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七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.707

#語彙トレ2026 『この大地の上で』07/21~07/31分をまとめました。第一部完結です。

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07/21-咆哮
 今は寒くない。崩壊した洞穴の近く、雨露をしのげる崖の下で、みんなで掛けものかぶって、寝ていた。
 明日になれば、ジャオウ目指して、進軍が始まる。それでも、お酒に寄ってるおかげか、みんな、すやすや眠ってる。掛けものをかぶり直した時。
 獣の咆哮が、聞こえて。
 時雨とエクセルが、真っ先に飛び起きた。
 ホクナの人たちが、驚いて見上げる上空を、破獣、飛んでる。
 また攻撃しにきたのかって、みんな緊張する。
 だけど、破獣は、二度、三度、上空を旋回して。
 北へ、ジャオウへ向けて飛び去った。
『挑発しおって! こんの下衆野郎が!』
 時雨がジャオウ語で叫んだ。

07/22-衰微
 がたがたと、道無き道を車輪が回って、非戦闘員を乗せた隊商の馬車が駆けてゆく。ホクナの小柄だが筋肉量が半端ない馬を駆った連中が並走する。馬の無い連中も、恐るべき脚力でついてくる。
『ラグナール軍が、ジャオウ首都近くに陣を展開している』
 その情報が、『黒面』という、ホクナの密偵からもたらされた。
 もう、一刻の猶予も無い。俺はアナベラに頭を下げ、ホクナの民に檄を飛ばした。

 道中のジャオウの村々は、ひどい有様だった。人も土地も、衰微しきっている。
 これが、『星の忍』だった頃には見えなかった光景か。恭司様には、見えていたのだろうか。だから、改革を?

07/23-墜落
「時雨様!」
 物見にやっていた劾が、馬にも乗らず、すごい脚力で戻ってきた。
「首都シラナミが、破獣の群れに襲われてまさ! その後からラグナール軍が!」
 ざっと血の気が引くのがわかった。間に合わなかったのか、俺達は。
「櫓の大弓隊が破獣を墜落させてるが、圧されてる。ありゃ時間の問題ですわ!」
 それを聞いて、俺は馬車の御者台にいるアナベラを呼ぶ。さすがに心配そうな彼女に言った。
「非戦闘員を連れて、シラナミからできるだけ離れてくれ」
「アタシはあんたらに賭けたんだよ!? 今更!」
「……頼む。あんたにしか頼めない」
 彼女が、痛恨で泣きそうな顔をした。

07/24-漂泊
 シラナミが、炎の赤と煙の灰に包まれているのが、丘の上から見えた。上空を、破獣が飛び交っている。
『元老院』の陰謀で、恭司様は死んだ。この国に守る価値はあるのかと、心が漂泊したこともあった。
 なのに、今、頭の中で、恭司様が笑うんだ。
『ええ国じゃろ、時雨』
 この丘で、子供の俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、あの方は笑ったんだ。
『おれはこの国の民を、もっと笑顔にしてえ。だから、一緒にジャオウを守ってくれ』
 そのジャオウが、恭司様が守ろうとした笑顔が、燃え落ちようとしている。
「おい、待て、時雨!」
 エクセルの制止も聞かず、『星辰』を手に、駆け出した。

07/25-神威
 シラナミは大混乱の中にあった。逃げ惑う人々に襲いかかる破獣。炎にまかれる人。それらを逃れても、ラグナール兵に斬り捨てられる人。数珠を鳴らして神威にすがっている僧侶がいる。
『あほか! 逃げろ!!』
 敵を叩き斬り、ジャオウ語で怒鳴る。相手は『星辰』を見て、俺が誰か悟ったようだ。
「ど、どうかジャオウを! 太守様を!」
 言いながら僧侶は小走りに去る。
 太守にお会いしたことはほとんど無い。恭司様が意図的に会わせなかったんだろう。父子仲はあまり良くないと小耳に挟んでいたから、俺を染めたくなかったんだろう。
 でも、今。
 太守を守らねば、ジャオウは終わる。

07/26-怨念
 まるで怨念がシラナミを覆っているかのようだ。破獣は絶え間なく飛び交い、ラグナール兵が逃げ遅れた民を刈る。
 助けても、助けても。命は失われ、怨念と化してゆく。
 ソフィア。ごめんな。
 あんたはこんな光景を見たくなくて、ラグナールを命懸けで飛び出したのに。俺はあんたの願いを守りきれなかった。
 何度も俺を癒してくれたのに。俺の心を支えてくれたのに。あんたの舞いは、綺麗だったのに。
 俺は、なにひとつ守れない。
「時雨様!」
 劾の声が耳を貫いて、はっと現実に戻る。
 その時には、破獣が迫っていて。
 劾が俺の前に飛び出し、鋭い爪が皮鎧を容易く砕いた。

07/27-破砕
「劾!」
『星辰』で破獣を叩き斬って、倒れ込んだ小柄な体を抱き起こす。
「へへ……、ヘマやっちまいましたわ」
 血を吐きながら劾は笑う。
「おらには構わねえで、天守へ。なあに、骨の一本二本折れても、心が折れねえのが、ホクナの民ですわ」
「劾の言うことを聞け」
 いつの間にか、傍らに来ていたエクセルが諭してくる。
「お前はジャオウとホクナの希望になるんだ。破獣が城を破砕する前に、太守を助けろ。俺も劾を誰かに任せてから、後を追う」
 そうだ。もう俺一人の命じゃあない。
「……死ぬな」
 ゆらりと立ち上がり、劾に言い置くと、燃え盛る道を再び走り出した。

07/28-晩夏
『どけ、邪魔や!』
 ジャオウ語で怒鳴り、『星辰』を振って、ラグナール兵を、破獣を屠りながら、天守を目指す。晩夏には精霊を送る祭で賑やかに盛り上がるシラナミが、見る影も無いほど破壊されていた。
 恭司様はたぶん、頑固に鎖国する父親を嫌っていただろう。それでも。太守様さえ生きていれば、ジャオウは生き返る、何度でも。
 俺は『星の忍』だ。ジャオウの為に生きなければならない。
 返り血なのか、自分の流した血なのかもわからないまま、『星辰』を振り回して駆ける。
 破獣をまた一体斬り倒した時、目の近くに血がついて顔をしかめた隙に、背中に灼熱の激痛が走った。

07/29-宿縁
 体から力が抜ける。熱を感じながら膝を折る。手放した『星辰』が、乾いた音を立てて地面に落ちる。
『時雨!』
 エクセルの声が遠く聞こえる。
 これが俺の終わりか? 『元老院』への復讐も果たせず、ホクナの民の期待にも応えられないで。恭司様も細の仇も討てないまま。まるで前世の宿縁から逃れられずに、決まっていたみたいじゃあないか。

 ソフィア。
 もうあんたの傍にいられない。あんたの舞いは綺麗なのに、もう、見られない。

「天守に火がついたぞ!」
 ホクナの戦士か、ジャオウの民か。誰かの絶望的な声が耳に届く。
 ああ。
 もう、終わらせてくれ。

07/30-断末魔
 シナラミ城にラグナール軍が押し寄せる中。

「ええい! 護衛は何をしておる!? 『元老院』は!?」
 粋な息子と似ても似つかぬ厳つい顔をした太守は、自分を守るべき者の不在に、焦り散らしていた。
 傍系から幼い者を養子に取って、自分達の傀儡にするからと、生意気な己が子を廃するのを認めたのだ。
 それなのに、城には衛兵がほとんどいない。その大半も、ラグナール兵の前に斬り捨てられている。
「あなたの味方はもういませんよ」
 目の前に現れたのは、ラグナール軍服を着ているが、草原諸国出身とわかる顔立ちの青年。
 彼が抜剣した直後、太守の断末魔が響き渡った。

07/31-双璧
 かつてジャオウ国とホクナ国は、東の大陸東部において、双璧をなす力を持っていた。
 だが、各国と友好を進めるホクナの発展を危ぶんだ、時のジャオウ太守は、辺境の小競り合いを理由にホクナに侵攻、滅亡に至らしめた。
 しかし、因果は巡るのだろうか。
 ホクナ併呑後に鎖国したジャオウの時勢を読む力は衰え、『元老院』の増長を招き、国を守る筆頭『星の忍』も失って、とうとうラグナール軍に攻め滅ぼされた。
 燃え落ちる首都シラナミから、都市連合の隊商の馬車が沢山、北へ向かったというが、本当の行き先を人々が知るのは、しばらく後になる。

(『この大地の上で』第一部 完)畳む


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