#語彙トレ2026 『この大地の上で』06/11~06/20まとめです。 初期設定に全く無かったことが飛び出してきました。書いている間に色んなことがポップしてくる、キャラが生きている証拠です。 前→680 次→689 続きを読む06/11-共鳴 「源家を旗頭に立てて、ジャオウ太守を守った忠義を見せる。ホクナの民は共鳴するさ」 『ま、待て待て待て待ておめえ!』 完全に動揺した時雨が、ジャオウ語で、エクセルに、つかみかかる。 『俺は「星の忍」だ! ホクナは関係ねえ!』 「お前の意思なんて、戦の前には尊重されないんだよ」 隻眼が、冷たく、時雨を見下ろす。 「『元老院』にも仕返ししたいんだろ? なら、腹をくくれ。ジャオウとホクナの救い主になれ」 「ふうん」 商人の女性が、面白そうに、笑いをもらす。 「楽しそうな賭けじゃあないか。本来、確定しない勝ちには乗らないが、見届けてやってもいいさ」 06/12-飽和 馬車の車輪ががらごろと回る。 商人の女、アナベラが手配した隊商は、飽和しそうな武器を積んで、ジャオウへの道をひた走っていた。 隣の席ではソフィアが膝を抱えてうとうと居眠りしている。向かいでは、エクセルが腕組みして隻眼を閉じていた。 「なあ」 ソフィアを起こさない程度の声量で、エクセルに呼びかける。 「お前、何でそんなにホクナに詳しいんだ」 俺すら知らなかったんだ。『源時雨』は、恭司様が与えてくれた名前だと思ってた。 「まあ、行けばわかる」 エクセルは端的に答えて、また黙り込む。 恭司様。あなたは俺を、利用できると思ったから育てたんですか? 06/13-鶴首 ホクナの民は、ジャオウを恨んでいる。実際、何度も小規模な反乱を、忍の一人として鎮圧に参加したことは何度かある。 そんな連中が、俺の存在を、ホクナ復興の旗頭と見て鶴首して待っているのか? 本当に? 思考の迷路にはまりかけた時、馬車ががくんと止まって、「ひゃっ」とソフィアが椅子から転げ落ちそうになったのを支える。 「どうした!?」 エクセルが幌を上げて怒鳴ると、御者席のアナベラが蒼白な顔をしていた。 「破獣(ビースト)だ!」 聞き慣れない単語に眉をひそめる俺とは対照的に、ソフィアとエクセルは顔色を変えた。 ということは、ラグナール関係か。 06/14-酷暑 前を行く馬車から悲鳴があがった。咄嗟に『星辰』を手に取り、エクセルと共に馬車を飛び出す。 そして目にしたものを前に、驚きで固まった。 人よりふた回りも大きい巨体。接近しなくても酷暑のように押し寄せる熱を発する、蒸気に包まれている。それが鋭い牙と爪を持って、馬車の馬と御者を貪っている。 いくら戦に関わっているからって、残酷な場面に鈍麻している訳じゃあない。さすがに吐き気を覚える。 「気をつけろよ」 エクセルが針を構えながら距離をはかる。 「奴らには、言葉も慈悲も、期待できない」 破獣の、瞳の無い眼球がぎょろりとこちらを向いた。 06/15-蜃気楼 破獣から立ちのぼる蒸気が、蜃気楼を作り出しているかのようだ。一匹のはずなのに、複数体に見える。 『幻惑術を使うてくる奴には、理性で対抗すんだよ』 姉と慕った亡きひとの声が、頭の中で蘇る。 目を瞑って、視界を遮る。そうすれば、熱の出所がわかる。 『星辰』を振り下ろす。 破獣の本体の腕が飛んで、咆哮が響き渡る。 「へえ、やるな」 エクセルが愉快そうに笑って、数本の針を投げる。細長い針が、破獣の目に、胸に、深々と刺さって、更なる悲鳴が巻き起こる。 俺は更に一歩踏み込んで、『星辰』を、首に叩き込む。青竜刀は、滑らかに化物の首を叩き落とした。 06/16-喧騒 「すごいじゃん、あんたら!」 アナベラが全力で拍手する。 「兵士十人でさえ勝てるかっていう破獣をこんなに簡単に倒しちまうなんて、本当に、ジャオウに勝ち目があるんじゃないの!?」 「忍は熊や虎を相手にすることもあったからな」 『星辰』を納めながら応えるが、エクセルと、ソフィアは、浮かない顔をしている。 何か変なことを言ったか不安になり始めた頃、前方から喧騒が近づいてきた。 「なんやなんや! おら達の領域で暴れちょお奴らは!?」 聞き覚えのある訛り。これは、ホクナの。 気づいた時、男達を率いて先頭に立つ小柄な老人が、 「秋霖様!」 と銅鑼声をあげた。 06/17-灼熱 「誰って?」 アナベラが不審そうに、老人の視線の先を向く。つられて首を動かせば、エクセルが、凄まじく不本意そうに顔をしかめていた。 「劾、お前なあ……」 「なんやなんや、悪いこたありますかい秋霖様! おら達ホクナの希望、源家の跡継ぎ様を慕って、何が悪い!? なあ、おまいら!」 老人が後ろの連中を振り返ると、男達は灼熱のごとく歓声あげて拳を突き上げる。ああ、聞くまでも無く全部説明ありがとうってとこだな。 だが、なんだって? エクセルが、源家の跡継ぎ? 顎に手を当てると。 「俺よかよっぽど向いてる奴を連れてきた」 エクセルが、俺を指差した。 06/18-星霜 男達が一斉に俺を見る。戸惑い顔。驚き顔。ありとあらゆる表情が向けられる。 「時雨……様?」 劾と呼ばれた老人の口から、俺の名前が零れ落ちる。 「な?」エクセルが肩をすくめた。「側室の子より、正室の子の方が、ホクナ復興にはおあつらえ向きだろ?」 それで理解できないほど、俺は馬鹿じゃあない。視線を泳がせると、ソフィアと目が合った。 ああ。俺はあんたを守るつもりだったのに、俺の事情に巻き込んでばかりだ。 「時雨様ぁ!!」 俺の心情に構わず、劾がしがみついてくる。 「あんた様がジャオウの奔放野郎にさらわれて幾星霜! お帰りを待ってたんですわ!!」 06/19-雲散 「時雨様! あんた様がおられたら、おら達の恨みは雲散霧消しますわ!」 劾はおいおい泣きながら俺にしがみつく。だが、そんな単純な話じゃないのは、わかってる。 「俺は、ジャオウの『星の忍』だ。あんた達ホクナの生き残りを斬り捨てた事もある」 たちまち、しん、と連中が黙り込む。拳を握り締めて、先を続ける。 「同志の仇に、そう簡単に命を預けられるのか?」 俺は細を恭司様の仇だと信じ込んだ。その結果、大事な人達をふたりも失った。 今更ホクナの旗頭になったとて、また屍の山を築くだけじゃあないのか? 「時雨は、そんな人じゃ、ない!」 高い声が、沈黙を破った。 06/20-固執 ソフィアは、碧眼を鋭く細めて、ホクナの民に呼び掛けた。 「わたし、時雨のこと、そんなに長く、見てない。でも、責任感、強すぎて。あなた達の為に、あなた達を、突き放そうと、してる」 劾が目を瞠り、ホクナの連中がざわつく。 「そりゃ……時雨様のおかん様も、口はきっついけど、おら達のことを考えてくだすってた」 「時雨様、奥方様にそっくりやんけ。顔は秋霖様と同じでおとん様似やけど」 知りもしない両親の話まで出されて、頑なに固執してる場合じゃあないのを悟る。 「あんたらは」 連中に問いかける。 「俺が『ホクナの為に死んでくれ』って言ったら、従うのか?」畳む #アルファズル戦記 #この大地の上で 2026.6.21(Sun) 11:16:53 創作,小説 edit
初期設定に全く無かったことが飛び出してきました。書いている間に色んなことがポップしてくる、キャラが生きている証拠です。
前→680
次→689
06/11-共鳴
「源家を旗頭に立てて、ジャオウ太守を守った忠義を見せる。ホクナの民は共鳴するさ」
『ま、待て待て待て待ておめえ!』
完全に動揺した時雨が、ジャオウ語で、エクセルに、つかみかかる。
『俺は「星の忍」だ! ホクナは関係ねえ!』
「お前の意思なんて、戦の前には尊重されないんだよ」
隻眼が、冷たく、時雨を見下ろす。
「『元老院』にも仕返ししたいんだろ? なら、腹をくくれ。ジャオウとホクナの救い主になれ」
「ふうん」
商人の女性が、面白そうに、笑いをもらす。
「楽しそうな賭けじゃあないか。本来、確定しない勝ちには乗らないが、見届けてやってもいいさ」
06/12-飽和
馬車の車輪ががらごろと回る。
商人の女、アナベラが手配した隊商は、飽和しそうな武器を積んで、ジャオウへの道をひた走っていた。
隣の席ではソフィアが膝を抱えてうとうと居眠りしている。向かいでは、エクセルが腕組みして隻眼を閉じていた。
「なあ」
ソフィアを起こさない程度の声量で、エクセルに呼びかける。
「お前、何でそんなにホクナに詳しいんだ」
俺すら知らなかったんだ。『源時雨』は、恭司様が与えてくれた名前だと思ってた。
「まあ、行けばわかる」
エクセルは端的に答えて、また黙り込む。
恭司様。あなたは俺を、利用できると思ったから育てたんですか?
06/13-鶴首
ホクナの民は、ジャオウを恨んでいる。実際、何度も小規模な反乱を、忍の一人として鎮圧に参加したことは何度かある。
そんな連中が、俺の存在を、ホクナ復興の旗頭と見て鶴首して待っているのか? 本当に?
思考の迷路にはまりかけた時、馬車ががくんと止まって、「ひゃっ」とソフィアが椅子から転げ落ちそうになったのを支える。
「どうした!?」
エクセルが幌を上げて怒鳴ると、御者席のアナベラが蒼白な顔をしていた。
「破獣(ビースト)だ!」
聞き慣れない単語に眉をひそめる俺とは対照的に、ソフィアとエクセルは顔色を変えた。
ということは、ラグナール関係か。
06/14-酷暑
前を行く馬車から悲鳴があがった。咄嗟に『星辰』を手に取り、エクセルと共に馬車を飛び出す。
そして目にしたものを前に、驚きで固まった。
人よりふた回りも大きい巨体。接近しなくても酷暑のように押し寄せる熱を発する、蒸気に包まれている。それが鋭い牙と爪を持って、馬車の馬と御者を貪っている。
いくら戦に関わっているからって、残酷な場面に鈍麻している訳じゃあない。さすがに吐き気を覚える。
「気をつけろよ」
エクセルが針を構えながら距離をはかる。
「奴らには、言葉も慈悲も、期待できない」
破獣の、瞳の無い眼球がぎょろりとこちらを向いた。
06/15-蜃気楼
破獣から立ちのぼる蒸気が、蜃気楼を作り出しているかのようだ。一匹のはずなのに、複数体に見える。
『幻惑術を使うてくる奴には、理性で対抗すんだよ』
姉と慕った亡きひとの声が、頭の中で蘇る。
目を瞑って、視界を遮る。そうすれば、熱の出所がわかる。
『星辰』を振り下ろす。
破獣の本体の腕が飛んで、咆哮が響き渡る。
「へえ、やるな」
エクセルが愉快そうに笑って、数本の針を投げる。細長い針が、破獣の目に、胸に、深々と刺さって、更なる悲鳴が巻き起こる。
俺は更に一歩踏み込んで、『星辰』を、首に叩き込む。青竜刀は、滑らかに化物の首を叩き落とした。
06/16-喧騒
「すごいじゃん、あんたら!」
アナベラが全力で拍手する。
「兵士十人でさえ勝てるかっていう破獣をこんなに簡単に倒しちまうなんて、本当に、ジャオウに勝ち目があるんじゃないの!?」
「忍は熊や虎を相手にすることもあったからな」
『星辰』を納めながら応えるが、エクセルと、ソフィアは、浮かない顔をしている。
何か変なことを言ったか不安になり始めた頃、前方から喧騒が近づいてきた。
「なんやなんや! おら達の領域で暴れちょお奴らは!?」
聞き覚えのある訛り。これは、ホクナの。
気づいた時、男達を率いて先頭に立つ小柄な老人が、
「秋霖様!」
と銅鑼声をあげた。
06/17-灼熱
「誰って?」
アナベラが不審そうに、老人の視線の先を向く。つられて首を動かせば、エクセルが、凄まじく不本意そうに顔をしかめていた。
「劾、お前なあ……」
「なんやなんや、悪いこたありますかい秋霖様! おら達ホクナの希望、源家の跡継ぎ様を慕って、何が悪い!? なあ、おまいら!」
老人が後ろの連中を振り返ると、男達は灼熱のごとく歓声あげて拳を突き上げる。ああ、聞くまでも無く全部説明ありがとうってとこだな。
だが、なんだって?
エクセルが、源家の跡継ぎ?
顎に手を当てると。
「俺よかよっぽど向いてる奴を連れてきた」
エクセルが、俺を指差した。
06/18-星霜
男達が一斉に俺を見る。戸惑い顔。驚き顔。ありとあらゆる表情が向けられる。
「時雨……様?」
劾と呼ばれた老人の口から、俺の名前が零れ落ちる。
「な?」エクセルが肩をすくめた。「側室の子より、正室の子の方が、ホクナ復興にはおあつらえ向きだろ?」
それで理解できないほど、俺は馬鹿じゃあない。視線を泳がせると、ソフィアと目が合った。
ああ。俺はあんたを守るつもりだったのに、俺の事情に巻き込んでばかりだ。
「時雨様ぁ!!」
俺の心情に構わず、劾がしがみついてくる。
「あんた様がジャオウの奔放野郎にさらわれて幾星霜! お帰りを待ってたんですわ!!」
06/19-雲散
「時雨様! あんた様がおられたら、おら達の恨みは雲散霧消しますわ!」
劾はおいおい泣きながら俺にしがみつく。だが、そんな単純な話じゃないのは、わかってる。
「俺は、ジャオウの『星の忍』だ。あんた達ホクナの生き残りを斬り捨てた事もある」
たちまち、しん、と連中が黙り込む。拳を握り締めて、先を続ける。
「同志の仇に、そう簡単に命を預けられるのか?」
俺は細を恭司様の仇だと信じ込んだ。その結果、大事な人達をふたりも失った。
今更ホクナの旗頭になったとて、また屍の山を築くだけじゃあないのか?
「時雨は、そんな人じゃ、ない!」
高い声が、沈黙を破った。
06/20-固執
ソフィアは、碧眼を鋭く細めて、ホクナの民に呼び掛けた。
「わたし、時雨のこと、そんなに長く、見てない。でも、責任感、強すぎて。あなた達の為に、あなた達を、突き放そうと、してる」
劾が目を瞠り、ホクナの連中がざわつく。
「そりゃ……時雨様のおかん様も、口はきっついけど、おら達のことを考えてくだすってた」
「時雨様、奥方様にそっくりやんけ。顔は秋霖様と同じでおとん様似やけど」
知りもしない両親の話まで出されて、頑なに固執してる場合じゃあないのを悟る。
「あんたらは」
連中に問いかける。
「俺が『ホクナの為に死んでくれ』って言ったら、従うのか?」畳む
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