home book_2
chat
七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.689

#語彙トレ2026 『この大地の上で』06/21~06/30分をまとめました。
上手く10日で一区切りつかなくなってきたな……って顔をしてます! 12/31に完結しないんじゃないの!? とも思ってます!

前→683
次→693

06/21-衝動
 衝動的に出た言葉だった。こいつらも『元老院』みたいに、俺が役に立つから使い潰して、その死は尊いものだったって、おいおい泣き真似してみせるんだろうって、怒りがあった。
 だのに。
「何おっしゃんですか、時雨様!」
 劾が目を見開いて、俺をがくがく揺さぶる。
「おら達は、時雨様と秋霖様の為なら、なんぼでも命張る覚悟できとります! 勿論、時雨様達が死ぬなっておっしゃんなら、死なない戦い方すんですがな! なあ、おまいら!?」
 劾に応じて、男達が拳を突き上げて雄叫びあげる。
「って訳だ」
 エクセルが、ぽんとこちらの肩に手を置いた。
「観念して腹くくれ、弟」

06/22-虚脱
 天然の洞穴が、ホクナの民の隠れ家だった。入口に隊商の馬車を停めて、武器防具が降ろされると、戦う連中は歓声をあげて受け取った。
「ノルン共通貨で払ってくれるなんて、気が利くねえ」
「今のご時世についてかにゃ、生きてけねえことくらい、わかってら」
 アナベラと劾がしたり顔を交わし合う。
 そんな様子を、俺は虚脱しきって近くの椅子に座りながら眺めている。
 ああ、やっちまった。人の上に立つなんて、柄じゃないのに。恭司様の下で『星辰』を振るうのが似合ってたのに。
「時雨」
 溜息をついたところに、ソフィアが杯ふたつ持って、心配げに見下ろしながら声をかけてきた。

06/23-焼損
「だいじょぶ?」
「……正直、あまり大丈夫じゃあない」
 差し出された杯を受け取り、口をつける。ホクナ特産の果実を使った、酸味ある飲み物だ。覚えている。いや、思い出したんだ。
 生家の屋敷の庭にも、この果実の木があった。恐らく、ホクナが制圧されたその日に、炎に呑まれて焼損してしまったろうが。
「無理、しなくて、いいよ」
 ソフィアが傍らに腰掛けて、杯を手で包む。
「エクセルの素性は、わたしも、知らなかったし。傭兵だって言うから、国を出るの、手伝ってもらったの」
 長い睫毛を伏せて、らしくない憂鬱そうな表情を見せる。
 こんな顔をさせたのは、俺のせいだ。

06/24-焦土
「あいつも、穏やかじゃあない人生を送ってきただろうな」
 焦土から、恭司様に連れられて行った俺と、焦土に残されたあいつ。どちらが生きるのに必死だったかなんて、考えるまでも無い。
 だけど、まだあいつを「兄さん」と呼ぶ勇気が出ない。俺はやっぱりまだ、恭司様の息子で、細の弟で、『星の忍』なんだ。顔を伏せると。
「どんなに、なっても」
 ソフィアの声が、心地よく耳に滑り込んできた。
「時雨は時雨、だよ。優しい、わたしの大切なひと」
 ……は?
 なんだそれ。深い意味あるのか?
 耳まで真っ赤になるのを自覚する。やべえ。顔を上げられないぞこれ。

06/25-戦慄
「おい、大変やぞ!」
 弛みかけた空気を緊迫させるかのように、切羽詰まったホクナの民の声が、洞穴内に響いた。
「破獣や! 十はおる!」
 たちまちその場にいる連中に戦慄が走る。
「劾じいさん! おめえが油断するから!」
「ホクナじゃねえ商人なんか呼び込むから!」
 喧々囂々、責任の押し付け合いが起きる。
 俺は、だん! と杯を卓に叩きつけて、立ち上がった。
『そげん事で仲間割れしてる場合じゃねえだろ! それこそラグナールの狙いだって、気づかねえのか!?』
 掴み合いになりそうだった連中が、しんと黙る。
『戦える奴は戦え! 自信無え奴はすっこんでろ!』

06/26-燦然
 びっくり、して。
 時雨を見上げた。
「アナベラから武器を受け取った奴はついてこい。俺は破獣とは一度しか戦ったことが無いから、戦法を教えてくれる奴がついていてくれると助かる。万一の為に、非戦闘員は脱出路近くに避難させるんだ」
 てきぱきと指示を下す姿は、まるで燦然と輝く太陽みたいで、ほんとに、彼がひとの上に立つひと、なんだな、って痛感する。
 ホクナ国主の跡取り。ジャオウの次期太守の養子。ひとを導く資格は、じゅうぶん、あったんだ。
「あんたも避難しろよ」
 こんな時まで、わたしの心配、して。
 こんな時なのに、嬉しくなっちゃって。
 笑顔で、頷いた。

06/27-凶兆
 武器を手に、洞穴の外へ走り出ていった、時雨達の背中を見送りながら、胸に手を、当てる。
『これはラグナール皇国にとって吉兆にございます』
 檻の中で、餓えて。自分達すら喰らい合う、破獣を、あのひとに見せながら嗤う、あかい瞳と、銀に見える髪の、背の高い、男のひと。
『もっとも、他国にとっては、滅びの凶兆でしょうが』
 それを、聞いてるのか聞いてないのか、あのひとは、満足そうに、笑んで、見てた。
 破獣を生み出した、男のひとは、いつの間にか、消えた。でも、破獣は増え続ける。
 ラグナール兵を、素体にして。
 あのひとが、増やし続けた。

06/28-暴走
 時雨が、ホクナの人達の先頭に立って、洞穴を出ていった。こんな時、待つしかできない自分が、悔しい。
「大丈夫やで、お嬢さん。いや、姫さん」
 護衛に残った、槍術士のおじさんが、背中、撫でてくれる。
「あんさんがラグナールの姫なのは、わかっちょる。でも、ゼノスの野郎とちゃうのも、わかっちょる」
 彼の目線を、追う。怯え、怒り、不信、戸惑い。色んな目が、わたしを見てる。
「憎むはゼノスだ。姫さんとちゃう」
 ああ、このおじさんは。わざと大きい声で言うことで、残った人達が、暴走して、わたしに何かしないよう、気を遣ってくれてるんだ。
 まるで、時雨みたいに。

06/29-処世
「時雨様がおっ死にかけた時、助けてくれたんも、姫さんやろ?」
 槍術士のおじさんは、滔々と、語る。
「世間知らずみたいな顔しとんのも、ゼノスの関係者って疑われんための、処世術だったんやろなあ。苦労したろうなあ」
 おじさんの言葉に、周りの人達の視線に込めた感情、変わってくのが、わかる。
 なんで、人は、争うんだろう。こうして、優しい人、いるのに。話せばわかり合えること、沢山、あるのに。
 膝の上で、拳を、握り締める。その時。
「おい! 治癒士呼んでくれ! やられた!」
 外で戦っていたはずの人が、血にまみれた、同胞を背に負って、駆け込んできた。

06/30-暗渠
 きっと、唇を引き締めて、立ち上がる。
「わたしが、できます」
 胡乱な顔を向ける、そのひとに構わず、怪我をしたひとを横たえさせる。
 わたしの、エリオンの力。それが、光となってこぼれ落ちて。顔から胸まで、破獣の爪に引き裂かれて、ずたずただったひとの、傷を癒してゆく。
「お嬢さん、あんた」
 アナベラさんも、驚いてる。そう、だよね。魔法の詠唱も無しに、怪我、治すなんて。しかも、ラグナールの、人間が。
 ううん。人間であるかも、怪しい。暗渠に住み着く、怪物みたいに、見えてるんだろうな。
 うつむくと。
「ああ……」
 死にかけていたひとが、口を開いた。畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

創作,小説