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七月のなまけもの
七月のなまけもの

No.666

#語彙トレ2026 『この大地の上で』05/01~05/10分をまとめるのを忘れていました!
アルファズル4大陸で唯一、一度も最後まで書いていない状態になった、東の大陸ノルンの物語です。
基本的には、源時雨(みなもと しぐれ)という青年と、ソフィア・ジェリングという少女のふたりの視点で交互に進みます。

次→676

05/01-青嵐
『「風青し」という表現がある。初夏の薫風を表す、「青嵐」とも呼ばれるものだ。
 だが、東の大陸ノルンを駆けた英雄は、そんな優しい風ではないだろう。
 時雨の名を持ちながら、激しい雷雨のように戦った「星の忍」。
 茫洋としながらも、心に燃え上がる炎を飼っていた、碧色の舞姫。
 碧嵐とも称すべきふたりの歩んだ道の記録は散逸して、集めるのに非常に苦労した。初期の出会い以降の物語は、大陸各地を巡ってようやく集ったのだ。
 これから語ろう。この大地の上で駆け抜けた、雨と風の軌跡を』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記』東の大陸編)

05/02-沈黙
 沈黙は時に饒舌より雄弁にものを語る。
『星の忍』の武器の一『流星』の苦無と、最早何も語らない遺髪を握り締める。
 俺の養父であり、主君であった、ジャオウ国太守長男の恭司様を暗殺したと思った女を追って、国を出た。
 だがそれは、親恭司派の俺達が潰し合うことを望んだ、『元老院』の仕組んだ筋書きだった。
 細(ささめ)。
 『元老院』に乗せられた愚かな俺の姉を最期まで貫いて、俺をかばって逝った、ねえさん。
 どうか、恭司様と共に、天上から見守っていてくれ。
 俺が、あのくそじじいどもを、光も音も無い、沈黙の地獄の底へ叩き落とす様を。

05/03-閃光
 閃光のように、青竜刀『星辰』が、煌めいて。
 あっという間に、野盗たちは、地面に倒れ伏していた。
 厳しい表情をしてる、横顔が、こちらを向くにつれて、険を治めてく。
「大丈夫か」
「う、うん。ありがと、時雨」
 わたしたちは、ダナスタン自治都市連合、東の都市サーリアを、目指してる。でも、楽な道中じゃあ、ない。ラグナール皇国の、兵士くずれが、跋扈してる。
 一応その国のお姫様、って立場としては、情けないことこの上無い、んだけど。
 それだけ兵士たちも、あのひとを信じてない、ってこと。
 早く、ジャオウに、行かないと。
 あの国も、呑み込まれる、前に。

05/04-拘束
 それは、ふたりの旅路からは少し離れた場所で。

「はい、おつかれさん」
 黒衣の男は、短剣のような針を手元でくるくる回して、マントの下に納めた。年の頃は二十代半ばほどか。顔の右半分を長い前髪で隠して、残った隻眼は、拘束された野盗たちを見据えている。
「天下のラグナール兵が、堕ちたもんだな」
 焦茶色の瞳を鋭く細めて、ならず者たちを見下す言葉を吐く男に、町長がおずおずと革袋を差し出す。
「あ、ありがとうございました。これはわずかばかりながら」
「あー、じゃあ、これだけ」
 男は革袋の口元の金貨数枚を握り締める。
「金なんて、天上に持っていけないからな」

05/05-憐憫
 自治都市連合東のサーリアに着いた。ここを過ぎればナザル山を越えて、ジャオウ国が見えてくる。
「はぐれるなよ」「う、うん」
 街の人出がすごくて、ソフィアの手を引きながら人波の間を縫っていると、前から来た子供にぶつかられた。
 だが、相手が悪い。俺は『星の忍』だ。そこらの呑気な通行人じゃあない。空いていた手で子供の襟首を引っ掴む。
「は、離せよ!」
「じゃあ、お前の手にしてる物を返してもらおうか」
 敢えて財布を掴ませて、言い逃れができないようにしたのだ。
 だが。
「時雨」
 ソフィアが、憐憫を宿した瞳を向けてきた。
「離して、あげて」

05/06-閉塞
「話、聞いてあげよう、ね?」
 ソフィアが小首を傾げる。そのお願いのされ方をすると、俺が却下できないとわかっていてだ。逃げ道を閉塞されている。
「おい、小僧」
 襟首から手を離した瞬間に財布を取り戻して、子どもを睨み下ろす。
「こんなわかりやすいスリの仕方があるか。これが貴族だったら、吊るされてるぞ」
「それでも!」
 子どもは目一杯に涙をためて、声を張り上げる。
「父ちゃんも母ちゃんもいないから、おれがやるしかないんだ! 妹と弟たちのために!」
 そして、悔しそうに拳を握り締めた。
「おれに武術大会に出る力があれば、こんなことしなかったのに」

05/07-変異
「武術大会?」
 眉をひそめると、子どもは両手を振って、必死に説明を始めた。
「サーリアでは、半年に一回、腕に覚えのあるやつらが集まって、戦うんだ。優勝者にはすげえ賞金が出る」
 成程。納得がいった。
 子どもの目が、『お前が代わりに出てくれ』と訴えている。
「兄ちゃん、あの速さ、普通じゃねえよ。腕っぷしもとんでもないんだろ」
「人を変異体みたいに言うな」
 スリを働いた上に、ジャオウへの帰国の足を引っ張るような、無関係のガキに付き合ってる暇は無い。
 言いたい。そう言ってやりたいんだが。
「時雨」
 ソフィアが裾を掴む。そうだよな。ああ、そうだよなあ。

05/08-転生
「この子の、代わりに、ね。武術大会、出てあげて?」
 ソフィアが碧眼で訴えかけてくる。反対側では子どもが期待に満ちた目で俺を見上げている。
 ……ガキふたりにすがられているみたいだ。
 おれは深々と溜息を吐き出す。
「旅の邪魔になるって思ったら、途中でも投げ出すからな」
 それでもふたりには十分だったようだ。花が咲くように表情が明るくなる。なんでソフィアまでなるんだよ。
「あ、でも、気をつけて」
 子どもが眉根を寄せる。
「すげえ強い奴がいるんだ。『転生のホロウ』って、致命傷を負っても何度も復活するんだって」
 ……そういうのは先に言え。

05/09-饒舌
 スリの子どももとい、
「おれにはアルマってれっきとした名前があるんだい!」
 と言い張ったアルマを伴って、武術大会受付まで来た。その道中、アルマはやたら饒舌だった。それはもうめちゃくちゃ喋った。
 酒飲みの父親が酔っ払って橋から落ちて死んだこと。子どもたちを養おうとした母親も、過労で帰らぬ人になったこと。弟がふたり、妹がひとりいる、長女であること。普通には働かせてもらえないから、スリをしていたこと。訊いてもいないのに、自分から喋った。あと、小汚い格好をしてるから、小僧だと思ってたので、めちゃくちゃ驚いた。
「時雨。失礼」
 ソフィアにはじとりと睨まれた。

05/10-遡行
 出場者も観客もぎゅうぎゅうに行き交う中を、鮭の遡行のように受付へ向かう。
「兄さんが出るのか?」
 受付の、本人が歴戦の戦士のような傷痕だらけの禿頭の男が、ペンで机の上の名簿を叩く。名前を書けってことか。
 ジャオウ語で『源時雨』と書いたら、「読めねえよ」と嫌味を言われたので、むっとしながらノルン共用語で書き直した。よく耐えた、俺。
「わたしも、出ようかな」
「ソフィア姉ちゃんも戦えるの!?」
「やめろ。マジでやめてくれ。俺の胃がもたない」
 呑気なソフィアに、アルマが食いついている。すると。
「……ソフィア?」
 背後から男の声が、ソフィアを呼んだ。畳む


#アルファズル戦記
#この大地の上で

ひとりごと2026年,創作,小説