」
ソフィアには、見えなかったのか?
05/27-閉門
サーリア閉門の時間が過ぎた。これから先は、人の出入りの無い、閉じた都市内での享楽の時間だ。
だが、誰かの人生がかかっている試合の前に、酒なんか浴びてる場合じゃない。そもそも、酒は最悪の思い出を呼び起こす。
『元老院』に叩き起こされていった時には、もう棺桶の中だった、恭司様。姿を消した細が下手人だと吹き込まれて、冷静な判断ができなくなっていた俺は、真に受けた。
細がそんなことをする理由なんて、ひとっつも無かったのに。俺は幼稚だった。
寝台に腰かけたまま、両手で顔を覆うと、客室の扉を叩く音がした。
「ソフィア?」
一応訊ねるが、足音が違うな、これ。
05/28-揺藍
「兄ちゃん、おれだよ」
アルマの声がした。
「なあ、開けてよ。妹が泣き止まなくてさ。こっちで寝かせてよ」
揺藍の中の赤子が泣き声を立てる様子が脳裏に浮かぶ。眉間を押さえて、ゆっくりと立ち上がり、扉の鍵を開けて。
扉が開いた瞬間、青竜刀『星辰』を振り抜いた。
暗がりで、誰のものかわからない首が飛びながら、「はっはは!」と、野太い男の声で笑った。
「『転生』に騙されなかったのは、おまえが初めてだぜ、小僧!」
「アルマをどうした」
廊下の暗さに目が慣れてくる。細い少女はいなくて、巨体が、離れた頭を再びくっつける。
ああ、嫌な予感が当たりそうだ。
05/29-耽美
『やっぱり、そういうことかよ』
思わずジャオウ語で毒づく。
『転生のホロウ』の姿はひとつではない。そして、その姿を手に入れる方法とは。
「聡い子は寿命が縮むよお?」
アルマの姿がぐにゃりと歪み、耽美的な女の姿を取って、しなを作る。
「坊やも『もらっちゃおう』かなあ? けっこう良い男だし。強そうだし」
「ここでやり合うんじゃねえよ」
隣の部屋にはソフィアがいる。ホロウの射程範囲にいれば、巻き込む。
「あのお嬢さんの心配をしてるのかい?」
ホロウが、くつくつ笑う。
ああ、俺の嫌な予感はことごとく当たるんだ。
顔をしかめた時、隣の部屋の扉が開いた。
05/30-遮断
最悪の事態を想定して、身を固くする俺の耳に、ソフィアじゃない声が飛び込んできた。
「ったく。ひとを便利屋みたいに使うんじゃねえよ」
「でも、時雨を助けるのに、頼りになるの、ほかに思いつかなかったから」
「それでこいつの嫉妬買ってたら、いい迷惑なんだよ」
隻眼の男が、ホロウに針を向けている。その背後に、見慣れた水色の髪が揺れている。
は?
あいつに、頼った?
俺を助けるために?
信頼が遮断された気分だ。
「俺、そんなに信用ならないか?」
「ちがう! そんなこと、ない! 本当に心配だっただけ!」
ソフィアはすんごい勢いで、両手と首を横に振った。
05/31-鏡像
俺でもソフィアの部屋には入らないのに。エクセル、あの男、どこから登場するんだよ!?
とはいえ、今はふたりを責めてる場合じゃあない。これ以上被害者が出ないように、『「転生」のホロウ』をここで仕留めないといけない。
「いい兄さんが増えたねえ」
妖艶な女の姿でしなを作り、ホロウが笑う。あの酒臭いオヤジの姿は、仮だったのか、それともこの姿がお気に入りなのか。
「おや。よく見りゃ兄さん達、顔がそっくりじゃあないか。鏡像みたいだねえ」
ぎょっとして、エクセルの方を向く。相手はこっちを見ず、即座にホロウに向けて短剣並みの針を投げた。
「まんまと乗るな、馬鹿が!」畳む
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