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七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.702

#語彙トレ2026 『この大地の上で』07/11~07/20分をまとめました。
この進度で12/31に終わるのか!? 私もわかりません!!

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07/11-百雷
 恐らく、劾は主君からこれを託されただけで、中を読んでいなかったんだろう。この経緯を知っていたら、恭司様を恨んだりしていない。エクセルは……わかんねえな。実の兄だってのに、お互いを知らない期間が長すぎたせいで、あいつの頭の中がわからん。
『男女が二人いたら、何でも惚れた腫れたになると思うなよ』
 サーリアでそう耳打ちされたから、本当にソフィアのことは何とも思ってないんだろうが。
「時雨!」
 耳に慣れた声が、俺を現実に引き戻す。
 女衆や護衛に付き添われたソフィアが、目に涙をためて駆けてきたかと思うと、思い切り飛びつかれる。百雷みたいな喝采が起きた。

07/12-昏睡
 やばい。照れている場合じゃない。
「被害は?」
 先頭に立つ劾に問いかけると、ソフィアが不服そうに頬を膨らませたが、今は勘弁してくれ。ホクナの上に立つ人間としてやることがある。
「破獣にやられたのが二名、重傷が五名ほど、昏睡が一人。崩落で、洞穴に残ってた戦闘員は、皆逝っちまいましたわ」
 俺に託した、槍術士の顔が忘れられない。あの男は、俺を主君とあおいで、ホクナの未来を心から望んだんだ。
「彼らを弔おう。俺はホクナ式を知らないから、あんたらのやり方を教えてくれ」
「合点でさ!」
 劾が得意気に拳で胸を叩く。
「それが終わったら、次は、ジャオウだ」

07/13-夜色
「ホクナの夜色は、それはそれは綺麗でしたわあ」
 夜を迎えた空の下、破獣にやられたひと、瓦礫の下から何とか引き出せたひとを、火にくべた。立ち上る煙を見上げながら、劾さんが、ぽつり、呟く。
「わたしも、見たかった、な。時雨の故郷」
「姫さんにも見て欲しかったですわあ。ジャオウの都にも負けん、豪華絢爛な夜でな」
 時雨の隣で、膝を抱えると、劾さんが髭面を、くしゃくしゃにして、笑った。
 救えなかった。癒しの力、持ってるのに。この炎に消えたひと、沢山、いる。わたしを守ってくれた、槍術士さんは、見つからなかった、って。
 悔しい、すごく、悔しいよ。顔を伏せた。

07/14-帰還
「お姫さん、そんなに落ち込むんじゃあないよ」
 いつの間にか、隣にいた、アナベラさんが、ぽんぽんと、わたしの背中を叩く。
「あんたとアタシ達のおかげで、ホクナの希望が帰還したんだと思いな。どうやら連中、湿っぽいのは嫌いらしいよ」
 言われて、アナベラさんの視線を、追う。時雨とエクセルが、ホクナの人達に囲まれて、お酒、飲まされてる。
 あの。だいじょぶ、かな。
 エクセルって、
『飲み過ぎると翌朝五分くらい記憶が飛んで、自我を戻すのに手間なんだよな』
 って、ぼやいてたこと、ある。
 弟だから、時雨も、そんなこと、あるのかな?
 考えたら、なんか笑えてきた。

07/15-追放
「そういえば」
 にこにこ、時雨たちを見守っていたら、アナベラさんが、急に声を低めて、囁いてきた。
「ホクナを追放されて、ゼノスのもとに逃げ込んだ奴がいるって、劾から聞いたんだよ」
 どきり、と。心臓が脈打つ。
 そういえば、ラグナールにいた頃。あのひとの怖さを、見抜いて、早々に降ったひとたち、けっこう、いた。ラグナール人じゃないひとも、いた。
 あのひとたちは、ラグナールにつけば、自分の野望、叶うって、勘違いしてた。
 あのひとは、普通じゃなくなってた、けど、コウモリを許すほど、狂ってはいなかった。
 裏切り者は、みんな、みんな。破獣になったんだ。

07/16-亡霊
『ラグナール王城には巨人の亡霊が出る』
 まことしやかに、飛び交った、噂。
 噂、なんかじゃ、ない。
 破獣にされたひとたちが、城から飛び立つのを、夜に見た誰かの、言葉。
 わたしは、なにも、できなかった。
『ティアナ。もうすぐノルンは、いや、アルファズルは、私たち二人のものになるよ』
 両手を広げて、空をあおいで、恍惚とした表情で、あのひとは、語ってた。
 わたしに、じゃない。
 いつまでも、そのうつろな瞳の先にいる、ティアナの亡霊に、向けて。
 知ってる、よ。
 ティアナが、悲しそうな顔、してたの。
 あれは、本物の、ティアナの亡霊なんだ。

07/17-供養
 気づいた時には、見えてた。あのひとを哀しげに見つめる、わたしにそっくりな、わたしと色の違う、あの子。ティアナ。
 始祖種エリオンなのに、わたしは、亡霊と話せない。あの子の本音、知ることができない。
 でも、その顔が、語ってた。
 自分のせいで、おかしくなっちゃった、大好きなお兄さんを、止めて欲しいんだ、って。
 だからわたしは、ラグナールから、あのひとから、逃げ出した。あのひとを、止めるために。
 もう、言葉を尽くしても、あのひとは、止まらない。なら、言葉の代わりに、刃を振り下ろすしか、ない。
 それが、唯一、ティアナを供養する方法、なんだって。

07/18-結界
「姫さん、そんなん暗い顔ぉしとると、死んだ奴らが安心して極楽に行けねえわ」
 劾さんが、ぽつりと喋り出す。
「結界、言うてな。ホクナではあの世とこの世を分ける境目があるんやわ」
 ホクナの死生観は、ラグナールとは、かなり違う。それは、ジャオウで育った、時雨を見てても、わかる。この辺り、文化が、ノルンでも、かなり独特。
「明るく送ることでな、連中も安心して結界を越えていけるんやわ」
 言われて、ふわふわ、胸に浮かんでくる気持ちが、ある。
「じゃあ」
 久しぶりに、舞の布を翻して、立ち上がる。
「舞姫が、送りますか」
 にっこり笑うと、みんな、拍手してくれた。

07/19-叛逆
 ホクナの人たちの前に、しずしずと、踏み出して。
 ひらり、はらり。ばさり。
 弔いの炎に負けない勢いで、布を翻し、わたしは、踊る。
 ジャオウに叛逆して負けた人たちも。ラグナールに叛逆を望んで逝った人たちも。
 どんな人たちも、ホクナの未来を、夢見ていた。
 だから、願うよ。
 あなたたちの魂が、迷わず天上に……ホクナの死生観では、極楽、かな。そこに、たどり着けるように。
 ゆらり、ざばり。
 緩急をつけて、踊る、踊る。
 さっきまで、お酒を飲んで盛り上がってた人たちも。すっかり静まり返ってる。
 視線の端で、時雨が微笑んで見てくれているのを、みとめた。

07/20-虚像
 舞い終わって。拍手喝采が、わたしに向けられる。
 国と国の関係を思えば、刃、向けられても、おかしくないのに。ホクナの人たちは、残酷なほどに、優しい。誰に、剣を突きつけるか、わかってる。
 戦に関係ある、実像と虚像、区別、ついてる。
「……ありがとうな」
 息を整えてると、背後から、時雨に声、かけられた。
「あんたのおかげで、胆が据わったよ」
「わたし、そんなに、役立った?」
「大いに」
 歯を見せて笑う、その姿に、心臓、どきどき言う。止まれ。違った、静まれ!
「おれはホクナの先頭に立って、ジャオウも守る。虚像の英雄にはならない」
 真顔で、時雨は言った。畳む


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#この大地の上で

ひとりごと2026年,創作,小説