#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/11~05/20まとめました。もう5月が終わろうとしているのに! 行動が遅い! 段々記憶力が悪くなって、手を繋いだり離したりまた繋いだりしてます。酷い時はお題を入れ忘れて書き直しました。 前→666 次→678 続きを読む05/11-賢哲 ソフィアが背後を振り返る。びっくりした様子で目をまん丸くして、相手の名を呼ぶ。 「エクセル……」 黒装束に身を包んだ男だった。顔の右半分を長い前髪で隠している。いかにも傭兵然としていて、賢哲からはほど遠そうだ。人のことは言えないが。 「なんで、ここに」 「そりゃこっちの台詞だ」 唖然としたままのソフィアに、エクセルは肩をすくめてみせる。 「自治都市連合を説得するっていうから、連れ出してやったのに。なんでこんなむさいところにいるんだよ」 隻眼が、こちらを向く。 「しかも、ジャオウの人間なんか連れて」 なんか。 なんか? 思わずカチンときた。 #語彙トレ2026 05/12-宿痾 ジャオウはノルンの中でも特に独特な文化を持ち、他国との交流を最低限に抑えて、孤立気味だ。それがジャオウの外からは、「変わり者の国」と侮蔑を受け、外に出たジャオウ人が差別を受ける宿痾になっている。 おおかた、この傭兵も、そういう偏見を持って俺を見ているんだろう。じとりと睨むと。 「そう警戒するなよ、小型犬じゃあるまいに」 男は両手を掲げて肩をすくめてみせた。小型犬とは、また馬鹿にしてくれたものだ。 「待って、時雨。エクセルは、敵じゃ、ない」 俺の腕に、ソフィアがすがりつく。 「エクセルは、わたしが、国を出るのを、手伝ってくれたの」 #語彙トレ2026 05/13-恍惚 「ほええ~」 アルマも感心して、エクセルと呼ばれた男を見上げている。 「兄ちゃんも、歴戦の戦士ってかんじだな~。時雨より強いんじゃない?」 恍惚とすらした様子で口にした言葉に、さっきから感じていた苛立ちが、限界突破した。 『なら、そいつに頼めばええじゃろ!』 ジャオウ語で叫ぶ。 「時雨?」 ソフィアが不思議そうな顔で俺を見てくる。何で俺がキレたのか、わかっていません、という態度が怒りを煽る。 『腕前あればええんじゃろ!? もう俺に頼るな!』 そして一人踵を返す。 「時雨!? 時雨ーっ!?」 振り返りたくなかった。多分、酷い顔をしてるから。 #語彙トレ2026 05/14-撞着 ずかずかと、通りを大股で歩いて、はっと正気に返る。 俺、めちゃくちゃ格好悪くないか? ソフィアは俺のものじゃない。大事な使命を背負った、自律したひとりの人間だ。ましてや身代わりとはいえ、お姫様だ。俺の知らない過去や事情のひとつやふたつ、背負っていて不思議じゃあない。 細を失った俺に、消えてしまいそうだから、と一緒に来てくれた。そんな彼女を守ろうと思った。 それが、俺の知らないところで出会った男ひとりに嫉妬して、ああそうだ、立派な嫉妬だ、それで見捨てようとするなんて。 『おめえ、そりゃ自家撞着だぞ!』 恭司様がいたら、そう言って大笑いしただろう。 #語彙トレ2026 05/15-昇華 ああ、情けねえ。情けねえな、俺。 恭司様と細が見てたら、腹抱えて爆笑するだろう。 『嫉妬は力に昇華しな』 ひとしきり笑った後で、細ならそう言うだろう。 『……わかってら、ねえさん』 ジャオウ語でひとりごちる。 いきなり置いていって、ソフィアもびっくりしてるだろう。戻って、謝らないと。 踵を返す。人の波を縫って歩く。すると、向こうから、目に馴染んだ水色の髪が近づいてきた。 「……ひとりでうろちょろするな」 「……時雨が、置いてった、せいですう」 ぷくりと頬を膨らませる。その様子がおかしくて、もやもやしていた気持ちが、吹っ飛んでしまった。 #語彙トレ2026 05/16-釈義 少し前。 「ソフィア、お前さ」 時雨が、怒って立ち去った、後。 エクセルが、なんかすごく、すごく、苦いものを食べたような顔で、わたしとアルマを、見下ろした。 「お前を好いてる男の前で、他の男の肩持つな」 「は?」 誰が、わたしを? ……なんて、すっとぼけられるほど、わたしも馬鹿じゃ、ない。 ああ、わたし、時雨に、嫉妬、させたんだ。 「なに。姉ちゃん、あの兄ちゃんとできてんの?」 「まだ! 断じて!!」 アルマが、からかうように、見上げてきたから、思わず大きい声が出た。 エクセルって、ほんと、鋭いんだよねえ。釈義みたいに、わたしを諭してくる。 #語彙トレ2026 05/17-鬱積 わかる。わかるよ。 『姫様は世間のことをおわかりにならなくて、よろしいのです』 わたしの周り、みんなみんな、そう言って、恭しく、頭下げてた。けど。 下手なこと吹き込むと、あのひとに、首、飛ばされるから。見下して、無知の小鳥のまま、囲って。そうしていればいい、って。思ってたに、違いない。 わたしだって、そこまで、馬鹿じゃない。怒りが鬱積して。 だから、国を飛び出した。 そして、ほんとにわたし、無知で無力だなって、思い知った。 時雨がいなかったら、生きてない。 「時雨、追いかける」 言ったら、エクセルは、ぽんぽん、頭を撫でてきた。 #語彙トレ2026 05/18-驟雨 結局、人混みの中で、時雨に会えたけど。 なに、言おうか。 時雨も、ばつが悪そうに、頭かいて、黙ってる。 どっちか、から。なにか、言わなくちゃ。ふよふよ、思考をさまよわせていると。ぽつ、とつむじに、水滴が当たって。 ざあっ、て。 にわか雨が降りだした。 『驟雨かよ!』 時雨が、ジャオウ語で舌打ちして、急に、わたしの手を、握る。 「とりあえず、雨宿りするぞ!」 「う、うん!」 慌てて家路を急ぐ、ひとたちの合間を縫って。あっという間に、道にできる、水たまりを、蹴って。 わたしたちは、ふたりで、駆ける。 なんか、どきどき、した。 #語彙トレ2026 05/19-湿潤 適当な、家の軒先を、傘代わりに。 「しばらくやみそうにないな」 夏先の湿潤もあって、しっとり濡れた、髪をかきあげながら、時雨が言う。 わたしの心臓は、ばくばく言う。 いえ、あの。手。 繋いだまま、なんだな。 気づいて、ない? 「時雨、あの」 「なんだ?」 これは、ほんとに、無意識、なの? 見上げても、不思議そうに、見下ろしてくる。 先をどう続けよう、か。迷っていたら。時雨は、今気づいたみたいに、ゆっくり、視線を下ろして。 『わ、悪ィ!』 咄嗟に、ジャオウ語が飛び出しながら、手を離した。 「う、ううん」 あー、わたし、絶対、顔、赤い。 #語彙トレ2026 05/20-眩暈 「あ、あの、ね。時雨」 繋いだ手を、きゅっ、と握りしめて。どきどき心臓が騒ぐのを、自覚する。 「エクセルは、ほんとあの、お兄さんみたいな、もので。なんとも、思ってない、から」 なに、言い訳してるんだろ。あ、なんか、ふわふわ、眩暈してきた。ひっくり返りそう。 「いや、俺もいきなり怒って、済まなかった」 「でも、わたし」 「いや俺が」 堂々巡りに、なりそうになって、思わず、顔を見合わせる。 わたしたち、ふたりとも、ぽかん、としてる。 思わず、ふたり同時に、吹き出す。 「喧嘩両成敗ってことで」 「うん」 雨は、意外と早く、やみそうだった。畳む #アルファズル戦記 #この大地の上で 2026.5.29(Fri) 16:23:25 edit
段々記憶力が悪くなって、手を繋いだり離したりまた繋いだりしてます。酷い時はお題を入れ忘れて書き直しました。
前→666
次→678
05/11-賢哲
ソフィアが背後を振り返る。びっくりした様子で目をまん丸くして、相手の名を呼ぶ。
「エクセル……」
黒装束に身を包んだ男だった。顔の右半分を長い前髪で隠している。いかにも傭兵然としていて、賢哲からはほど遠そうだ。人のことは言えないが。
「なんで、ここに」
「そりゃこっちの台詞だ」
唖然としたままのソフィアに、エクセルは肩をすくめてみせる。
「自治都市連合を説得するっていうから、連れ出してやったのに。なんでこんなむさいところにいるんだよ」
隻眼が、こちらを向く。
「しかも、ジャオウの人間なんか連れて」
なんか。
なんか?
思わずカチンときた。
#語彙トレ2026 05/12-宿痾
ジャオウはノルンの中でも特に独特な文化を持ち、他国との交流を最低限に抑えて、孤立気味だ。それがジャオウの外からは、「変わり者の国」と侮蔑を受け、外に出たジャオウ人が差別を受ける宿痾になっている。
おおかた、この傭兵も、そういう偏見を持って俺を見ているんだろう。じとりと睨むと。
「そう警戒するなよ、小型犬じゃあるまいに」
男は両手を掲げて肩をすくめてみせた。小型犬とは、また馬鹿にしてくれたものだ。
「待って、時雨。エクセルは、敵じゃ、ない」
俺の腕に、ソフィアがすがりつく。
「エクセルは、わたしが、国を出るのを、手伝ってくれたの」
#語彙トレ2026 05/13-恍惚
「ほええ~」
アルマも感心して、エクセルと呼ばれた男を見上げている。
「兄ちゃんも、歴戦の戦士ってかんじだな~。時雨より強いんじゃない?」
恍惚とすらした様子で口にした言葉に、さっきから感じていた苛立ちが、限界突破した。
『なら、そいつに頼めばええじゃろ!』
ジャオウ語で叫ぶ。
「時雨?」
ソフィアが不思議そうな顔で俺を見てくる。何で俺がキレたのか、わかっていません、という態度が怒りを煽る。
『腕前あればええんじゃろ!? もう俺に頼るな!』
そして一人踵を返す。
「時雨!? 時雨ーっ!?」
振り返りたくなかった。多分、酷い顔をしてるから。
#語彙トレ2026 05/14-撞着
ずかずかと、通りを大股で歩いて、はっと正気に返る。
俺、めちゃくちゃ格好悪くないか?
ソフィアは俺のものじゃない。大事な使命を背負った、自律したひとりの人間だ。ましてや身代わりとはいえ、お姫様だ。俺の知らない過去や事情のひとつやふたつ、背負っていて不思議じゃあない。
細を失った俺に、消えてしまいそうだから、と一緒に来てくれた。そんな彼女を守ろうと思った。
それが、俺の知らないところで出会った男ひとりに嫉妬して、ああそうだ、立派な嫉妬だ、それで見捨てようとするなんて。
『おめえ、そりゃ自家撞着だぞ!』
恭司様がいたら、そう言って大笑いしただろう。
#語彙トレ2026 05/15-昇華
ああ、情けねえ。情けねえな、俺。
恭司様と細が見てたら、腹抱えて爆笑するだろう。
『嫉妬は力に昇華しな』
ひとしきり笑った後で、細ならそう言うだろう。
『……わかってら、ねえさん』
ジャオウ語でひとりごちる。
いきなり置いていって、ソフィアもびっくりしてるだろう。戻って、謝らないと。
踵を返す。人の波を縫って歩く。すると、向こうから、目に馴染んだ水色の髪が近づいてきた。
「……ひとりでうろちょろするな」
「……時雨が、置いてった、せいですう」
ぷくりと頬を膨らませる。その様子がおかしくて、もやもやしていた気持ちが、吹っ飛んでしまった。
#語彙トレ2026 05/16-釈義
少し前。
「ソフィア、お前さ」
時雨が、怒って立ち去った、後。
エクセルが、なんかすごく、すごく、苦いものを食べたような顔で、わたしとアルマを、見下ろした。
「お前を好いてる男の前で、他の男の肩持つな」
「は?」
誰が、わたしを?
……なんて、すっとぼけられるほど、わたしも馬鹿じゃ、ない。
ああ、わたし、時雨に、嫉妬、させたんだ。
「なに。姉ちゃん、あの兄ちゃんとできてんの?」
「まだ! 断じて!!」
アルマが、からかうように、見上げてきたから、思わず大きい声が出た。
エクセルって、ほんと、鋭いんだよねえ。釈義みたいに、わたしを諭してくる。
#語彙トレ2026 05/17-鬱積
わかる。わかるよ。
『姫様は世間のことをおわかりにならなくて、よろしいのです』
わたしの周り、みんなみんな、そう言って、恭しく、頭下げてた。けど。
下手なこと吹き込むと、あのひとに、首、飛ばされるから。見下して、無知の小鳥のまま、囲って。そうしていればいい、って。思ってたに、違いない。
わたしだって、そこまで、馬鹿じゃない。怒りが鬱積して。
だから、国を飛び出した。
そして、ほんとにわたし、無知で無力だなって、思い知った。
時雨がいなかったら、生きてない。
「時雨、追いかける」
言ったら、エクセルは、ぽんぽん、頭を撫でてきた。
#語彙トレ2026 05/18-驟雨
結局、人混みの中で、時雨に会えたけど。
なに、言おうか。
時雨も、ばつが悪そうに、頭かいて、黙ってる。
どっちか、から。なにか、言わなくちゃ。ふよふよ、思考をさまよわせていると。ぽつ、とつむじに、水滴が当たって。
ざあっ、て。
にわか雨が降りだした。
『驟雨かよ!』
時雨が、ジャオウ語で舌打ちして、急に、わたしの手を、握る。
「とりあえず、雨宿りするぞ!」
「う、うん!」
慌てて家路を急ぐ、ひとたちの合間を縫って。あっという間に、道にできる、水たまりを、蹴って。
わたしたちは、ふたりで、駆ける。
なんか、どきどき、した。
#語彙トレ2026 05/19-湿潤
適当な、家の軒先を、傘代わりに。
「しばらくやみそうにないな」
夏先の湿潤もあって、しっとり濡れた、髪をかきあげながら、時雨が言う。
わたしの心臓は、ばくばく言う。
いえ、あの。手。
繋いだまま、なんだな。
気づいて、ない?
「時雨、あの」
「なんだ?」
これは、ほんとに、無意識、なの? 見上げても、不思議そうに、見下ろしてくる。
先をどう続けよう、か。迷っていたら。時雨は、今気づいたみたいに、ゆっくり、視線を下ろして。
『わ、悪ィ!』
咄嗟に、ジャオウ語が飛び出しながら、手を離した。
「う、ううん」
あー、わたし、絶対、顔、赤い。
#語彙トレ2026 05/20-眩暈
「あ、あの、ね。時雨」
繋いだ手を、きゅっ、と握りしめて。どきどき心臓が騒ぐのを、自覚する。
「エクセルは、ほんとあの、お兄さんみたいな、もので。なんとも、思ってない、から」
なに、言い訳してるんだろ。あ、なんか、ふわふわ、眩暈してきた。ひっくり返りそう。
「いや、俺もいきなり怒って、済まなかった」
「でも、わたし」
「いや俺が」
堂々巡りに、なりそうになって、思わず、顔を見合わせる。
わたしたち、ふたりとも、ぽかん、としてる。
思わず、ふたり同時に、吹き出す。
「喧嘩両成敗ってことで」
「うん」
雨は、意外と早く、やみそうだった。畳む
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